51【アップルブロッサム大作戦】第一章完結
一旦 小フィナーレです~
俺は帝都の魔法学部教授の温室でセイラード第三皇子とその護衛生徒二人、カーリン達女子グループとで課題に取り組んでいた。
まあ、またそれぞればらばらの課題なんですけど、温室って暖かいからさ。みんな集まるんだよね。
もう、外もすっかり春の陽気なんだけどな。
「で、シュンスケはいったい何を作っているんじゃ?」
俺の周りには細めの角材と簀の子板が沢山散らばっている。
「そんな事おっしゃって。教授は見ただけで、分かってらっしゃいますよね?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
「なんですか?引き出し?」
「ドライフルーツの用の道具とか?」
ああ、そういうのもいいね。
「お前さん、どこに置くのかい?」
「俺の庭に」
庭しかないけどまだ。
さて、最後に蜜蝋を塗りつけて。出来たかな!
“おうじ!もうすぐさくよ”
おっと、急がなくちゃ。
「カーリンちょっと手を貸してくれない?」
「いいわよ」
「私たちも手伝うよ」
何の事とはまだ言ってないのにね、みんな良い人たちだよ。
「ふぉっふぉっふぉっ、そこの扉から行きなさい」
と教授室の扉を指さす。
お見通しで。
「じゃあ、失礼して」
教授室の扉を、ポリゴンの俺の土地につなぐ。
先日、俺の土地に一坪サイズの小屋というか物置を作った。扉を繋げるためだけにね。
ガチャ。
「うん?ここは?」
「まあ川が流れているわよ」
「川沿いに大きな木が沢山あるな」
俺の敷地に五本の林檎を植えた後、セレさんたちに、川沿いと対岸にももっとたくさん植えてくれと言われて、結局手持ちの二十本の林檎を全部植えました。
さらに追加するべく苗木をアナザーワールドで育成中。
俺は、アイテムボックスからレンガを幾つかとモルタルをだす。
「何段ぐらい積むのだ?」
「この箱が乗せられるように四段ぐらいかな?、隙間も大事なんだ」
道具を見ただけで分かってくれたのは皇子の護衛のブリド。
持ってきた巣箱は四セット。
「よし、やっておこう」
「二つの鳥の巣箱はどこら辺につけるの?」
「それは両端の木に。俺がやるね」
ヒョイと飛んで少し上に括り付ける
「ところでここはどこなんだ?」
今更のように聞くのは殿下。
「ここはポリゴン町です。この間、この土地を取得しまして。まあ、建物は卒業してから考えるんですけど。
結構つぼみになってきてますね」
「ほんと!白い花が咲くのね?」
「うん、カーリン」
「ねえ、皆、次のお休みにここでパーティするんだけど、どう?」
手伝ってくれたし。
そして
「うむ、私も次の休みにこのつぼみがどうなってるか知りたいぞ」
そうでしょうそうでしょう。
「じゃあ、今日手伝ってくれたお礼も兼ねてご招待しますよ」
「よし、楽しみにしているぞ」
「殿下のスケジュールは・・・」ラスが何やらメモを確認している。
そして俺は満を持して当日を迎える。
俺の土地いっぱいに芝生を植えた。青々していて美しい。
緋毛氈はないので、赤いフェルトを四反買って木の近くの芝生の上に敷き詰める。うん、赤い絨毯なんちゃって。風で飛ばないように、青銅の塊を錬金と土魔法を駆使して丸い文鎮をいっぱい作って置いた。
芝生だけのところには屋外用のテーブルセットも三つだす。
パーティの準備は整った。この景色にふさわしいご馳走も準備した!
