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異世界転移したら尖った耳が生えたので、ちびっこライフを頑張ります。  作者: 前野羊子
第五章 ~王子のクラフツ留学~

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245【彫刻刀って使う種類偏りがち】

今日の二本目です~


いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 金属の加工のほかには、木材の加工を学ぶ実習もある。

 今日は懐かしの彫刻刀や初めて触る鑿で何かを作ることになっている。

 彫刻刀は小学校で学校の教材として買ったものと違って、ここで扱うのはもう少し柄が太くて長めの、大人の手で使いやすいものだ。刃の部分も長くてごつい。


 今回の道具も全部貸してくれるんだから、太っ腹だよね。で、自分用の道具に欲しくなったら購入も可能だと。


 「ここでは、まず自分で彫刻刀で作ってみて、精霊魔法を使える人はそっちで同じものを作ってみましょう」


 「精霊魔法でそんなことできるのか?」

 「風のは俺使えない」

 「風でものを切ったりしたことない!」


 たしかに俺も風魔法で微細な加工はしたことが無い。

 他の属性を混ぜて針の一撃をモグラとかネズミとかに与えたぐらい。あの時は自分も精霊ちゃんサイズだったから。結構細かったとは思うけど。この授業と比べるには芸がなさすぎだ。


 「どうすればいいんだろう」

 まあ、加工のための風魔法をイメージし直すために、ここは真面目に彫刻刀に向き合おう。


 「とりあえず作ろうかな」

 「シュンスケ何を作るんだ?」

 「みんなは何を作るんだ?」

 先生がいくつか見本を出してくれてそれから自分がチャレンジするテーマを決める。

 「ワイは箱だな」

 ベゼットはまた箱をチョイス。

 そこに置いてくれているのもちょうど出来上がっている弁当箱サイズの箱だ。そして蓋部分を彫刻するみたい。

 現在俺たちは、別の授業で金属の丸い箱を作成中だというのに。


 「あたしは、ボタンを作ろうかな」

 「木のボタン?いいじゃん」

 服飾が得意なパステルらしい。

 「でしょ。あとで樹脂(レジン)でコーティングしてもらえば使えるようになるじゃん?」

 「だけど小さいものは何個もいるんでしょ」

 そうじゃないと評価が出来ないって言われていた。だけど、全く同じものを量産できる方が評価が上がるそうだ。

 「そうだけどね、ボタンなんて、あたしには沢山ある方が良いの」

 

 木工の教室にも旋盤とフライス盤はあるよ。


 「シュンスケは何を作るの?」

 「木版画にしようかな」

 「木版画?あれ?」

 教壇には色々な作品例が展開されていて、版画もある。

 「ずうっと前(小学校六年生ぐらい)に単色刷りでやったことあるんだけどね。あの時より小さくても細かいものをやってみたいな」

 「なるほど」

 「多色刷りとかね」

 「多色刷り?」

 「うん」


 ハロルドをモチーフにしようかな。ハロルドなら隣の国のここならみんな知ってるだろうしね。見たことなくてもさ。


 まずは下描き。

 B5ぐらいの羊皮紙に馬のシルエットに一本角と天使の羽。これを彫り込んでインクが乗らないようにして、背景を考える。


 青空と、森と、足元の草とかお花とか。

 「シュンスケこれは馬?」

 パステルが俺の下描きに聞いてくる。

 「いや、ペガコーンって言うんやろ?」

 ベゼット正解!

 「うん」


 「シュンスケお前ガスマニアの学園から来た留学生って言ってたよな」

 「一昨年はガスマニアでよく見かけるって言われてたわね」

 「そうなんだ。俺もあっちの帝都で見てね」

 「わあいいなぁ。あたしもお会いしたい」

 「入学式の夜にそこの通り走ってたらしいぜ」

 他の奴が事実を言う。

 「うそ」

 まあね、キラキラな馬車を曳いてたもん。

 「ペガコーンって精霊なんだろ?」

 「ハロルド様はそうでしょ?」

 「他にもペガコーンっているの?」

 「さあ」

 “どうなの?”

 “ユニコーンはいるけど”

 “そうなんだ”

 “あの子達は妖精だからなぁ”

 “そっちか!”

 “ずいぶん長いこと会ってないな。でもユニコーンは意地悪だから好きくない”

 おっと、仲良くないんだ!


 俺の中のペガコーン本人とも念話。

 “出来たの?わ、王子、上手だねぇ”

 “サンキュ、真横ならなんとか”

 “でも王子が乗ってくれてない”

 “自分をここには入れないよ”

 恥ずかしいじゃん。

 “えー残念”


 「下描き出来た!」

 「どれどれいいじゃないか」

 この同じものを四枚の板にコピーしたい!

