228【ガオケレナの次男】
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赤茶色の髪と目の青年を乗せた緑銀色の鬣の龍がペルジャー共和国の東、ケティー公国の砦の城に向かう。
「あれは何だ?」
「ドラゴン?」
「ドラゴンにしては、羽がないぞ」
「魔物か!手足の付いた蛇!」
失礼な!龍だっちゅうの!
砦の高台を見守っている黒い悪魔たちが騒いでいる声を黄色ちゃんが拾ってくれる。
今まで見た、ミノタウロス化した悪魔と違って、なんだか少し大きなゴブリンのようだ。
普通の小鬼には小さな角が一~二本生えているんだけど、こいつらは角だけが立派なミノタウロスのようだ。そしてゴブリンより鼻が短くて鼻の下が長くて……原人?っぽい?いや猿だね。
ミノタウロスの角の生えた猿。全体的に真っ黒で、目だけ赤い。
ただ、野生のゴブリンやミノタウロスと違って、色々な種類の軍服を着ている。それも黒いんだけどね。
それを見て、ウリサが認識疎外のマントを黒っぽいグレーが外側になるように着直している。降りるときは、伯父さんのローブとかを黒い方を表にしよう。
「ドラゴンはどこに行った?」
「ドラゴン消えた」
「ドラゴンなんて恐ろしいんだから消えた方がいい」
だから龍なんだってば。
ウリサと俺は、砦の一番上のちょっとした塔の上に降り立っていた。
そこにいる悪魔のホエザル族には見つかっていない。
そこから階下へ螺旋階段で下っていく。
“こっちこっち”
“ころぶなよー”
塔を下りきったら、石畳の広場のような所に出る。そこに二つほどの三角屋根の塔屋があって、そこからまた下り階段が始まるようだ。
“うりさ、こっちのかいだん!”
“おう”
塔の出口から遠い方の塔屋を精霊ちゃん達に誘導される。
俺たちが向かっているのは地下なんだよね。
だから、まだまだ階段を下る……んだけど、座って鼻を穿っている黒いホエザル兵が居たのを飛び越えて、さらに下る。
「うん?なんか風が?……砦は変な風が入るよね」
階段を下りきったら廊下に出る。
“こっちこっち”
まだ、目指している地下にはたどり着かないけれど、外が見える窓が少なくなってきた。
窓と言っても四角い穴が開いているだけで、ガラスや木の板とかは入ってなくて、雨風が入り放題の窓だ。
精霊ちゃん達に誘導されて、廊下の向こうに現れた下り階段をさらに降りる。
“本当に戦のための砦だな”
“迷子になりそう”
“ダンジョンが苦手な奴には住むのは無理だな”
“まじか”
“本当にこんな殺伐とした砦であの子らが生まれたのか?”
“まあ広そうだし、住む区画もあるんでしょ”
“そうかもしれないけどよ”
“あのとびら!”
紫色ちゃんの小さな人差し指が指し示す先には、真っ黒で重たそうな鋲がいっぱい並んだ鉄の扉があって、その周りを真っ黒な粉が吹いているかのように漂っている。
“あの黒い粉は?”
“うりさはさわっちゃだめよ!”
“おうじ!したをみて”
扉の下には中から真っ黒な見覚えのある液体が滲みだしていた。
その液体の表面も小さくうごめいている。
“こいつら、まだ存在しているんだ!”
それは、〈病瘡妖精種〉女悪魔のムーシュや、デモンサージェントMっていうミノタウロスの魔界の悪魔が広げて、リザードマンのエスカーザや、ゴブリン達を感染させていた質の悪い病原菌。
ミグマーリが苦しんでいた、三日月湖やペルジャー王都の湖を汚染していた毒のようなもの。
“病瘡妖精種は魔界から来たものではないのか?”
