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26【温室で・・・モテ期が来て困るぜ】

可愛いのを増やします~


 学園には、敷地の中心に図書館棟がある。外から見たら四階建て、多分上から見たら三角形の建物が六つ集まっていて六角形に見える。真ん中に丸い広場があってその一角に地下につながる階段もある。もう一つの地下の区画もある。

 それは、魔法の属性が五つあって、そのそれぞれの属性のための書物が別々の建物に納められているのだ。そして、残りの一つの建物は、魔法ではない項目の書物が集まっている。

 魔法は、生活を便利にする一方で、使い方を誤れば危険を伴うこともあるので、魔法に関する書物、とりわけ〈魔導書〉の類のものは、帝都の中ではこの図書館の中でしか閲覧することはできない。だから一属性に一つの建物という、膨大な書物が入れられているそうだ。


 ちなみに、魔法でない項目の書籍は、市井の書店や古書店にもあるので、学習に必要なものだけを納めたら一棟だけで足りるそうだ。


 その図書館群の真ん中の広場でブラズィード教授が言う。

「先日の授業でも言ったように、魔法の属性は、火・土・水・風・光の五つ。

 あの建物が、火の棟、隣が土、そして水・・と並んでおる。では、今からそれぞれ自分の一番の属性の棟に入って、さっき渡した課題のレポートを作成すること。作成するだけではいかんぞ。魔法が使えるようになったかどうか、次の講義で発表するように。」

 なかなか、スパルタだ。レポート書いただけで実践なんて、それは自主勉強しろと言ってるようなもんだ。


「では、私は火の棟に行ってくるかな。

 シュンスケも火だろ?行くぞ」

 セイラード殿下がつぶやく。

 今日はブリドたちは自分の専門の学科があるので、殿下の後ろにいるのは本職の近衛騎士の護衛さん一人。だから。

「いえ、俺は風の棟に」

 と、別行動の予定だ。

「なに!火のほうが強くなれるぞ」

「いや殿下、俺は強さを極めたいわけでは」

 ブリドに勝ったからって、俺が戦闘狂に思われるのは心外です。平和を愛する日本人たぶんですから。

「シュンスケ、お主はそこから地下じゃ」

 教授は誰も行かない穴を指差す。

「じゃあしょうがない、後でなシュンスケ」

 と殿下は護衛と火の棟に入っていく。

「魔法の図書館棟でもないのですね」

「地上棟の必要な魔導書はもう習得済みじゃろ」

「はい」そういえばそうらしいです。


 話はさかのぼって、俺は昨日、ブラズィード教授の部屋を訪問して、そこにあった〈お猿でもわかる初級魔法基本編〉と〈お猿でもわかる初級魔法応用編〉って本を読んでいた。ここの世界のお猿は頭がいいんだな。

 教授は上級生の講義中でお留守なんだけど、来てほしいと言われたのだ。


 ガーデンテーブルセットの椅子にクッションをのせて座り、テーブルにお土産のかき氷を置いて自主勉強にいそしんでいた。

 今日は洋ナシの賽の目切りをコンポートにして、それをトッピングした。先っちょに耳かきみたいなスプーンのついた、使い捨てのコーヒーマドラーをいくつか傍らに置く。

 そのうちの一つを、重力に干渉しながら風魔法を意識しながら浮かせて、母さんでも古いって言ってたアニメのサイコキネシス的に動かして掬ってみる。

 三十分ほど前はうまくいかなくて、器の周りをベショベショにしていた。

 でも、もうできた。

 お、なんか手ごたえがちょこっとある。って思ったら、俺が持ち上げているかき氷を食べられた。というか食べさせてるんだけどね。

 “おいしーあまーい”

「おっ。そうかよかった」

 “おかわり”

「よしもう一度」

 もう一回掬う

 “おうじ、あたしもほしい!”

「スプーン大きい?」

 自分で掬っているのか、ふよふよ動いている他のマドラーもある。

 “ううん。あーんがいい”

 まだどこにいるのかわからない。

「お口がどこか分かりませんよ」

 “しょうがないわね”

 手元の風景がちょっと揺らぐと、テーブルに置いていた左手の上に女の子が座っていた。

 やった。精霊ちゃんだ。

「じゃあ、ほら、あーん」

 こんなかわいい子には直接 あーんしたいよね。

 マドラーを今度は右手に持ってかき氷を掬って精霊の口に運ぶ。

 “ふふっ。おいし。おうじありがと。”

「おかわりどうぞ」

 “あーん”

 おおっ可愛い!なんかね、小鳥に餌やりしてる感じ?

 サイズも雀とか文鳥とかそのぐらい。

 黄色のふわふわしたワンピース姿の女の子は、髪の毛も黄色。背中に蜻蛉のような羽が生えている。

 記念にパシャ。おおっスマホの写真に撮れた!

 この、黄色い子は風の精霊らしい。

 “ずりーおれも、あーんしてほし”

 言葉遣いから察するとおり、今度は男の子が現れた。

 赤いオーバーオールみたいな服装の赤い髪の毛の精霊。この子は火かな?

