235【タローマティの行方】
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ドルジ達をみんなロードランダの冒険者ギルドに送った。
しばらく俺が代表で近くの貴族の屋敷を一棟借りることになって、そこに皆で共同生活をしてもらいながらギルドに通ってこの世界の文字や常識などを学んでもらうことになった。
選民意識の高い民族でもあるエルフの国で虐められないように、シュバイツ王子の連れだとわかるような、エンブレムほど豪華じゃないけどバッジを作って胸につけてもらっている。このバッジには黄色ちゃんと白色ちゃんが潜むための小さな魔石が仕込んでいて、もしものことがあったら俺や父さんに知らせが来るようになっている。
ところで、お屋敷を貸してくれた貴族って、クリスのお祖父さんのリーニング伯爵だった!今ロードランダの王都には誰もいなくて、お屋敷の留守の間に面倒を見る人を探していたんだって。
アリサねえちゃんとドルジはお隣のアルジル伯爵家に侍女のバイトに通っているし。丁度良いってことで。
二人が隣で培った、お屋敷の維持管理、つまり掃除とかその他のお部屋の管理とかを皆に伝えて、リーニングのお屋敷のほうでもやっていくと。
そのほか生活のことは合宿みたいなものだよね。
そして、魔界の人たちは他にもいたんだ。
アルバートン公の軍と戦っていて捉えた悪魔族たち。こいつらも俺のアナザールームに入れたら解呪されたのか、違う姿になっていた。
「「「ドルジ様」」」
「様はやめて」
こいつらは百五十人以上いるんだよねぇ。
いくらリーニング伯爵が善い人でも、悪魔族百五十人は無理だよ。
とりあえずアナザーワールドのほうで、話し合いのうえアンシェジャミンの方で、ダンジョンの農業を手伝ってもらうことになった。
リーニング伯爵のお屋敷にいてる人たちと交代で、講習を受けてもらうことになる。
隣のアルジル伯爵の先代たちは今アンシェジャミンで農場をやってくれているしね。
なにしろ、一番古いエルフの国にどっさりとよそ者を連れて行くのも迷惑そうだしね。
『そうか、それで大方あんたの空間から出たんやな』
「はい」
アナザーワールドの湖の畔に出したテーブルセットで、水の女神ウンディーナ神がミアの作ったプリン・ア・ラ・モードをお召し上がり中だ。
今日は薄衣じゃなくて、Aラインのワンピース。アクアマリンのような宝石がちりばめられていて。美しい水の女神様。
『じゃあもう後は二人だけじゃな』
大地の女神アティママ神は、今日は大地の女神なのに天女のような天平装束で、一六タルト風のロールケーキにフォークを入れている。小豆じゃなくて、苦めのチョコクリームをスポンジで巻いたスフィンクス謹製のケーキ。
テーブルの真ん中にはほかにもスイーツに、急須やティーポットが広がっていて、お菓子に合わせて、紅茶や緑茶、ほうじ茶などをチョイスできるように展開している。
「まずはタローマティを出します」
『うむ』
二重扉を出現させる。
コンコンコン
「さっき、予告したけど、どう?出てこれる?」
一時間ほど前、俺はタローマティを入れていたアナザールームにお邪魔した。
もともとペルジャーの民だった悪魔たちは、アナザールームに入れると、魔族化が解けて、でもその中では老化が進まず、元のヤマネコ人族や猫人族に戻ったので、老化の速度を水の女神のポットの水などで押さえて、魔界から来た魔族の影響が無くなっていると俺の鑑定にも出たけど、あまりにも人数が多かったのでペルジャー王国の王都とベルアベル町の冒険者ギルドに分けて面倒を押し付けた(だって元は共和国の人たちなんだもん)。
王都では、解放された王城の整備や、保護していたプリネイ王国やケティー公国の民の移動のこともあるし、人手が幾らあっても足りないのだ。
ベルアベル町でも、砂漠から西に行く街道の整備が始まるので、こちらでも人手が幾らでも必要だ。
住むところは何とでもなるそうで、良かった。
だけど、タローマティと偽アーリマンは変化しなかった。
つまりもともと魔界の魔族って事だろう。
俺は相手の油断を得るために精霊ちゃんサイズになって、女悪魔の部屋に侵入する。女性なので、着衣などが問題ないことは黄色ちゃんに確認済み。
俺がプリネイの王城から天蓋付きのベッドごと入れた部屋には、システムバスルーム付き。トイレ使ってたかな。
「おまたせ、タローマティ。あと一時間でここから一度出られるから」
女悪魔は、黒いバスローブのようなものをきてベッドにうつぶせに寝転んで、差し入れておいた本を読んでいた。
「君は誰?」
「俺は駿介」
「シュンスケ?」
「料理人さ」
「え?まさかあの人間族の少年?
