226【冬休み終わり】
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正月二日目は、モサ島にペルジャー王国のベルアベルの冒険者ギルドに滞在していたアルバートン公と、ガスマニアの海の家にいたケティー一家にキャッツアイズの三人を加えて招待した。せっかくみんな揃っているのにすぐに離れちゃってたからさ。正月は家族ですごすべきだよね。ってなわけで、父さんも単独で来ている。
アルバートン公ははじめ、父さんとの会話に緊張していたみたいだけど、父さんが終始人間族というか日本人風の肌に黒目黒髪短髪で居たから、色々打ち解けていたみたいだ。
結局共通の話題は、国民の困った問題などの情報交換なんだけどさ。
バカンスのつもりで誘ったのに。
俺はたっぷりモササとダイビングで遊んで、素潜りで取った魚介類を晩御飯のバーベキュー用にスフィンクスに渡した後、マツやティキ、シェドー君と昼寝をしていた。
そうそう、ブーカはカウバンド領に冒険者の護衛と馬車で帰りました。ガスマニアの学園の正月休みは長いからね。
子猫(俺より小さいのはマツだけだけど)三兄妹より早く目を覚ました俺は、ダイニングで昼から軽くアルコールを楽しんでいた父さんと、アルバートン公、キャッツアイズの会話に加わった。
主にプリネイ王国の話だった。
「ということは、偽アーリマンとタローマティはもう居ないのですね」
「はい、俺の固有空間に閉じ込めています。他に、魔界から来たものでドルジと言う女性がいますが、彼女は魔界の中でも戦に敗れた国の捕虜だったそうで、魔王やその娘であるタローマティには恨みがあるようなんです。
今は魔族化を解いて黒山羊族に戻っていて、ロードランダの冒険者ギルドで色々な講習を受けています」
とはいえ、講習会も正月休みだから、アナザーワールドでカイセーや新人ゴブリン達とでなんと飛竜のひゅうの指導の下自主学習中だ。あの子は知的だもんな。それにしても正月なのに熱心だぜ。
「悪魔化が解けると元の種族になって老化が始まるのですね」
「はい。ですが、精霊の情報によると、まだケティー公国にいる悪魔化された人たちは元に戻っていないようで。魔界の者たちを排除するだけでは無理なのかな。でも勝手に解除されて老化が進まれても困るのでかえってよかったかもと思ってます」
「そうですな。
しかし、あの者たちは、アンジェシャミン王国から流れてきたものではなく、もとは遊牧の民で、砂漠を破壊しながら領土を広げていた者たちなのです。それで途中から魔族が混ざってさらに酷くなってしまって」
ケティー公国の城を占拠している悪魔たちは、元はホエザル人族で、まあ猿系の人だそうだ。
猫じゃないじゃん。
牛や羊を放牧しながら、そいつらに草を与え、木が枯れるまで木の皮を食わせ。猿たちも木の皮を食べる。そうして、草木が枯れて食べるものが無くなれば次の草原を求めて移動する。だから、彼らの移動した後はサバンナや砂漠になってしまう。もともと、ホエザル族はこの世界でも最も魔力が少なくその分を知恵で補う種族だそうだ。
「しかし、知恵は知恵でも悪知恵で」
キャッツアイズのリーダーは苦い顔で言う。
犬猿の仲というが、猫に嫌われている猿。
どうしても農耕にシフトが出来ず。猫人族が農作物と並行して牧草を育て、ホエザル人族が連れてきた家畜に与え、それ以上砂漠が広がらないように、シュメル山脈の麓で遊牧を止めるように頑張っていたのだとか。すごいねえ。
「だから、ケティー公国にいる猫人族を集めてアンジェシャミン王国に帰ろうと思っているのです」
「なるほど」
「それも良いですね。今ロードランダの隠居はしたけれどまだまだ若いエルフたちが数人ダンジョンで畑と牧場を整えているんですよ」
父さんも会話に加わる。