「はい、あーん」

 “へっへー” 男の子も可愛いね。

 そして他に緑色(土)、青(水)、白(光)の五人(数の単位が分からんからとりあえず)の精霊たちが姿を現した。

 “あら、おうじ まほーのおべんきょう?” 最初に現れてくれた黄色い子。テーブルの本を見ながら言う。

 左手の人差し指に座ったままなので、そうっと俺の顔の前まで持ち上げる。重さは無い。

「うん。勉強始めたところなんだ」

 “ふーん。じゃあ” って手の上で立ち上がると

 ちゅ

 俺の鼻の頭に両手を置いてキスをしてきた!可愛い子にキスされて感動!

 “おっ、じゃあおれも” そう言って今度はホバリング状態で飛びながら右のほっぺに

 ちゅ

 男の子っぽく見えるだけで、性別なんてあるかどうかも分からないしな。

 そうして次々に顔じゅうに精霊がアタックしてくる。

 最後の白い子は俺の上唇だったよ。

 みんな、積極的!


 嵐のようなモテタイムが来たと思ったら。体の中の魔力が渦巻きだした。

「うわ、頭が痛て」

 “たいへん、おうじ、おみみのまどうぐ りせっと!”

「えぇ?リ、リセット」


 その後、気が付いたら俺は教授の部屋のソファに寝かされていた。

「大丈夫かの」

「俺は」

「お前さん、精霊たちに可愛がられてたんじゃな」

「はは、そうなんです」こっちが可愛がってたんですけど。

「もうすこし、目をつぶっておきなさい。まだ、姿を人間に変えるでないぞ。ポーションなどで無理やり体調を整えたら、せっかくの精霊達の好意が半減してしまうでの。

 儂も何百年ぶりに精霊の光だけじゃがを見ることが出来たのじゃがな。お前さんが温室のテーブルに突っ伏していて、その周りをブンブン飛んでいたのじゃ。すごく心配しておったのは分かったんじゃがな」

「はい」

「お前さんの侍従には、連絡させておく」

「ありがとうございます」

 そうして教授は部屋を出てカギをかけて行ってしまった。


 向かいのソファには前回も使った四角い鏡の魔道具が立て掛けてある。

 俺はまだ白っぽいエルフの姿のままだ。そしてまた俺の体が光っている、前と違って色々な色の光がぐるぐるしている。そのまま、また、俺は意識を手放した。


 気が付けば俺はお屋敷の自分の寝室で寝ていた。

 同じ布団にアリサが潜り込んでいた。


 前髪を摘まんでみる。まだ、銀髪のままなんだな。

 耳も触る。長いね。


 窓を見ると遮光性のあるカーテンの隙間がうっすらと白んできている。

 あんなことがあっても俺ってスマホを手元に持ってるのね、時間を見るとそろそろ夜明けだ。


 アリサを起こさないようそうっと布団を出る。

 傍らのソファには、俺が海岸で朝練する用の着替えがセットされている。


 着替えた覚えの無い寝巻のままで洗面に行き口をゆすいで顔を洗う。

 鏡を見る。ふふ、エルフ姿で顔を洗うの初めてかもしれない。

 少しはこっちの姿も見慣れた? 鏡の自分に問う。

 ・・・いやいや、まだ、ピンとこない。


 そういや、昨日のあの子たちも、耳が尖ってたな。サイズ感は違うけど。

 “おうじ、だいじょうぶ?”

 鏡越しに黄色い子が見える。付いて来てくれたの?俺を心配して?

「心配してくれてありがとう。俺はもう大丈夫。君たちのおかげで魔法習得したよ。」

 後は実践。

 大量のインプットのあとは、アウトプットだ。勉強の基本。大量にアウトプットしたらやばいけどな。

 “わーい、よかった”

 “だからいったじゃん、おうじはだいじょうぶだって”

 “そうよそうよ”

 “ねえねえおうじ、おためししない?”

 他の色の子は声だけなんだね。

「そうだな、今から海に行くし、いっちょやるか」

 “やったー”

 “あたしたちは、かくれてみているから”


 部屋に戻り、着替えて海に出るそのまえに、

 ベッドサイドにコップと水の入ったポットがある

 コップのほうだけを手に取って、水魔法をちょろっと静かに発動する。

 青い子のキスで得た魔法。

 コップの底から水が出現して八分目ぐらいまでたまる。

 そのまま水魔法の上位属性をまたちょろっと発動。ロックアイスがひとかけら浮かぶ。


 おお、道具なしで!できたじゃん。


 そうして、俺は一気に冷たい水を煽る。もちろん片方の手は腰だ!


「ぷはーっ、うまい!」

 朝が弱いアリサはそんな声じゃ起きない。


 今度はピアスを触って

「チェンジ」

 黒髪黒目になっても、もうなんともない!

