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異世界転移したら尖った耳が生えたので、ちびっこライフを頑張ります。  作者: 前野羊子
第五章 ~王子のクラフツ留学~

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238【特別な魔法のテスト】  

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 入試当日、予備校の前ではゴスロリ先生のほかには、ウリサがお世話になってた筆記試験の人間族の先生や、戦闘訓練の先生たちなどが予備校の寮の前に並んで皆を励ましていた。


 「ウリサ、お前は十分頑張ったから、リラックスすればいい成績を取れるだろう」

 「有難うございます。がんばります!」

 今までの生活で集中して大量に暗記なんてなかったみたいだから本当に頑張ってた。


 「シュンスケ、クリス、頑張るのよ。これ先生が作ったお守り!」

 ゴスロリ先生が、緑色の小さな小さな巾着袋を渡してくれる。本当にお守り袋みたい。

 でもこの中にはポプリが入ってて、頭を冴えさせつつリラックス効果のある香りのハーブが入っていた。

 「良い香りです!」

 「有難うございます頑張ります!」


 「クリス、集中すれば戦闘試験は絶対パスできる」

 ムキムキドワーフの戦闘訓練の講師も来ていた。

 「はい!」


 そして、試験が終わっても、合格発表までは予備校の寮は開かれている。ありがたいよね。俺たちはいったん引き払うけどさ。



 さて、予備校を出て、数百メートル離れた受験会場に向かう。


 このヴァルカーン王国は火の神ヘファイド神を先祖に持つと言われているドワーフたちが主に暮らしていて、国王陛下も純粋なドワーフだ。

 でも、一言でドワーフと言っても、何種類かあって、俺がこれまでに会ったグローブ先生や、各ギルドに居たドワーフ、ロードランダのカルピン木材店に居たドワーフたちは、大人になっても六才児の俺よりちょっぴり背が高いだけで、まあ人間族より頭一つぶん背が低い。ショートドワーフと分類されているらしい。だけど体幹がしっかりしていて力がある。とくに腕の筋肉と言ったらすごい。そして魔法が蓄えられるらしいので、髪の毛や鬚を伸ばしがちだ。中には作業がしにくいからと鬚はなくて髪だけを伸ばしているのもいる。


 で、この国に来たら、巨人かっていうドワーフもいた。身長は軽く二メートルを超えていて、なのにシルエットは小さいドワーフと同じ。つまり横にもデカい。ラージドワーフと言われているそうだ。どうして他で見なかったかというと、生活しにくいらしい。色々小さくて狭いからね。だから、この国で色々なものを拵えて生活している。


 ただ、冒険者ギルドでは時々見かけたよ。ドワーフは力も強いからね。大体パーティーで盾役らしい。うんアニメでもよく見た。


 そして、人間族の体格と何ら変わらないドワーフもいる。ぱっと見エルフみたいなんだけど、髭が濃くて髪も多い。まあ全体的に共通しているのは、男性ホルモン多そうで(でも禿は少ない)アルコールに強くて、力も強い。そしてモノ作りのこだわりも強いってことだ。


 でもドワーフ以外にもクラフトやものづくりの好きな人、服飾に携わっている人などが大陸中から集まって、それぞれが工房や工場などで頑張っている。


 さて、この国は空から見たら北の端に大きな活火山があって、その山すそがずーっと広がり途中から草原になって森に変わっていく。ただそれだけ。

 火山の裾の西寄りに、煌びやかな屋根と教会が見えている。他には建物がない。

 それにしても活火山の麓に建物って怖すぎる。だって火口は煙がたなびいているんだもん。あの下には溶岩があるんだって。


 火山の麓の煌びやかな屋根は宮殿で、上から見たら小さく見えるけれど、宮殿本体は地下深くにあって、かなり広いらしい。


 国の西は我がロードランダと接している場所があって、南東にはポイコローザ公国と接している。ロードランダからは木材を、ポイコローザからは地竜たちの魔素を運んで魔道具のエネルギーにしている。


 そして、ドワーフの国と言ったらやっぱり地球育ちの期待を裏切らず地底都市だった!


 古代、ここは大きなダンジョンで、それを攻略したドワーフがクラフトの技術を駆使してダンジョン跡をものづくり特化型の都市に作り上げて行ったそうだ。その過程を、ダンジョンマスターでもある俺は教わりたいよね。俺のダンジョンは健康ランド特化型だけどさ。


 ここの街もダンジョンみたく疑似の空があって、それはちょっとリアルとは違ってたりするんだ。空になにか魔法陣みたいな模様が見える。

 見えない方は多いらしいけど、

 「シュンスケさん、あの模様が気になりますね」

 「予備校の先生が言ってただろう、あれは換気の魔法陣だって」

 「それにしては換気が間に合ってないのかな」

 東京の下町を思い出す匂いがする。ガソリンや重油は無いんだけど、何かを燃やして金属を加工したりしているんだろう。


 ヴァルカーンの王様はドワーフだからエルフと同じで、長寿だから、今の王様が建国した王様かとおもったら、建国王は火山のファイアドラゴン討伐で命を落として、王様がすぐに死ぬと思ってなかった息子と言うか王子は単独で市井に下り職人をしているので王位を継ぎたがらなくて、さらにその息子、いわゆる建国王の孫が今の王様に即位したらしい。ロードランダよりちょっぴり短いけど、建国二百八十年で、二代目の王様だ。


