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異世界転移したら尖った耳が生えたので、ちびっこライフを頑張ります。  作者: 前野羊子
第五章 ~王子のクラフツ留学~

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257【大陸大動脈の草案の草案】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 休日、俺はウリサとアンシェジャミンを訪れた。

 クリスはガスマニアの海の見える家に置いてきた、というよりたまにはナティエさんに顔を見せてこいということでね。


 ここには、校外学習で手に入れた大量の金属を置こうと思ってさ。

 砂漠なら錆びる心配はないしね。


 なんと、アンシェジャミンの南側のミルクブールバード河がベルアベルから満月湖につながったんだ。ジャンプして跨げそうなほど狭い川幅なんだけど。

 素晴らしい!

 するとその両側にちょっとした草が生えだして、潤いを感じるよ。川にいる生物はまだメダカサイズのレベルだけどね。


 でもまだまだ雨のない地域。だからこそこれを置こうと思ってね。


 久しぶりに龍化してウリサを乗せ、川の南側の砂の上に、炭素鉄とステンレスの塊をドカドカと置く。これなら、もしも雨が振り出しても大丈夫だしね。


「にゃんですかこれは!」

 俺の龍頭(腕時計のつまみじゃないよ)にはケット・シーのパリも乗っている。

『説明したじゃん』


「取りすぎじゃねぇ?」


 鉄の塊は 五階建てのビルが何十棟もある感じ。ちょっとした団地のように並んでいる。ここが森だったらちょっとした環境破壊だな。


 でも、でっかいストーンヘンジみたいじゃない?キラキラして綺麗だと俺は思うんだけど。これはこれで観光名所になったりして。


 ここは宇宙船の離発着場だったのでは!とか、霊的なスポットでは!とか幻の神殿跡では!とか、はたまた忘れられた古代文明後だったとか。


 塩湖(クレセントオパール)だって、風景を見に来る人とが王都からやってくる人の観光と、塩そのものでこれから大きなお金が動くんだし。観光資源って大事だよね。


 ニヨニヨしてしまう頬を必死で引き締めながら言い訳する。

『だって一応おっけー出たじゃない』

「こんなに持って行ってるとは思ってないだろうな」

『代わりのものを置いたし、説明もしたけどさ』


 アイアンボックスが空になったのでその空間ごと閉じる。

 ふうすっきり。実質何も感じないけど気分だよ気分。


 龍化を解いて、ウリサと鉄とステンレスの団地の間に降り立つ。


「大陸横断の鉄道を敷くなんて、あれで足りるか余るか全然分かんないもん」

「完成が見えてるはずのシュンスケがそれなら、他のやつに想像はつかないだろうな」

 朝日に反射しているステンレスに眩しそうに目を細めているイケメン。


 でも、これだけで、随分資金繰りが助かるはずだ。


「で、パリ。王様が誰になるか決まったの?」

 黒猫が仁王立ちして、びしっと俺に肉球を突き出す。


「もちろん王子にゃ」

「やだ!」

「でも、王子、そのために勉強してくれてるんじゃにゃいの?」

「王様用の勉強じゃないね」

 アンシェジャミンのためじゃないもん。俺のためだ。


「ケティー公爵は?」

「まだ、ペルジャー共和国のケティー公国の人たちを放っておけないから、来れないって」


「まだ時間はかかるだろうな。

 とりあえず、草案的なものを出すから聞いてくれないかな」

「わかりました、王子、いや王よ」

「こら!」エアチョップをお見舞いだ!


 今度は転移で、エマイルモンド湖のテラスのある総合施設に移動する。

 今、実質代官的な役割をお願いしている猫人族に会う。


「これはこれは、シュンスケさん、良く来られました」

 シャンツ フォン コルベが出迎えてくれた。

 古書街で出会った時のそっけない露店のおやじとは同一人物とは思えない。堂々とした猫人族だ。

 王様は彼でよくない?


