242【王子の公務はご馳走を頂くこと】
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入学式が終わったけど俺達一行は、冒険者ギルドではなく、ヴァルカーン王都にあるロードランダ王国所有のお屋敷に行く。
ドミニク卿とナティエさんとアイラちゃんは、父さんが一瞬でガスマニアの帝都に連れて行って戻ってきた。
ヴァルカーンのお屋敷では、王宮での晩餐のための支度をするべく、最上階の王族用のフロアではプランツさんが待ち構えていた。
まだ明るいうちに風呂に入り、クリスが久しぶりに張り切って俺の着替えを手伝い、髪をセットしてくれる。
鏡の前で確認を。
緑銀髪で、今日はすこしサイドを編み込んでもらって、後ろは自分でたくさん作ってたシュシュの中から、シルバーサテン地のものを選んで一つに括ってある。
服は、やっぱりキラキラしいシルクっぽいシャツとボレロ的なジャケット。そしてやっぱり太ももの出るボトム。いつも思うけど、これってプランツさんの趣味なんですかぁ?
で、マントはお断りして自分の翅を六枚出す。
「久しぶりのキラキラ王子のお世話が出来ました!」
満足しているのは俺本人よりクリス。
そしてクリス自身も侍従見習いの服に着替えていた。
もちろんウリサもロードランダの護衛の騎士服に剣を佩く。
コンコンコン
「はーい」
「シュンスケ準備……ばっちりだね」
「うん」
父さんはさっきの入学式の来賓の服よりさらに晩餐向けのキラキラ衣裳だった。でも上品に見えるんだよね。すごいね。
今回馬車は父さんの方が自分のアイテムボックスから出してくれた。
俺のよりちょっと大きい。何しろ国王陛下の馬車ですからね。
馬はハロルドだ。
『おうさまひさしぶり!』
「ハロルドも元気でいいね」
鬣を手でもふってる。
『ぼくはいつでも元気!』
今回は白馬ではなくユニコーン状態で曳いてくれることになってる。カッコ良い。
馭者はプランツさん。
後ろにはウリサが騎士服を着こんで単騎でついてくる。
沿道には人だかり。でも屋外だけど高い所に天井がある。地下都市だからね。
「ロードランダ国王と王子ですって」
「ブランネージュ様とシュバイツ殿下?まあ」
“みんなおかおをみたがってるよ”
“ほらあのひととか”
「ふふふ、手をふってやりなさい」
「はーい」
外を見て手をひらひら。
「きゃー、可愛い!」
「噂通り天使だわ」
翅見えないはずなのに。
「ハロルド様じゃねえかあれ」
「そうだ、少し光ってるから間違いないだろ」
「シュバイツ様ー」
「ブランネージュ様ー!」
「ハロルド様ぁ」
“すげえな”
“ロードランダじゃないのに人気ですね”
“だから、あの店で絵姿を売ってたんじゃねえのか”
“そうかも、父さんが人気なのは分るんだけどさ”
“いい加減お前自身も人気があるのを自覚しろ”
“えー”
「くすくすくす」
いつものように三人でワイワイと念話しているのを父さんに聞かれてた。
「三人は気の置けない友人同士で良い感じだね」
「でしょ!」
「クリスもこれからも宜しくしてやってね」
「もちろんです!逆にこちらこそですよブランネージュ国王陛下」
「うん」
そう言って父さんがクリスの頭をなでている。良き。
って思ったら俺の方にも手が伸びた。
「ふふふ」
“もんをくぐるよ”
“ここのきゅうでんは、ここからがたいへん”
確かに屋根しかないような建物だったもんね。
門をくぐったとたんに、どこかに転移する感覚があった。
すると風景がガラリと変わり、満天の星空が頭上に光っている。
最近よく空を見上げていたからわかる。
これはリアルな空と同じような位置に星がある。
「父さんここって」
「ここはヴァルカーンの元ダンジョンの最下層だよ」
『ここひさしぶり』
ハロルドは初めてじゃないんだ。
「最下層?」
「たしか、七十階層」
「でも空が普通に屋外にしか見えない」
ガスマニアのダンジョンも屋外っぽいのあったけどさ。
「ね、ダンジョンって不思議だよね」
馬車は魔道具の光で彩られた庭園を進む。夜だから植栽は分りにくいけど、光の下には薔薇っぽい木が整えられているのは分る。
