35【父上様、お元気ですか・・・お元気そうですね】
お父さん登場!文字だけ
ある朝、セバスチャンの執務を手伝っていた。昨日までの収支を付けている、まあ、このお屋敷全体の家計簿だな。俺達、離れ用の予算も出ているが、何とか、光熱費だけのお世話になっている。まあ、主に大浴場代だな。って言っても、魔道具のための魔石代です。
「坊ちゃん宛てにお手紙が四通、届いていますよ」
「ありがとうございます、後で見ますね」
「この一通は、中を確認して差し支えなければドミニク卿にも報告してください。ドミニク卿宛のお手紙は、わたくしが預かりますので」
「はい」
セバスチャンが示した手紙は、ただの手紙とは思えない雰囲気を醸している封書だ。
生き生きとした葉っぱの付いた蔦の蔓のようなもので巻かれて封蝋されている。
「この、封蝋の紋章はどこでしょう」
「それは、ロードランダ家です」
「この国とは敵なのでは?」
「今は大丈夫ですよ」
セバスチャンの執務室から自室に帰る廊下で俺はぐるぐる考えながら歩いていた。
正直、ポリゴン町にいた時から、嫌な予感はしていた。
冒険者は、国を超えた依頼もよくある。ウリアゴのパーティーも何度か隣接する国に行くこともあったそうだ。
外国など、遠くに郵便を運ぶのや、外国に行き来する人の護衛をするのも、冒険者の仕事。
そんな業務のために、ギルドの壁にもバーンと南の海洋から大陸全体の地図が貼ってありました。それが(今、この大陸の力で精一杯の)世界地図?の北の端にありました。
〈ロードランダ王国〉
俺の名前、シュバイツ フォン ロードランダ というらしいにもあるスペル。
そう言えは魔法学部の教授の出身だと言ってた。
そして、この、ガスマニア帝国と戦争してたって!
俺に、敵の国の名前が付いているってばれたらやばいよね。
いつも学校で机を並べてる セイラード第三皇子にばれたりしたら、どうされるか分かったものじゃない。ガクブル。
いやなことから済ませてしまえ!
ツルの絡まった手紙を開ける。
・・・日本語だった。結構汚い文字だ。
~~~~~~~
親愛なる駿介へ
随分久しぶり、お父さんです。
最近、風のうわさで、君がこちらに来てると知ったんだ。
そして、ドミニクから、彼の家で保護しているって連絡が来た。
今、楽しく幸せにしているなら、急がなくてもいいから、
近いうちに、顔を見せに来てください。
でも、こっちはガスマニアより結構寒いから、春になってからの方がいいかな?
あ、こちらへの路銀(護衛代も)と、ドミニクに返す君の養育費を、
冒険者ギルドの口座に振り込んでおきます。後で確認しておいてね。
足りなかったらお手紙下さい。
本当はお父さんが会いに行けたらいいんだけど、
周りの人が国から出してくれなくって。ひどいよね。
息子に会いに行くぐらい、出させてもらってもいいのにね
じゃあ、いつまでも待ってるから!
冬の風邪に気を付けて。
駿介の父、田中稔樹 こと ブランネージュ フォン ロードランダ
~~~~~~~~
父さんの顏は見たことがある。
母さんの部屋に写真があった。母さんの古いスマホにも。
俺にそっくりのちょっとだけ茶色が勝った瞳と髪の普通の日本人だったよ。まあ、写真越しにもイケメンの部類ではあったけどさ。
そういえば以前、母さんが、
「まあ、一応この人が駿ちゃんのパパよ」って言ってた。
・・・一応って何だったんだろう。
「駿ちゃんが一歳の誕生日までは何とか一緒にいたんだけどね、お仕事が忙しい人だから、よその国に行っちゃったのよ。私も忙しいから、会いに行けないけど。ごめんね。
でも、お母さんが、パパの分も可愛い可愛い、しちゃうから」
っていつもぐりぐりされていた。
「喧嘩したのではないわ。大人の事情で別に生活しているだけ」と言ってたけど。
・・・あのパパさんですか。
俺に読めるように日本語で書いたんだろうか。
本当は日本人じゃなかったのね。字が小学生みたいに読みにくい。
大人の事情ってのがあるんだな。息子より大事な。
それにしても、あの地図に載ってた国のえらいさんのはずなのに、なんて軽い文章なんでしょう。っていうか、母さんとノリが似てるかもしれない。うん、お似合いなのね。納得。いつか親子三人で会えたらいいな。
よし、気を取り直して!他のお手紙を見よう!
