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31【ウレシハズカシ形成外科医さんごっこ】

 基本属性にない魔法に、聖属性魔法がある。信仰心に基づいて、神様からもらう特別な魔法らしい。ただ、俺はまだ、ここの宗教ってのは分かっていない。でも聖属性もある。聖属性の個別の検査に滅茶苦茶反応していた。

 それに、初めから隠されたステータスに〈風の女神の加護〉ってのがあるんだよね。


 一番なついてくれている黄色ちゃんに聞いてみる。

 「俺に風の女神さまの加護があるから、黄色ちゃんがすごく仲良くしてくれるの?」

 “ん-、ちょっとちがう。しゅんすけ のは ほんとは あ、いえない。

でも、なかよくするのは、あたしが しゅんすけが だいすきだから♪ きゃー”

 おおう、無邪気な告白

 「ありがとう!俺も嬉しいよ」


 風の女神 お名前は ローダ様。この、ガスマニアは海の神様の拠点?だから、教会にはローダ様の像はなくて、台座だけなんだよなー。一応子供向けの絵本みたいなのはあったけど。文章では、金髪で緑の目の ヴィーナスってイメージなんだろうか。

 とにかくご加護はありがたいことです。こういうのが目に見えるのはいいよね。頑張るモチベーションにもなるし。

 帝都の教会で台座の前でお祈り。日本では宗教なんて、物語みたいな感覚だったけど、こっちではステータスに具体的に表れちゃったりしたら、信仰するしかないよね。


 それ以外にも俺は割と教会に来る。ま、チェンバロを弾かせてもらうためだけどね。

 もちろん今日もね。

 俺だって、頼まれてなくたって、音楽に埋もれたいときもあるさ。


 学校は休日。なのにウリアゴ達がばらばらにソロで冒険者の仕事でお出かけ中なので、俺は教会に来ている。奥の、練習用の音楽室にお邪魔する。ここは初めてなんだよね。いつもは大聖堂のチェンバロで本番さながらに練習しているんだよ。大聖堂にはギャラリー居てるのに・・・。


 おお、ポリゴンより大きな音楽室。さすが帝都。しかも!なんと。グランドピアノがあるじゃん!やったースゲー。テンション爆上がり―。

 大聖堂が大ホールで、音楽室は小ホールって感じだな。ちょっと客席もあっちゃったりする。

 ピアノのほかには、洋風の太鼓やハープ、三種類ほどの木琴もある。合奏とか出来そうだよね。


 後ろにいる司祭様に恐る恐るお願いする。ここの司祭さんはポリゴンの司祭と違ってお爺ちゃんじゃない。

 「あの、こっちの方触らせていただけないでしょうか」

 「これは、モデルノピアノと言うんだが、帝都には宮殿とここの二台しかないのだが?シュンスケはこれを弾いたことがあるのか?」

 「はい!どっちかというと、故郷ではこっちの方がありました。モデルノピアノ?っていうのかわからないけど。この国に来るまでは、チェンバロは実物を見たことがありませんでした。」

 「ふふふ、かまいませんよ。いま、帝都でこの楽器を弾ける方は中々居ないですけど」

 「え?いないんですか?」

 「二台しかないですしね。どちらかというと、コンパクトなチェンバロのほうが皆さん嗜まれますからね」

 なるほど。

 「でも、調律が要らないように魔道具で状態を保たれているので、音は狂ってないはずですよ」

 「わかりました!二時間ほどいいですか?」

 「はい。もしかしたら、聴きに来られる方が来てしまうかもしれませんがどうぞ」

 そう行って司祭様は傍らの引き出しからピアノのカギを渡してくれた。


 今日は教会の行事は何もないんだって。遠慮もいらないんだって!

 でも、大聖堂に音がいかないようにと黄色ちゃんに頼んでいる。

 貴重な楽器をこんな六歳のガキに自由に触らせてくれるなんて、ここの司祭様も心が広いです!


 このピアノはカバーがかかっている。グランドピアノは蓋をあけて弾かなければね?

 カバーも大きいから大変だけど、うきうきしてカバーを取り去る。そして少したたんで、隣にあるチェンバロにひっかける。

 「ごめんね、今度来たときは君を弾くから」って話しかけながら。

 大きな蓋を開けて、鍵盤のふたを開ける。

 いつも弾いてるチェンバロと違って、普通の白鍵と黒鍵。ペダルは三つ。うん、体育館で音楽界の合唱の伴奏したときの感じ。ただ、本体にはすごく美しい彫刻が施されていた。譜面立ての横には、光属性の魔石の付いたオシャレなランプ付き。カッコいい!

