223【気が付けば年末】
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城門越しに数台の馬車が到着しているのが見えた。
「シュバイツ殿下、ウリサ!」
「あれ?ネヴァさんと、カラコルム殿下!」
ギルドが連れてきた怪我人を補助するように一緒に歩いていたのは、つやつやの黒い毛並みのペルジャー王国の王太子殿下だった。
「なんか、風のうわさで、シュバイツ殿下がここで面白いことをすると聞いてね」
「「風のうわさ?」」
俺とウリサが思わず黄色ちゃんを見る。
“だって、そこのぎるどにいたんだもん”
「年末はお忙しいのでは?」
「シュバイツ殿下が復活してくれたペルジャーの教会も、まだ年末のミサをするにはスタッフが不足しててね」
「なるほど」
「司祭が派遣されるまでは年末年始の神事は、あっちは休むよ」
「本当ですか」
「そんな事より、ここでミサをするんだろ?」
「ミサって、司祭様のような説教は出来ませんよ。音楽会ですよ」
「なるほど」
「シュンスケ、一般の人も来ていそうだ」
「うーん、大聖堂に入りきらないよね」
「この城の中庭でいいんじゃないか?」
「たしか、音をいきわたらせる魔道具がありますよ」
城に詳しいネヴァさんが言う。
「魔道具?」
「ええ、国中に触れを出したり、災害の時に避難を呼びかけたり」
町内放送のようなものか。
「その制御するところは城ですか?」
「たしか教会にもあります」
「わかりました」
「では私が説教は無理でも経典の冒頭を読み上げるぐらいはしましょうかね」
「お願いします!」
「いえいえ、この教会でミサが出来るなんて、千年以上ぶりだと思いますよ」
「教会は建国前からあるんですね」
「そうです」
「じゃあ、あとはお願いします。ミサ用の服に着替えますから」
「分かりました」
「私も城の自室から正装をひっぱってきましょうかね」
とはいえ、助祭の服は子供服しかないんだよな。しょうがないよね。
年末年始は金色の飾り襟。
この大陸の教会もどこでも同じ造り。
二階には控室に出来る音楽室がある。
そこで、すこし指慣らしと発声をして落ち着く。
最近も色々あったもんな。
“ぼくも王子のお歌、外から聞きたい!”
ハロルドのおねだりには弱い。
「んじゃ音楽室に大聖堂に張り出したテラスがあるから」
「よし。俺が開けましょう」
『ありがとウリサ!』
軽やかな蹄をならして白馬が屋内に向かって飛び立つ。
すこし透けているから他の人には見えないけどね。
そうだ、タローマティもいないことだし、アマビリータとか呼べないかな。
俺は音楽室の扉をガオケレナにつないでノックする。
「ガオケレナ、アマビリータ、アーリマンじゃなかったマナザダン、ちょっといい?出てこれる?」
ガチャリ
『なあに?』
「こっちは北側の教会なんだけどさ、いまからチェンバロ弾いて歌を歌うんだ。聴きに来る?」
『行く!』
『うた?』
『いいわねぇ』
「気晴らしにさ。俺も頑張るし」
『でも、ここってタローマティが居るんじゃ』
「大丈夫!今は俺の亜空間で寝ているから!」
『そうなの?』
「もうこの城には魔界人がいないよ」
『え?もう?』
「うん」
『じゃあじゃあ、行く!』
『ガオケレナも来れる?』
『あたしゃ、この教会ならちゃんと聞こえるからだいじょうぶやで』
「そんじゃ頑張る」
コンコンコン
こんどは、外から音楽室にノック。
「シュンスケ時間ですよ?おやウリサ。この方がシュンスケ?」
セグレタが呼びに来た。彼も何処から引っ張り出したのか俺と同じような助祭の服だった。
「ええ、人間族なら二十歳ですが、種族的にはまだ子供なんですよ」
「お父上はハイエルフですもんね」
「だが、シュンスケの種族は精霊らしいです」
「なるほど、翅があります」
セグレタにはアマビリータやアーリマンは見えてないみたい。
「んじゃ、行きましょうか。年末の音楽会に!」
「はい」
一年前の年末年始の行事はロードランダで父さんが仕切った華やかなものだった。
今年は、この解放されたばっかりの城の隣の教会で、一気にみんなを癒す。
二階の音楽室のテラスの反対側の窓から大聖堂の様子が見える。