 「先生、下描きを魔法で転写しちゃだめですか?」

 「いいぜ」

 木工の先生はハーフドワーフの男性だ。

 「よかった!」

 「お前転写が出来るのか?」

 魔法で転写するのは二属性が必要で、すごく魔力がいるらしい。

 俺なら白色くんと緑色ちゃんの組み合わせも出来るんだけど、トナー代わりの魔素がそもそも魔力が必要だ。

 「得意なんですぅ」


 でも転写の前に下描きに色分け文字を入れていく。


 黒、黄色、濃い空色、濃いピンク。ハロルドが白いシルエットになるように他に色が入るように。


 掘るための板を四つ。それに全く同じ下描きを転写して、色分けして掘っていく。混ぜたいところはちょっと工夫して。

 予備校でクリスが刺繍で糸の色を混ぜていたのを思い出す。


 二枚を掘り終わったところで終了のベル。

 「はーい、続きは来週でーす」


 木工ではないけど、彫刻刀の練習だよね。


 夕方、冒険者ギルドの自室で、一枚彫ってしまう。今回は、ウエストポーチに入ってた懐かしの彫刻刀。一本一本に〈田中〉って名前が書いてある。勿論ケースにも。

 それには謎のセーフティーガードってのがあって、ここだけの話、余計に使いにくいけどね。小六の時の木版画は何を描いたっけ。たしか、学校に迷い込んでいた野良犬だったかな。あの時は一版の墨色一色だったよね。

 彫刻刀って大体、直角の角の三角刀か、デザインナイフみたいな切り出し刀、そして丸刀の三種類しか使わない。しかもついつい持ち替えずに始めに握ったもので最後までやろうとしちゃう。そこをドワーフ先生が丁寧に教えてくれた。小学校の先生よりはやっぱり専門家なので細かい指導が入る。メッシュの入れ方を教えてくれたのは今回の俺にとって一番の収穫だ。


 翌週、再び木材加工の授業で全部掘り終わって、いよいよ印刷だ!


 「シュンスケ、先生がこれを貸してやろう」

 そうして出してくれたのはなんとバレンだった。

 「これはバレン!どうしてこれを?」

 なければウエストポーチから出すつもりだったんだけど。だって、大小二つ持ってるもん。


 「東の方の国では木版画が盛んだった時代があってな、その時に使っていた道具らしい。お前、バレンを知っているのか?」

 「本で読んだんです。木版画のハウツー本」

 なんでもこの内容でごまかす。


 「インクもあるぞ」

 「どうして?」

 絵具を出すつもりですけど?インクの方が楽かな?

 「木工では着色することもあるからな。紙に刷るなら、ニス仕上げはいらんじゃろう」

 「はい!」

 「インクはこっちの引き出しじゃ。濃縮タイプだからな水で十倍に薄めれば良いぞ」

 「わかりました」


 引き出しには十色ぐらいの濃い色の液体が入ったガラス瓶が並ぶ、奥にも色々ありそうだけどね。ガラス瓶に入っているインクはどれも黒に近い。鮮やかな色のラベルが付けられている。


 「じゃあ、黄色と、黒と、えっとあった濃いピンク(マゼンタ)と濃い青空色シアン!」これでフルカラーだ!


 「うんうん、それとインクを魔法で出した水で溶かす皿と、版木につけるなら海綿(スポンジ)が要るな」


 先生も色々出してくれる。


 刷るための羊皮紙も二十枚以上出してくれた。


 「こんなに?」

 「版画は何枚も刷るもんだよ」

 「そうだろうけど」

 小学校の時は三枚ぐらいしか刷らなかったよ。

 試し刷りと本番と予備と。

 なのにこんな高級な羊皮紙を二十枚も!自前の画用紙を出すつもりだったんだけどね。


 まずは一枚に全色刷る。前に、浮世絵を再現する動画を見たことがあったんだ。こういうのは明るくて薄い色から刷るんだよね。合わせにくいけどさ。


 四枚の板は、まったく同じ大きさ。だから端っこを合わせれば、ずれないはず。まずはインクを付ける前の板を被ぜて端っこの印をつける。

 

 さて、一色目は黄色を刷って、濃いピンク(マゼンタ)、そして水の女神の瞳と同じ青い色のシアン色を重ねて、最後に黒を……。

 

