221【料理人】
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さっき魔界の扉が開かなくて悔しがっていたアーリマンとタローマティの機嫌はどうだろう。
“あんまりよくない”
“にせあーりまんはおろおろしてる”
ふうん。
アーリマンが大魔王なのに、やっぱりタローマティのほうがえらいんだね。
ちょっと黄色ちゃん、タローマティの鼻先に、バラの香りでも届けてみて。
“わかった!”
俺は厨房で手を動かしながら、精霊ちゃんに色々指示を出している。
“何しているんだ?”
ウリサが念話で訪ねている。
“一応女性だからさ、甘い物好きかなと”
“なるほど”
“ばらのにおいにうっとりしてるぜ”
“よし”
ある程度下ごしらえが済んだら、ウリサが俺たちの様子を見ていた侍従長に話しかけに行く。
「侍従長、食堂を整えに行きませんか?」
「そうですね。今夜は久しぶりに二人に満足頂けるでしょう」
「だといいのですが」
さっきから、精霊ちゃん達にフル回転してもらって、城中の換気とブラックライトによる除菌、水回りをせめて流すだけなどをしてもらっていた。
一部は、黒いカサカサするあいつや、ネズミなどがいて、精霊ちゃんが入れないところもあったけど、そこには、デカいミノタウロス達もたむろしていたから。
“今度は俺が離れるけど、気を付けろよ”
“大丈夫!”
この城は三階建てになっていて、屋根裏部屋を合わせると四層だけど、
食堂は二階にある。だから今回は二階の方の厨房で料理をした。
この城の厨房も、上に行く独自の階段があって、それとは別に料理を二階に運ぶリフトみたいな魔道具もあるんだ。
アーリマンやタローマティの寝室は三階。つまり侍従長の寝室も三階だ。
そして、二階のワゴンに完成した料理一式をセットする。
作業台には一食分の配膳例を並べてみる。
「おお、完成したのですね。おいしそうだ」
「先に侍従長が食べてみますか?」
「良いのですか?」
「はい、採用試験と思って」
「そうですね」
今日のメニューは、バターソテーしたジャガイモとカボチャのスライス、コンソメスープ、ベルアベルで買ったチーズを風魔法で粉々にしてたっぷり使ったパスタ、アイテムボックスで邪魔になっていた凶悪肉食地竜のステーキと、トマトたっぷりのサラダ、天然酵母でやいたふわふわのパンは、焼きたてでアイテムボックスに入れてあったのを出した。
「素晴らしいですね、こんなにおいしい食事は悪魔にされてしまう前に食べたきりですよ」
「そうですか、合格ですかね」
「もちろんです。ああ、先に食材費を渡しましょう」
そういって、フィンガーボールで手を拭いた彼はポケットから硬貨を取り出して俺に渡す。
「……あの、いくらなんでもこれは多いです」
渡されたのは父さんの横顔の金貨。
「そうですか?今食べてるこれも、たぶん地竜なんでしょう?」
「まあそうですけど、買ったわけじゃないですよ」
「討伐したのですか?」
「詮索無しでお願いします」
「でも受け取ってください。どうせ、この街ではろくな買い物が出来ないのですから」
「そうですか。分かりました。しばらくはこれで買い出しに行きますね」
「お願いします。では行きましょうか。シュンスケも紹介するので、一緒に来て下さい」
「わかりました」
食堂に入ると、一応ミノタウロスが上座に座って、その傍らにタローマティが座っていた。
「ネヴァ、新しい料理人が入ったんですって?」
「はいタローマティ様。侍従も同時に採用しました。二人は兄弟でしてね」
「ふうん、小さい方が料理人ね」
小さいって、今は二十歳の人間族の設定なんだけど!まあウリサよりは小さいけど。
「はい、シュンスケと言います」
「そして侍従はウリサです」
「ウリサです宜しくお願いします」
「ふうん、可愛い人間族ね」
「可愛いとは?」
「ほら、この人は強いからいいんだけど、この城はほとんどミノタウロスで、あとはホブゴブリンなの。美しくないのだわ」
まあ、そりゃそうだろうけど、
コトリ、コトリ
ウリサは淡々とお皿を置いていく。
その隣で俺は氷を張った桶に突っ込んだデキャンタから赤ワインをグラスに注ぐ。
「まあ、ワインなんてお上品ね、何処産のものかしら」
「さあ産地までは、冒険者ギルドで売ってたので一番古い物です」
トルネキの冒険者ギルドだけどな。
「そう」
「エールもありますよ」
「俺はエールでいい」
ミノタウロスの方がそう言う。
「分かりました」
キンキンに冷えたエールをミノタウロスの前に置く。
「あら、このステーキ美味しいわねやわらかくて」
「こちらは肉食地竜のステーキとなります」
「地竜の肉はうまいって聞くよな」
「たしか地竜の肉を大量に食べる女悪魔がいたわね」
「あいつだろ、奇麗な女だったけど生きているんだろうか」
「さあ、最近は女悪魔も減ってしまったわ」