一番分厚くて大きい袋を開ける。
孤児院の子供達からだ!
マルを描き殴った顔?横に三角が二つ並んだのが乗っかった丸い顔?
あ、これは、猫人族のマツね。じゃあ横の顏は俺?ひょっとして。あ、耳のピアス描いてくれてる。すごいな。
他も、絵とか、おっ、ヨネちゃんは文章になってる。
~~~~~
しゅんすけ、
このあいだは きてくれたのに あたしたちがびょうきで
あそべなくてごめんなさい。
でも、びょうきをなおしてくれたときは、とってもうれしかった!
もうげんきだから、あそびたいな
ぽりごんにかえってきたら、あってね
よねより
~~~~~
うんうん。またあそぼうね。
シトも手紙と、何これ?どんぐり?みたいな木の実
朝から和むわー
他もポリゴンの教会と、帝都の教会
どっちも
~次のリサイタルはいつします?
できそうな候補の日時を三つお願いします。~
・・・リサイタルはしません。プロの音楽家じゃないっての。
ヨネちゃんにお返事と、ヨネちゃんに代表で~みんなに配ってね~って書いて、
折り紙を出す。
女の子には鶴。男の子には兜をダッシュで折って、角型二号封筒に一度突っ込んだけど、出して、宛名と俺の名前を書いてまた中身を入れて封をする。
学園に行く準備が出来た俺は、ロビーでセバスチャンに伝える。
「父さんからの手紙なんだけど、ドミニク卿に渡す俺の養育費がギルドの口座に振り込まれているそうなんだ。今度、お渡しするのでと、ドミニク卿に伝えてほしいです」
「養育費は返さなくていいと、旦那様はおっしゃられていましたけどね。一応お伝えしておきましょう」
「お願いします」
「それにしても、坊ちゃまは、旦那様が言ってた通り、本当に素晴らしいですね」
「なにが?」
「高貴なお生ま・・」
「そのことだけど、まだ皆には内緒で。俺もいまいち分かってないから。」
最後まで言われないうちに遮る。
「かしこまりました」
とうとう、あの人からのお手紙が来てしまった。
いつかは会いに行かなければいけないだろう、やっぱり。
でも、俺は今のこの充実した日々を壊したくないし。もう少し、このままで。
“ねえ、風の噂って、黄色ちゃんが伝えたんじゃないよね”
“あたしねえ、おともだち、たくさんいるの。そのこたちに、じまんしたんだ。おうじってすてきなんだよって”
ひょっとして
“おれって、ほんとに?お、王子なの?”
“うん!おうさまのこどもは、おうじっていうんでしょ?”
“おれの父さんが王様なのね”
“うん、あたしたちのおうさまでもあるのよ”
そりゃ、忙しいはずだよ。前は母さんや俺をほっぽって、なんて思うこともあったけど。責任ある人はしょうがないよね。
うん、俺も大人になったぜ。見た目はおちびだけどな。
その日の放課後、教授の部屋で
「お願いがあるんです。父の姿がわかるものはありませんか?」
教授もロードランダ出身だ、何か持ってないだろうか。
「ちょうどいいものがある。これじゃ」
大きなコインを見せられた。
大陸の通貨は共通で、コインの色(材質)と大きさは国を超えても同じ。表面のデザインが違うそうだ。
大金貨だ、俺が初めてドミニク卿に貰ったのと同じ絵が描かれている。初めてもらった時は、高額すぎてじっくり見ることなく財布に入れてウエストポーチに入れていた。仮免取ってからギルドの口座が使えるようになったので、大金は全部そっちに入れている。
ちなみに普通に銀行もあるけど、平民や子供には敷居が高いそうなんだ。
改めて良くみると・・・エルフだね。尖った耳の横顔の人だ。この硬貨の方が古い。
初めて手にしていた大金貨が、父親の顔の横顔だったなんて。
「大金貨より大きな単位の硬貨は、白金貨とミスリル貨じゃろ?」
「はい、大きさと色しか知りませんが」
「その三種類は、他の国での図案はなく、すべて、ブランネージュ様の横顔となっておるのじゃ」
そうなのか、知らなかった、というか見ることはないよね。
白金貨は五千万円、ミスリル貨は一億円の単位のお金。そんなのお城やお屋敷を買うときとか、国の予算とかにしか動かないんだから、六歳児が見ることはないよね。
「で、なんでロードランダの貨幣しかないのですか?」
「単位が大きいので、鋳造数が比較的少ないから、あちらこちらで作らないんじゃろ。そして、この大陸では、ロードランダ王国が一番古く、その国を建国された王が、ブランネージュ様だ、という事も理由の一つじゃ」
「は?ブランネージュがロードランダを建国した人?じゃあ、今の王様は、ブランネージュ四世とか五世とか?」
たしか、建国三百年超えてて、今ある大陸の国では一番古い。
「ふふふ、シュンスケ、お前さんもそのうちなるじゃろが、ハイエルフじゃよ、お父様は。ロードランダ王は、まだ一代目なのじゃ」
「ひゃー」
思わず〈叫び〉って名画のポーズをしてしまった。
俺の父さんって、三百歳以上?うわ。エルフじゃなくてハイエルフ?