 もう一度コップに水と氷を出す。

 詠唱はなく心で念じるだけだ。


 もう一杯水を飲んで、Tシャツと短パンにウエストポーチだけ持って砂浜へ出る。

 夏の賑わいがあったビーチも秋になると敷地の外側にも砂浜にはずうっと向こうの方まで誰もいない。

 遠慮はいらないよね。手から、風とか火とか、砂浜に穴を掘って、水を出したり、朝日に向かって色々飛ばしてみたりしていた。うん、全部出せるね。後は応用かな。


「うーちょっと寒っ」

 十月の海岸の朝は結構寒くなっている。

 俺は体を温めるために、ストレッチをしてから裸足のまま砂浜を走る。速度を上げて、海岸沿いに灯台まで。およそ六キロほどある。

 二十分ほどで灯台の近くに来ると、速度を落としながら、ウエストポーチからタオルを出す、そのまま砂浜の端っこの堤防に腰かけて覚えたての水魔法で裸足を洗いタオルで拭く。

 靴下をはいてスニーカーも履く。朝から漁港は元気だ。ギルドもすごく早い。

 パーカーを羽織りながら歩いていると漁船から手を振る人がいた。

「「おーい」」

「ぺスカさん!マールさん!」

「シュンスケ、久しぶりだな」

 甲板に開けられた水槽には三人ほどの人魚族の人もいる。あっ

「ヴィーチャさん!」

「シュンスケ」

 以前、サメの魔物ファングスシャークに負わされた怪我はすっかり治っていて、漁に復帰している。

「これからですか?」

「ええ」

「気を付けてくださいね」

「ありがとう。

 ねえ、シュンスケ」

「はい」

「また、歌を歌いたいわ」

「そうですね、来月の教会のイベントに呼ばれているのです」

「まあ、私もなの」

「じゃあご一緒できますね」

「ええ、楽しみだわ」

 漁の準備もあるし話し込むのは邪魔になるよな。

「ではまた」

「学校がんばってね」

「はい!」


「おーい、おはようございます!」

 ゴダが来た!

 最近彼はこのパーティと漁に出ている。

「あれ?シュンスケおはよう」

「おはようゴダ。今日も頑張ってな」

「おうよ。今日はイカらしいぞ」

「イカ!やった!楽しみー。晩御飯俺が作るー!」

「うっしゃ、行ってくるぜ」

「行ってらっしゃい!

 みなさんも、気を付けて行ってらっしゃい」


 漁船に手を振って、今度はスニーカーのまま砂浜に戻る。

 屋敷まで六キロ、足の裏の重力に干渉する。

 よし、砂から三十センチ浮いた。このぐらいなら落ちても怪我しないよね。

 利き足を前にバランスを取る。

 サーフボードに立ち上がってる感じに空気の上で踏ん張る。

「ねえ」風の精霊、黄色い子を呼ぶ

 “りょーかい。おうじ。いっけー”


 風に乗って滑るように地上三十センチを水平に移動する。

「うほーたのしい。おもしろい!」

 “きゃっ きゃっ おうじ はやーい”

 俺の首筋辺りに精霊がしがみ付いているらしい。

 感触はない。ほんの少しの存在感だけだ。


「よーっし!」

 途中から自分自身も風魔法を発動して速度を上げる。

「でも、寒っ」

 思わず両腕を抱えて前傾姿勢になる。そのポーズがいいのかさらに速度が上がる

「うぉー」


 あ、着いた!

 急に止まってバランスを崩す

 ズサー

 砂浜にダイブ


「っぺっ 砂が口に入った」

 着地失敗。でも帰りは1分ちょっとで帰ってこれた。

 着地の練習が必要っと。

 砂浜に寝ころんだまま反省。


「おい、何やってんだシュンスケ」

「あ、ウリサ兄さん」

 腕を引っ張られて助けられる。

「きのう、あんなに心配させといて、これか」

 あ、昨日、エルフ状態の俺を連れて帰ってくれたのはウリサ兄さんだよね。

「ご心配をおかけしました」

「ったく。ま、元気ならいいけどな。

 なんだ、おまえ、ちょっと冷えすぎだぞ」

 ウリサ兄さんが掴んだ俺の腕に視線を落とす。

「そうですね。随分寒くなりましたもんね」

「朝風呂行くぞ」

「はい!」


 今日は片道六キロのランニングだけだったから、時間はまだある。

「牛乳あるかな」

「そんなに飲んでも、すぐには背は伸びないぜ」

「分かってますよー」


 今日は、図書館で課題をする予定だったな。

 だんだん、魔法使いっぽくなる自分に満足。



ウリサ「おまえ、ちょっとは泳げるようになったのか?漁を手伝うなら練習しろよ」

ゴダ「シュンスケにひもを引っ張ると膨らむジャケットをもらったんだ!

俺はもっぱら。投網や人魚さんたちの紐を引っ張る係」

ウリサ「・・・みんなの足を引っ張らないのならよし」

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お星さまありがとうございます★★

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