「うわ、満員御礼だな」
「外にもいるぜ」
「うん」
さっき掃除した祭壇のチェンバロの前に進み出る。
「まあ天使?」
「妖精かな」
「精霊よ」
「まさかそんな」
「シュバイツ殿下じゃない?」
「きっとそうよ」
「わあ」
「シュバイツ殿下今年はこの国に来てくれたんだ!」
通信の魔道具が繋がっていなかったのに、俺のことを知ってる人がいるんだな。
大聖堂に集まっている人たちをぐるりと見る。
肌寒いけれど扉や窓も全開だ。
扉越しにも沢山の人たちが集まっているのが見える。
昨日来た時には人通りが無かったのに、建物の中にいたのかな。
アマビリータたちは三階の大司教の部屋から、吹き抜けている大聖堂に向かった欄干に腰を掛けていた。
その傍らにはハロルドもいた。
「では、僭越ながら、このネヴァ フォン プリネイが取り仕切ります」
シックで上品な貴族らしい、でも俺には見慣れない外国の民族衣装のネヴァが祭壇に立つ。
上着にはカラフルだけど煩くない刺繍が裾やポイントに施されていて、猫耳の周りの頭部は同じような刺繍を施された布のターバンを巻いていて、その額の値に美しいトルコ石のような色の魔石と金の装飾が施されたブローチで止めている。その姿を嬉しそうに見ているヤマネコ人族も一堂に居た。その復活したこの国の王族は再び話し出す。
「遥かロードランダからシュバイツ殿下が、世界樹ガオケレナを救い、このプリネイ王国を悪魔の脅威から解放してくださいました。そして、今日、癒しを施してくださるそうです」
うぉおおおおっ
「静粛に!せっかくですので私が経典の冒頭だけ読み上げさせていただきます」
この世界の成り立ちや神様の話が始まる。
そして、ネヴァが大地の女神の項目の序章を読み終わる。
年末年始のミサは、創造と太陽のゼポロ神の歌から始まる。
~全知全能の父神様よ~
~この世界を作りたまいし~
~太陽の神よ~
そして、七柱の神様の歌を全部歌うんだけど、この教会は大地の女神アテイママ神が主神なので、彼女の歌がトリだ。
~~母なる大地よ~
~慈愛の恵みよ~~
~~草木萌ゆる命の~
ありがたさよ~
~~豊かな~実りの~~
「みんなーこの曲をもう一度歌うから!歌える人は一緒に!」
そうしてみんなで合唱する。
合唱の一体感っていいよね。
多少ばらついていてもさ。
俺は、みんなの歌に合わせて聖属性魔法を大量に放出する。
教会の天井から降り注ぐように、
扉から、窓から、吹き出るように。
悪魔と長く戦ってきたヤマネコ人族や猫人族の皆の怪我が治っていく。
黒い液体による病気に悩まされていた病人の顔色もよくなっていく。
「素晴らしいです、シュバイツ殿下!」
「ああ、長く悪魔に悩まされていた気持ちが晴れていく」
「俺は元に戻ることが出来たけど、親はもう居ないだろうなぁ」
「家族はもう……そもそも家が残っているのか……」
城から解放したもとミノタウロスだった人たちは完全にヤマネコ人族に戻っている。
だが、捕らわれて、偽アーリマンやタローマティ達に悪魔にされたものは長くて千年過ごしている。
急激な悪魔化の解除と寿命の加速停止はしたけれど、彼らの心のケアは必要だろうな。
悩みが完全に消え去ることはないかもしれないかもしれないけれど、せめて、心穏やかに、同じ境遇になった兵士たちと励まし合って、本来あった残りの人生を充実して過ごしてほしい。
もし、出来るなら新しい家族を作るのも良いよね。
砂漠の真ん中に新しい街を作ったけれど、プリネイ王国が本来あった酪農国家の姿に戻ってくれたらいいな。
俺はあんまり癖の強いのは得意じゃないけど、チーズが大好きだしね。
ペルジャーに避難して暮らしているヤマネコ人族がプリネイ王国に戻れるよう、手助けしたいな。
“風のうわさお願いできるかな”
“まかせて!もともとねこのしゅぞくは、かぜまほうのぞくせいがあるのよ”
黄色ちゃんにお願いする。
“たしかにマツももともと風属性持ってたね”
“でしょ!”
“プリネイおうこくから、あくまがいなくなったわ。みんなでかえらない?”
なんてね。
黄色ちゃんの可愛い声で囁かれたら効果あると思うんだ。
“あたしのこえ、かわいい?”
