249【親子の引越し】
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ガゼット、ベゼットの親子ドワーフの工房の煙突から二匹の赤ちゃん飛竜を引き取った俺は、学園の園長室のテラスに戻る。
「おう、お疲れだったな殿下」
ベゼットがいないから殿下呼びされちゃった。じゃあ反撃するよ。
「煩わせてすみません国王陛下。
それで、ポイコローザから連絡ありませんか?」
「それが、一時不明になっていた飛竜がいたらしいが、今は戻ってきていると。もしかしたらそれかもしれんと」
「どうしてこっちに巣をつくったのでしょうか」
「わからん」
再び応接コーナーに座っている。
三人座りのソファの真ん中に座って、右側に雛の入ったバスケット。さっきまでみゃあみゃあ泣いていたけど、今は眠っている。
左側にはひゅうがお行儀よく座っている。
「そもそも、地底都市にどうやって入ってきたのでしょう」
「それは、あの王宮や教会の上部は天に開けているからの。そこから入っては来れる」
「なるほど」
「しかし、飛竜を目撃した話はないな」
「夜に来たのかな?」
問うようにひゅうを見る。
「そうね、私たちは意外と夜型なのよ」
「だよね」
以前は他の地竜に付き合って昼に起きていたのだが、基本飛竜は夜型らしい。
昼間は他の鳥や鳥系の魔獣が空で活動して、飛竜は夜飛ぶらしい。鳥が増えたアナザーワールドでも最近は夜型だ。
夜にパトロールがてら飛んでくれているのだ。
でも野生の飛竜は、ロードランダのような北の方にはあまりいないらしい。
「私たち変温動物は寒い所が苦手なのよね」
「なるほどな」
「でも、ここは暖かいわね」
「ここは地底都市だし、火山が近いからな」
「それに、ポイコローザからのエネルギーで温暖なのですぞ」
「まあ、そうなのね。素敵だわ」
「ひゅう殿は中々聡明な飛竜ですな」
「そうでしょ。読書が趣味だもんな」
「ええ、何でも読むのよ」
「それは素晴らしい」
“エスカーザからオッケーきたよ”
“わかった”
「では、俺はこのままポイコローザに行ってきます」
「いまから?」
「はい」
立ち上がると、ひゅうはひょいと俺の頭に乗っかる。
「では」
籠を下げて、学園長室の出口から直接、ポイコローザのリザルド公爵邸のロビーに出る。
「今晩はーお邪魔します」
「「「シュバイツ殿下!」」」
ロビーにはエスカーザと弟のワイザーそして父親のグアーナ公爵が待ち構えてくれていた。
精霊ちゃんの予告があったからね。
「突然ごめんね」
「何をおっしゃいます。もともとは我が国の不手際で」
「ひゅうも元気だったかい?」
「ワイザー君も元気そうで良かったわ」
リザードマンのワイザーよりひゅうの方がお姉さん。
「それが赤子ですな」
グアーナ公爵が俺のバスケットをのぞき込む。
「なかなか元気そうじゃ」
「はい。お母さんと思われる飛竜はどこにいるんでしょう」
「こっちよ」
ひゅうが案内してくれるらしい。
リザルド公爵邸の裏には、テーマパークにあるような、人工的に作られた岩山がある。
そこにまばらに生えている樹々の上に鳥のようなシルエットが止まっているのが分かる。
「待てひゅう」
「どうしたのワイザー」
ひゅうが戻ってきて俺の頭に乗っかる。
「…ランドンが死んでな」
「そんな、どうして?」
「風邪をこじらせて」
「そんな、じゃあラマントは?」
「それからずっと泣いている」
「そうなのね」
「ひゅうは、お母さんが誰か分かってたの?」
「巣を見た時にね。ラマントの匂いがしたわ」
「なるほど」
「ランドンとラマントは小さな時から仲の良い番だったの。
私は二頭とも仲良かったわ」
「うん、それで?」
「あの女悪魔にエスカーザがやられていた時も、二頭で他の地竜を助けながら南へ誘導していたの。私はエスカーザの止血に残ったんだけど」
利き腕が喰われて無くなっていたエスカーザの止血をしたのは、ひゅうだったんだな。怖かっただろうにえらいぜ。
「ずっと仲良かったオシドリカップルだったのに」
オシドリなんて鳥はこの世界にないんだけど、カイセーが持ち込んだあっちの本を読んだかな。
「そっか、オシドリ夫婦だったんだ。その片割れが居なくなったらさみしいな」
「ええ」
「その寂しさをこの二匹が埋めれればいいけどな」
「そうね。じゃあ行くわよ王子」