「そうそう、でもそこで収穫したり生産されたものを消費してくれる人々を誘致しないと勿体無いからね」
「それは、早く行きたいです」
「それにあそこの温泉は良いですよ」
「街道が整えば観光地としても栄えるでしょう」
「ああ、それは楽しみです」
「じゃあ、その元ホエザル人族の悪魔化を解除するのは、猫人族がケティー公国を離れてからでもいいか」
「それがいいだろう。ただ、魔界人が居なくなったというのに相変わらず他へ悪さをしないように見守る必要はあるだろうね」
父さんも大事なアドバイスをくれる。
「それは、妖精王やガオケレナや精霊ちゃん達とかいろいろな目があるから大丈夫だろう」
「妖精王はトルネキ王国に向かっているんじゃないのですか?」
「小さい妖精のおっさんが沢山シュメル山脈にいるからね」
「その妖精は大丈夫なんですか?」
「妖精は染まりやすいって聞きましたけど」
キャッツアイズが不安そうに言う。
「たしかに」
「大丈夫だよ、アマビリータやガオケレナも、以前と違って今は元気だから、妖精への影響も少ないだろう」
父さんがにっこりしながらチョコレートを摘まむ。
「このチョコレート美味しいなぁ」
「でしょ、スフィンクスって優秀なんだよ」
俺はミルクチョコレートとブラックコーヒーを頂く。この組み合わせも好き。
「とはいえ、どうなってるのかぐらいはこの目で見てこようかな」
「そうだね、気を付けて行ってくるんだよ」
「うん」
休暇がてらモサ島に来ているミアと、公爵夫人のシルエラさんがダイニングに加わる。
「ミアも座ってて」
「でもシュンスケ様」
「いいからいいから!」
キッチンで、ホットケーキをササっと焼いて冷たいミントティーをトレーに二組出していたら、子猫たちも起きてきたので五組分に増やす。
「はいどうぞ」
「まあ、美味しそうです」
「とっておき(日本のメーカー)のミックスで作ったんだ」
「良い香りです」
「そこへ、ロードランダのバターとメープルシロップをお好みで」
と添える。
「今日ははちみつじゃないのね」
マツが言う。
「蜂蜜も旨いけど、実はこっちの方がホットケーキには合うんだよね」
「おいしー」
「あまぁい」
「ほんと美味しいわね」
甘いものを食べている女性って可愛いよね。
「王子、あたしもいちどケティー公国に行きたいの」
「マツ?でも、あそこにはまだ悪魔がいるんだよ」
「でもあたしそこで生まれたんでしょう?お母さん」
「そうよ」
「だから、いちどは見ておきたいの」
「なるほど」
「私も小さい時に居たきりだから、今はどうなってるか見たいわ」
「その気持ちは僕も分かる」
三兄妹は同じ気持ちなんだね。
「そうねぇ。私はペルジャー王国出身だけど、子供たちはケティー生まれですものね」
シルエラさんはペルジャー王国の貴族だったそうだ。
「うむ……」
それを見ていた父さんが口を開く。
「では、アルバートン公と駿介が見てきて、行けそうだったらぱっと連れて行けばどうかな」
「それが一番安全だよね」
「ああ」
「じゃあ、精霊ちゃんにお知らせするからまってて」
「うん!」
「待ってます」
「「宜しくお願いします」」
ガスマニア帝都で、ケティー家が学園に通う間に住む家については、ペルジャー共和国の所有の不動産を建てようということになった。
皇帝所有の土地を賃貸して、その上に大使館を兼ねた建物を建て、その上に住むようにするそうだ。だからちょっと時間がかかる。その間は海のお屋敷に住ませてほしいってすごく申し訳なさそうに言われた。そして、キャッツアイズもそのままケティー一家の護衛としてガスマニアの海の家に住む。そっちはドミニクの実家のマルガン家所有だけど、オッケーが出ている。だって夏しか使わない建物だもん。人が住んでいる方が傷みにくいんだよね。建物って。