学園はお休みだけど、皆に私服で教授室の前に集まってもらって、扉を繋げる。
教授はもちろん魔女先生も来てくれた。
ポリゴン町の教会の方からも、司祭様や孤児院の子供達が来た。
もちろん、ドミニク卿や師匠も呼んである。
「おーい。おにいちゃーん」
「「「「「「シュンスケー」」」」」」
会場ではもちろんウリアゴメンバーも揃っている。
給仕に、セバスチャンとミアも応援に来てもらった。
セバスチャンには、帝都のワインとエールの仕入れもお願いした。
「皆さんようこそ、田中駿介のお花見会へ!」
二十本あるリンゴの木はいっぱいの花を咲かせてくれた。
少し、ちらちらと散って、清らかな川に模様を作り始めている。レッドカーペットにも白い模様が突き出した。
精霊ちゃん達が勧誘してきてくれたミツバチ達も花の周りで働いている。
「「「「うわぁ、きれーい」」」」
「「これは みごとだ」」
“ふふふ、みんな良い反応だよ緑色ちゃん!そしてみんなも!”
“がんばったもん” “あおいろもがんばったよー” “きいろも!” “おれは さむかったひに あたためた” “おれは ひあたりをちょうせつした”
みんなに飲み物はいきわたったね。じゃあ僭越ながらコホン。
「えー思えば、母とはぐれて、この町のすぐ近くの街道でウリアゴ達と出会い、さらにドミニク卿の支援のもと、学園へ入学でき、学友とそれ以外のたくさんのかけがえのない人と出会い、音楽を楽しみ、歌を歌い、すごく濃い日々になりました。
俺がここ(異世界)に、この町に、この国に来てちょうど一年になります。これからもよろしくお願いしまーす。
カンパーイ」
カンパーイ!カンパーイ!
かんぱーい かんぱーい
あっという一年だったなーなんて、感傷に浸ってる場合じゃない!
おれはご馳走もいっぱい仕込んできたのだ!
南国の先代様から買っていた、もち米で作り、アイテムボックスで柔らかいままアツアツをキープしたつき立てのお餅。同じく前代様に頂いた小豆で作ったぜんざいも寸胴にスタンバイ。こっちは保温の魔法陣の上に乗せる。いつものようになぜかウエストポーチに入っていた塩昆布は、こちらの小鉢に入れなおした。お椀っぽい木の器もいっぱい買った!
そして重箱に塩おむすび。それと卵焼きは甘いのと出汁の味と、そして唐揚げとローストチキン。
ピクルスやサラダ、そして、新たにゲットしたオクトパスヌーで作ったタコ焼き!
もうすぐ俺の名義になる帝都屋敷でいっぱい仕込んで、
満開のリンゴの花の下に重箱を広げる。
「後は私たちがやりますので、坊ちゃんも楽しんでください」
「はい、お願いします!」
ああ、楽しいな!ほんとうに!おれは今日はパリピ気分を満喫している。
一年の周期は五日ほど違ったはずなのに、スマホの異世界時計では、東京は今日はクリスマスイブだ。
去年は食べそこなった〈自分で焼いたチキン〉を、林檎の花の下で食べる。
今日から新たな異世界の日々が始まる。
母さんは元気かな?相変わらず既読付かないけれど、スマホからメッセージを送ってみる。
ピローン
「え?うそ。返信来た?」
俺からの一方通行のメッセージが一気に既読になる。こっちであった色々な写真とかも送信したりしていたんだ。
『ごめーん駿ちゃん!お母さんちょっとこの一年は滅茶苦茶忙しくて』
『え?大丈夫?』
『うん。お母さんが丈夫なのは知ってるでしょ?心配いらないわ』
確かに風邪一つ引かなくて、怪我などもすぐに治っちゃう人だった。
『お母さん、会社の社長になっちゃって』
『なんだってー』
たしかにそんな話あったな。社長さん引退したいとか言ってたとか。
ああ、社長か、そりゃ大変だ。
『でも、駿ちゃん元気そうで安心した。写真もありがと』
『元気だよ、大学に入学し損ねたけど、かなり充実しているよ』
チャット状態でメッセージを続ける。
周りの宴会の音は何でか遮断されて、俺は母さんとのメッセージに集中していた。
『それに、駿ちゃんの様子は姉さんから聞いていたから、私も頑張ろうかなって元気が出ていたの』
姉さん?だれ?誰のお姉ちゃん?
