29【五穀豊穣かカボチャお化けの秋祭り】
帝都の秋祭りは五日にわたって開催される。それは、帝都だけじゃなくて、この大陸中の行事らしい。その間は学園もお休みだ。
スマホの日本時間ではゴールデンウィークだがこっちはハロウィーンというかどちらも長期休みです。
その、連休を利用してウリアゴのみんなとポリゴン町に帰ることにした。帝都の祭りには前半の二日間屋台を出して(二日目は俺もトウモロコシ売りをした)、残り三日はポリゴンだ。
馬車や馬では往復が間に合わないので、俺がみんなを連れて飛ぶことにした。
祭りの前に、ちょっと前に試しに一人でテラスハウスに行ったんだ。
あの日、瞬間移動の訓練として、教授の部屋で彼の向かいのソファから、直接ウリアゴの家に帰還した。ダイニングへ。その時俺が見たんだ、恐ろしいものを。
「きゃー」って言いそうになった。
ダイニングテーブルで、茶色いあいつらが宴会をしておりました。
お前たちは異世界にもはびこっているのか!
あいつらの餌になるようなものは残してないんだけどな。あ、ウリサ兄さんのシャツ用に作った洗濯糊。そうですかあれですね。思わず
最近作った極細の炎魔法ビームで成敗した。
そして、やつらの宴会後を掃除してから教授室に戻りました。
そして今日を迎えたのだ。
「今回のポリゴン行きは、テラスハウスの引き払いが目的だ」
「「「了解!」」」
ウリサの言葉にみんなで返事。今は帝都に住んでいるのに、家賃払っているのは確かに。もったいない。
「では、皆さん、行きますよ」
屋敷の俺の部屋のドアを、テラスハウスの玄関ドアの内側につなぐ。人が多いときはこっちが楽。危険もないしね。
「うわ本当に到着!って、一瞬だな」
「うん、屋敷の扉より近い」
「お屋敷のロビー広すぎますよね!」
「助かるけど、教授と俺たち以外には言うなよ、特に皇子連中とか。帝国の軍事利用に使われるぜ」
たしかに、それは嫌だね。
「うん、気を付ける」
殿下たちにはまだ、物しか瞬間移動できないって言ってるから。
「んじゃ、片付けるぞ」
「「「おー」」」
ま、俺の荷物はないけど。
俺の部屋とのドアは開いたまま。必要なものも、不要なものも俺の部屋に運ぶ。
俺は水回りの掃除を、あ、ボタニカルシリーズをシャワー室に置いたままだった。片付け片付け。あ、キッチンの洗剤も。こうしてみると、ここでの暮らしは短かったのに、俺はこんなに痕跡を残しているんだね。
侍女のミアさんはお休みで、セバスチャンも今日は休み。お孫さんたちと過ごすらしい。
一通り掃除をしたら、荷物を俺の部屋に残したまま、繋いでいる扉を閉じる。すると改めて、この家の扉が現れる。
「じゃあ、冒険者ギルドに行くぞ」
俺は、ゴダとそのままギルドに向かうが、ウリサとアリサは隣と下の階のご近所さんにあいさつ回り。でもみんなこっちの祭りに出てて留守だったみたい。
久しぶりのポリゴンの町。初めて訪れた町だったから、感慨深いな、まだ四ヶ月なのにな。
たった四ヶ月で、こんな今ではまだ半人前とは言え魔法使いになれるとは、あの頃の俺には想像つかなかったけどね。
町中のあちらこちらにでっかいカボチャを見かける。主に玄関ドアの前に椅子に座らせている。あっちのハロウィンを思い出す。ハロウィンは日本の収穫祭とは違ってたと思うけど。
カボチャは内陸の地域では秋の祭りの象徴だ。でも、夏に収穫する作物なんだけどな。麦も。日本人は秋に稲を収穫するから納得するけど。まあ、冬が来る前に農作業をひと段落させるってことだろう。
冒険者ギルドには、長いベンチを置いて、その上にもカボチャを色々置いている。
カボチャを見ると逃げ出す厄災とかでもあるんだろうか。節分の鰯みたいに?
「セレさんこんにちは!」
副ギルド長のセレが珍しく受付にいた。今日はギルド職員も半分お休みか。
「あらシュンスケ、ウリアゴのみんなも」
「久しぶりです。あの、前にも言ったんですけど、俺たちが借りてたテラスハウスを引き払いたくて手続きを。これがカギで」
ウリサ兄さんがセレに話を切り出す。
「聞いてるわ、ではこちらにどうぞ」
「おい、シュンスケ、こっちで何か食おうぜ」
「もう?さっき朝ごはん食べたところですよね」
見回すと、アリサ姉ちゃんもレストランフロアで、仲が良かった人かな、ほかの女冒険者さんの席に向かっていた。
「ゴダさん。おれ、孤児院に顔出してきます」
「おっけー、兄さんの用事が終わったらそう言っとくぜ」
孤児院に入ると、赤ちゃんたちと担当のシスターしかいなかった。あれ?