「開発はどうですか?」

「お父上が連れてこられた方は素晴らしいですな。ダンジョンの方はどんどん進んでいます。が」

「が?」

「何分、人が少なすぎますからな。リタイアした方々ですし、増えることもないです」

「ですよね」


 一時預かりをお願いしていたケティー公国の兵士たちは、砦を開放して悪魔の脅威が去った後に戻している。


 開発したものの人が集まらずにとん挫したニュータウンって色々あったよな。そんな事にはしたくない。


 シャンツ自らここで生やしたココナッツで作られた飲み物をウリサと俺に出してくれる。


「さて、俺がここに来たのは、一つ提案があって。流通の件ですが」

「なんでしょう」

 ここがまだ国として成り立っていないから、悪魔の傷跡から立ち直りきれていないペルジャーからここへの緑の道がまだ街道になっていない。だって、アンシェジャミン内の道はアンシェジャミン側で作らないといけないだろ。トルネキ側の満月湖のボールモンドフェスタンの所へも。


 以前よりはなんとか歩いてこれるし、ときどきミグマーリが緑が枯れてしまわないように、上空を行き来してくれている。それでも、ここを行き来する冒険者の依頼のランクはパーティーでB以上だ。通るだけで高位ライセンスが必要になる。そうすると荷運びだけの費用コストがかなり高い。まだまだ流通と言えるものでは無い。


 さて、シャンツさん達に学園でウリサたちにも見せていた青いレールと今度はもっとリアルに走っていたタイプの客車を出して見せる。

「これは?」

「これは玩具ですけど、イメージを説明するためにお見せします」

「はい」

「とある世界では、この車輪の幅をおよそ百センチから百五十センチにして、人や荷物が積める列車をさらに二両から十両繋げて走ってます」

 ぎざぎざのゴムが張り付いている小さな車輪の幅を人差し指と親指で挟みながら言う。

「なんと!」

「二百二十年前に開発されたこれは、初めはこういう形で水を熱して発生する蒸気の勢いで走らせていました」

 と、今度は顔がついていない普通の黒い汽車を出す。

「それでも初めから馬車の四倍の速度、そして今では空気の抵抗を考えたこんな尖った鼻の車両になって、信じられないほどの高速で走っています」


 と、新幹線の先頭車両を出す。俺が幼稚園ぐらいの時にお年玉代わりに買ってもらった、懐かしの二種類の新幹線。


「もし、アンシェジャミンから真っすぐトルネキの海岸まで線路を繋ぐことが出来れば、ノンストップなら丸二日で余裕でたどり着くことが出来ると思います」控えめに言って。

「二日で!」控えめに言ってだよ。

「はい。アンシェジャミンの端から端までなら二十時間ぐらいでしょうか」

しばらく俺以外がフリーズしている。


 “近頃感覚がおかしいけどかなり早いな”

 ウリサは冷静だけど。


「馬じゃないから、燃料さえ積んでおけば頻繁に休ませる必要もないですしね。しかも、この客車一両には、最大八十から百人が乗せられるのです。それを十も繋げたらどうなるでしょう」

「……信じられん」

「中には、夜になれば座席が二段ベットに変わる列車やホテルになっている列車もあって、夜に移動すれば、昼は有効てきに活動できたそうです」

 一世代昔の少年たち憧れの寝台特急だよね。豪華なホテルの列車も何かで見た。

 飛行機の方が結局早くて安いのに、ラグジュアリーなサービスを求めて利用する人が多かったんだっけ?

「ほう、なるほど」


「まあ、そこまでしなくても良いけど、レールさえ敷いておけば、あとは上を走る列車の性能である程度速さが変わるので、模型や短い路線でいろいろ試しながら、資金を集め、鉄道計画を勧めていくのはどうかな?って思ってるんですよ」

「すげえな、シュンスケ」

 思わずって感じで声の出るウリサに嬉しくなる。

「でしょ?

 ただ、まだ人がいないから、何かを生産して輸出するとか税金などで資金を集めるのは無理だからさ、出資者を募ろうかなって思って」

「出資者?」

「うん。商業ギルドとか王族貴族とかにいくらか出資してもらって、鉄道が完成するまでは、途中経過を小まめに報告しつつ、完成したら利益からちょっと配当金を出すんだよ。そして最終的には借りたお金を返す以上に出資した人にお金や物を渡すって感じ。乗車券とか、割引券とか、駅にできたホテルや観光の割引とかね」

 “それもあっちのやり方?”