俺は一人っ子だよな。母さんの親類だって知らないよ。
『じゃあ、お母さんも頑張るから、駿ちゃんも、怪我には十分気を付けて、目いっぱい頑張るのよ。』
『うん、がんばるよ』
『それから、何か必要なものがあったらメッセージちょうだいね!生き物以外は調達するから。それからお祝いを入れるわ。じゃ』
『?ちょっと!どういう事?』
せっかく、異世界に来て一年たって、自分自身の境遇にひと段落付けようと思ったのに。さらに混乱する事柄が!主に母さんについての謎だけど。
母さんの姉さん?おばさん?まさかこっちにいるわけ?だれ!
ウエストポーチに新しく入って来た物が二つあった。
〈太陽電池式 壁掛け時計〉
〈ゼンマイ式 鳩時計〉
おおう、俺が不動産をゲットすることをご存じなのか?
パリピ気分が一気に抜けて、ぐったりと疲れ切った俺だった。
「あの、ジラッテ司祭様」
だし巻き卵と塩おむすびのループを楽しんでいるポリゴン町の教会の司祭に声を掛ける。
「なんじゃ?シュンスケ。この〈おむすび〉っていうのはうまいのう。塩加減が絶妙じゃ」
「ありがとうございます。気に入っていただいてうれしいです」
にこにこと指についたご飯粒を口に入れている老人に尋ねる。
「今更なんですが、この国の神話の最初のところをもう一度教えてくれますか?」
「ああ良いぞ
遥か遥か昔のこと、
何もなく混沌とした空間に、異世界の星々から来られたゼポロ大神とカナス大女神が、この世界を作ったのじゃ。まずは、太陽をお創りになり、その後
月と宇宙の神 タナプス神、海と宇宙の神 ウォーデン神、大地の女神 アティママ神
水の女神 ウンディーナ神、風の女神 ローダ神 そして火と文明の神 ヘファイド神
の六柱の神々がお生まれになったのじゃが、
最後のヘファイド神が生まれた時に、大女神カナス神がお隠れになったのじゃ。」
うん?火の神様を生んで女の神様が居なくなった? どこかで聞いたような・・・
それは置いておこう。
「そうして残った神様たちが、この世界を作ったのじゃ」
なるほど、なるほど。
ということは、
「じゃあ、もしかして、六柱の神様たちは兄弟姉妹っていう事ですね」
「そうじゃ」
おれは胸元の身分証からステータスを出して、司祭様に見せながら聞く。
「風の女神さまのお姉さんが水の女神様ってことですね?」
「そうじゃ」
母さんってまさか。いやだって、初めからある加護だし、すごい剣くれてるし、
水の女神にはお会いしてるから、何らかのというか神様チートで地球の母さんと連絡できるってこと?
風の神様って、この世界にはいなくちゃいけないんじゃないの?
“だいじょうぶよ おうじ”
「黄色ちゃん」
“めがみさまのかぜは、うちゅうも、べつのせかいも こえられるの”
さすが神様!