「あら、シュンスケ、いらっしゃい。久しぶり」
「こんにちは。みんなは?」
「大聖堂の方で収穫祭をしているわ。あなたも行ってらっしゃい。顔を見せたらライ先生が喜ぶわよ」
「はい。あ、これお土産」
木でできたガラガラとかぬいぐるみ。
「シスターたちにはこっち」
帝都の高級焼き菓子。
「まあ、気が利くわね」
「じゃあ教会に行ってきます」
そうっと教会神殿の入り口に入る。
ジラッテ司祭が分厚い本をもって法話?を話している。
~~~ この世界は、創造と太陽の神、ゼポロ神がお創りになられたのです。
そして、月と魂の神 タナプス神、
海と宇宙の神 ウォーデン神
大地の女神 アティママ神、
水の女神 ウンディーナ神、
風の女神 ローダ神、
火と文明の神 ヘファイド神
そして、その神々の下にも神々がおられ・・・云々 ~~~
なるほど、神殿の台座の数は七つあるよね。お受験のために、お名前をめっちゃ暗記しましたよ。
大聖堂には大勢のポリゴン町の人が座って聞いている。配達のお使いとかしていたから、知ってる顔もある。
あ、ヨネちゃん達発見!まっちゃんの隣が少し空いている。そーっと近寄って、小さい肩をトントン。
「あ、おにいち」
「しー、よいしょ」
まっちゃんを抱っこして彼女が座ってた所を俺が座って膝に乗せる。
うーん久しぶりの猫耳。寒いから小さい温もりが素敵。
「「おかえり」」こそっ
「ただいま」こそっ
この子たちに挟まれるのも和むわー。
背中をトントンされる。振り向くとシト君だ。思わずグッドマークを手で作って目であいさつ。
司祭のお話が終わった。
と、膝のまっちゃんがひょいっと持ち上げられて、続いて俺もひょいっと持ち上げられる。
「にいちゃーん」「あとでねー」
入学式前に、健康診断された俺の体重はおなじみの単位に換算すると二十一キロ、ちょっとは増えてるだろうけど、まあ結構重いと思うんですよ。米袋なんかと比べたらね。簡単に持ち上げられるのは少しショックです。しくしく。
攻撃力を上げても、そういうところが俺の弱点だな。なんでどうでも良いことを考えながら、振り返る。
「シュンスケ」
俺を連れて行ったのはやっぱりライ先生ですね。
「君は私の天使ですね」
「え?何のこと?」
「さ、さ、こっちへ」
いつの間に俺サイズの助祭の服を追加で用意したんだよ。(一昨日着てたのは、自室に掛けたまま)
あっという間に上からかぶせられて、今日は薔薇色のストラって言う太い帯のようなものを首にかけて服の裾ぐらいまで垂らす。そして、またもやチェンバロの前に引っ張り出される。
ライ先生はにがてな楽器演奏を逃げたがる節がある。シスターとかにも練習させればいいのに。
「わあ、シュンスケ君だー」
「おやおかえりー」
「えー今日演奏してくれるって言ってなかったのにラッキー」
何人かのポリゴンマダムやポリゴンレディの声が。
「すまんの」司祭様にも困った顔でお願いされる。
しょうがない、では行きましょうか。
“一昨日みたいに頼んだよ”
ポリゴンにも付いて来てくれた黄色ちゃんにお願いする。
“まかせて!きょうは おうたもうたう?”
