小瓶にツメツメ
後で追加したお話です。
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次の日再び孤児院の会議室にお邪魔する。
会議室のドアには、〈関係者以外入室お断り〉の紙が貼ってあった。流石です。
皆、シャワーも浴びて来たのか、小綺麗にさっぱりして、エプロンとバンダナもバッチリ。
足元も新しいスリッパだ。獣人系の子たちはバンダナの隙間から見えるケモミミと尻尾がツヤツヤのふわふわになっておりました。
まずは、部屋の端にワイン樽用のスタンドを置いて、更に足元を固定。
持ち込むエリクサーの樽はほぼドラム缶サイズ。容量もそれぐらい。だからまるで大太鼓の台のような樽用スタンドを探して……
海の家の納屋にあったものだけどね。さすが貴族の別荘である。
そしてワイン樽用のスタンドに滑り止め代わりに重ねた布を挟んで、
「皆危ないから下がってね」
なにしろドラム缶サイズ(二回目)なので危険だ。
スタンドの上に、アイテムボックスから例の樽を一つ横向きに載せるように出す。
ドーン。
音はしなくて雰囲気だけ。
開封歴のあるひとつ。ドミニクが飲んだ残り。
でも、全然減ったうちに入らない。
「すごいわ。アイテムボックスね」
今日もシスターが付き合ってくださってます。
「俺のこの六歳児の細腕じゃ、普通が出来ませんからね」
「そうね」
そして様々な道具を作業台に置く。
「これは煮沸消毒してきたので、このまま使いますけど、毎回使用後に洗浄と煮沸消毒してくださいね」
「「「はーい」」」
赤ちゃんの世話などで、煮沸消毒は孤児院の基本だったりするから皆よくおわかりだ。
そしてもう一つの樽を出す。
これには空のポーション瓶がぎっしり入ってる。
そしてその中には小さな蓋だけが入っているケースも入っている。
作業台に出てるのは、試験管立てのような形の、ポーション瓶立て。試験管用より若干穴がひろいけど、十二本つまり一ダース並べられるようになっている。
そして小さな漏斗、それとカクテルとかでリキュールやシロップを掬うような、柄が長くて小さな柄杓。
一リットルぐらいの陶器で出来た持ち手の付いたビーカーを複数出している。
「まずはこのビーカーに樽から薬を取ります。八分目まで入ればよいでしょう」
樽のコックをひねって液体を移す。
エリクサーは女神様の瞳のようなシアン色の色水だ。
「おおおっ」
「青い」
「つぎに、ポーション瓶立てに小瓶を立てていきます。
そして、この漏斗を一つおきに並べていきます」
「はい!」
ミルクティ色の犬耳が隠れちゃってるけど、犬人族の女の子が手を上げる。
「どうして一つおきなんですか?」
「漏斗は口が広がってますから、間を空けないと小瓶にセットできないからです」
「なるほど、そうですね。わかりました。続きをお願いします」
「ではビーカーに入ってる薬を、この柄杓で掬って漏斗からポーションに入れます。柄杓一杯分がポーション一個分になります」
さすがガジェットさんの店だ。リフモル先生にもらった魔道具で作ったポーション瓶はすべて規格サイズ。だからそれに合った道具がお店に揃っていたのだ。
瓶立て、柄杓、漏斗、ビーカー。
瓶は消耗品だから、高額だと困るけれど、道具はなくなるものではないのと、数人がかりで作業をしないといけないと思ったので、何組も用意した。
「じゃあ、お姉さん残りを入れてくれますか?」
「ええ……まあ、結構楽しいわね」
「よかった」
「……ここに立ててあるものに全部薬が入ったわ。
次は蓋ね」
「はい。小さいので転がっていかないように気をつけてください」
「はい」
小さい瓶の蓋は更に小さい。
「ぎゅうぎゅう押し込まずに軽く乗せる程度でいいですからね」
「分かりました」
一昨日、試供品として小瓶への充填作業をしていたときは、精霊ちゃんでも運べたもんね。
というか殆ど精霊ちゃん達がやってくれたんだけどさ。面白がって。
「できました」
「では、最後に、この瓶立ては魔道具になっています。でも魔法が使えなくても大丈夫。
蓋が全部できたら、この小さな魔石を触ってください」
と、瓶立ての端っこにあるラインストーンのような黄色い石を示す。
「はい…まあ、温かいわ。光った」
魔石が数回点滅して、光を失う。
「消えちゃった」
「どうなったの?」
「この魔道具は、瓶の中に残った空気を取り除く働きがあって、中が真空になったことによって、ポーションの品質の維持と蓋の気密性が出来たんです。
だから、投げ飛ばさない限り蓋は勝手に外れることはないです」
スタンドから蓋のついた瓶を一つ出して、ひっくり返してちょっと振ってみる。
「本当だわ、ぎゅうぎゅう押し込んだわけでも、封蝋をしたわけでもないのに落ちないのね」
「でも、そんなに気圧差はないので、開けるのに力は必要ないですよ。
お姉さんちょっとこの瓶の蓋を引っ張ってみてくれませんか?」
狼人族のお姉さんにお願いする。
「はい」
キュポッ
気圧を感じる可愛い音をさせて瓶の蓋がはずれた。
「なるほど、これなら急いでいる時に焦らなくていいですね」
「でしょ」
最後に、完成したポーションは一つずつ革のケースに入れて完了だ。 革のケースは、印鑑を入れるような袋で、紐がついていて腰のベルトにぶら下げられるようになっている。
それを見て、ドミニクは、
「大金貨1枚分の薬をぶら下げるとかえって危険を感じるけどな」
って言ってたけど、
「だからって瓶丸出しもどうかと思うけど」
「それもそうか。しょうがないか。今はそれで」
ということで、革袋に収納して完了となった。
「これが一連の作業です。 役割分担をして、役割を交代しながらやってください。
単調な作業になるので、根を詰めずに定期的に休憩をとってやってくださいね。
大事なのは、清潔を保つこと。 柄杓一杯分を一つの瓶に確実に入れること。足りなかったら、せっかく手に入れた薬の中身が足りなくて、助からない人が出てきてしまいますからね」
「わかりました!」
「だれか一人リーダーを決めましょうかね」
そう提案するシスターに一人だけ男の子の犬人族と目が合った。
「犬人族のお兄さん、あなたやってくれますか?」
「ぼくですか?」
「ええ、お名前を聞いても?」
「ぼくはトムです」
トイプードル系の犬人族は男の子でも結構可愛いのでは。
「では、トムさん、皆さんよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
この出会いが今後も長く続くことになるとは、この時の俺には想像もできなかった。
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