『こいつらは、この世界にいる妖精のようなものだ』
声がする方に向くと、物陰になっていて気が付かなかったけど、ゴブリンのような存在が座り込んでいた。小さくて細い手足。多分身長は六才児の俺ぐらい。ただ、シルエットはゴブリンに似ているけれど、茶色っぽくて、枯れ木のような色と手足だ。
「君は?」
『俺はガオケレナの息子のキマ』
「じゃあバオのお兄ちゃん?弟?」
『バオを知っているのか?』
「うん」
『俺はバオの弟だ、まあ兄弟の概念は人とは違うがな』
「ふうん?」
『バオは種から生まれて、俺は挿し木で生まれたからな』
「なるほど」
俺とキマのやり取り中、ウリサが警戒してくれている。
聖属性魔法をキュアが振りまいてくれているので、黒い扉の下の病瘡妖精種だまりは小さくなっている。
「キマはこの砦を守っているの?」
『ああ、俺の根はこの辺りを張り巡っていて、この砦の一体の地盤を守っている』
だけど、やっぱり枯れ木のようだ。
「キマはちょっと枯れかけ?」
『ふっ言うなよ』
「じゃあ、お水をあげようね」
アイテムボックスからコップを出して、そこに水の女神さまのポットから水を灌ぐ。
「どうぞ」
『これは?』
「あっちの世界樹の所の水」
『そうか。ありがとう………うまい。』
「おかわりあるよ」
『うん』
お水をコップ二杯飲んだキマの姿が変わっていく。
「キマって、妖精王に似てない?」
『そんな恐れ多い』
「アマビリータに似てるなぁ。キマの方が少し男らしい?」
『俺はこんな言葉遣いだけど、性別は無いぜ』
そう言って、さっき枯れ木と言ってたのに、生き生きとした大きな妖精の姿を見せる。
三角帽のおっさんと違って、もう少し高位な妖精なんだろうな。
「ところで、この黒い扉の向こうには何があるんだ?」
『魔界の魔王の何からしい』
「魔界の魔王?がここに居るの?」
『いや魔王のゴミらしい』
「魔王のゴミ?」
『あれを何とか処分できないかと、思っているんだ』
「わかった!」
『だが、ゴミの周りに猿共が……』
「たくさんいるんだね」
『ああ』
「わかった。俺たちは反対側の掃除もしたんだよ」
『反対側?』
「プリネイ王国のね」
『そか、あっちの悪魔は?』
「もういないよ」
『そうか……俺には何も出来なくて。頼めるか?精霊王子』
「ちょ、俺の名前は駿介」
『ふふふシュンスケ。頼む』
「まかせて!」
“キュア、もう触れそうか?”
“だいじょぶうりさ”
“いちおう、てぶくろしておいてね”
“おう、これは破れてねえよ”
もちろん皮手袋を嵌めてらっしゃいますよ。
ギィーギリギリギリ
重くて嫌な音を立てて鉄の扉が開く。
「ダレだ!」
「ナンだ!」
「ナンダナンダ!」
地下のくせに、五メートルほどの天井の高い謁見室のような空間が現れた。
その中には沢山の角の生えた黒いホエザルと、奥に一体、身長三メートルちかい圧倒的な存在感のある黒いミノタウロスがいた。
「何だお前。旨そうなガキだな」
「ダハーカサマ、こんなヤツをクうので?」
「こいつを食えば、膨大な魔力を得られるぞ」
「なんと!さすがダハーカサマ」
ミノタウロスはダハーカというみたいだな。
「ダハーカ?お前は魔界から来たのか?」
「俺様は西の砂漠の生まれよ。生まれた時は森だったがな」
「ということはお前は四千年前からいるのか?」
「まあな。ミノタウロスは森にいるのだ」
「お前はもともとミノタウロスなんだな」
「そうだ。魔界から来た悪魔もこういう姿だった」
「それは(偽)アーリマンだな」
「ああ。そんなことはどうでもいい、お前俺に食われるのか?」
「そんなわけあるか!」
「おい、ホエザルども、あのガキを捉えろ!」
「「「「おー」」」」
サルが俺に向かって一斉に集まってくるのを、上にジャンプして避けようとしたけど、相手もサルだから、跳躍が得意だった。でも、
「へへーん。俺の方がさらに上に飛べるぜ!」
翅があるから!
そうして、ウリサが身を隠しながら一番上座のミノタウロスの後ろに行く。
そこには確かに、何か黒いものが置いてある。
俺も飛んでいる天井から見つめて鑑定すると
〈魔界の魔王の角:四千年前に魔界から持ち込まれたもの〉
魔王の角って取れるの?鹿みたいに生え変わったりして。死んだとか滅したってことは娘のタローマティは言ってなかったからね。
「おい、ミノタウロス」
「なんだ」
「魔王の角は何に使うのだ?」
「これを、ちょっとずつ削って同志を作るのさ」
「ああ、それを埋め込まれるとみんな悪魔になるんだな」
「そうだ。お前もやってみるか?
悪魔になると、魔力が段違いに多くなるんだぜ」
「断る」
「なに!」
「これ魔力は十分にあるからね!」
「なにを!」
「こんなふうに!」
そうして、俺は天井に浮かんだまま。聖属性魔法をこの広くて大きな空間一杯にまき散らす。
「何をする!」
「なにって、ゴミの掃除。ほら」
俺は魔王の角を指さす。
「な。魔王の角が小さくなっていく!やめろ!
