大きなおはじき
この話を差し込みます~
挿話の読み切りのようなものなのでどうか読みに帰ってきて~
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
秋が深まる頃、ガスマニア帝国のマルガン伯爵家のプライベートビーチで、ウリサと木剣で打ち込みをしていた。
「いてっ」
「どうした、集中が足らんぞ」
思わず避けそこねて木剣を尻で受けてしまった。
「ほんとだ、反省反省」
「大丈夫か?」
「平気。それよりさ」
視界の端でなにか多くの生き物が列を作って岸から海へ向かっていくのが見えていた。
尻が痛いのは、奴ら のせいだ。
「あれって?」
近づいてみると、鮮やかなサザエのような貝たちが列を作って、先っちょをフリフリしながら進んでいた。
サザエに比べたらもう少し横にひしゃげた形で、先が鋭くないトゲもちょこちょこでている。だが何より、俺が知ってるサザエなんかよりデカくて、ハンドボールサイズからバスケットボールサイズぐらいまである。殻は鮮やかな青から紺色だ。海に潜られたら外からは見えにくくなりそう。
「あれか? あれはシェルスライムだ」
「スライム?」
「貝に見えるが魔物で、まあ、貝を持つスライムだ」
「へえ、面白い。食べられるの?」
「食える。子供のシェルスライムなら、つぼ焼きで売ってただろ?」
「腐ったサザエだと思ってた」
「サザエ?」
「いや、俺の故郷にいた貝。どうりで歯ごたえがないと思ってたんだ。腐ってるのかって。
スライムだったんだね」
いつの間にかスライムを食ってたことに軽くショックを覚える。
口にするものに気をつけるのをちょっとサボってたかも。別にお腹を壊したわけではないから良いけど。
あれ? 考えたらここは外国どころか異世界なのに、川からそのまま引かれた水道水を飲んでも平気なんだよね。お腹とか。俺の腹ってめっちゃ頑丈だな。
「ははは、ただの巻貝と比べたらそうかも知れねえな。だがシェルスライムのほうが苦みがないからな」
それがさらに物足りなさを感じてたんだよ。思わず腐ったサザエかとおもってたもん。
「似たような見た目で、もっと地味な色の頭巾巻貝ってのなら、普通の貝で魔物じゃねえ。お前そっちのほうが好きだと言って食ってたじゃねえか。子供のくせに苦いほうが好きなんて、変わったやつってゴダに言われてただろ?」
「それ!そっちがサザエ!
んじゃあれは魔物なんだね。⋯⋯捕獲するには資格とか必要なの」
サザエは密猟はダメなんだよね
「いや、シェルスライムは張り付いて船底に溶かすと言われてるから、捕獲した方がよい」
「んじゃ、捕獲する? どうすればいいの?」
「拾うだけだ。岩場に張り付いてる時は海水より濃い塩水をかけるんだ」
「なんだ、壺からタコを外すのと同じだね。よし、それなら簡単だ。塩は持ってるから塩水はすぐに作れるよ」
「じゃあウリサ兄さん、籠かなんか取ってきて?」
「ああ、無理に全部捕まえるなよ」
「わかってるって」
「あと、裸足に乗っかられると、溶かされるぞ」
「へ?わ、わかった」
とりあえず土魔法を発動して、シェルスライムたちの前に砂の土手を作る。まだなんとか海水にたどり着いていないからね。
こいつらは湾岸道路を挟んだむこうの小さな林からやってきているようだ。
地球にもそんなカニがいたような。動画でしか見たことはないけどね。
さらにウエストポーチから、見覚えのある黄色いゴム長靴を出して裸足のままで履く。
「うわ、砂が」
派手だから俺の趣味じゃないけど、しょうがない。スライムの酸からちょっとでも足を守りたいじゃん。
そして、先頭で砂の土手を果敢に登ろうとしてるうちの一匹を持ち上げる。スライムの体は砂に半分埋もれてるようだ。
ズボッ
まだ砂地だから平気。全然軽い。
つい自分の目の高さまで持ち上げて観察してしまう。スライムの部分は目のないカタツムリのようだな。色は濃い青というか紺と言うか、海の底のような色だ。
長いほうが前か?確かにスライムだ⋯⋯わわっ引っ込んだ! 貝の中に入って蓋が閉まる。サザエみたい、おもしれー!
