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47【南の島へのお誘い3】

お昼にこれを読むと眠くなっちゃうかもしれないです

 白鯨の精霊ムーさんと、クラーケンを討伐すべく、帆船魔道フェリーに背を向け海面の少し上を飛んで行く。


 クラーケンが、フェリーから少しでも気がそれるようにと、少し右に回っておニューの銛を打ち込むと同時に、氷魔法を発動して、クラーケンとフェリーの間に分厚くてでっかい氷の通せんぼ用の壁を作る。


「それにしても大きいな。ムーさんより少し大きいかもしれない」

 “軟体動物の大きさは分からぬ”

「まあ、本当は重さで決めるんだけどね」


 氷の壁はタコのくせに十五本ぐらいある足の三本ほどを固めて立ち上がった。

 “よし、うまいぞシュンスケ”

 ムーさんに褒められて、気合が入る。

 だが、銛が跳ね返された。なんて弾力のある体なんでしょう。海面には他の足が何本か出てきている。

 どどっ

「ぐわっ」

 氷に縫い付けられた足先を自力で引きちぎって振り回された足が飛んできて俺の腹にクリーンヒットした。

 俺は簡単に飛ばされてしまった。それをムーさんの鰭が受け止めてくれた。

「ありがとうムーさん、助かった。」

 “大丈夫かシュンスケ”

「痛てー、しまった油断したぜ」

 打ち付けられた腹に手を当て、回復魔法を発動する。

 うぇー。ぬるぬるがウエットスーツにベッタリ!すべる!なるほど、これじゃあ銛とか刃物は効きにくいかもしれないな。


 “シュンスケ、あまり危険なことはするな”

「はい。もう油断しない。気を付ける」


 短くなった奴の足をもう一度氷で固め、さらに分厚くしていく。


 クラーケンの足を取り込んで固まった氷の一部が浮いているが、頭はまだ離れたところにある。本当にでかい。


 とりあえず顔を見ようと潜ってみる。うぉ、また足が飛んでくる。

 ちょっと、俺は水中では動きが鈍いんだぞ!なんて敵さんに言い訳してもしょうがないか。

 ザバッ


 また、海面から出る。

「タコのヌメリ取りは、塩もみなんだけどな。海水に塩を足してもんでもなー」

 “シュンスケ?何のことだ”

 あのぬるぬるを取ったほうが切りやすそうだし。あ、そうだ。ちょっとひらめいたんだけど。

「ムーさん、クラーケンの周りから他の生き物たちを避難できない?」

 “海底も含めて半径三百メートルは何もいない。海の生き物は危機を感じたら逃げるのが早い”

 じゃあ、


「赤色くーん」

 “おっ、よんだか?”

「あの、クラーケンを少し海水茹でしようか」

 “おもしれー。わかった、おーい”

 赤色くんは五人も来てくれた。

 俺を含めて六人でクラーケンの頭の上の海上を囲む。

「んじゃ行くよ。せーので」

 “いけー” “ゆでだこーになれー” “あつくするぜ” “あちちだぜ” “ふん”

 同じ属性の精霊でもちょっとずつ個性があるのね。今知りました。


 ゴーブクブクブク

 海水の一部から激しく気泡が立ち上がる。そして湯気も濛々としている。


 オオオー


 クラーケンは突然の熱湯に暴れだす。

 バシャン バシャン バシャン


 その大外回りを分厚い氷の壁でぐるりと囲う。暴れている波が外のほうに行かないように。

 我ながら熱湯と氷は効率悪いとは思うけど、海底の形がガタガタなのと海溝ほどではなくても深いから、土で壁を作る方が難しい。


「よし、ここまで出来たらいいんじゃない?」

 おれは、母さんのウエストポーチからとっておきの剣をだす。

 相変わらずキラキラしてるなー。待ってましたって気持ちが伝わってくるみたい。

 こういう大海原で、誰もいないところなら使えるんじゃないかな?


 “シュンスケ、その剣は?”

「なんかね、すごい名前の剣なんだよ。

 〈風の女神のミッドソード〉って言うんだ。やばいでしょ」

 “ははは・・・やばいな。それなら一撃で行けそうだ”


 よし、ムーさんのお墨付きも出たことだし、ウエストポーチもついている腰のベルトにキラキラした鞘を挟んで、おもむろに抜く。

 シュー


 刀身もキラキラしているし、なんか風魔法を纏い出したよ。


 バシャーッ


 クラーケンはまだ全然元気。ぬめりが取れただけかなやっぱり。

 さっきまで熱湯だった海は氷の壁を飲み込んで、普通の水温に近い。


 俺は〈風の女神のミッドソード〉を持って海に飛び込む。


 “青色ちゃん押してー”

 “よーしイケー”