え?うそ。ちっちゃっ。その姿は精霊?」
「そ、ほんとは人間族じゃなくてね。まあとりあえず準備だけしててよ」
「わ、分かったわ。あ、消えた」
というわけで、二人の女神さまの傍らに扉を出したんだ。
ガチャリ
タローマティもアナザーボックスを持っているらしくて、自前のワンピースというかドレスを着て現れた。オニキスや黒ダイヤモンドでできたようなネックレスを幾重にも胸につけていて、二の腕や手首にもアクセサリーが光っている。
顔は人間のようだけど、少し紫がかった肌の色に赤い瞳縦長の瞳孔。すべての光を取り込むような艶のない真っ黒な髪は地面で引きずられている。そしてミノタウロスと同じ太くてうねった角。
俺の固有空間に入ってても姿が変わらないということはもとからこの姿ってことかな。
「シュンスケ、あなた料理人だって言ってたのに、全然違うのね」
「まあまあ、説明するからとりあえずここに座って」
「小さくなっちゃってるし……ってこの女たちは何者?只ものじゃないわね」
俺たちのやり取りを伯母様たちは黙って見ている。
「紹介するね。こちらは、君たちが荒らしたゼポロ神の世界の大地の女神アティママ神様」
「……神……様?」
「そう」
「そしてこちらが、君たちが汚した水の女神ウンディーナ神様」
「……この人も神?
そんな、神なんているわけない」
「君たちの世界には神はいなくなったらしいけど、僕らの世界にはいらっしゃるんだよ。主として七柱いらっしゃって、そのうちの二柱がこの方々」
「そ……そんな神をどうしてシュンスケみたいなのが一緒に要れるのよ」
『タローマティといったか。この子のことはどうでもいいじゃろ』
『そなたに詳しく話すことはない』
「な……に……ぐっ。この威圧?でもないわね。魔王のとはまた違う」
もともと青白い顔色が悪くなってくる。
「伯母様方、ちょっと神気をおさえて」
「おばさま?神をそんな風に呼べるの?お前は」
「そ、それよりお菓子食べる?甘いもの好きだろ?
ほら、前もシフォンケーキとアイスクリームを旨そうに食べてたじゃん」
「確かにあれは美味しかった……けど」
自分が荒らしに来た世界の女神が同席しているなんて、お仕置きが待ってるとしか思わないかな。
「まずは俺からね。ドルジにある程度聞いたんだけど……」
「ドルジ?あのもと捕虜の女」
「君の世界では、君のお父さんが魔王として君臨していて、自分たちの領土を広げる戦争をしてて、魔素が不足したから、このゼポロ神が作った世界にやって来ては自然を破壊して魔素を魔界に持って行ったと」
「……そうね。魔族はとにかく暴力が好きで、それだけなら自分の体を張ってやればいいのに、魔法迄使って暴れるの。あらゆるものを破壊して力を誇示するのだわ。
でも、実は肉体の力の強い物には魔力はそれほどないの。魔石とかそういう物を借りて攻撃魔法を放つのよ」
「とにかく暴れたいと」
「でも、純粋な魔物や魔獣にはない知性があるから、自分のテリトリーは豪華にしたいし、破壊しながら手に入れた新たなテリトリーは外に自慢をしたいがために整えるの」
「うん、新しい領地になったら面倒を見るんだね」
「だけど、負けた相手には容赦はないわ。捕虜にしたり奴隷にしたりして使うの」
「じゃあ、領地が増えても領民が増えるわけじゃないんだね」
「そうね。そして土木や建築をするにも魔法の力業でやるから、長持ちしなくて」
脳筋にしてももうちょっとやり方ないのか?
