57.5 挿話7【イケおじたちの青春の日々】
子供たちの絡みもいいけど、おじさんたちも捨てがたい。
って言う今日の二本目です!
「精が出るなゲール」
ささくれ立ってたところに鑢をかけて手入れをしていた木剣を、数本並べて塗りなおしたニスの乾き具合を見ていた俺に、声がかかって来た。
つい数カ月前には右腕をぶら下げ、右足を引きずり、杖を突いて、四十代半ばだというのに還暦を過ぎた爺さんのようになっちまっていたが、それでもお役所仕事と下っ端貴族のお勤めで、持ち前の気合と根性で体に鞭打ってこの町と周辺の地域と、帝都を駆けずり回っていたギルマスがポリゴン町にいる。
ある日突然、変な薬でもやったのか?ってぐらいに、実年齢より若い、三十代の肉体を取り戻し、白髪が目立って、嵩も減っていた髪も、ブラウンの艶のあるフサフサ状態になってやがる。目つきまで昔の若々しい鋭い光が出てきているそいつが、張りのある肉体に軽装で立っている。
「あんたこそ、若返っちまって、どうだい?今夜久しぶりに綺麗処を冷やかしに行かねぇかギルマスさんよ」
そういう俺も、若い時に痛めた腰や膝で無理が出来なくなっていたのは最近までだ。
「はん、この(ポリゴン)町の何処にそんな店があるってんだ。ギルドに出入りしている女冒険者や受付の職員の方がマシじゃねえか。最も、手を出すわけにはいかんがな。・・・しかもゲール、お前さんの嫁さんはまだ若い。泣かすようなことはするんじゃねえよ」
言うなよ、俺も若返っちまって、嫁さんに久しぶりにと迫ったら、子育てで疲れた肩と腰を、揉むことしか許してもらえなかったんだよ!
「そんなことより、一戦やらねえか」
そう言って、ドミニクのやつが投げてきたのは刃をつぶした鉄でできた模擬刀だった。木刀よりは重いし、実践に近い感覚を味わえるから若いときはこっちの方をよく握っていた。
「・・・こっちで発散するわけね。うりゃ」
お互い、さっきからストレッチや軽い走り込みなどの準備をしていたのは確かだ。いくら若返ったとは言え、実年齢を考えたら、準備は必要だ。せっかくあいつがくれた健康だからな。
去年の初夏に、このポリゴン街の冒険者ギルドを拠点にしている、ウリアゴってパーティの三人組が、えらい綺麗なガキを拾ってきた。
かなりのワケアリで、俺にはわかる程度にドミニクが血相を変えて対応しているのが分かった。
「なあ?あのシュンスケってのは」
「ああ、あの方のご子息だと思う」
俺たちは、このガスマニア帝国の人間族至上主義が嫌で、特にドミニクは辺境伯家の出だったから、国境沿いで、獣人族やエルフ、海岸では人魚族が不当に売り買いされたり、迫害をしていた貴族との付き合いが嫌で、そのやり取りから目をつぶるように、冒険者になって大陸中を渡り歩いていた。
俺には、少し熊人族の血が入っていて、耳などは普通だが、小さい尻尾を下着の下に隠している。それだけで普通の人間族だ。胸から下の毛深いのはまあ、男だからなんてことはないさ。
獣人狩りから逃げて(反撃すると殺ってしまうからな)いた俺は、学園を出たばかりだが、貴族らしくないドミニクと意気投合して、メンバーを変えながらも二人は固定でレベレッジ(反抗期)つーパーティーで活動していた。
まだ二十代になったばかりのころ、南東のサバンナの平原が広がる獣人族至上主義の地域で、ドミニクと他のメンバーが風土病で倒れてしまった。リーダーをしていたドミニクを何とか医者に見せたかったのだが、人間でしかも元貴族のやつを治療なんてできないと、その地域の教会では数か所回っても門前払いを受けていた。俺も、見た目は人間だし、リカオン族とかのシスターの前で尻尾を見せるとは言え尻を出すわけにもいかないしな。
そんな時に、美しいインパラ族の男が助けてくれたんだ。
その人は、俺たちパーティーを丸ごと魔法で転移して、連れてきてくれたのがなんと、故郷のガスマニア帝国の北隣のロードランダ国だった。
あの頃はちょうど、ガスマニアのトウフェズ侯爵が、ラーズベルト辺境拍と結託して、北方を広げようと、戦争をしていたのだ。
もちろん、ロードランダのエルフたちにも刃を向けていたはずだ。
そんな、国際情勢などは気にもかけない風に、俺たちを連れて来た男は目の前でポロリとインパラの角を落とし、ふわりと印象を変えると、高額貨幣の肖像と同じ姿を現したのだ。
ドミニクは風土病で苦しむ発熱した体で無理やり跪き、