工業の街の王都にはなかった、爽やかでふわりと甘い香りのそよ風が馬車の窓から入る。
「地下深い方が空気が良いなんて」
「ね」
ユニコーンハロルドがほんのちょっぴり馬車をきしませて止まる。
馬車の音をわざと鳴らすのは、到着の合図。その絶妙な技が普通は馭者がするんだけど、ハロルドは何もしなくても出来る。流石だ。
「ハロルド様の馬車を馭するのは楽すぎますな」
「手綱を持っておくだけで良いですからね」
プランツさんがウリサと話している。
「さすがハロルド」
『褒めてくれても何も出せないよ』
「どこでそんな台詞を覚えたの?」
『カイセーが読んでくれた物語だったかな』
「へえ。魁星が?やるじゃん」
『ひゅうも本を読んでくれるよ』
アナザーワールドの飛竜だね。あの子も頭いいよね。
父さんが先に馬車を降りて俺の下車を手伝ってくれる。
目線の先には、魔道具で彩られた夜の噴水がキラキラしていて。その傍らには巨漢ドワーフのヴァルカーン国王陛下。
学園長の時とはやっぱり雰囲気が変わります。
「ようこそ、ブランネージュ国王陛下、それにシュバイツ殿下」
「お招きありがとう、ヴォルグラム」
見た目は父さんの方が若いんだけど、年齢はもちろん逆だし、立場が上だから呼び捨てなんだね。凄いぜ。
「今晩は、ヴァルカーン国王陛下。宜しくお願いします」
「よく来てくれた!どうぞこちらに。クリスとウリサも!今日は君達もお客だから、一緒に食事についてくれ」
「自分達もですか?」
「もちろん、我が国の生徒になるんだから」
クリスとウリサも国王陛下に名前で呼ばれてびっくりしながら、プランツさんや父さんの方を見ると、二人ともにこやかに頷いていたから、一緒にテーブルに着けるだろう。
そして、ウリサは腰に佩いていた剣をウエストの小さなマジックバッグに仕舞う。
護衛じゃなかったら剣は見せないのが礼儀だ。
晩餐の席に案内される。
父さんと俺の間に美しい女性が立っている。
なんだか父さんとお似合いな絵面だ。だけどこの方は……。
「今晩は久しぶりですね、アルティーナ王后陛下」
そう言って父さんが彼女の右手を取って指先にキスを落とす。
やっぱりすごく絵になる。
「ええ、お久しぶりです、ブランネージュ陛下。そしてこの可愛らしい方をご紹介くださいな」
「はい。これは息子のシュバイツです。長く離れて暮らしていましたが、一昨年の初夏にようやく戻ってきてくれました。
シュバイツ、こちらはこの国のヴァルカーン王后陛下」
「初めまして、シュバイツ フォン ロードランダです。宜しくお願いします」
そうして、父さんみたいに少しでもスマートにできたらと意識して、彼女の右手を取ってその手袋の指先にキスを落とす。
「まあ、本当に精霊王子なのですね。翅が美しい。ブランネージュ様も大昔はこのような翅がおありだったのですか?」
「はい。ありましたよ」
「シュバイツ殿下、本当に可愛らしいって男の子に言ってはいけないとは分かっているんだけどごめんなさいね。暫くこの国の学生をしてくれるんでしょう?」
「はい、お世話になります」
「それに、教会で歌ってくださるとか、とても楽しみですわ」
「頑張ります」
「ささ、お座りください。お腹すきましたでしょう」
「ありがとうございます」
アルティーナ王后陛下はパッと見エルフのようだけど、ドワーフだった。こんな美しいドワーフなんて、日本の物語にあっただろうか。
シュっとした感じのエルフとは違って、はっきりした美女って感じだね。ハリウッド女優の耳が控えめに尖ってるって感じだ。
食事が始まった。
ウリサやクリスも少し離れているけれど、テーブルについて同じように食事をしているみたい。
二人の間にも美しいドワーフの女性。王妃の妹か王女様かと思ったら彼女は王妃殿下。王様の第二婦人だって。なんでも平民の鍛冶屋の娘で、王様が見初めたんだって。クラフトに詳しい王妃様だ。
“離れててよかったですぅ”
“そうそう、王様達の近くじゃ味しなかったかもしれねえな。こっちの王妃様は平民上がりらしくてちょっと気安くていいぜ”
二人から衝撃の念話が。
“なんですと!”
俺だけ超緊張感!
でもご馳走は美味しくいただきますよ!