「ふうん」
「まあ、今は悪魔たちの力がないから女が沢山いてもねぇ」
「そうか、それは少し寂しいなぁ」
「まあまあ、アーリマン様、このタローマティーがいますわよ」
「ああ、そうだな」
俺たちがいるからタローマティーは偽アーリマンを立てているようだが、他の悪魔に聞いたほどの大悪魔って感じじゃないな。
でも、近寄って鑑定したら、二人とも魔界から来た魔族と出ていた。
とりあえずこの二人を何とかしたらこの城は開放できるんではないだろうか。
ひとしきり食べた二人は満足げに口元を拭いている。
「デザートもありますよ」
「まあ、甘い物なんて久しぶり」
「俺はいらねぇ」
「冷たい物なら甘くても食べますか?」
「そうだな、貰おう」
二人の目の前に、アイスクリームを添えたシフォンケーキを置く。
そして、偽アーリマンの前にはブランデーを、タローマティ―に紅茶のカップを置くのはウリサ。
「まあ、ほんとうにデザートがあるのね」
「はい、お口に合えばいいのですが」
「さっきまで機嫌が悪かったのだけど、おかげでマシになったわ。ありがとうシュンスケ、それにウリサ」
「い、いえ」
ウリサは黙ってお辞儀。
なんだ、ちゃんと礼の言える人なんじゃん。
俺は白色ちゃんと黄色ちゃんを残して、食堂から引き上げる。だが彼らの様子はそのまま意識している。
食堂では二人の悪魔の会話が続いている。ウリサはまだ酒の給仕のために控えていた。
「それにしても、魔界からの連絡が途絶えたのはどうするのだ?」
「ちょっと、今は話さなくても良いでしょ」
「また長く待つんだぞ」
「もう、疲れちゃったわ。このままこの世界で平和に過ごしたいんだけど」
「なに」
「ここに居ても、もう魔素を集めるアイテムも無いしね」
「ああ、昔アーリマンの角にしていた者は細切れにして、悪魔を増やすのに使ってしまったな」
「でしょ。魔石に詰めた所でたいして集まらないし。まあ、次にお父様に会うときに最低限叱られない程度に魔石を集めておきましょうか」
「だが、タローマティー俺はまだ暴れられるぜ」
口の周りをアイスクリームで真っ白にしたミノタウロスが意気込んでいる。
それをチラリと見て、
「無理よ」
「なぜ」
「噂では、ハイエルフの王に息子がいたらしいじゃない」
「あのブランネージュのか?」
「ええ、なんでも七柱の神すべての加護持ちらしいわよ」
「は?すべて?」
「どれほど強いのやら」
「それは、楽しみですが」
「何が」
「対戦したいですな」
「ふう、そう言うところは魔族だわね」
「もちろんです。私は魔王様の義息子を目指しているのですから」
「……寝言は寝ているときにしてくれない?」
「むむむ、まだ無理でしょうか」
「お父様の目的を果たせていないのよ」
「はあ」
「それに、ペルジャーの湖がもう元の青くて透明な姿に戻ったのよ」
「本当ですか?」
「帰ってきた兵士が言ってたじゃないの」
「なんと」
「もう、ハイエルフの息子は近くまで来ているのかもしれないわよ」
「あの湖を元に戻すとはすさまじいですな」
「それに、ガオケレナも復活しつつあるそうよ」
「では、また魔素を取り込めますな」
「もうそんな地味なことを続けたくはないわ」
「地味って……、この世界の自然を破壊しまくって魔素を集めるのは愉快な事じゃないですか」
「破壊しすぎて、砂漠になってしまっているじゃない」
「では、もう一つの世界樹の方へ」
「それも三千年前に試したけれど、入り込むことも出来なかったじゃない」
「そう言えばそうでした。そこで跳ね飛ばされて、今は砂漠になっている所に来たのでしたな」
「そこで遊牧民を先導して、魔素を集めて回ったんでしょ」
……こいつらがあの広大な砂漠を広げたんだな。
「もう、魔界から来た悪魔は私たち二人だけなのよ」
「はい?他の者たちは?」
「さあ、呼びかけているけれど反応がないの」
「なんと情けない」
「だから、さっき魔界の門が開いた時に追加の魔人を頼もうと思ったのに」
「そうだったのですな」
ウリサが、タローマティの紅茶におかわりを入れてクッキーを添えている。
「このクッキーもシュンスケが作ったの?」
「はい」
「すごく美味しいわね」
「ありがとうございます。本人に伝えておきます。
アーリマン様もブランデーのおかわりをどうぞ」
「うむ」
アーリマンの前にはナッツ類を置いている。
「それにね、シュンスケのご飯を食べられるのなら、もう無理にお父様の言うことを聞くこともないかなって」
「そんな、姫!それはあんまりです」
「だって、ここに来て四千年。初めてまともな食事をした気がするわ」
「魔界から連れてきてた料理人はどうだったのですか?」
「あれを料理人と言って良いのかしら。魔界での食事もあんな感じだったから、疑問に思わなかったけれど、不味かったわ」
「たしかに」
……これは、タローマティの胃袋を一食で掴めたのか?