「ロードランダ国王陛下、どうか、我々愚かな人間を罰してください」
と懇願していた。自分の同胞がこの高貴な存在に敵対することが、かなり苦しかったようだ。だが、ドミニクは貴族でも、辺境の直系ではないし、何の権力もなかった。
「今は、病に苦しんでいる、君達を治すことが先決ですよ。大丈夫。戦争なんて、人間族の寿命より長く続くものではありません。我らエルフ族はよっぽどのことがなければ命を落とすことはありません。寿命も気が遠くなるほど長いですしね。ですから、そうですね、元気になることが出来たら、お隣のベスティアランド王国を手伝ってやってはくれませんか。私から親書を出しましょう。それを持っていけば、人間族の貴方でも虎の王は話をしてくれるでしょう。依頼料も私が出しましょう」
その後、ドミニク達は手厚い看護を、俺はわずかしかない魔力を使った身体強化の訓練を受け、平民の魔法使いの女のメンバーには病気やケガを回復する能力をすこし底上げしてもらったりと、虎の王が納める王国の手助けをする準備を手伝ってくれていた。
あの時の魔法使いの女が、ポリゴンの教会のシスター長をしていたが、五年前の最後の戦のときに、戦地で冒険者に復帰して戦死してしまったがな。ウリアゴの親たちと。
ロードランダ王と言えば、生きた伝説と言われていて、ハイエルフとしての姿を確認されてからも三千年を超える時を生きているとギルドにある本にも載っていた。
なのに、あの初めて会った時も、まだ二十歳前後だった俺たちとそう変わらない若々しい顔で、しかもどこか現実離れをした神々しさまで感じられていた。
ガスマニアの連中も馬鹿だよな。あの方に実際にお会いすればよく分かるはずだ。
人間のちっぽけな欲で攻撃するような存在じゃない。次元がそもそも違うさ。
数カ月滞在したエルフの国で、ロードランダの国王陛下は、三度もお会いできたのに雲の上の存在だったと思い出す。途中で迎えに来たセバスチャンなんてハイエルフが背中を見せるたびに拝んでいたぜ。
ポリゴン町の冒険者ギルドの訓練場で、ドミニクと若い時の力を取り戻すように模擬戦をしながら、エルフ王との思い出話をする。
「おまえ、あの方の湖の伝説のおとぎ話を最新話で読み返したことがあるか?」
「いや?だがこの間まで行方不明だったと言ってたな」
「あのインパラ族になってサバンナに出会った頃ではない。あれはもう少し前だろう」
「ああ」
「しかし、あの伝説の話の続きがな、ほら来たぜ」
はい?
入り口の物音に気を取られて模擬刀を吹っ飛ばされた
くそ、まーだ強くなるのか?
「ゲール師匠!あ、ギルマスも!」
「あん?俺様の方が付けたしか?」
「すみません、ドミニク卿。
突然六人も子供を連れてきちゃって」
「まったくだ。でもま、お前さんが少しは寄付をしてくれているから文句は言わねえよ」
「六歳で孤児院に寄付するガキなんて聞いたことねえや。しかも親の金じゃなくて自分が稼いだ方で」俺はいっつも驚いている。
「ドミニクさんが言ってたじゃないですか、自分のためだって。俺、今回その意味が少しわかりました」
「そうか。で、シュンスケは今、何を頼みに来たのかな」
帝都から飛んできたにしては軽装だな。
「あの、模擬戦を」
「学園ではやってないのか」
「騎士学部の子らはゲール師匠より弱くて。ここだけの話ですよ」コソッ
「まあな、俺らはあんなひよっこ達にはまだまだ負けないぜ」
がはは、そりゃそうだぜ!経験が違うぜ。
「じゃあ、俺らと二対一でやってみるか?」
ギルマスが久しぶりの悪い顔でニヤリとする。
「え?」
「お前さん一応Aランクだけど、本当は超えてるようだしな」
「マジかドミニク。そいつは面白い!」
「え?お二人ともそんなに戦闘狂でしたっけ」
「「こいつとばっかり打ち込むのも飽きるのよ」」
「タイミングぴったり」
くすくす笑う顔は可愛いけどよ。
「わかりました!ではお願いします!」
わずか二十分後、若返ったのは勘違いだったと気が付いた。元Aランクのオッサンが二人とも訓練場で大の字になってへばってたのは、他の所属冒険者には内緒だと、シュンスケに約束させる羽目になった。
「ありがとう!準備運動できましたよ!
じゃあ、乗馬の練習行ってきまーす」
少しも汗もかかず息も切らさず、馬場の方に掛けていく元気な子供。
俺の弟子を名乗らせていいのか。あれに。
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