 “そ”


 株式にするのかクラファンにするのか、そこらへんの知識が欠如してる。アンシェジャミンが国なら国債って方法もあるのかな。

「そう言うのは経済とか商業とかの分野だから、ウリサも勉強しながらやり方を考えてほしい」

「なるほどな。了解だぜ」


「シュンスケさん、いやシュバイツ殿下。素晴らしいご意見の数々恐れ入ります」

「いやいやシャンツさん。とある世界の話をたまたま知ってただけで」

「分かりますニャ、かつて私と交流をもった異世界人の男もそういうとこから転生してきたものだった。色々な知識でもって、かつてのアンシェジャミン王国の建国に尽くしてくれたのじゃ。

 王国は瞬く間に栄えそして、エルフの集落よりかなり先に国としての体裁を整えていたのじゃ」

「そうなんですね」

 パリが大昔の思い出を探しているのか目をつぶっていた。

「彼の恩に報いるためにも、ここをなんとか人の住める土地に戻したい。それまで、世話をかけるけど、何とかここで王として君臨してくれにゃいか?」

「そ、それは俺個人ではYESとは言えないんで」

「じゃあ、外堀からか……」


「とりあえず、このままシャンツさんに代官をしてもらいつつ」

「じゃにゃ。時が来るのを待つか」

「鉄道計画については、父さんやトルネキの王族にも聞いてみるよ」

「お願いなのじゃ」


「じゃあ、俺たちはヴァルカーン王国に戻ります」

「また来て下されよ」

「はい。あ、それとこれ!渡しておくよ」

 たっぷり魔力入りの魔石の袋を渡す。


「これは?」

「俺の過剰で不要な魔素というか魔力。

 街づくりに使って。そして魔石が空っぽになったらまた充填するから。

 俺がまた来た時にそれを渡して」

「わかった、ありがとにゃ」


 クレセントオパールにせり出しているテラスに出て龍化する。


『じゃあ、行くよ』

「失礼します」


「ありがとうございました」

「また来てにゃーん」


『また!』


 転移で来たここから、今度は空を飛んでここからは北北西のヴァルカーン王国に向かう。


 途中からハロルドも出して並走ならぬ並飛行する。


 アンシェジャミンとヴァルカーンの間にはバルカーンに隣接して幾つかの小国があるが、その南はシュメル山脈並みの高い山が連なる山岳地帯と、その南には切り立った渓谷が山脈にそって走っていて、縦断を阻んでいる。その名もデンジャーバチカル帯


 ただ、その渓谷までの間もずっと砂漠だ。


『このルートに交通を繋げるなら空しかないよね』

「だからこそ航空魔道船にこだわっているんだろうな」

『いままでは砂漠に来る必要が無かったからよかったけど、アンシェジャミンの開発にドワーフ達を呼ぶならこのルートを飛ぶ方法が将来出てくるだろうね』

「ああ、でも焦ることはないさ」

『まあね』


 渓谷が見えてきた。


『王子、ここは風が強かったと思う』

『分かった。ウリサしっかり捕まって』

「ああ」


 龍の頭に生えてる二本の角を掴み直している。


 ビューッ


『わわ、ほんとにすごい風だね』

 ビルが立ち並ぶところで見かけるような噴き上げる風が起こってる。


『でしょ。この風が悪魔からバルカーン地域を守ってたと言われているだって』

『なるほど』


 高低差からくる気温の違いが風を起こしているのかなぁ。


 やあーん


「なんだ?」

『女性の声?』

『ちがうよ、あっちはヤンダ山って言われてて、岩でできた穴のようなものがあって、そこを通る風が人の声に似てるんだって。今も鳴るんだねぇ』

 山脈の一か所を顎で示す真っ白なペガコーン。


 やあーん


『なんだか悩ましい風の音だね』

「ちょっと気持ち悪いが、面白いぜ」


 やあーん


『やあーんって鳴くからヤンダ山かな』

『そうかも』


 一年中鳴くなら煩い事この上ないけど、季節的なものなら逆に名物になりそうだな。


 まあ、名物があっても人が来れそうじゃないと何もできないけどさ。


 やあーん


『だよね』

 俺の思考のちょうどいいタイミングで鳴るのについ返事を返してしまう。



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