「うん」
ひゅうに案内されて、俺は籠を下げたままお母さん飛竜の元に行く。
「ラマント、久しぶり」
「え?ひゅうなの?ひさしぶりね。王子の所はどう?」
「暖かくてとっても素敵な所よ」
「ふうん」
「ねえ、ラマント、ランドンが亡くなっちゃったんですって」
「そうなの、毎日悲しくて悲しくて……」
ひゅうの顔を見て笑顔だったラマントが、しくしくと泣き出した。
「でも、二人の子供をどうするつもりだったの?」
「彼の子供を見たら一緒に家族になる約束を思い出しそうで」
「それで、あんな遠くの国で生んで、自分だけ戻ってきたの」
「どうしていいか分からなくなっちゃって」
「王子が、子供達を連れてきてくれたわ、とってもかわいいわよ」
「え?あ。王子!」
「あの煙突、俺の友達のお父さんの工場でね、巣をどけなくちゃいけなかったんだ」
「ごめんなさい、あそこから暖かそうな煙が出ていたものだから」
「ほら、赤ちゃんだよ」
さっき目を覚ましたのか、また、みゃあみゃあ行ってる。
もう、日が暮れていて、こいつらの可愛さが分かりにくいので、白色くんに光ってもらう。
「ほら、可愛いだろう」
「本当、こっちはお父さんのランドンと同じ瞳の色ね」
「おや、もうお腹空いたか?」
人の赤ちゃんでも、どんな生き物でも生まれたては食事の間隔が短いって孤児院で教えてもらったんだ。
さっきエスカーザにもらった餌をやろうとしたら、
「え?これはいやなの?」
「初めに貰った魚の方が良かったんじゃない?」
さっきの餌やりをみていたひゅうが言う。
「まだそっちもあるけどさ。よしよし」
二匹は必死で餌を食べている。
「可愛いわ。どうして私はこの子たちを置いてきてしまったんだろう」
「ラマント」
“さんぜんうつ ってやつじゃない?”
紫色ちゃんが博識を出してきた。
“なるほど!マタニティブルー”
卵生の飛竜にマタニティって当てはまるかわかんないから、産前って表現したんだな緑色ちゃん。
“つがいをうしなってしょうしんのところに、さんらんとなると、こころにふたんがおおきかったんじゃない?”
「なるほどねぇ。それは考えられるわね」
わー俺はそのあたりの知識が皆無なお子様だ!ガスマニアの教授にもらった薄っぺらい性教育の本しか読んでいない
それでも聞いてみる。
「どうする?ラマント。この子たちを育てられそう?」
「大丈夫よ、出来るわ。だけど、ランドンの事を思い出すとつらくて」
「ねえ、王子、ラマント達もアナザーワールドに連れて行かない?」
「あっちに?」
「ぷうやぽうたちも、親との思い出の風景を見るのがつらくて、あっちに行ったでしょう?」
「王子、ひゅうのところに私も連れて行ってくれるの?」
「連れて行くのは全然かまわないんだけど。エスカーザに相談しなくちゃね」
「そうね」
「じゃあ、ラマントも付いてきてくれる?」
「ええ」
公爵邸の正面の広いポーチに戻った俺がバスケットを下げて歩く横を、ぴったりくっつくようにぺちぺちと付いてくるラマント。
自分の子供達が気になっていたんだね。やっぱりお母さんだよ。
そんな様子を温かくも心配そうに見つめるエスカーザとワイザー。
公爵はもう自室にお戻りだ。
「ラマント」
「大丈夫かいラマント」
「エスカーザ、それにワイザー。心配かけたわね。
それでね、子供達と一緒にわたしも王子の世界に行きたいの」
「そうか、いいよ、それでラマントの心がすこしでも元気になるのなら」
「私たちに反対する気持ちはないよ」
「ありがとう」
二人のリザードマンの言葉に再び涙を流すラマント。
よかったね。
「ねえ王子」
「何だいラマント」
「王子のそのいい匂いの籠った魔石とかそういうものないかしら?」
匂いって魔力のことだよね。体臭じゃなくて。
「あるよ、それはもうたくさん」
「ほら」
そう言って、ヴァルカーン王国の店で買った圧縮魔石が沢山入った袋を出す。アナザーワールドで一日で満タンになったやつ。
「小さい物一個でいいんだけど」
「これくらいかな」
ビー玉サイズのものをだす。
「それでいいわ、それを、赤ん坊と一緒に入れてくれない?」
「それならこれは小さすぎるね。赤ちゃんと入れると危険だよ」赤ちゃんは何でも口に入れるからね。ポリゴン町の孤児院で教わったんだ。
だからもっと大きいものを出す。ピンポン玉よりちょっと大きいもの。