 グワワワワー

 叫び声が響く。タコって声が出るんだ。なんて、今じゃなくてもいいことを考える俺もいる。さすが、魔物だ。

 うぉ 吸盤の付いた太い足が何本も飛んでくる。ところどころ茹でれたのか赤い。

 もう当たりたくないから、集中して飛んでくる足をよける。

 その足の間を縫って、クラーケンの目と目の間を目指す。ギラギラした二つの目がこっちを見る。タコの表情なんかわからないけど、怒ってるんだろう。しかし、お前はいたずらに海竜を痛めたり、帆船魔道フェリーを襲ったり、船を沈めてしまう奴。

 俺は、〈風の女神のミッドソード〉を振りかぶり、クラーケンの眉間に向かって振り切る。女神の剣は、水の抵抗を感じることなく、輝きながら陸上のようにシュッと海水もろともクラーケンを切る。


 クラーケンは最後のあがきとばかりに墨を吹き出しながら頭から足に掛けて真っ二つに分かれて、こと切れた。

 まだ、墨が勢いよく俺に迫ってくる。あれを被るのはいやだ。

「うおー、あっぶねー」

 バシャッ


 俺は墨から逃れるように海面へ浮上した。手には女神の剣。鞘も海水をかぶっているが、とりあえず収めてポーチに仕舞う。


 真っ白に不透明になってくれたムーさんに座り込む。

「疲れたー」

 “お疲れさん。クラーケンを収納しなさい”

「うん」

 ムーさんが水中から二つに分かれたクラーケンを魔法で持ち上げてくれた、少し海水を切っていいかな。

 ぼとぼとしていたのが少しマシになったところで、サブボックスに入れた。


 “このまま私が船の上を通過して島まで運んでやろう”

「ほんと?ありがとう。たすかる!」


 もうすっかり夕方。だってセイレンヌアイランドに着いたのは、昼過ぎで、そのあとマーケットで米を買ってからの討伐だったもんな。


 あ、帆船魔道フェリーが見えてきた。

「おーい」

「おーい。ああ、白鯨だ」

「ムー様だ」


 遠くから俺たちが見えてきたのか、何人かと船長さんがデッキに出ていた。

「もう大丈夫ですー!討伐できました!」

「ありがとう!島に着いたら挨拶させてください!」

「俺は、タイナロン様の宮殿に明後日までいるからー」

「わかりましたー」


 『うむ、クラーケンは討伐されたゆえ、安心して航行するがよい』

「「「ムー様」」」


 俺はムーさんの背中で後ろ向きに座り、船に手を振る。


 “シュンスケ、日が暮れる。速度を上げるぞ”

「うん」

 アジャー島の地上に少し飛び出ている水中宮殿の出入り口でムーが降ろしてくれる。

「今日はありがとうムーさん」

 “私の方こそ助かった。私には攻撃をする術がないのでな”

 そうなんだ。

「また、今度遊んでね」

 “うむ”

「ウォーデン神様にもよろしくお願いします」

 “そんなこと言うとすぐに会いに来てしまうから言わない方がいい”

 たしかに。ムーさんが出てくるだけでもこのありさまだからな。

 見回すとあらゆる人が白く輝く鯨に手を合わせている。

 “ではな” と言いながら輝いていた鯨はゆっくりと透けていきながら高度を上げ、

 見る見るうちに南の方に泳いでいった。


「さて」

 振り向くとそこにあった人魚用の水路から、ヴィーチャが俺の膝のあたりに抱き着いてきた。

「シュンスケ。ありがとう」

「うん、さすがに疲れたよ」

「シュンスケおつかれさん」

 ゴダが俺の頭を撫でる。

「おう、かなりお疲れだな。これから宮殿の晩餐って言ってるけど」

「ご馳走食ってるうちに途中で寝てしまいそうだな」

 ぺスカとマールの漁師二人に指摘される。

「確かに」


「なあ、あのキラキラーっての少し自分に掛けたら疲れが取れるんじゃない?」

「!ゴダ。ナイスアイデア。じゃさっそく」

 俺は自分自身に回復魔法をかける。

 疲れを取るだけだからな。キラキラはほんの少しで。


「ムー様もすごかったけど、この方もすごいですね」

 ヴィーチャの側には、水上マーケットに付いて来てくれた、ウィードさんがいた。

「ええ。私もはっきりは分かってないけれど、やんごとなきところの方ですよ」

「ちょヴィーチャ。俺は平民冒険者なの!まだ仮免だけど」

「シュンスケ、仮免であいつを一人で討伐するだけでも普通じゃないぜ」

 ペスカが挟んで来る!