しかもこの蓋が魔物ならではの魔石なんだな。青くてきれいなガラス質だった。直径は四センチくらいの丸っこい平べったい魔石。コレクションしたいなぁ⋯⋯とと、そのまえに、こいつらの動きを止めよう。
手に持っている一つをひっくり返して、少し離れた砂浜にぐいっと置いてみる。あれ?大人しいよ?まさか今の衝撃で死んだ?⋯⋯ことはないのね、しばらくしたら蓋の隙間からちょろっとスライムの足が出てくる。
これは時間稼げそうだ。
俺は片っ端から、スライムを持ち上げてはひっくり返して、砂浜にトゲを突き刺すように置く。助け合って起き上がらないようにちょっと離してね⋯⋯わわ、動き出した。寒いのに元気だ。でももうちょっと寒くしちゃおうかな。
ひっくり返したシェルスライムの下に、魔法でかき氷みたいな氷を敷き詰める。と、もぞもぞしていたのがとまった。
変温動物って寒いと動けなくなるって言うし。スライムは魔力のある魔物に分類されているけど、体温はない。変温動物と言うより、単細胞生物に分類してもよいかな?って思うけど、こいつらの場合は殻があるならそうでもないか。
「持ってきたぜ籠」
「シェルスライムの行列が出たって?」
アリサもやってきた。
「行列って、五〇匹もないよ」
結構大きな籠をウリサと二人がかりで持ってきてくれたのだ。町中で宅配業者が集配してまわってるような檻のようなものだ。
夏の海の家をしてた時に、ゴミ箱として利用していたもの。
これなら集団のシェルスライムが全部入りきるだろう。
「シュンスケ凄いわね、全部動かなくなってるじゃない」
「雪みたいな氷を敷いているからね、寒くなって動かなくなってるんだよ。寒いから海に行こうとしたらまた寒くされるっていう」
ひっくり返った貝は魔石の蓋を冬の朝日に煌めかせて大人しくしている。
「それにしても懐かしいわー」
「なつかしい?」
「シェルスライムの、魔力が空っぽになった魔石を孤児院でおもちゃにしていたのよ」
「確かにちょっとしたおはじきだね。大きいけど」
「そうそう」
「じゃあ放り込んていくか」
「そうね、シュンスケ、スライムの酸に気をつけるのよ」
ウリサと同じセリフ。やっぱり兄妹だね。
「大丈夫、手持ちの長靴を履いたから!」
「さっきから似合ってて可愛いとは思ってたけど」
「長靴が可愛い?」
分けがわからん。
「確かに、小さい子供が長靴を履いているのはなぜか可愛いよな」
ウリサにまで言われた。何となく分かるが、対象が俺ってのが納得いってない。
「とにかくこのまま入れていきましょう」
「はーい」
「貝を傷つけないように入れていけよ」
「貝は素材なの?」
「建材にするんだと」
「シェルスライムのタイルって人気なのよ」
「確かにきれいな色ですもんね」
でも、この青い色も魔石みたいなものらしいから、魔力の多い俺は改めて軍手をして作業。
ぽいぽいぽーい
じっとしている石のような物を集めるのは簡単だ。それにバスケットボールほど軽いわけじゃないけど、本体はスライムだから石より軽い。
砂浜から投げたのをウリサやアリサがチャッチして丁寧に入れていく。
「よし、こんなもんだろ」
「うん」
「じゃあこのまま漁協に押していく?」
砂浜では下げて、テラスに踏み入れてからやっとコマを地面に付ける。
「えー六キロあるんでしょ! 死ぬよ」
「寒いから大丈夫よ」
「だが、たしかに時間がかかりすぎだな。シュンスケは今日も学園あるしな」
「でしょ」
「頼めるか?シュンスケ」
「まかせて。んじゃ二人とも籠を触っといてね」
「うん」
「ああ」
そうして、瞬間移動で訪れた漁協兼冒険者ギルドにシェルスライムたちを持っていった。
そして。おもちゃにしたい魔石の蓋を、魔力を抜いた状態で貰うことが出来た。
手に戻ってきた透明になってしまった丸い魔石。