まずは食前酒が出ました。白ワイン。
「シュバイツ殿下とクリスのワインは錬金術でアルコールを抜いているのよ」
王后陛下のご説明が嬉しい。
「錬金術でアルコールが抜けるんですね」
「そう。安心して飲んでね。じつはドワーフにもお酒に弱いのがたまにいるのよ。それと、お酒が大好きだけど妊婦になった女性とかね。そういう人にノンアルコールのものをお出ししているの」
ノンアルは錬金術で!すごい!日本風でファンタジーだな。
「では、尊敬と敬愛の隣国、ロードランダ王国と、我ヴァルカーン王国の益々の友好を祝して、カンパーイ」
「「「「「カンパーイ」」」」」
ごくり。本当だ、二十歳の誕生日に飲んだワインみたいで美味しい。あれはエメラルドワインだったけど、これもあっさりして、料理に合いそうだ。
「アルティーナ陛下、ノンアルのワイン美味しいです」
「よかったわ」
前菜とスープが来た。
前菜は生ハムのオープンサンド。生ハムは薔薇のように盛り付けられている。こういうビジュアルが王宮料理だよね。
スープは牛骨と赤カブでじっくり作られたレッドコンソメスープ。
すると、硬めのパンがスライスされて出てきた。
傍らにはやわらかくあたためられたバターが添えられている。
これは塗りやすいよね。たっぷり付けちゃおう。美味い。バターをつけたパンがスープに合う!
そして、ステーキのような塊肉が柔らかい、マウンテンブルのシチューがメインで出てきた。ドミグラス風のシチューはソースってぐらいしか嵩がなくて、殆どが肉!つまり煮込みステーキって感じだな。スプーンですくえるほどにやわらかい。でもナイフで切ってフォークで食べるんだけどね。
「美味しいですぅ」
「添えつけられた茸も美味ですね」
父さんも絶賛だ。
「有難うございます」
こってりした肉料理の後に、さっぱりした少量の冷製パスタがでてきた。
「これ、俺が好きなパスタに似てます」
バジルがきいた爽やかなパスタ。
「これは、儂が精霊達にシュバイツ殿下が好きなメニューをリサーチして料理長に頼んだ一品だ」
「まあ」
「なるほど。
去年はずうっと砂漠を旅していて、冷たいこういう料理ばっかり食べていました。熱くて食欲がなくても美味しく食べられるので。どうですか?」
「うむ、これなら鍛冶など熱い所で仕事をするドワーフにも好まれそうだ」
「そうですね。塩気が聞いてますから、汗をかいた後に良いですよ」
「なるほど、殿下は健康管理に詳しいですな」
「そうでもないですよ」
日本人学生の普通の常識だよ。
パスタの次は虹色淡水魚のパイが出てきた。
パイを開くと、魚以外に香草や玉ねぎや茸、チーズも一緒に入っている。
面白い。俺ならホイル焼きにするところをパイ包み焼きになってるとすごくボリューミィーだ。旨味を吸い込んでいてバターの利いたパイ皮も食べちゃう。
最後にデザート。
これは俺が大量に持ち込んだホールのチョコレートケーキ。スフィンクス謹製のほろ苦い大人向けのお菓子だ。
でも、切り分けて緩くホイップされた生クリームを添えたのはここの料理長。
カッコよく盛り付けていただきました。
「まあ、おいしいですわ」
「これは俺と仲良くしてもらっている食通の高位精霊が作ってくれたんです。きっとお酒に合いますよ」
「たしかに」
そういいながらワインと一緒に楽しんでいらっしゃる。
「さすが精霊王子ですわ。将来楽しみですねブランネージュ陛下」
「我が息子ながら、彼自身知恵が回りますからね、上手く精霊たちにお願いしてやり取りしているみたいですよ。多分私より精霊とやり取りするのが上手かもしれません」
「まあ、元精霊王の陛下より?」
「ええ」
“ちょ、父さん。あまり持ち上げないでよ!”
“だめかい?”
“俺が調子に乗っちゃうだろ!”
“調子に乗るような子がそんなこと言わないでしょ”
むう
念話で父さんに抗議をしながら笑顔を張り付ける。
我ながら器用になったのではないか?
王宮の晩餐の席だというのに、フォークから一緒に出されていた紅茶のスプーンに持ち替えてチョコレートケーキの破片を赤色君にアーンしている。
“このけーき、おれさまのすきなあじ!”
“たぶんブランデーとか入ってるんじゃない?”