大使館なんてすごく良いよね。街道が繋がって、かなり距離はあるけど、ペルジャーからガスマニアに来る人が自分の国の大使館があれば心強いだろう。
その代わりにペルジャー共和国側にガスマニアの大使館を作るんだって。その大役は、わが友セイラード第三皇子が卒業してから請け負って、ペルジャーに赴き、事業を進めるそうだ。頑張ってもらいたい。
皆さん仕事が早いよね。
「駿介が、砂漠を超えた遠い国と国を繋げたんだよ」
ニコニコして父さんが言う。
「たまたまね」
「ふふふ」
なんて頭をなでながら言われても、マツたちの前だから恥ずかしいです。
一週間ほどして正月が終わった。学園はまだ冬休みだ。ブーカもまだ正月帰省してるカウバンドから帝都に戻って来ていない。
だけど、教授が学園にいるということなので、登園することにした。もちろんクリスと。
「元気そうだの。まああんまり成長してないがな」
「……教授、純粋なエルフに言われたくないです。教授も大人になるの人間族の三杯かかったんでしょ?」
「はて、二千年も前のことじゃから忘れとるがの。唯覚えているのは、まだ文明がここまで進んでいなくて、原始的な生活じゃったのはおぼえておる」
「へえ」
「お父上が暮らしていたエルフの首長の屋敷なんてものも。木造の平屋で、部屋数こそ広いが、あの寒いロードランダで魔法に頼って暮らしていたのじゃ」
「なるほど」
「今なら、建物の建築の機能で暖かさを保つ建物で暮らせるじゃろ?」
「そうですね」
そんな会話を聞きながら、俺の行く先々で起こったことをレポートにして提出した。
「プランツに聞いたんじゃが」
ロードランダ王の父さんに使える侍従長のプランツさんは教授の息子だ。
「なにやら大変だったそうだが、そろそろ落ち着くんじゃろ?」
「はい」
「じゃあその後は……」
教授から次の予定を打診されて、それはクリスもだったから、二人で大喜び!
「「ぜひ!お願いします!」」
来春の予定が決まる!でもその前にケティー家のことだね。
正月が空けて春に向けてワクワクするなんて、日本人みたいじゃない?受験の時以外はさ。新しい年度に希望を膨らますというかね。
まあ、ガスマニアやトルネキは欧米のように夏に年度の切り替えなんだけどね。
「グローブももう来とるから、寄っていきなさい」
「はい!」
俺はまだ続く旅に向けて、グローブ先生にハロルドの装備を再確認してもらいたかったから丁度よかった。
「おめでとうごさいます。グローブ先生」
「明けましておめでとうございます」
「おう、おめでとうさん」
『グローブ久しぶり』
「ハロルド様も元気そうだな」
『もちろん!僕はいつも元気!』
学園の地下工房では、もう炉に火を入れていた。ここの赤色君も元気。
だから冬だというのに結構暖かくて居心地が良い。
新しい提案をしてくれたグローブ先生に、ホブゴブリン達が開発した葡萄のブランデーを渡す。
「こ…これは!」
「ブランデーっていうんだよ。葡萄よりアルコールが強いから気を付けて飲んでね」
って言いながら、シュバイツマーブルで作ったコップも渡す。
「すまんな」
「いえいえ」
「さて、ハロルド様の装備の点検終わったぜぇ」
「ありがとうございます」
「なに、ハロルド様の装備にかかわれるだけで儂には誉じゃからな」
「そう言ってくださると気が楽です」
「はっはっはっ」
とはいえ、俺は忙しいので、このままグローブ先生の工房教室から直接、海のお屋敷に繋げて、クリスと帰る。
今はまだ昼前なのだ。
俺はせっかく久しぶりに着た学園の制服を脱いで、タナプス伯父さんに貰ったインナーとローブのセットにチェンジ。
コンコンコン
「はーい」
「シュンスケもう出るられるのか?」
「そういうウリサももう準備できてんじゃん」
「まあな。黄色ちゃんがタイミングよく教えてくれるからな」
寝室から階段を下りながら話す。
「さすが!俺の相棒!」
“もちろんよ!”