「うっそれは凄い剣があってね?」

「いやいや、あのクラーケンはAクラスの魔物だぜ。何年も前から討伐の依頼が出てたんだぜ。

 ところでそこに建物あるだろう?」

 マールが指差した方の、水中宮殿の入り口の隣にヤシの葉葺の南国風情の情緒漂う少し大きめの平屋がある。

「うん、あ、あの看板は!」

「そ、ここの冒険者ギルドはそこなんだよ。クラーケンの事報告しなきゃ」

「えー明日じゃダメ?」

「明日はまたアクティビティの予定なんだろ?」

 ウリサがいないときのゴダは、俺の前ですごくお兄ちゃんをする。

「はっそうでした!行く!じゃあ、ヴィーチャまたあとでね」

「わたしも冒険者のライセンスはあるから一緒に行くわ」

「わ、ありがとう」

 そうして、せっかくみんなでギルドに行ったのに、クラーケンが大きすぎて、足一本しか提出できなかった。だって吸盤だけでも業務用の中華鍋ぐらいの大きさなんだよ。サブボックスがタコでいっぱいだ。しくしく。まだまだ入るけどさ。どっちのアイテムボックスも無限に入りそうだけどね。


 アジャー島の宮殿の滞在する客間に入り、念入りにボタニカルなシリーズで上から下までシャワーを浴び、改めて着替える。夏に帝都で買ったアロハとハーフパンツ。履物はビーチサンダル。

 ゴダもおそろいを着ている。夏物の小マシな服ってこれしかないよね、って言いながら案内されて晩餐の会場へ。


 この国では、床に寝そべるように座って、同じく床に大きな銀のお盆を出し、そこにご馳走を広げている。座りやすいように、体の周りに色々なクッションを置いてくれている。


 なるほど、こうすれば人も人魚も同じご飯を囲めるんだな。


 メニューには俺が提供したクラーケンの足の端っこも使われた。久しぶりのお米料理に涙が出そうになるのを頑張って我慢したのはナシゴレンみたいなチャーハンみたいな料理。他には、海鳥をさばいて料理されたものだ。クラーケンはでかいから大味かと思ったけど、ちゃんとタコの味だった。イカじゃなくて。チャーハンにぴったり!


 母さんのウエストポーチには、タコ焼きの鉄板がありました!そして、タコ焼きの粉とソースと天かすもあるんです!帰ったらタコパするぞ!


「シュンスケ殿、今日は本当に助かった。クラーケンには長らく悩まされていたのだ」

 美丈夫のタイナロン様に頭を下げられちゃ困るよね。

「いえ、あれはムー様の助けがあったからこそですよ。俺はまだ仮免冒険者ですし」

 〈仮免〉ですから!六歳ですし。

「しかし、ムー様が姿を見せるのは、徳を積んだまるで仙人のような人だけだと言い伝えられてきましたからな。この国も、俺の先代がムー様と交流がありそのおかげで建国できたと言われています。」

 この共和国で一番古いアジャーの小国は、建国二百年らしい。あれ?トリトンは寿命が長いのでは。

「もしかして、先代様ってまだどこかにいらっしゃいますか」

「はい、今では水上マーケットで穀物を売っております。なんでも一般の民と会話をしたいということで、建国百五十年で退位し、いまは気ままな暮らしをしています」

 穀物売りって、俺が沢山お米を買ったあのおじさん?

 思わず側に控えているウィードさんを見ると、うなずいた。


「それよりさっき、冒険者ギルドでシュンスケのステータス上ったからって言われたわ」

 疲れ切っていた俺の代わりに身分証に討伐記録を書き込む手続きをしてくれたヴィーチャが言う。 

「そうだったね。後で見るよ。ほら、昨日モササにもらった袋の中身も見れてないしさ」

「そうなの?」

「うん」


 晩餐は、途中から大人たちにお酒が振舞われ、だらだらと長い話が続く。

 それを相槌を打ちながら俺は久しぶりのお米料理をゆっくり楽しんでいた。


「あーあ、とうとう寝ちゃったな」

「ふふふ、こうして寝顔を見ると本当に幼いわね」

 人魚姫が幼子の黒髪を撫で付ける。

「六歳だからな。よいしょ。抱っこしても本当に軽いんだよ。本当に飛んじゃうほどにね。じゃあ、おいらはシュンスケを寝かしてこのまま失礼します」

「そうだな、我らが共和国の小さな英雄には、ゆっくり体を休めてもらおう」

「そうね」


 その夜俺は広い広い夜光虫の輝く真っ黒な海原の、大きな白い鯨の柔らかくて暖かい背中の上で、満点の夜空の下で眠る夢の中にいた。

 “風の女神に愛されし子よ。慌てることはない。穏やかに、健やかに成長しなさい”

 “むーさま、しゅんすけいいこでしょ?”

 “うむ、やさしくて、正義感の強い子だ”

 “うぉーでんさま あたしたち、しゅんすけだいすき”

 “ああ、そうだな。これからも助けておやり”

 “もちろんよ” “ねー”


 窓から入ってくる、南国の暖かい海風はいつまでも俺の髪を撫でてくれていた。



南国シリーズは後二話あります。

お付き合いください

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お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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