 「「「「うわあ、すげー」」」」

 「ハロルド様だー」

 いつの間にかクラス中のとは言っても俺の他には九人が集まってた。


 「え?どうして緑の色が出て来た?」

 背景の森は緑色にしなくちゃね。

 「こっちは茶色い部分もあるぞ」

 森の木の幹は茶色いよ。

 「赤いお花もあるのね」

 それは足元の雑草だ。


 「ほーい皆は自分の作業に戻れえ」

 「「「「はーい」」」」


 生徒たちを蹴散らしてくれたけど、その先生は動かない。

 「シュンスケ、せっかくだから残りの紙全部に刷りなさい」

 「良いんですか?」

 「むしろ刷ってくれ」


 途中からハーフドワーフ先生も手伝ってくれながら、版画を刷っていく。

 あれ?印刷の授業じゃないよな。


 刷りあがった紙は黄色ちゃんが乾かしてくれている。頼んでいるのは先生の方だけどね。


 しばらくして乾ききったものから二枚持ってきた先生は、

 「シュンスケ、この二枚に、お前さんのもう一つの方の名前書いてくれ」コソッ

 「は?」

 「学長に献上するのと、ここに飾るのと…」

 「ここに飾るのには嫌です」

 「じゃあ儂用に」

 「えー、しょうがないなぁ。絶対売りに出しちゃだめですよ」

 素人の作品なんだから!

 「売ったりなんてするもんか」

 “だいじょぶ、あたしがみはっとく”

 “たのむよ緑色ちゃん”

 「う、売らねえよ、土の精霊!」


 でも、沢山印刷させていただいたことには結局感謝している。

 後日版画に田中駿介と漢字でサインして、一枚はポリゴン町の孤児院に、もう一枚はハロルドのお友達でもあるマツに、そして父さんと、ユグドラシルにあげた。配達を、アイテムボックス持ちの緑色ちゃんに頼んでね。


 ウエストポーチに入れておいたら母さんが見てくれるかな?


 “まつ、すごくよろこんでた!”

 “おこづかいで、がくをかうんだって”

 “おぅ、よけいな出費をさせちゃだめだよね、額代渡すから見ておいて”


 二~三日してから

 “ナティエとアイラが、マツとティキといっしょにジャンクのみせにいったぜ”

 “がくはただでもらってた”

 “それはそれでどうなんだろ”

 “おうじが、ジャンクのみせで、またなにかをたくさんかえばいいんじゃないか”

 “しょうがないな、そうしようか” 


 そして、時は戻って、ベゼットの木箱はなかなか良いものが出来ていた。A4の書類が入りそうな道具箱で、一面に亀甲模様が掘ってあって、右下の端は透かしになっていた。

 仕上げに、木目の生えるニスを縫っている。


 「程よく空気が出入りした方が良いものってあるやろ」

 「たしかに。考えてんじゃん」

 俺も、これにしたらよかった。箱ってずっと使えるじゃん。版画の版木より。

 俺の素人の版木なんて残す気はないよ。


 ドワーフ女子のパステルの作品は、言ってた通り洋服につける木のボタンがいっぱい出来ていた。

 まったく同じボタンが二十個と、カフス用かな?同じデザインで一回り小さいものが十個。

 その組み合わせで五セット出来ていた。彼女の場合これで大事なのは、手作りで全く同じものを作ることだよね。すごいよ。違うのは木目位。

 基本の形を作るのに、糸鋸とかを頑張って使っていたのを知っているよ。そして、そのあと、細かい彫刻刀で微細な模様を入れていた。立派な職人さんだ。


 「このボタンに合う洋服を考えたいな」

 一組は直径二センチぐらいある大きなもの。

 ボタンが先にあって洋服を考えるのってありか?でもさ、想像はしたいよね。


 「だな、この大きいのだったら、ニットの上着とか、ローブとかいいよな」

 「ニット!その発想はなかった!」

 「そう?俺にもし作ってくれたら言い値で買うぜ!」コソッ

 パステルのメインスキルは洋裁だからな。

 「ほんと?」コソッ


 後日、パステル本人の物と少し色違いで、生成りの糸で出来た初夏のニットのカーディガンが手元にやってきた。長めの半そでにフードもついていて、ボタンもちゃんと樹脂レジンでコーティングされていた。


 「わ!出来たんだ!これ、オーバーオールのインナーにもいいじゃん。いくら?」

 「お金は要らない」

 「どうして!」

 「シュンスケとお揃いを持ってるだけで、あたしには価値があるの」

 「は?そう?」

 そう言えば、初めて女子に手編みを貰ってしまった。ちょっと嬉しいかも。


 「それに、いつもお菓子くれるじゃん?甘いものって高級なのに。シュンスケって本当は滅茶苦茶良いところの子なんでしょ」


 確かに俺は滅茶苦茶良いところの子ですが、スイーツの原価はお手頃価格なんです。蜂蜜とかはいつもクインビーからの貰い物。お砂糖も南国で直接買ってるし、チョコの原料やフルーツはポリゴンの家の庭や南国の自分の島で植えて収穫したもの。


 「……わかった、ありがとう。またおやつ持ってくるね」

 「うん!」


 後日、校長室にハロルドの版画が飾られているのを知った。


 サインをシュバイツの方にしたのに!今回はまだ駿介で通してるんだけど。やばいのでは?


 “時間の問題だよね”

 俺の中からハロルドの指摘が。

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