 一番低い音から一番高い音までタリタリタリ・・・と弾いていく。うん、八十八鍵ちゃんとあるねえ。音も絶対とは断言できない音感の感じでは狂ってないと思うよ。


 さて、ピアノなら自前の楽譜を持っている(母さんが入れてた)そろそろ年末だし(日本は夏だが)クリスマス系でもいいよね。宗教が違っててごめんなさい。

 でもこの世界に来たときは、あっちはイブだったよね。

 クリスマス曲集の一冊を出して、何曲か弾き始める。歌えそうなら歌う。神様や聖人の名前はこちらの方に入れ替える。手の届かない和音は相変わらずごまかす。


 二曲目に既に人が入ってきた。

 “黄色ちゃん遮音は?”

 “おうじの、おうたを すきなひとが いっぱいいたの”

 そうですか。いいならいいけどね。

 三曲ともなれば、すでにめっちゃ人多っ。

 今日はね、自分の(ストレス発散の)ための演奏だから。無視。


 そろそろ二時間近く、俺が時間切れ、最後に静かな歌を歌う。

 白い服を着たお医者さんが沢山行進していたドラマの曲。

 この世界に来る前の男子の声ではちょっとキーが合わないから無理だったけど、今なら大丈夫。なんて思っていたら上からキラキラと光が降ってきた。ここは大聖堂じゃないんだけど。

 “そんなエフェクト要らないよ、白色ちゃん”

 “ぼくじゃないよ”

 そうなの?

 

 なんて、白色ちゃんとやり取りしているうちに、最後の曲〈アメージンググレース〉を、英語で歌い切った。


 鍵盤のふたを閉めて、ギャラリーたちを見る。

 「うわっ、びっくりした―」これまた、三十人ぐらいいる!

 「ど、どうもー」頭をポリポリする。うお、何人か泣いてる。

 なぜ。て思ったら、どっと歓声がきた。

 うわー!よかったー!やっぱり君はすごいよ!

 拍手喝采だった!ありがとう。

 「やっぱり、あたしはあんたのファンになっちゃってるわ。シュンスケくん」

 祭りの屋台でイカの姿焼きを二本もくれた、おばちゃんも居た。


 「拍手ありがとうございます!ちょっと個人的に弾いていただけなんだけど」


 「初めて聞く曲ばっかりだったんだけど、心が洗われたようだわ。」

 おばちゃんが言う


 「ちょっと、悲しいことがあって沈んでいたんだけど、癒されました、ありがとう」

 若いママさんも言う。腕にはちょっと大きめの赤ちゃんが抱っこされている。赤ちゃんは

眠っているのかな?この賑やかなところじゃ起きちゃうよ。


 冒険者かな?軽鎧のおじさんもいる。

 「キラキラした光が降ってきて、俺の方にも光がかかってきてな、そうしたら昨日魔物にやられた傷が治ったんだ。ほら」

 って言って腕に巻いていた血の付いた包帯をめくりだす。するとそこには怪我なんてなかった。

 え?どういうこと?


 司祭様が近づいてきて言う

 「お前さん、聖属性もともと持ってるのじゃないか?」

 全属性の中にあったかもしれないけれど、

 「魔法学科の教授には言われましたけど、訓練とかしてないですよまだ」

 司祭様の目じりには涙が浮かんでいる。

 「さっき降りかかってきた光は、聖属性の魔法だよ。お前さん、よく教会に来てチェンバロも弾いてくれるでしょう。神様達は音楽が好きだからな。」

 なんと。聖属性魔法ということは、怪我とか治せる?


 とか、やり取りしていたら

 さっきのママさんが声をあげる。

 「ああ、奇跡だわ。なんて事でしょう」

 「どうしたんですか?」

 司祭様の問いかけに腕にだっこした赤ちゃんを見せる。

 もうすぐお座りしそうな四カ月ぐらいかな?きれいなブラウンの瞳を大きく開けて笑っている。起きちゃった?でもご機嫌さんだ。ふふっ、笑い出す時期だよね。かわいい。俺も孤児院にちょっと通っていたから、赤ちゃんには詳しいぜ、六歳の割には。

 「この子は生まれてから、今まで、目が開かなかったのです」

 「そうですね。息子さんの目が開くのを願っていつも参ってこられていましたね。ほう、確かに開いている。どれ?」

 そういって、司祭様は手に持った赤いお守りのようなものを赤ちゃんの前で動かすと、ちゃんと目で追う。

 「見えてますね!良かったですね」

 俺も可愛い手に指を握ってもらってあやしてみる。

 「うふふ、赤ちゃんってホントに可愛い」


 「可愛いと可愛い推しの相乗効果は最強だわ」

 ちょっとおばちゃん!台無し!


 そうして、派手に俺の聖属性魔法が開花したのだった。でもゴホン。


 「みなさーん。今日のことは、特に俺のことはここの皆さんだけの内緒にして下さいね!

 もし、怪我とか何か困ったときは、司祭様経由で言ってくれればチャレンジさせていただきますけども、まだ、確実に癒しのスキルが使えるかは分かっていないですから!お願いします」

 ほんとうに、お願いしますよ!