「王子、気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。マツ、待っててね。ケティー家の皆さんも」
「はい。無理はしないでくださいね」
玄関ホールでは猫人族が集まってた。その後ろにはキャッツアイズも。
「もちろんですよ。じゃあ」
「兄ちゃん気を付けて」
「ゴダも、サメに気を付けるんだよ」
「ああ」
アリサは昨日ロードランダに戻って、ドルジとの暮しを再開している。寒いけど、付与魔法もあるし、あっちの冬の服がおしゃれだから良いんだって。
アリサとドルジのロードランダでの仕事は、グリーゼ フォン アルジル伯爵家での侍女だ。クリスのお祖父ちゃんと、父さんの紹介でギルドの宿舎からの通いで昼間働いている。
ゴダはすっかり漁師だ。青色ちゃんと仲良しなのも、猟師としてのアドバンテージがあるらしい。あとは赤色君とも仲がいいので、毎日シャワーや風呂に入れる。まあ海のお屋敷は魔石も使っていて二十四時間風呂なんだけどね。
そうやってウリアゴは、皆大人だからそれぞれの活動にチェンジしている。
「さて、ベルアベルに行くよ」
「ああ」
街の様子を見たくて、ホールからそのまま遥か砂漠の途切れた所に転移する。
「やっぱりあまり温かくないな」
「そりゃ緯度が高いから、ガスマニアと同じぐらいの気温だろ」
「緯度?」
「砂漠よりは北だからさ」
「なるほど」
「お父さーん、お兄ちゃーん。おかあさんがよんでる」
「おーう」
声がしてそちらを見ると猫人族の少年と男性が小さな畑で作業をしている。
「おひるごはんできたから、かえりなさいって!」
「わかったー」
また別の所をみるとチラホラと人影があって、みんな元気に会話を交わしたり、作業をしている。
初めてここを訪れた時は、白骨死体やなんかがいっぱい転がっていた、恐ろしい所だったが……
ボロボロだった家々は修復されていたり、いままさに建築中の建物があったりしている。組まれた足場のそばには、この世界の建築でお馴染みのブロックの材料が置かれている。
砂まみれで雑草だらけだった街道終わりの石畳は奇麗にされていて、歩きやすい。
「ハロルドも出てくる?」
“うん!”
白馬のハロルドを出す。
『本当にきれいになったねぇ』
「二か月も経ってないのに早いな」
「景気が上がるときってこうなのかもしれないな」
「景気?」
「活気があふれて人々が元気で、資産が増えたり、豊かになるってことなんだけど。激しく良くなるのも問題があるんだよね」
あまり激しい好景気には注意が必要なんだけどね。ゆっくりゆっくり平和にね。
「豊かになるのに早いのはだめなのか?」
「反動が来るんだよ」
「へえ」
「モノの値段が上がりすぎて、逆に買い物できなくなっちゃったりとかね」
「なるほど。難しいんだな」
「そうなんだよ」
カランカランカラン。
ベルアベルの冒険者ギルドに入る。
「こんにちわ!」
「あら、シュンスケ」
「あ、カカの皆…ってまだガナッシュは王都なんだな」
「そ、一月の間ぐらいは王女として公務をしなさいって言われてるんだって」
「なるほど」
「シュバイツ殿下は公務はないの?」
「うーん、ロードランダでの仕事は無いなぁ。一応まだガスマニア帝国の学生だからね」
「そっか」
「何言ってるんだ、これからケティー公国に行くのは公務みたいなもんじゃねえか」
「そんな堅苦しい事ではないよ」
「とりあえず、昼飯がまだだから、レストランに行くか」
「うん」
今日もランチは美味しいチーズ料理だった。
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