227【ケティー公国】
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
「シュンスケ、馬車の用意が出来たぜ」
「ありがとうラシアン」
「こんな細かいことにいちいち礼を言うなよ」
初対面の時より少し若くなってすっかりイケ猫人族のギルマス、ラシアンがそれでもワイルドに話す。
「癖で言っちゃうんだよ。言わないと気持ち悪くて」
「お前さん王族なんだから、もっと偉そうにする練習した方がいいぜ」
「その前に、ギルマスが王族相手の礼儀を学び直す方が先なんじゃないの?一応貴族様なんだろ?」
「こう見えてもちゃんとした所では出来るぜ」
「ははは」
「シュンスケさん」
「あ、アルバートン公行きましょうか」
「はい。こちらです」
「さっきの子供がシュバイツ殿下なの?」
「シュバイツ殿下は子供に決まってるジャン」
「だって、シュンスケって呼ばれていたし黒髪の人間族だし」
「アルバートン様が敬語だったぜ」
「それに精霊王子の姿だったら目立ちすぎるだろう」
「そうよね。魔道具でも持っているのかしらね」
そんな雑音が聞こえる中、馬車に乗る。
馬車の周りには騎馬兵士が二人、そしてウリサがハロルドに乗っている。
二人の騎馬兵が前に、馬車の中はアルバートン公と俺、そしてハロルドとウリサが馬車の後ろを守るというちょっとした列になって出発する。
「はっ」
馬車の馭者はハーフ猫人族。キャッツアイズの人たちのように猫耳やしっぽがなくて、瞳だけが猫のような縦の瞳孔だ。
一般の馬や馬車に全然馴らしてない俺は、こっそりスライムクッションを尻の下に敷かさせてもらう。
初めて陸を行くベルアベルから北へ向かう街道。以前ここで保護したゴブリンたちが今はアナザーワールドにいる。
“どう?悪魔にされた人たちはいない?ゴブリンとか”
“だいじょぶ”
精霊ちゃんは俺の大事な索敵友達だ。
“了解”
「この道はずいぶん平和になりましたね」
「そうなんですよ」
「二か月前に、龍で飛んだ時は黒く操られていたゴブリン達がいましたからねぇ」
「あのときに上から彼らを解呪してくださって、人々を助けていただいたとか」
「解呪したとたん、ゴブリン達は良い子でしたよね」
「はい」
途中で二か所ほど、馬達を休めるために集落や村に立ち寄り、街道はシュメル山脈の麓に突き当たってT字路を東に曲がる。
西へ曲がるとペルジャー王都に行ってしまう。そっちはまた今度。というか何度でも行ってるから、馬車移動はいらないんだけどね。ケティー公国は初めてだから案内してもらわないと。空からなら行けるけどさ。
すると、シュメル山脈の南東の山肌に無数の穴が見えてきた。そして平地には日本育ちには郷愁を誘う藁ぶき屋根風というか藁ぶき屋根がメインで壁が少ない。
「あれが?」
「あれがケティー公国です」
「面白いですね」
「この地方はシュメル山脈麓の他の地域に比べて、森が少なく、裾も建材にできるような木は生えず、なので、古くはガオケレナ様の根だった後に開いた穴を利用したり、山肌に穴を開けたりしてそこに住み、平地で農耕をするものは、ペルジャー王国から少しの木材を分けてもらって、麦藁葺きの屋根の素朴な家を建てて住んでいます。
「なるほど」
そんな中でもさらに東の端には、砦のような堅固な建物が見えてきた。
「あれが、公爵の建物なんですね」
「はい。あれはこのペルジャー共和国をさらに東側から守る砦。あの中で子供たちは生まれました。今は入ることが出来なくなっておりますがね」
「これは、何としても取り返したいですね」
「ですが、あそこを追いやられたホエザル人族がまた放牧の民に戻り彼方こちらを食い荒らすのも困るのです」
「たしかに」
でも、日本育ちにしたら東寄りの南側は陽当りも良くて、植物などは育ちやすいはずなんだけどなぁ。
あ、やっぱり水が……。
「ケティー公国の方に流れる川や湖などの水源が無いんですね」
「はい、やはり内陸は雨が少ないですからね」
夏の湿度に悩まされるほど水が豊かだった日本人には考えられないけれど、たしかに空気も乾燥している。
“あれ?大昔はこっちも森だったんだけどなぁ”
ハロルドから念話が来る。
“そうなのか?”
“えーっと王様がまだ妖精王だった時?”
“なるほど?白色くーん”
“おう、じょうくうからみてくるんだな!”
