222【大量に解除】
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念のため部屋ごと異空間にする。
「これで良し」
「なにが?」
「この厨房の一角だけをアナザールームにした」
「それはすげえな、全然気づかなかったぜ」
「念には念をね」
「……どういう事でしょうか」
「改めまして、俺の名前はシュバイツ。シュバイツ フォン ロードランダです」
と言って、最近作ってもらったばっかりのエンブレムを見せながら、人間族からスピリッツゴッドに変わる。二十歳のままでやったから、四千年前の精霊王よりちょっと大きいかも。
エンブレムすごく便利だよ父さん母さん!
すると、ネヴァは立ち上がって、俺の近くに跪くと右手をおでこに持って行かれてしまう。
「おお、まさしく、ブランネージュ様に似ておられます」
「お会いした事があるのですか?」
「私は無いですが、ペルジャー共和国ではブランネージュ様に助けられた過去があって、絵姿がよく出回っておりましたから」
「なるほど」
「では、まず魔族化を解除しましょう」
と言って、エリクサーの小瓶を二つ出す。
そして、ネヴァの手を繋いで聖属性の魔力を彼の手首の動脈からゆっくり流し込んでいく。彼の内にある、悪魔に染まった魔力を洗うように。
すると、手首から徐々に色が変わっていき、首筋を超えると顔立ち迄変わっていく。
「たしかに、ギルドにいたラッシュに雰囲気が似てるな」
「だよね」
あの人もこの国の大臣の末裔だとか。
王国の重鎮なんて大体王族の系譜に繋がっているだろう。
「そして、ボルリアみたいに干からびちゃわないようにこれを二つのんで」
「これは?」
「エリクサーだよ」
「は?」
「気にせずグイっと二本」
「わ、わかりました」
二本とはいっても小さいので、半カップもない。
そして、紫色ちゃんに聞いていた通りに闇属性を逆に発動する。
“闇属性の逆って光?”
“それがまたちがうんだよなー”
“そうなの、ひかりぞくせいは、じかんのかんしょうはできないからね”
“なるほど”
俺やウリサと精霊ちゃんの会話が落ち着いたところで、ネヴァの様子も落ち着いた。
ネヴァは金色に輝く毛並みのヤマネコ人族だった。
「これは、王族って感じですね」
「本当だな。しかも若そうだな」
そう言って、B5サイズの鏡を広げて見せる。
「貴方が悪魔にされたのは何歳ぐらいだったのですか?」
「たしか……結婚する予定が二十五歳だったので、その前ですね」
「ということは二十四歳ぐらい」
「私が悪魔化してしまったので、相手が断ってきたのです。こちらからは感情のコントロールが出来なかったので、かえって良かったです」
「そうですか」
ということは、この人を王にしても子孫がないと。
まあ、そこらへんは国の人たちで考えてもらえばいいか。
「では、このまま、貴方を別な所にお連れしますので、今日はそこでお休みください」
「え?」
「冒険者ギルドですよ」
「わかりました」
そうして、厨房の扉を冒険者ギルドに繋げる。
もう、夜遅くて、カウンターには一人だけが待機していて、その前には誰もいない。
逆にレストランフロアはかなり賑やかで出来上がっている。
こういうところは、全国共通だ。
「おや、シュンスケとウリサ、どうされました?城に行かれたのではなかったんですか?」
カウンターにいたのは、ラッシュだった。
「行きました。それで、この人を開放してきたので、今夜預かってほしいのです」
「この人は?」
「城で侍従長をされていたネヴァさんです」
「ああ……貴方様はやはり」
俺に声をかけるラッシュに、ネヴァの方が話しかけた。
「ラッシュですか、久しいですね。何度か城を訪ねてくれました。
あの時は忌まわしい姿だったのが、シュンスケに開放してもらって」
「ああ、本当に!ネヴァ殿下」
「そう言われるのも二百年ぶりです」
「あの、シュンスケ、いやシュバイツ殿下……」
「じゃあ、俺たちは城に戻るから。詳しくはネヴァに聞いてね」
「はい……はい……ありがとうございます」
チリチリン
カウンターのベルを鳴らすと、奥からはセグレタも出てきた。
「ではおやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「ネヴァさん、ラッシュさん、明日他の人も連れて来るから」
「分かりましたお気をつけて」
“おかえりおうじ”
“ただいま”
“どうだ、魔族の二人は寝たか?”
“にせあーりまんはねた”
“あいつはすることないからずっとねてるんだ”
“女の方は?”