「魔王の近くには政に詳しい人とか、知恵のある人とかいないの?」
「そう言う人は、戦がしたい役職の人が立ちはだかっていて、お父様には近付けないわね」
『其方の父には先代はいないのかえ?』
アティママ神が檜扇をもてあそびながらタローマティに訪ねる。
「居ないわ。父が魔族を纏めて国を興したのよそれは四千年前」
四千年も方々に戦争する国を治めるって凄いな。
『愚かな事よの』
ウンディーナ神もつぶやく。
『国を治める目的がこっち人たちとの常識とはかけ離れてるえ』
『世界が変われば常識も違うんやろ』
「だけど、戦に負けた相手の国民を捕虜にしたりするのは、される方が苦痛なのは誰でも一緒だよね。挙句に操られて心にもない自然破壊を一緒にさせられてさ」
「父は負けた経験がないから」
『ふむ、それなら一度負けを経験させてはどうか』
『あんたなら勝てそうやろ?』
二柱の女神はニコニコと俺の頭をなでる。
「……いやいや、伯母様達!そもそも魔界への穴が閉じられたのにどうやって攻めるんですか!」
『穴を閉じたんはあんたやろ』
「俺?」
『ずうっと前、二千五百年前に閉じたんも、あんたなんやで』
夢で見た風景?
「あの雷?おじい様じゃないの?」
『ゼポロ神は未来からの援助や言うてたからな。あんたやろ』
「うそ……」
「二千五百年前のまさかあの?」
『せや』
『そして、先日のもな』
「シュ…シュンスケ、お前は何者?」
「ごめん、魔界に帰りたかったよな」
生まれ故郷に帰るチャンスを俺がつぶした?
「いいえ全然」
「そうなの?」
「あんな、戦争ばっかりでボロボロの世界なんて帰りたいと思わないわ。
魔王の父は四方八方に恨みを買ってるし、なんなら他の世界にも。そんな娘なだけでどれだけ嫌な目にあっているか」
彼女はそんなに脳筋ではないのか…。
「だけど、アーリマンは、魔王の近くの要職に就きたがっていて。魔王城に行きたいと言うかもしれないわよ」
「アーリマンって元はあいつの名前じゃないだろ?」
「ええ、もともと名前さえない下っ端の兵士よ」
「だけど彼の名前はアーリマンで定着したよ」
「どういう事かしら」
「本物のアーリマンは改名したんだよ。だから悪魔のミノタウロスが今はアーリマン」
「なるほどね」
「アーリマンはタローマティの夫?」
「いいえ」
「でもこちらの人々や、魔界の人や魔族の人々は、タローマティがアーリマンの第一婦人で、そのほかの女悪魔も皆アーリマンの女だって言ってるし思ってるんだけど」
ドルジは否定していたけどさ。
『そういえば、妾が預かってるムーシュって子もそう言ってたのう』
「な……あんなミノタウロスなんて……私の言うことを何でも聞くから傍に置いただけで、私の方が王女なのよ。もと妖精のアーリマンならまだしも」
「タローマティ……」
「ねえシュンスケ、元のアーリマンはどこに行ったの?ガオケレナの中?」
「それは言えない」
「ちっ」
『タローマティと言ったか、そなたもう少し反省が必要じゃのう』
『じゃな、どうする?預かろうか?』
「お願いできますか?」
正直、魔界の魔王女なんて俺の手に負えないぜ。
「え?ちょっとシュンスケ!」
「ごめん、もうしばらく待ってて」
『わかった、任してたも』
パチン、バン、シュン
アティママ神は、たおやかな指先を鳴らすと、出しっぱなしだったアナザールームの扉にタローマティを吸い込んでそのまま扉を消してしまった。そして、俺からその空間へのつながりが消える。
「有難うございます。アティママ伯母様」
『また、魔界の入口が空いたときに、あの子がおったら面倒になるやろ』
「そうですね」
『次に入口の隙間が空いたら、あの子を向こう側に放り込んでしまおう』
それはそれで可愛そうな気もするけど。
『第一はこちらの平和やからな』
「そうですね」
摘まんだクッキーがほろ苦いのはなぜだろう。
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