後日、ポリゴン町の孤児院に遊びに出掛けた。
新しくゲットしたシェルスライムの魔石をもって。
「まあシュンスケ、おはじき持ってきてくれたのね?」
シスターにはもはや只のおはじきだった。
「はい、たまたまたくさん捕獲できたのでもらってきちゃいました」
あれからまた、行列が来たと精霊ちゃんに教わって、第二弾も残らず獲ったのだった。
ギルドによると、やっぱりスライムの部分は不要で、青い貝殻が買取対象だ。勿論魔石もね。今回はその中の魔力だけを売った。
あれ?魔力って売れるの?まあ、それについては後日勉強しよう。
「おうじ!きた!」
「よう、マツ」
いつも俺をなぜか王子呼ぶ猫人族のマツ。その虎縞の猫耳ごと頭を撫でてやる。
いつも撫でられちゃう俺だが、マツ相手なら撫でる。こんな事ができるのも彼女が三歳児の今のうちだしね。マツが大きくなったら無理だよね。
「ごろごろ」
「シュンスケ、とうめいのしかないの?」
「シト、これはちょっとみずいろだわ。でもうすすぎるわね」
「ヨネちゃん色残したほうが良かった?」
ちょっと残念そうな雰囲気のヨネちゃん。
「とうめいでも あそべるんだけどね、ちょっといろが ついてたほうが おもしろいの」
「へえ、どんな? 今は色のついたおはじき残ってるの?」
「ぜんぶとうめいになっちゃった」
「これはもとは青かったけど、おはじきには他の色もあるの?」
「ある!」
「シュンスケくん、シェルスライムのおはじきは貴族専用のおもちゃなの」
シスターが説明してくれる。手には〈おどうぐばこ〉のような木箱。
「これが今まで遊んでたおはじきなのよ」
「ずいぶんボロボロですね」
結構傷だらけだ。ガラスより若干柔らかいのかも知れない。確かに、感触もガラスとアクリルの間みたいな感じなんだよね。
「でも、硝子でできたものと違って、うっかり子供の口に破片が入っても大丈夫なのよ。中途半端な大きさだと窒息注意だけどね」
「なるほど」
今回持ってきた魔石より一回り小さいそれらは、透明でも薄っすら色の名残が残ってる。
水色、ピンク、乳白色、緑色、うすい黄色
「玩具用に害のない程度に入れるだけでも、魔石に魔力を充填するのは安くないのよ」
やっぱり魔力って売り買いされるものなんだ。
「だから貴族用なんですね。あれ? 紫色がない」
〝やみぞくせいは おもちゃむきじゃないから、やめておいたほうがいいわ〟
紫色ちゃんのアドバイス。
「わかった、じゃあ、持ってきたこれに色を付けようかな。何ならその古い方も」
「まあ、ぜんぶできるの? すごいわね。さすが帝国立学園生」
でもまずは属性を抜く。ひび割れないギリギリまで底たまりの魔力をさらに抜くと他の属性に変えられる。魔法陣があれば一気に抜けるらしいけど、今は持ってないから、手に持てる分だけずつ。直に触って体の魔力を捜査するように、石の魔力を探って自分の体に引き取っていく。間に別の空魔石を挟むとそこに貯めることもできるよ。
「はい、じゃあ俺が持ってきた魔石は六〇個あるから、これを五つに分ける。十二個ずつな」
「シュンスケ、もうけいさんした?」
数字に興味のある男子ひとり。
「計算というほどでもないよ、シト」
「でも、六〇を五つにわけるなんて。むっつならわかるけど」
「こんなのは訓練なんだよ」
「どうやるの?」
「そのうち教えてやる」
「うん!」
五つに分けた無属性の魔石に、もともと個々にあった色が残ってるおはじきを、ひとかたまりのてっぺんに一つずつのせていく。
「どうするの?」
「どうしようかな⋯⋯お友だちに頼んじゃおうかな?」
〝うすくいろがつけば よいんでしょ?〟
〝かんたんだぜ〟
〝ただでは、ちょっと、わたしは やすくないわよ〟
緑色ちゃんどこで仕入れたセリフだよ!