“尖塔にいる”
やっぱり、魔界に帰りたいのかな。
まあいいや尖塔にいるなら、このまま二階から下を掃除しておこう。
「シュンスケ、お前も一度休めよ」
「そうだな、だけどここで寝たくないよね」
「まあな、掃除したとはいえ……砂漠のテントより抵抗あるぜ」
「んじゃ、ロードランダに行こうか」
「遅くねえか」
「どうだろ」
“プランツさん起きてる?”
“おきてるよ”
“んじゃそっちでねる”
こんどは厨房からロードランダの自室に戻る。
「「さむっ」」
「もう年末ですからね」
黄色ちゃんから知らされたプランツさんが寝間着を持っていてくれた。
「そっか、ガオケレナ様の麓はもっと南だからな」
「標高は高いから涼しいけどね」
だから酪農が盛んなんだよね。
翌朝、ロードランダで朝食も取らずに俺とウリサはプリネイ王城の厨房に戻って俺は朝食の仕込みを始める。
自分の朝食はつまみ食いだ。これが一番うまい。
ウリサは二階の食堂と三階の通路の掃除。
“できたよ!”
“了解、こっちもこんなもんだろう”
俺とウリサの念話は、城の敷地の中ぐらいなら届く。
“女の部屋はどうしようか、掃除するか?”
“やっぱり侍女がいないと困るよなぁ”
コンコンコン
「おはようございます、タローマティ様、朝食が出来ましたと」
ガチャリ。
「あらウリサ、今日も男前ね。ミノタウロスばっかりだから目の保養になるわね」
「ははは、ご冗談を。ところでお部屋のお掃除はどうされますか?」
「そうなのよね。女の部屋に男に掃除されるのもちょっとねぇ。それに私は夜型だから今から就寝するのよ」
「なるほど。ではシーツ位交換しておきましょう」
「お願いするわね」
食堂で朝食を食べてもらっている間、俺が女の部屋を掃除する。
ウリサは給仕。
タローマティの部屋はいくつかに分かれていて、リビングと寝室と、衣裳部屋。
そして水回り。うっ洗濯物が積もっている……。
ええい、ぜんぶまとめて圧縮袋に!
洗濯機がない世界なんだから!ランドリーメイドを置け!つか自分で洗濯しろ。
部屋全体を、魔法で除菌しながら、窓を開けて空気を入れ替え。
女の匂いというより、薬品臭い。これはあれだ魔女って感じの部屋だな。
窓には枯れ果てた薬草のプランター。
それにも魔法を振りかけて復活させる。
毒草ではなかったからね。
「まあ、もうお掃除できたの?あら、あなたは?」
「あたしは彩美です」
この部屋に入るのにはちゃんと侍女スタイルじゃないとさぁ。後で何を言われても良いようにね。服は、ガスマニアのミアのお仕着せの予備を一セット借りている。偽名を名乗るときって親や親せきの名前を借りるのはあるあるでしょ。
二つのおさげに、度のない眼鏡。
「今日から、ここにお世話になります」
「そう、頑張ってねアヤミ」
「はい」
「じゃあ、あたしは今から寝るから」
そう言われちゃ、開けていた窓を閉めてカーテンも閉める。
枕もとのテーブルに水を入れたピッチャーとタンブラーを置いておく。ついでに寝起きのおやつにパウンドケーキを切ったのを蓋の付いた容器に入れて。
「分かりました。お休みなさいませ」
“どうだ?”
ウリサが入り口に護衛のように立っていてくれた。
“今から寝るんだって”
“じゃあ眠っている間に”
“だよね”
お城の兵士の詰め所は一階の厨房とは反対のほうにある。
俺は男にもどりながら、メイドの服をアイテムボックスに仕舞ってタナプス神に貰った上下セットを切る。ローブも。歩きながら出来るのが助かる。
そしてお下げを解いて一つに括る。
「よし行くか」
「おう」
ウリサも冒険者スタイルだ。
昨日、ネヴァに聞いたけど、悪魔化すると昼動きづらくなって、夜や薄曇りになるとなぜか活動したくなるらしい。
タローマティー達に占拠された城でなんとか昼間に動いて城を維持していたんだけど、二百年前にネヴァ迄悪魔化されて、何もしたくなくなったそうだ。
偽アーリマンの部屋に先ず行く。
ゴーゴー言いながら熟睡していらっしゃる。
こんな奴はそおっとアナザールームへ。こいつは女神さまに押し付けようかな。
そしてタローマティの部屋にもどる。
俺は透けて、扉をくぐる。
“そのスキルはやばいぜ”
“俺もそう思う”
“熟睡してるのか?”