大人達にアルコールがいきわたり、幸せそうに陽気な風に吹かれてうつらうつらしている人も出てきたころ。
真ん中の林檎の幹が揺らいで二人の女性が姿を表す。
「み、水の・・」
言いかけた言葉を白魚のような人差し指で唇ごと塞がれる。
「我の呼び名はそれではないじゃろ」
今日は初めてお会いした時より、人間族の女性のサイズ。
「姫さま」
「うむ、この間ぶりじゃの」
「はい。お会い出来て嬉しいです。
で、其方の方は?」
「妾の姉じゃ」
ひっということは大地の女神さま
「あ、アティママし」
今度はもう一人いや一柱のお方がご自分のお口に人差し指を当てる。
思わず俺は両手で口を塞ぐ。
大地の女神 アティママ神
水の女神は薄衣を纏っていらっしゃるのに対して、大地の女神さまは着物の様なものを幾重にも重ねてお召しになっていらっしゃる。透ける様ないや実際には全体的に透けてるんだけど、桜色のお顔に射干玉色と言うんだろうか、青みがかった黒髪。そこには金色の枝や葉を模した飾りを載せておられる。
「じゃあ姉姫さま?」
「水の、其方は姫などと呼ばせておるのか?」
美しい顔ばせにあきれた表情を浮かべる。それもまた美しい。
「それが?」
「駿介、じゃったな」
アティママ神様に名前を呼ばれる。
「我の事は おばさんと呼んでおくれ」
お、おばさん?神様を?そ、そんな恐れ多い。
フルフルと震えながらとりあえず拒絶してみよう。
「それは、ちょっと」
大地の女神さまはキラキラした笑顔を浮かべて
「たしかに、愛いのう」
「じゃろ」
水の女神さまが答える。
「駿介、我らはお前の、まあ伯母じゃ」
「だから伯母さんでいいのじゃ」
えーどういう事?
「それにしても甥っ子という存在がこんなに可愛いとは」
甥?もしかして、やっぱりもしかして、もしかして、
「我も毎日覗いておるのだ、そうしてほれ」
と言って、水の女神さまがどこからか取り出した葉書サイズの紙の束。
それを大地の女神様に見せている。
「ほう、いいのう」
それは、俺が写っている、魔法ではなく複合機でプリントされた写真たちだった。
「あれ?これ」
高校の入学式で母さんと校門の前で撮った写真。十五歳の俺と、姉に間違えられていた母さん。俺のスマホにも入ってるデータと同じ。
あの時たしか、通りすがりの女の人が撮ってくれたんだっけ。母さんが親しげにしていたから知り合いかな?とは思っていたけど。
「これは、風の持ってたスマホというので妾が撮ったのを、複写してもらったのじゃ」
「ほう、ほんに、風のも幸せそうな顔をしておるえ」
決定!認めたくないけど!母さんはこの世界の風の女神様 ローダ神だ!そして、俺はあの時に水の女神様にお会いしていたと!
まさか異世界転移をした俺よりチートな存在が、身近な人だったなんて!
その上、父親が、これまた寿命なんて無いみたいなハイエルフでしょ?
地球で十八歳もうすぐ十九歳。ここでは六歳もうすぐ七歳ということになっている俺は、大人のサイズになるまでどのぐらい必要なんですか!
頭か心か分からないけど、俺はもうお腹もいっぱいです。どっさりやって来た情報の処理が追いついていない。
「俺、もうずうっとふて寝しといてもいいかなー。ひょっとして何もしなくても死なないかもしれないし。何処かで引き籠るとかさー」
おれは司祭様の前で独り言をこぼす。歳が近いからか教授も隣にいる。
お二人は女神様たちの方に向かって拝んでいた。
そのポーズを解いて。二人同時に俺に笑顔を向ける。
「ふぉっふぉっふぉっ、シュンスケよ」
「はい、司祭様」
「数日なら構わぬが、長期にわたる暇ほど恐ろしいものは無いのじゃ」
「うっ教授。千年以上も生きている方のお言葉はリアルすぎます」
“おうじ、あたしがずっと、あそんであげる”
“おれは あそんでほしい”
“つぎ、どこにいく?”
“あまいおかしも いいけど、しょっぱいのも たべたいぜ”
“なにいってんの がっこう そつぎょうしなくちゃ どみにくとやくそく”
「あーそうだった。したいことも、するべきこといっぱいだな」
顔を上げれば、二柱の女神さまと二人の老人が優しく微笑んで俺を見つめている。
“がんばろうね”
“あっちのめがみさまも そういってたよ がんばれって”
新しい世界、新しい出会いの一年が過ぎ、俺の異世界二年目を迎える。
アルファポリスさんにもコピペし始めました。
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