「これぐらいなら大丈夫かな」
「まあ、こんなに大きくなくても良いんだけど、ありがとう」
二匹の赤ちゃん飛竜のあいだに、属性の無い魔石を置く。これは加工されたものだったから、つるつるのまんまるだ。
すると、二匹が魔石にすりすりし始めた。
「考えたわねラマント」
「この子たちが生まれて初めて見たのは王子なんでしょ?」
「そう」
「だけど、この魔石なら王子の魔力を感じるから、王子が離れていても大丈夫」
「そうなんだね」
「私もいつまでもくよくよしてないで、ランドンの子供を育てるわ」
「私も手伝うわよ」
「ありがとう、ひゅう」
「いつも申し訳ありません、殿下」
ラマントを譲渡される書類を持ってきたエスカーザは申し訳なさそうにする。
「いや、こっちこそ、大事に育てている彼女を連れて行くことになっちゃって」
「いえいえ。こちらにサインをお願いします」
「はい。
その代わりと言っては何ですけど、これを引き取ってくれませんか?」
「それはさっきラマントに見せていた魔石の入った袋?」
「はい。先日から俺のあのアナザーワールドで魔素が膨れていましてね」
アナザーワールドにはエスカーザとワイザーの兄弟も地竜たちに会いに何度か入っている。
「空魔石を大量に購入して、ここにとりあえず魔素を入れたんですけど。扱いに困ってまして」
「こ、これはかなりたくさんありますよ」
でもそれは一部なんだよ。
「ただ単に無属性に魔素がこもっているものと、聖属性が入っているものがあります。聖属性のはこういうラメが動いているタイプので」
「ああ、きれいですな。光ってますし」
「ランドンには間に合わなくて可哀そうでしたけど、こっちの方は風邪やちょっとした怪我や病気を治すのに使えると思います」
「ありがとうございます。何とお礼を言って良いか」
「それと、魔素入りの方だけど、本当はヴァルカーンに持って行こうと思ったんだけど、そうすると、こっちからのエネルギー産業に影響があったら困るなと思って。だからエスカーザに預けるね」
「わかりましたあの、これのお代金は」
「いらないよ」
なにしろ、俺には処理したいものなんだからね。
「遠慮なく活用してね。魔石が空っぽになったら教えて。充填するから」
「ありがとうございます。でのこんなの中々空っぽにはなりませんよ」
イケメンリザードマンの困り顔はカッコいいぜ。
「じゃあ、俺、明日の予定があるからもう失礼します」
「はい」
「ほら、ひゅうとラマントも挨拶して」
「ええ」「はい」
「エスカーザ元気で、また顔を見に来るわ」
「いつでもおいでひゅう」
「ワイザー、元気で」
「はい」
「あ、エスカーザ、もうすぐ結婚するんでしょ?式には呼んでね」
「ふふふ、招待状を増やしておきますよ」
エスカーザも公爵の跡取りだもんな、婚約者はいるよね。
「じゃあ、いこうか」
「はい」
リザルド公爵邸の向かいに、扉の無いゲートを開ける。
「ようこそ、俺のアナザーワールドへ」
「まあ、なんてすてきな所なの?」
ここも、もう夜なのに分るの?
「でしょ。ここは王子の魔素で満ちているのよ」
「ほんとうね」
俺の魔素だけじゃないよ、女神さまの神気とか、新たに植えて大きくしているユグドラシルの葡萄とか、地竜たちの魔素もあるよ。
『これはこれはいらっしゃい、ラマント。それにひゅうもお帰りなさい』
「お世話になります」
「ただいま、スフィンクス様」
『ささ、今夜はとりあえず、こちらの地竜用の屋内居住施設へどうぞ』
ゴブリン達が共同生活をしている建物の、一階にある地竜用の部屋に連れて行くスフィンクス。
「隣にお風呂があるのよ」
「お風呂?あたしでも入れるの?」
「もちろん、ぷうやぽうも良く入っているのよ」
「あんなに大きな子なら私たちでも大丈夫ね」
「そ」
飛翼に付いている手に、赤ちゃんの籠を大事にさげてペチペチと歩いていく。
さっき泣いていた飛竜とは全然違う。友達のひゅうが隣に来たからかな。
「じゃあ、わるいけどたのんだよ」
いつも頼りになる金髪のハンサム精霊に頼む。
『おまかせください』
「俺はヴァルカーンに戻るよ」
『はい』
抱えるものがちょっとずつ増えていく。でも最近はそれも楽しい。皆いい奴だもん。
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