 ヴァルカーン王国は主に産業によって地下で区画整理されていて、火山の周りは鉄鋼。国のど真ん中は工業、ロードランダ寄りには木材を扱った産業、その南には建築関係、そして東側には普通の生活道具や魔道具、そして国で生産されたものを売り買いする商業エリアがある。

 もちろん直接工房で発注して勝ったりしても良いけど、商売的な駆け引きが必要なこともあるからね。


 そして、ド真ん中の工業地域と王宮の間にヴァルカーン王国立魔工学園があったのだ。


 予備校から歩いて行ける距離なので、三人で歩きながら学園に向かう。

 

 俺とクリスは筆記試験免除なので、一時間ほど待ったあとクリスが戦闘の試験を受けに離れていってそれからさらに一時間後に奨学生が受ける精霊魔法の試験を受けに行った。


 二時間も待つなんてって思ったんだけどさ、先生や生徒の作品や、模型などを展示している学園の博物館があってそこに受験生は無料で入れたので全然苦痛じゃないよ。むしろ二時間では回りきれないほどに沢山のものがあった。

 そうして夢中になって回ってたらあっという間にアラームが鳴った。

 「むう、まだ半分も見てないぜ」

 “また来ましょう”

 「そうだな入学したら毎日見れるな」


 通路を歩いて行って精霊魔法の試験会場に着くと、ウリサとクリスが待っていた。

 「よう」

 「どうだった?筆記試験」

 「過去問や模試で見たような内容ばっかりだったぜ」

 「クリスは?」

 「特異な投げナイフでした」

 「そうなんだ。じゃあ二人とも大丈夫だね」

 「ああ、たぶん」


 周りには十人ほどの受験生がいた。

 「これだけ?」

 何しろ受験の定員数は全部で二千人。

 ガスマニアやトルネキでもそうだけど大きな学校って大きな国に一校ずつしかないから、二千人てすごく狭き門なんだよ。

 そこにヴァルカーンの人はもちろん、手に職を付けたい大陸中から受験するんだ。だから実技試験も大変で前日に行われていた。

 ごついドワーフが半分以上で、多くの色々な種族の男女が広い試験会場で一斉に縫物をすることのシュールさ!

 女の子や女の人もいたよ!子育ての終わったようなお年の女性もいたよ、すごいよね。

 そしてやっぱり女の人はこういうのは丁寧に仕上げられるんだよ。負けていられないね。

 数年後はクリスの妹のアイラちゃんもチャレンジすればいいな。


 閑話休題。

 そんなに沢山の受験生がいたのに、精霊魔法の試験はたった十人。

 これを受けられるのは、精霊ちゃんとコミュニケーションが取れて三色以上の魔法が使えることが条件らしい。

 その説明は予備校でされたけど、精霊魔法の練習は無かった。だってこの場でも十人しかいないもん。生徒が集まらないんだろうね。改めて精霊魔法の稀少さが分かった。


 ところが、

 “おうじ、あのこ、つぎだけどどうする?てつだっていい?”

 黄色ちゃんが少年ドワーフを指さす。

 “手伝いなさい!”

 “だってあのこらんぼうなの”

 “うーんそれはだめだなぁ、でもてつだってやって”


 つぎのハーフドワーフの兄ちゃんの時は、


 “あのひとねぇ、おいしいけーきがやけるんだ”

 “へえ”

 俺の知ってるドワーフ達は塩せんべい好きだから少しびっくり。


 “あいつのけーきは、ちょうぜつあまくておれはにがて”

 “でも、どわーふだからあかいろつかいたいんだ”

 “しょっぱいのが欲しいっていえば良いじゃん”

 “あいつもあまとうなんだよ”

 もしかして、あのドワーフ体形は……糖分のせい?


 てなわけで、受験生たちの内容が俺に駄々洩れである。


 「なぜ目の前にいる精霊たちはあの人間の子供をちらちら見ているのか」

 「今までこんなことは無かった」

 「浮気?浮気なのか?この受験のときにー」


 精霊ちゃんは基本自由だ。ティムした魔物なら固有の奴で一対一の繋がりなんだけど、精霊ちゃんはそういうことは無いもんね。


 “うわきじゃないもん”

 “もともと、あいつひとすじじゃないわよね”

 “おうじひとすじならできるわ”

 “おいおい、皆に協力してやってよ”

 “しょうがないわね”

 “おうじがそういうなら”


 “俺の試験も頼むな”

 “僕のもお願いします!”

 “うりさとくりすならとうぜんだぜ!”

 “びっくりするわざをだしてやろう”


 “ほどほどで良いです”

 だって今回は〈使えたら良い〉んだから。


 一つの部屋に順番に入って皆数分して出てきた。

 俺の前はウリサだった。

 “どうだった?”