“こえもかわいいし、すがたもかわいいよ”
“えー、かわいいおうじにいわれてもなぁ”
“ちょ!俺は可愛くなくていいの”
「「「「わぁあーっ」」」」
「「「「シュバイツ殿下ー」」」」
「「「「ロードランダ万歳」」」」
「「「「精霊王子ーっ」」」」
年末年始に歌うべき曲が終わった。
俺はチェンバロのシートから立ち上がり、祭壇の中央にいるネヴァや、その傍らにいるセグレタとも握手を交わして、そして祭壇に両手をふる。大聖堂は大盛り上がりだ。
それを俺は、ジェスチャーで止めると静まり返った。
ピューッ
そこで俺は三階にいるハロルドに向かって指笛を拭く。
『はーい』
真っ白なペガコーンが上から飛んできた。
二人の妖精はまだ欄干にいる。
「さあ、外に行くよ」
『おっけー』
俺はハロルドに乗って、ミニギターを抱える。
そのまま、ポップなクリスマスソングや、ラヴがウインな曲を軽快に歌うと、何度も効いているハロルドも一緒に歌う。
まっ白な大きな羽を広げて、大聖堂を一周ぐるりと飛ぶと、アマビリータとマナザダンの隣の大きな窓を自動(精霊ちゃんの力)で開いて、外に出る。
教会と城が並ぶ前の大きな花壇の庭園の低木や花が咲き誇っていた。
手入れされていないからボーボーだけどね。
そして、早送りのように切り株があったところに木が生えていく。
その隙間をびっしりとヤマネコ人族たちが集まっていて俺たちに手をふっている。
「ありがとう!」
「ほんとうによかった!」
「この国が他国に迷惑をかけていたの」
「それが本当に嫌だったわ!」
「私のご先祖様いるって聞いたんだけど」
「私の曾祖父がいるらしいのだけど」
え?風のうわさ早すぎない?
“おうじにたのまれるまえにした”
さすが黄色ちゃん!
“おうじが、おんなあくまをとじこめたあとすぐにね”
本当に頼りになるよ!あとでケーキを作ろう!
ふと、離れの建物を見ると、悪魔にされていたホブゴブリンはゴブリンに戻っていて、精霊ちゃん達や三角帽のおっさん妖精たちに誘導されて、シュミル山脈に向かい始めた。
おっさん妖精はアマビリータが手配してくれたのかな。
『そりゃそうだよ』
「わあ、アマビリータ」
いつの間にか、ハロルドの後ろに乗っていた。
ハロルドの頭の上には、精霊ちゃんと同じサイズの小ささになったマナザダンが角にもたれて座っていて、俺のギターに合わせて鼻歌を歌ってるみたい。俺のイメージ通りの妖精を初めて見たぜ。
『ゴブリンも元はと言えば妖精みたいなもんだ』
「そうなの?」
『ただ、どうやっても教育が難しくて、人のようにはなれないんだ』
「あれ?でも俺が抱えてるゴブリン達はすごく働き者なんだよ」
『そうなの?』
さっき俺が言った台詞を妖精王が言う。
『今度、シュバイツの所のゴブリンのお仕事を見せてよ』
「いつでもいいよ」
歌は終わってて、惰性でギターを弾きながらアマビリータと会話。
それでも、柔らかな霧雨のようにあたり一帯ラメの魔法を降り注いでいる。
『シュバイツ、そろそろ、魔力あぶないのでは?』
「大丈夫。こう見えてアナザーワールドの地竜たちから多少貰えてるんだよ」
『そんなの、あの世界を維持する魔力の足しにもならないだろう?』
「でもあそこの自然もすごくなってきていて、そこから魔素が発生しているんだ」
『おまえ……アナザーワールドの創造神みたいだな』
「まさか。あそこにある自然はこっちから持ってきたものを増やしただけだもん」
俺が創造したわけではない。
『だけって……』
「そうだな、アナザーワールドの森をここいらに移植しようか」
『やめておけ』
「どうして?」
『お前の魔力に満ち溢れたあの世界から、この魔素のうっすい土地に移し替えたら、すぐに枯れるよ』
「まじ?」
『だから、苗みたいなものから、この地に馴染ませながら育てるしかないんだ。まあ、その城の庭園ぐらいならうまく行くかもしれないけどな』
「それは経験済みだよ。もっと狭かったけどね、スフィンクスが作っていたバラ園を、女悪魔のムーシュに沢山の地竜が食い荒らされたところに移植したんだ」
『へえ。今度そこに妖精を連れて行っても良いか?』
「もちろん」
『じゃあ、草木の手入れが得意な奴を集めておくよ』
「わかった。いつでも連絡して」
そんな和やかな雰囲気を壊す奴がいた。
「何じゃここはー!!」
ガンガンガンガン
「出せー」
ガンガンガンガン
「タローマティ様ー」
ガンガンガンガン
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