おい、サル共、そのガキを殺れ!」
角の生えたサルたちから、投げナイフや槍などが飛んでくる。
それをひょいひょいと避けると、天井に刺さらない武器がそのままサルに向かって落ちてくる。
「ギャーなにすんじゃー」
「なにって、投げたら落ちるのは重力があるからでーす。俺のせいじゃねえ」
魔王の角にかぶさるように、ミノタウロスが俺の魔法から遮断しようとする。
「そうはさせるか!」
ウリサがミノタウロスに剣を振る。
「なんだお前いつからいたのだ!」
「俺は初めからここに居るぜ」
「どけっ」
「魔界のゴミに頼らなければいけないなんて、大したことないぜ」
「なんだと!」
ミノタウロスが魔王の角から離れてウリサに掴みかかろうとする。
それをうまく避けながら剣で切りかかりながらウリサが誘導して、ミノタウロスと魔王の角の距離を離していく。
「ま、こんなのは隠せばいいから」
俺は小さく新たに作ったアイテムボックスに単独でそのゴミを入れる。
「なっ!魔王様の角が消えた!」
「抜け落ちた角なんてゴミだからな」
“ごみはすてなきゃね”
「普通のミノタウロスの角はレジンの材料だけどね」
「なんだと!」
「さて、仕上げに……
隷属解除
ここが最後なんだ!」
「なにが……オレはどうしたんだ……」
ミノタウロスの老化が始まる。
ホエザル人族は人だけど、ミノタウロスはもともと魔物だ。
こいつを助ける必要はないのだけど……。
「ミノタウロス、四千年前から、森を壊し、ペルジャーの自然を破壊してきたのか?」
「ああ、魔素を集めて実績を積めば俺も魔界に呼ばれて四天王の地位をもらえると、タローマティ様に言われていたのだ」
「それでずうっと、魔素集めをしていたのか?」
「ああ、魔界から持ってきた魔石は、この世界の魔石より魔素が沢山入るのだ。それを何度も魔界に渡していた……」
「四千年もそんなことをしていても、報われていないんじゃねえか」
ウリサが俺が考えている疑問を言う。
「悪魔なんて、約束を守るのか?」
「……それは分らぬ。ただ、いつも魔物のおれに夢を見せてくれたのだ」
「それが魔界での地位か」
「そうだ」
「この世界の自然を破壊したのはお前ひとりではないだろうが、どう思うのだ?」
「それでも魔界での地位が欲しい」
「魔界がどんな所か知らなくてもか?」
「あちらは素晴らしい所だと聞く」
「争いが多すぎて、この世界の魔素を奪っているところでも?」
「俺はもともと暴れるために存在している」
ミノタウロスは元の茶色い水牛のような色に変わっていく。ただ、そのまま痩せていく。
「ミノタウロス。俺が解放したほかのミノタウロスはこのシュメル山脈の森に帰っていった。君も森で暮らすならその老化を止められるけど?」
「俺は、この地のミノタウロスではない。よそ者だ。魔物には持って生まれた縄張りがあるからな」
老化が進んで、動きが鈍くなっている。
「そうか。じゃあしばらくこっちに入ってて」
そうして一つのアナザールームにミノタウロスを収容する。
その空間の近くには、プリネイの元王のボルリアのアナザールームもある。今度まとめて女神さまに引き取ってもらいたい。
ミノタウロスの姿が視界から消えると、多くのホエザル人族が座り込んでいた。
そいつらにウリサが紙コップを配って回っている。
「シュンスケ。水を」
「はーい」
水の女神さまのポットからは俺が注がないと効果がないからね。
でもここはクインビー仕込みのマルチタスクを皆で。
もう一度天井近くに飛んでいくと空中でポットを傾けると、ユグドラシルの美味しい水で大きなウォーターボールを作る。
「さあ!青色ちゃん!黄色ちゃん!」
“おっけー”
“まかせて!”
“さんじゅうにん、ぐらいかんたん!”
パァン
大きなウォーターボールは、弾けるように小さい沢山のウォーターボールに分離して、ホエザル人族が持ってる紙コップに入っていく。
「みんな、それを飲んで!早くしないとしわしわの老人になるよ!」
「「「「おおっ」」」」
老人になるのは嫌なのか一斉に飲んでいる。
エリクサーじゃないからな。もう少し飲んでもらわないとね。
「二杯目行くよー」
“みんな、この部屋に居ないホエザル人族を呼んできて”
“わかったー!”
“あたしたちのこえ、きこえるかな?”
『それは俺も手伝おう』
鉄の扉から、キマが入ってきていた。
「頼むよ」
『まかせて』
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