 “簡単だったぜ”

 “わかった”


 「2695番 シュンスケ」

 「はい」

 ガチャリ


 部屋には茶器セットが広がるテーブルがあって、その前に一人の女性が座っていた。

 思わず

 「エルフだー」

 って言ってしまった。

 「ふふふ、エルフが珍しいところから来たの?」

 「ガスマニアに住んでいるんで。でも、そういうわけではないです」

 「さて、試験ですよ精霊とコミュニケーションが取れていることを証明してください」

 「分かりました。先生、お茶飲みますか?今までの生徒で飲まれました?」

 「前の二人から一口ずつよ」

 ウリサとクリスか。

 「じゃあ」


 俺は、青色ちゃんと赤色君にポットに熱湯を入れてもらう。

 テーブルには、色々な紅茶葉の缶と、フレッシュな茶葉が入った小さな籠があったので、そこから適量を紫色ちゃんに紅茶にしてもらう。

 「ストレートティーにするから」

 “じゃあ、だーじりんてきなしあがりね”

 「それで」


 そのテーブルのお皿に作りかけのクレームブリュレを緑色ちゃんのアイテムボックスから出す。

 「まあ、アイテムボックス持ちなのね」

 「自分のもありますけど、精霊魔法の試験ですからね。これは土の精霊(緑色ちゃん)のアイテムボックスですよ」

 「え?精霊魔法でアイテムボックス使えるの?」

 「ご存じなかったですか?さっきウリサも使いませんでした?」

 「てっきり、魔法のポケットを持っていると思ってた」

 「それも持ってますけどね」


 先生の前に、ダージリン風のストレートティとクレームブリュレを出して表面にグラニュー糖を振りかける。

 「赤色君仕上げてくれる?」

 “おっけー”

 赤色くんがキャラメリゼを絶妙なタイミングでしてくれる。

 そしてそのまま火魔法を逆に発動して冷却迄彼が。


 「さあ、先生どうぞ」

 「あ、ありがとう」


 「あ、最後に忘れていた。俺のとっておきの子がいるんですよ」

 「気になっていたのその子は?」

 「キュア、紅茶に入れて」

 「あい」


 キュアが紅茶に聖属性魔法をきらきら振りかける。最近クインビーの魔法の杖をまねて、小さな枝を振り回している。可愛いぞ(パパ目線)


 「紅茶もどうぞ」

 

 「この子は?初めて見る色だわ」

 「この子はキュア。聖属性魔法に特化した精霊です」

 「まあ、キュアちゃんというのね」

 “きゅあでしゅ。よろちくおねがいしましゅ”


 「まあ舌足らずなのが可愛いわ」

 

 「この子は、一昨年の夏に出会いまして、はじめは一人っきりだったんですけどいまは二十人ぐらいかな?になってます。だから、この子を扱えるのは俺とクリスとウリサぐらいです。何しろ数が少ないですからね」

 「そうなんですね」


 会話がいったん途切れて、先生がブリュレにスプーンを入れる。

 今のところ俺が人間だと思ってるよね。

 “俺のことはまだ言ってないよね”

 “おうじにいわれたもん”

 “まだひみつ”


 今はオープンにせずに精霊ちゃんとだけ会話。この先生には聞こえていないはず。


 「私はエルフにしては選民意識は無い方だと思っているんだけど、君の精霊魔法の使い方を見たら負けたって思っちゃうわ」

 「そうですか?」

 「人間族なのにこんなに皆と仲良しなんて」

 「まあ、でもウリサも人間族なのに仲良しですよ」

 「それもびっくりしたわ。人間族の成人男性で精霊術が使えるなんて、しかも大人になってから使えるようになったって言ってたもの。彼も合格よ」

 「そうですか。じゃあ俺も合格?」

 「もちろんよそれから君の連れの同じ学園のクリスもね。あの子はハーフエルフなのね」

 「はい。リーニング伯爵の跡取りですよ」

 「まあ、じゃあもしかしてナティエの息子?」

 「そうですよ。受験票に家名あったでしょ?」

 「わたしは身分を見て選びたくないからファーストネームしか見ないことにしているの。でもナティエの息子と知らないまま不合格にしなくてよかったわ。ナティエとは友人なのよ」

 「じゃあ数年後にはクリスの妹のアイラもきっとここに来るからよろしくしてやってください。彼女は洋裁とか刺繍とか凄く上手なんですよ」

 「ナティエに仕込まれたのね。それは楽しみだわ」

 「では、ナルキス フォン マリーベル先生、四月から宜しくお願いします」

 「あら?私フルネームを名乗ったかしら」

 あ、やべ。

 「あ、いえ、先生はガスマニアのOGですよね。だから」

 「教授に聞いてたのね」

 「ええ、まあそんなところです」

 うっかり鑑定しちゃっただけ。


 ナルキス先生からの合格の知らせを胸に試験会場を出る。


 精霊魔法の試験がお茶会だったなんて。

 いつも皆とお茶をしてたから簡単だったね。

 ウリサやクリスもお茶を入れるのに精霊ちゃんと一緒にお湯を入れたりするもんね。

 特別な魔法の試験は俺たちには日常だった。

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