〝まかせろ!〟
〝いいわよ〟
青色ちゃんは優しいね。
「お友だち?」
「ぼくたちにはできないよ」
「俺のお友だちは他にもいるんだ」
ウエストポーチからちょこちょこと出す。
黄色というよりクリーム色の魔石に黄色の金平糖、緑色の魔石にエメラルド色の葡萄の粒。高級だから一粒で。まあバルコニーで収穫したやつだけど。水色の魔石に砂糖がまぶされた青いゼリーをセロファンでキャンディー包みされたもの。
「わあ、おいしそ!」
「おともだちって、あまいものずきなの?」
「いや、しょっぱいものもあるぜ」
ピンク色の魔石にはキューブ状のジャーキー。乳白色の魔石にはチーズの破片。
俺の左掌【てのひら】には、紫色ちゃんに羊羹一切れ。今回紫色ちゃんはそれぞれの魔石への魔力の量をコントロールしてもらう。
すると羊羹の隣に紫色ちゃんが、それぞれのおやつのそばにもそれぞれの精霊ちゃん達。
「じゃあいくよ!」
〝皆頼んだ!〟
パチン!
指を鳴らす。
〝〝〝おっけー〟〟〟
〝ちょっとずつね〟
すると、おやつが消えて精霊ちゃんたちがわかりやすいようにそれぞれの色の光をまとって魔石に魔力を注ぎはじめた。
「ふわぁ⋯⋯きれー」
「きらきらー」
「すげ⋯⋯」
「シュ、シュンスケくん満タンじゃなくていいからね」
「わかってますよシスター。そろそろいいかな」
〝〝〝〝〝はーい〟〟〟〟〟
そうしてカラフルで大きなおはじきができた。
「で。これをどうやって遊ぶんだ?」
「しらないの?しゅうすけ」
「俺にも知らないことは沢山あるぜ」
そもそも、この世界のおはじきのことを知らなかったしな。
「じゃあさっそく、あそびましょう!」
「あてたら、自分のものになるの」
「なるほど」
「こうやって、とばしてあてるのよ」
ヨネが、赤くなった魔石に親指に引っ掛けた人差し指を弾くようにして飛ばす。
カン
「わっ魔石の光が!」
赤い魔石が黄色の魔石にあたって、両方がふわっと光る。
「魔石同士で刺激すると光るのよ」
シスターがまたまた補足してくれる。
「面白いしきれいだな」
「でしょー、だからいろつきの おはじきのほうがたのしいの」
「たしかになー」
しばらく二種類のルールが違うゲームをしてちびっこたちで遊ぶ。
「結構面白かった」
「おもしろくない」
「マツはまだ指が短いからむずかしいよな」
「あら、それでもあてられてたじゃない」
「それより、シュンスケのおともだちって もしかしてえほんにあった、せいれいちゃん?」
「そう」
「まあ、すてき。わたしもいつか見えるかしら」
「みれるといいな」
〝チヨたちはどうなんだよ〟
〝まりょくがすくなくて、いまはむずかし〟
〝あたしならなんとか、ほっぺたなでるぐらい〟
黄色ちゃんが答える。
〝そっか〟
〝ふたりぐらいは、そのうちちょっと できるかも〟
〝そりゃ楽しみだ!〟
「さて、皆にもさっきのおやつあるから。休憩しない?
シスターもさ」
「あら、嬉しいわね」
「やった! おやつ!」
「わーい」
「んじゃ片付けようかな、シスター今までの箱には入らなそう」
「そうね、なにか入れ物を探してきましょう。シト君」
「はーい」
「じゃあ、わたしがおちゃもってくる!」
「あたしはこっぷ」
こんなに良い子達だし、みんな精霊ちゃん達と仲良くなれればいいなぁ。
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