“シュンスケの飯は旨いもんな”
“だよな!”
“おうじのおかしもすき!”
“今日は皆頑張ったから後で皆で食おうな”
“やった!”
“わーい”
皆は平和で良き。
厨房で片づけをしていたら、侍従長がやってきた。
「シュンスケ、二人が美味しいと言ってましたね」
「はい。よかったです。採用ですね」
「もちろんです」
作業台にはウリサと俺の賄いを置いている。
「侍従長もデザート食べますか?」
「いただきたいのですが、この姿になってから甘いものが少し苦手で」
「元の姿になれば、食べられますか?」
「どうでしょう、元の姿など二百年も忘れてます」
「ですが尻尾はもうヤマネコ人族に戻っておられますよ」
「三日ほど前のことですけどね」
“おうじ、かんきせんのまえに、はえいる”
“こいつはふつうのむしじゃねえな”
“みのたの、つかいまとか”
“ありえるな、飛ばしてみて”
“おいやってみる!”
緑色ちゃんが何処からか小さな石つぶてをハエにぶつけると
ブーン……
こっちにやってきた。
「おや、ハエが」
捕まえるふりをして、小さなアナザールームに入れる。その中は真っ黒だ。
「おお、シュンスケは目が良いのですね」
「ええ、こう見えて俺と兄さんはAランクの冒険者ですしね」
「これはこれは、お若いのに素晴らしいです」
ガチャリ
「戻りました」
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
ウリサが戻ってきた。
「先に食べてて」
「分った」
「侍従長も此方におかけください。お茶ぐらいどうぞ」
「ではいただきましょうかね」
「甘いものが無理なら、塩せんべいもありますので」
横を見ると、ウリサがエールを飲んでいて、その横では、ミンチ状に刻まれたステーキを白色くんと赤色くんが食べている。
女の子精霊たちはカボチャのソテーを食べていた。
「さて、ネヴァ侍従長、いや、ネヴァ フォン プリネイさん」
「どうしてその名前を」
「俺には鑑定のスキルもあるのです」
「なるほど。ということは唯の料理人ではないということですね。Aランクですし」
「はい」
俺も食べながら会話をする。
「俺はあなた方を開放しに来たのです。本当はちらりとこの城の内情を見てから準備をして出直すつもりだったのですが、意外とあの悪魔たちの力も弱体化していたようですし」
「さようですね」
「貴方はボルリアの身内ですか?」
「ボルリアの子孫にあたります」
「では本来は貴方がこの国の王ということですね」
「ですが、情けない話、城に留まる今年が出来ておりませんが」
「ボルリアは、ペルジャー王城で酒池肉林を楽しんでましたが、貴女は違ったのですね」
「近い先祖とは言え、情けないことです。で、ボルリアはどうしているのでしょう、シュンスケはご存知ですか」
「まあ、一応生きておりますけど、俺が今は捕らえています。近々女神さまに託すつもりです」
「そうですか」
「そして、貴方も魔族化から解放したいと思っているのですが、もう二百歳を超えてるんですよね」
「はい」
「すると、ボルリアもそうでしたが、本来の寿命を過ぎているので、難しいのです」
「なるほど」
「ほかの、城に控えていたミノタウロス達は?」
「あれらも皆元はヤマネコ人族です」
「皆二百歳を超えているのですね」
「そうですな」
“ねえ、寿命の経過を緩めることはできる?”
爪楊枝で小さく切ったカボチャをアーンしながら紫色ちゃんに聞く。
“エリクサーをたくさんのませながら、やみぞくせいをぎゃくにはつどうするの”
なるほど!
“きやすめかもしれないけど”
“やってみる!”
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