俺も進化・・・するのか? 出来たら進化は大人になってからにしてください。
三百年以上生きていて、俺が生まれたのは十八年前
「あの・・・教授、俺には兄とか姉とかいるのでしょうか?」
王妃とか、お妃さまとか、大奥とか、ハーレムとかある?
なんて里帰りが恐ろしいんでは?と思ったりして。
「いいえ、王は、独身ですよ。ご成婚された記録はありません。王妃は建国以来、空位となっております」
王妃がいないのに王子がいるのはやばいのでは?
「ふぉふぉふぉ、大丈夫じゃ」
心を読まれた!
でも、そうか。ステータスから想像していた不安は杞憂だってことか。
よかった。これで、何も考えずに、勉強に集中できるぜ。
「というわけで、色々思うところもありますが、父に返事の一通ぐらい出そうと思うのですが、封書の差出人にブラズィード教授の名前をお借りしてもいいですか?」
「かまわんよ。お前さんの今使っとる通名では陛下に届かないかもしれんし、お国の名前では、お前さんの存在が明らかになってしまって、危険かもしれんしの」
封書に使われていた、蔓を持って教授室に相談に来たのだ。
「それで、お返事はもう書いてこられたのかな?」
「はい、これです」
「拝見しても?」
「良いですけど、読めませんよきっと」
日本語で書いたもんね返事。
「むう、それは残念じゃ」
“おうじ、これちょうだい”
緑色ちゃんが蔓をぶら下げている。端っこは青色ちゃんも持ち上げている。
「教授、これ挿し木していいですか?」
「良いけど、お前さんが育ててはどうじゃ?プランターはそこいらに空が転がっているから、持って行ってもええ。土と水魔法の練習にもなるでの」
“俺の家で育てようか”
“うん!”
「宛先と宛名を書いたぞ。手紙の中身を入れなさい」
「はい。あれ?もう一枚なにか・・・」
「では、蝋を落としてくれんか」
教授が封蝋の棒状の蝋とスタンプを持ってきていた。
もちろん、火魔法の応用で、蝋の先を熱して封筒に落とす。教授がスタンプを押してくれた。
「儂のメッセージも一枚入れておいた。儂からの挨拶と、お前さんが頑張ってることをな」
「ありがとうございます、帰りに冒険者ギルドに寄って、頼んできます」
「それと、儂からも一つ頼みがあるのじゃ」
教授からのお願い?
「お国に帰られるときは、儂も連れて行ってくれんかの。道案内ぐらいはできるじゃろうて」
「はい!その時はよろしくお願いします、でも、まだまだ先の話ですよ」
「エルフは長い時間を生きるものじゃ。何十年待っても平気じゃ」
いやいや、そんなに後では俺が忘れるっての。
心のもやもやがすっきりして、晴れやかな気持ちで帰路に就く。
そうだね。父さんに会いたいね。どんな人かな。写真はあれだったけど、教授よりかなり年上だし。ポリゴンの司祭様みたいな感じだろうか。
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