“うん、でも念のために闇魔法でもっと深く眠ってもらって……”
“そうだな”
タローマティもアナザールームにそうっと入れる。
二人ともなんちゃって窓付き水回り付きのまあ、少しマシな部類だな。
ガチャリ。
「おー、もう捕らえたのか」
「うん。目が覚めると小さな部屋だよ」
「ははは。お前魔力はどうなんだ?」
「全然大丈夫」
これで無事に、魔族が城からいなくなった。
さて、昨日冒険者ギルドで見せてもらったこの城の配置と、精霊ちゃんたちの調査によると、一階の裏手の兵士の詰め所と、別棟に、元ヤマネコ人族のミノタウロスがいるらしい。総勢五百名。
ゴブリンはさらに別棟だ。
まずは敷地内にある教会に行く。さすがに、ネヴァみたいに一人ずつ五百人に無理だもん。面倒だし。
「この教会は」
「ああ、大地の女神様の教会だな」
「うん」
俺たちが知っているご本人とはお召し物が違って、洋装だけどね。配置的に大地の女神。
まずはここもお掃除だな。
窓を全開にしてから、翅を出して飛んで行ってまずは伯母さんの像の埃を落として水拭き後の空ぶき。それから各神様の台座の誇りを落として空ぶき。
各台座の前にあるドロドロのクッションはこの際捨ててしまおう!
昨日、キッチンや侍従の部屋の掃除をした時につかった穴にゴミクッションを転移。
そして、大聖堂の椅子だけど、椅子だけどモップでぐいぐいと水拭き。
そしてそのまま床を。掃除するのはウリサ。
俺は神様たちの前の祭壇を掃除。
パジャー子爵領の時よりましなのは、悪魔たちがここを出入りしなかったからかな。
「さすがに悪魔は神様の前には行かないか」
「悪い事しに来ているのは自覚してたたりして」
「まさか」
最後にチェンバロを掃除して、奇麗な音のための魔石に魔力を注ぐ。
カタン
物音に振り向くと、大聖堂の入り口にはネヴァと、ラッシュとセグレタの三人が揃っていた。
「シュバイツ殿下、こんなに教会を清めていただいてありがとうございます」
「いえいえ。今からこれを弾こうと思ってね」チェンバロの蓋をなでる。
「なんと」
「そうだ、ギルドの施療院にけが人や病人は居ますか?」
「それはもう、たくさんおりますよ」
「皆をここに連れて来るとすればどのぐらいかかるでしょうか」
「近いですからな。すぐですよ。ギルドの馬車を全部出しましょう」
「おねがいします。じゃあ、一時間後に始めようかな。慰問の音楽会ということで」
「わかりました」
「それと、この教会の司祭とかは王都にいらっしゃらないのですか?」
「残念ながら百年以上誰も赴任しておりません」
その割にはきれいな教会だった。
誰かが神様に願っていたのだろうか。
悪魔の所業を何とかしてくれと。
「ウリサ、城の人たちも誘おうか」
「そうだな、起きるかな」
まずは別棟の兵士詰め所に行く。
すると、そこにはぼーっと立ち上がっているヤマネコ人族がいた。
やば、老化が始まっている。
俺は部屋中に闇属性魔法を逆発動する。
こんなに一気に年寄りになったら、高齢化がやばいだろ。
“どう?”
“いいんじゃない?”
秘蔵の紙コップを大量に放出して、みんなにひとつずつ持たせる。
「君は?」
「自己紹介はあとだよ。お水をどうぞ」
水の女神のポットから水を出して配る。
「なんだか長く悪夢を見ていた気分だ」
「ああ、気持ち悪い」
「そうか、いまから隣の教会に行けるか?」
「教会?」
「気持ち悪いのが治るかも知れないぜ」
「そうか、教会なんて長く行けてないな」
「隣にあるのにな」
「アティママ神様怒ってるんじゃないか?」
「そんな事無いよ。アティママ神様は優しいから」
「そうだといいけど」
「お家に帰りたい」
「それはまた、別の人に相談してくれ」
「うん」
ぞろそろと兵士たちが歩いていく。
まだミノタウロス状態の奴と、ヤマネコ人族に戻りかけの奴と。
ミノタウロスの顔でヤマネコの耳ってちょっと面白い。
「次は城だな」
「うん」
この城やはり、タローマティ以外は男ばっかりの男所帯の城って、終わってる。
男子高校だって多少は女性の職員がいるんだよ。逆もしかり。
男と獣の匂いの城の中を浄化しながら入っていく。
“くちゃいくちゃい”
“でた、あいつきらい!”
「俺も嫌い」
黒いカサカサする奴!冬だというのに、寒くないからか。寛いでいらっしゃる。
でも、今は掃除はあと。
皆の悪魔化を解除しながら、寿命の加速を止める。
そうしながら、教会の大聖堂へ誘導していく。
「こっちこっち大聖堂にいこう」
「こっちですよ!」
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