“ミルクブールバード河みたいな河の跡ないかな”
白色くんの視界が、切り替わる。別の白色君だな。
シュメル山脈の横穴が沢山開いている山肌を過ぎた所に、切り立った渓谷が見えてきた。
渓谷の下は道のようになっていて、それはケティー公国のド真ん中を通ってこの街道に続いている。
この街道は、先ほど曲がったT字路までは、先日は汚れていたミルクブールバードに繋がる河が、ペルジャー王国の紅葉型の湖に繋がっている。その湖には、シュメル山脈の向こうのガオケレナの麓から流れている水が来ているのだ。
“もしかして、ガオケレナの周りの泉ってもっと大きかったのでは?”
“大きいのじゃなくって、あっちこっちにあったんだー”
“その一つはケティー公国の所にも流れていたのかなぁ”
“空から見ただけだけど、森が深かったから小さい川は分んなかったけど、そうかもしれないね”
“今街道に使っているのは元は川かもしれねえってことだな”
ウリサも念話に参加。
俺が黙り込んでいると、寝ていると思われちゃったかな。
「シュンスケさん?」
アルバートン公が静かに呼びかけてきた。
「あ、ゴメンナサイ。ちょっと聞いていいですか?」
「はい」
「あなた達が、ガオケレナを守るために悪魔と戦っていたのは、ガオケレナの東側に近かったですよね」
「はい、ケティー公国からガオケレナに通じる渓谷がありまして、シュメル山を超えるよりは近いんですよ」
「なるほど」
「その渓谷の下がもともと川だったとは聞いたことは無いですか?」
「川ですか?」
「ハロルドによると、父がまだ妖精王だった時はこの辺りは森だったそうです」
「なんと」
「何かの要因で、あるいは魔界の魔族の仕業かもしれないですけど、この一帯の魔素を奪うべく自然を破壊したのかもしれません」
「ふむ」
馬車を行く道はだんだん両側が崖のように盛り上がってい続いていく。道の方が緩やかな下り坂なのかも?どっちか分からないけど、この道が周りより低い筋なのが分かる。とは言えまあ高くても二メートルぐらいだ。グリーンサーペント河と比べたら元〈川〉かも。
馬車の窓からは周りの風景がずうっと崖だほとんど見えない。北側にあるシュメル山脈の雪の積もった峰が少し見えるだけだ。
「やっぱり、この道は川だったかもしれませんね」
道幅は十メートル程。一車線ぐらいかな。馬車がすれ違うことが出来る程度の幅だ。
「川ですか?確かに川の跡のように見えなくもないですね」
「はい」
とはいえ、川を復活すれば、道が無くなってしまう。こういう時はどうすればいいのだろう。
そのまま白色くんの視界を借りて、道に沿った地域を見る。
そこに広がるのは麦畑と、牧場、そして麦藁葺きの家。
これならちょっとずらすことは出来るんじゃないかな。
しかし、この地を離れて移動するというケティー公国に川を復活したり道を作り直す予算は無いだろう。
“みちのりょうがわの、がけのうえにそって、のうどうみたいにしているみちはあるっぽい”
“それをしっかりした道にすればいいかな。でもすごく大きな公共事業になってしまうよね”
悪魔に悩まされていた、この地域にはそんな予算は無いだろうな。
しかし、自然を取り戻すにはそれしかないんだけどなぁ。
“提案だけして、ゆっくりやってもらえばいいんじゃねえか”
ウリサが伝えてくれる。
“そうそう!考えてくれるだけ、ありがたいんじゃないの?”