“うん、一昨日の三曲やるよ”
“わーい”
人魚姫がいないので弾き語りで始める。
前にこの町で弾いてた時は気が付かなかったけど
この曲たちは歌ってこそって知った。
~大いなる宙と~海の父よ~
~豊かな恵みを~も~たらす波よ~
俺の歌声を効果的に響かせてくれる黄色い子ちゃんの風魔法。
まあ、ここは大聖堂なので、うまく響くんだけどね。だから帝都と違って自分自身が風魔法を使う必要はない。
一曲目が終わった。静まり返っている。
続いて二曲目、テンポを上げる。
手拍子が加わる。よし、だんだん一体感が出てきたぞ。
そして三曲目。
「みんなも歌って!」
大合唱!で盛り上がる。やっぱりこのパターンが楽しいよな。
歌のクライマックスには教会の鐘まで鳴り響く始末。
・・・黄色ちゃんやりすぎ。
“きゃはは、こうかばつぐんでしょ”
そうして、帝都に続き、二度目の秋祭りコンサートは終わった。
二か所だけどツアーだな。なんつって。
挨拶に立ち上がると、どこから現れたのか、杖をつきながら近くまで来たドミニク卿が俺の手を持ち上げる
「このポリゴンから羽ばたく町の期待の星だ、みんなで応援してやってくれ」
大聖堂で響くすごい喝采を受けた。
「皆さんありがとうございます」
俺もスターになったつもりでこの際堂々とみんなに手を振る。
ドミニク卿が拍手をしながら手を放して離れていくので、
俺は両手で皆に手を振った、
あれ?この祭りってそんなことをするためではないのでは。なんて思いながら。
両手を振りまくった。
テラスハウスを引き払うのについてきただけなのに。
ちょっと帰って挨拶するだけのつもりが大ごとになっちゃったね。
助祭の服をライ先生に剥ぎ取られた。(こういう時のために置いとくんだって)
「ふう、大変な目にあった」
教会の前の広場にも帝都ほどではないこじんまりした屋台が並んでいた。
皆さんがお家で作って持ち寄ったような食べ物や、輪投げや玉入れなどの手作りのゲームを楽しんだりする。
俺もちょっとした手品(種は魔法)を披露。
何もない頭の上に、カンカン帽を一度被る。
「さん・にーいち」
と帽子をぱっととると、空間魔法から出した五色の折り鶴が出てきて浮かび、飛んで行く!
風魔法で飛ばした折り鶴には妖精ちゃん達が乗っている。
“きゃはは!” “とんでるー”
“きみたちはいつも飛んでるでしょ”
ばらばらと旋回した折り鶴たちは、一番前でかぶりついて見てくれていた、孤児院のお友達のところへゆっくり降りていく。
「お粗末様でしたー」
わーぱちぱちぱちぱち
前に置いたカンカン帽に投げ銭が飛んでくる。あ、小金貨を投げたのは誰!だめですって!
ふふふ、でも、魔法はこういう平和なことに使わなくちゃ!
世界征服とか殲滅魔法なんて、ダメ絶対。
そのあとは、町の人たちの笛や太鼓、バンドネオンのような楽器と歌で盛り上がる。子供たちや女性たちが手を繋いで輪になって踊って踊って。アリサねえちゃんや俺も輪にはいる。
「シュンスケ」
「なあに?アリサねえちゃん」
「やっぱりあんたは天使よ」
手を繋いで踊りながらいつものセリフを言うアリサ。相変わらず笑顔が眩しいです。
楽しいぜー。東京ではこんなに祭りの中心には参加しなかったな。屋台で食べただけだ。
薄暗くなって、大人たちが顔を書いたカボチャみたいな仮面を被って出てきて、子供たちに小袋に入った飴やお菓子を撒いていた。なんだこの風習。お化けの格好をするのは子供のほうでは。ま、いいか。楽しかったらなんでもいいよね。
次の日も、俺たちは帝都の部屋から直接ポリゴンの、今日はギルドマスターの隣の部屋を借りてそこにドアを繋げる。
最終日は町の清掃活動。教会のみんなとおしゃべりしながらお掃除をした。
その日のポリゴンの冒険者ギルドの晩御飯は、カボチャ料理尽くしだった。煮たり焼いたりつぶしたり。そっか、カボチャの栄養は風邪予防に良かったっけ。風邪っていう厄災除けかな。あれ?柚子風呂では?
この世界にも故郷に似た風習を見つけてほっこり。
でも、俺が一番気に入った料理は、スライスして焼いたカボチャに、とろーりとろけたアツアツのヤギのチーズをかけたラクレットみたいな料理だ!カボチャの甘みとチーズの塩味が絶妙!
もし、東京に帰ったら母さんに・・・っていつ顔を見れるかな。
そうして、五日間に渡る俺にとってこの世界の初めての秋祭りが終わった。
アリサ 「こないだシュンスケがスライスしたカボチャをバターでこんがりソテーしたのを作ってくれたんだ」
ゴダ 「へえ、うまそう」
アリサ 「そこへ、バニラアイス?ってのを乗せて、熱いのと冷たいのを一度に食べるの」
ウリサ 「スイーツの話だったんだな」
駿介 「簡単だからお試しあれ」
アリサ 「バニラアイスはこの国では簡単じゃない!」
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