 「うむ。そうですね皆さん。まずは施療院に相談するように。彼はまだこんな小さな子供だし、学生で、勉強も忙しいからな」


 みんなが帰った音楽室で、ピアノのふたをして、カバーをかけながら。

 「あのキラキラが聖属性魔法か~」

 “ぼくじゃないっての”

 「だって自分とは思ってないもん、また出せるかな」

 そう思って、さっきの光を思い出してみる。

 なんか、ホロラメって感じ。あ、全身からラメが出てきた。

 「うわ、こういう出し方じゃなくてさ」

 “わはは、こうりつ わるそう!”

 ですよね。

 じゃあ掌からシャワーみたいに出す?


 カバー掛け終わったピアノの横で掌を下に向けてみる。

 うーん弱々しいビームって感じ?・・・俺の語彙力。


 教会を出て、ギルドの裏手に回る。人目のないところでお試ししたい!

 

 岸壁の岩に腰掛ける。タオルとか、一応、消毒とかばんそうこうも出しておく。成功できなかったときのためにね。

 靴下を脱いで、投げナイフ一本出して足の甲に、躊躇ったらできないから、勢いよくグサッ。良い子は真似しないでね、なんつって。

 「いってー」

 「うぉ、シュンスケ何やってんだよ」

 人いないと思ったのに、タイミング悪いなゴダ。

 ちょっと離れたところにいたのに駆け寄ってきた。

 「ああ、こんなに血が出て!痛そう」

 「痛いけどね、どうしても他人様に頼めなくでさ」

 そうして左掌から聖属性の弱々しいビームを血だらけになってきた足の甲に振りかける。

 「へえ、きれいな光だねえ」

 「そうでしょ?さっき出来るようになったんだけどさ、お試しはまず自分でやってからと、お、成功した!痛くない。」

 足首から下をブンブン振る。あ、血が飛び散った。

 「おー何やってんだよ、どれどれ?」

ゴダが俺が出していたタオルで足の血を拭ってくれる。

 「おおっ、怪我がなくなってる!すごいじゃん」

 「そうだね。なんか他の魔法と違って、あんまり考えなくてもイケるみたい。こういうの医学知識がないとだめだと思ってたから。よかった」

 「ほんとだね。すごいすごい。よっしゃ、新しい魔法のお祝いに俺がご馳走するよ」

 「ほんと?」

 「だから、こんどおいらが怪我したら頼むよ」

 「えー、怪我なんかしないでよ」

 「ははは、そのつもりだけどね、なにがあるかわからないでしょ?」

 まえに、ゴダが死にかけたもとい、心肺停止の時は俺のド素人の蘇生術で帰ってきてくれたけどさ、この聖属性は心肺停止にも効くのだろうか。こんど図書室とか、もっとちゃんと勉強しなくちゃだめだな。


 ギルドのレストランコーナーでゴダがごちそうしてくれたのは、ブイヤベースだった。てっきり肉だと思ってたけど、滅茶苦茶美味しい。


 「そういえば、忘れていたんだけど、これ治せる?」

 ブイヤベースを口に入れようとしたときにゴダが皮手袋を外して、グローブみたいな手を出してきた。擦り傷だけど、掌いっぱいに傷できていた、しかも両手。

 「ぶっ、忘れてたって、真っ赤で痛そうじゃん」

 「今日ちょっと漁船のロープでやっちゃってね。いつもはこの手袋してからやるんだけど、素手で引っ張ってて、うっかり滑ってそれでジャーって」

 イタイイタイ!なんで本人より俺のほうが痛く感じるんだよ!

  

 「もう。先に行ってよね。」

 そういって、ゴダの両手に俺の両手を合わせる。

 隙間がなかったら光が見えにくいのでは?なんて。

 ちょこっと光ったので、手を放してみる。

 「おお。なおったよ」

 「どう?痛みは?」

 「ぜんぜん。さっきトイレで手を洗ったときは滅茶苦茶沁みたんだけどね。」

 そういう掌に魔法の水を落としてみる。

 「どう?」おしぼりで拭いてやりながら聞く。

 「大丈夫!ありがとシュンスケ」

 って治った掌で頭を撫でられる。

 「それとね、これもできる?」

 まだあるのかよ。

 「どれどれ、うっ」

 革鎧の隙間からぼろぼろのシャツを引っ張り出すと、今度はわき腹も擦り切れていた!

 これもロープで擦ったんだって。イタイイタイ!

 見てられなくて速攻で治した!


 よし、これで、擦り傷と切り傷はオッケー。あとは骨折とか、火傷とか、病気だな。

 司祭様に言ってそういう患者が施療院にきたら、こっそり教えてもらおう。

 聖属性魔法の臨床経験をしないとな。これだけは教授の部屋では無理だぜ。


 もし、これで、お世話になったドミニク卿の古傷を直すことが出来たら、恩返しの一つにはなるのではなかろうか。そう思って、俺は聖属性魔法の精進を自分に誓うのだった。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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