ハロルドも気楽にするようにと言ってくれる。
“ガオケレナに相談だな”
“うん”
“そうだ。急ぐべき案件じゃねえよ。トルネキ王国の時と違ってな”
“そうだね”
ケティー公国はのどかな国だ。
「アルバートンさん。ちょっと相談があるんですけど、落ち着けるところに行ったらお話ししますね」
「はい。お願いします」
頷く猫人族。可愛い姉妹によく似た微笑みなのにイケメンってどういうことだと思いながら俺も頷く。
馬車は、緩やかなカーブを道を渓谷に向かっていたが、途中で上り坂になっている横道に入っていくと、町の全容が目に入ってきた。公国の中心地だというのに、街というより町だ。ポリゴンぐらいの規模じゃないかな。
そして、馬車はそのあたりで大きな三つの建物が並ぶ前に止まる。
看板などを見てわかる。冒険者ギルドと商業ビルド、そして少し離れて教会だった。
商業ギルドは、プリネイ王国のように封鎖されている。
やっぱり、人の営みが少ないと商売にならないんだろうな。だから商業ギルドの役割も冒険者ギルドの中で肩代わりされている。
古書の街は逆だったけど、両方が機能しているところが栄えている街の目安なのかもしれない。
『ぼく、ガオケレナのところに行って来て良い?』
「むしろ頼むよ」
「うん!」
装備を全部アイテムボックスに仕舞うように外すと、彼は透明になって飛び立つ。
俺とウリサには見えているが、他には分からなかったようだ。
「あの白馬はどちらへ?」
兵士が聞くのにウリサが
「飛んでいきましたよ」
だって。事実だしね。
アルバートンさんは冒険者ギルドの横から宿舎に繋がる通路を通ってそのまま二階に上がっていく。
寝室が二つある部屋が彼が住んでいる部屋だった。それは初めて俺がこの世界で寝泊まりしたのと同じ間取り。そんな小さな部屋で、小さめというけど国の執務をこなしているだけでなく、世界樹を助けに戦っていたなんて。
「公務をこなすのには部屋数が必要でしてね。私は着替えてきますゆえ、こちらでお待ちください」
ガチャリ
「おい、帰ったぞ。殿下たちを頼む」
片方を執務室にしているようだ。ベッドは無くて机とソファセット。いたるところに書類が積み重ねられていた。
こんなに書類仕事があるのに、戦いにもいくなんて、寝る時間あるのだろうか。
もう一つの机には猫人族が何やら書類に向き合っていた。
せめてシルエラさんを帰すべきでは。
「よくいらっしゃいました、シュバイツ殿下。私が公爵の執事長です」
「お忙しいところ失礼します」
「ささ、お座りください」
ソファに座っていた書類を退けていって、テーブルも同じように開ける。
隣の寝室で着替えてきたアルバートンが座ると、執事長がお茶をテーブルに置く。
ウリサは俺の後ろに立っている。
「まずいくつか俺から言って良いですか?」
「はい」
「貴方が必死で守っているこのキティー公国を、正直捨てることは出来るんですか?」
「……たしかに、私はこの国で生まれ育ちましたからな。先祖は砂漠の滅びた国を守っていたと言われてもピンときませんでした。おとぎ話のようですし」
そう言う公爵に俺は頷く。
「それに、農耕をされている方が多いというということは、この地に根付いているんですよね」
「はい」
「もう少し国民の皆さんに聞いて議論を重ねる必要はあるのではないですか」
「そうですな。特に年老いたものなどは移動は骨折りでしょう」
「ですよね」
「では、あの砦のホエザル人族を何とかして、この国を豊かにすることの方がさきにするべきことですね」
「はい」
将来の人々のことより、今の人々の幸せの方が先だ。
「きちんと調査をしてからの話ですが、さっきも言ってた通り、渓谷の向こうから昔あったはずの川を復活することが出来たら、もうすこし麦畑への水やりが楽になると思うし、何よりもう少し緑化が復活して薄くなった魔素が復活すると思うのです」
「そうですね」
「トルネキ王国の学園に地質学者の教授がいますので、その人に詳しい調査を依頼するのもいいかもしれないですね。あ、ペルジャーにも地質学に詳しい人はいるかな。先にその人に聞くべきかな」
「なるほど、シュンスケ様はかなり博識なんですね」
「いえ、俺は精霊たちからの情報をもとに考えているだけですよ。実際にこの目ではまだ見てないですし」
「でも、精霊王などはそうやって各地の自然を守っていたと言われています」
「ああそうらしいですね。では今から、ケティー公国の砦に入って、残った悪魔たちを見てきましょう」
「私も行きますよ」
「アルバートン公はここで待っててくれませんか?大丈夫そうなら呼びますので」
「……わかりました。殿下にお任せしてしまうことは心苦しいですが」
「任せてください」
俺はウリサと冒険者ギルドの前のロータリーに出る。
「どうやって行くんだ?」
「ハロルド化して、途中からミグマーリ化するよ」
「なるほど」
ハロルドはガオケレナの所に行ってるからね。
俺はささっと白馬に変身する。
『この後龍化するから、裸馬状態だけど』
「もう慣れたぜ」
そう言って俺が少し曲げた左の前脚にちょっと足をかけてひらりと乗る。
『よし行くよ』
少し助走をつけて翅を広げる。角は何のためにあるのか分からなかったんだけど、角があった方が風の抵抗を掻きわけることが出来る感じがする。
ある程度飛行が安定したら龍化する。
「ペガコーンから龍にすんなり変身できるようになったな」
『なんでも慣れだよね』
「すげえよ。まあ俺も龍に乗るのは慣れたかも」
『ふふふ』
グッドボタンお願いします♪
お星さまありがとうございます。
ブックマークして頂くと励みになります!
それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。