“どうりで!おれのすきなあじ”
“赤色くんたちはスフィンクスとも仲いいもんな”
“そりゃそうさ”
“あかいろばっかりずるーい、わたしもほしい”
“はいはい”
緑色ちゃんにもアーン。
父さんの向こうにいるヴォルグラム国王陛下が同じように手元で精霊にデザートを分けていた。
精霊を大事にしているこの国では食べ物をほぐして、精霊に分け与えるのは行儀が悪い高位じゃないのかな。むしろ、精霊魔法を使うための儀式だったりして。
「ヴォルグラム、赤い精霊はチョコレートが好きらしいですよ」
「ブランネージュ陛下、儂はそれを今知りました」
「赤色くんのリクエストでシュバイツがチョコレートづくりを始めたらしいですからね」
「なんと。精霊から頼まれることなんてなかなかないですよ。素晴らしいですな」
「陛下、赤色君と白色君はしょっぱいものも好きですよ」
俺からも精霊情報を一つ。
「そうなのか?」
「ウリサがよく塩せんべいとか、肉とか食べさせているんですよ」
「ほう、それは面白いな。晩酌に付き合ってくれるのかな」
“ああ!ゔぉるぐらむ、おれはうりさとよくえーるとかのむぜ”
“おれはおうじがつくってくれた、ひものをやいたのもすきだ。あれはつよいさけもあうよ”
「ほうほう、今度やってみよう。儂の晩酌にも付き合ってくれ」
“やたっ”
“もちろん!”
大きい大きいドワーフと小さな精霊君たちと楽しそうにやり取りしているのもほっこりするじゃん。
「さすが精霊王子、長年精霊と付き合ってきた儂の知らないことを教えてくれてありがとう」
「いえいえ。精霊魔法使いの大先輩でもあるヴォルグラム陛下。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそじゃ。
さてと、シュバイツ殿下に一人紹介しよう」
ヴォルグラム国王がナフキンで口元を拭いながら近寄り会話を変えてきた。
アルティーナ王后陛下はいつの間にかウリサたちの席に移動していた。
「はい?」
ヴォルグラム陛下の後ろの方からやってきた白衣の男性が一人。人間族の白人だ。
この世界で人間族の白人は初めて見たかもしれない。白人っぽいのはエルフだけだったからね。
その人は、プラチナブロンドに青い瞳だった。とはいえプラチナブロンドか白髪かは分からないぐらいにはお爺さんって感じ。
相手が立っているので俺も立つ。
「お初にお目にかかります。シュバイツ殿下。私はヴァルカーン王国の教会の司祭を務めております、ルドルフと申します」
そう言って俺の右側に跪き、右手を取っておでこに持って行かれる。
「初めまして、シュバイツです」
「しばらくの間、こちらの教会で癒しを行ってくださるとヴォルグラム陛下から聞きましたが、本当でしょうか」
「はい」
「ああ、ありがとうごさいます」
「え?あの…」
一旦お辞儀をしてから改めてこちらに顔を向けたルドルフは泣いていた。
「私は人間ですので、聖職者になって僅か数十年ですが、そのあいだ、怪我や病で医者に見捨てられた方々が最後の望みと教会に来られるのですが、なかなか思いをかなえてあげることが出来ず、私の力不足にいつも困っておりました。だけど、これからはシュバイツ殿下が彼らの願いをかなえて下さるとか。ありがとうございます」
その言葉に
「長い間、悩んでいる方に寄り添ってこられたのですね。大変だったでしょう。
俺なんかはまだ人生経験も短い若輩者ですが、すこしでもルドルフ司祭のお役に立てれば幸いです。今後の教会にお伺いするスケジュールなんかは、学園の行事などとも相談して、あちらに座っているクリスと相談してください」
「わかりました、本当にありがとうございます」
「まだお礼は受け取れませんよ。何もしていないのですから」
「でもお気持ちが有難いです」
「頑張りますね」
「ああ、神よ……」
俺を拝むな!あ、戻ってきた王后まで、手を合わさないで!
「まあまあ、シュバイツ殿下、貴方は本当に天使ですね」
「アルティーナ王后、この子は天使などではないですよ」
父さんが王后に声をかける。
「そうなんですか?」
「この子は、ゼポロ神の孫ですから」コソッ
そう、天使というのは神様の使徒。つまり神様に使えている従業員のようなもの。見たことはないけど、神様は存在しているのだから天使もいるらしい。
俺の常識が普通とは反対だ。
だけど俺は神様の孫とか息子とか甥とかだ。つまり神様の親族?いや神族に当たらるらしい。それは以前女神様たちにも聞いた。俺の種族のスピリッツゴッドのゴッドの部分がそうらしい。だから天使よりも上らしい。女神様の説明によると。
でもさ、天使も神の孫も、人間からみたら同じようなもんだよね。うん。俺の感覚は人間寄り!しかもこんなきらびやかなお育ちじゃなくて、平民寄りだよー!
父さんのこっそりにびっくりした顔で俺を見つめる王后陛下。
「まあ」
って口を塞いでいらっしゃる。
そしてルドルフ司祭もさらに固まっている。
「おお。神よ」
だから俺を拝むなって!
王后陛下!司祭様!俺は自分でボタン付けもするし、繕い物もするし、洗濯だって掃除だって料理だってするよ!自分で。
「しっ、内緒ですよ」
更にしっかり口止めをする。
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