220【ミノタウロスに猫の尻尾】
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「すみませーん!冒険者ギルドから紹介されてきた料理人ですぅ!」
「おマエが?」
「はい!サブギルマスのお墨付きももらったんですよ!」
俺たちはベルアベルでもらったお弁当を食べ済みだ。
城門で立ってたのは、簡素な軍服を着た黒いホブゴブリンだった。
そいつは俺の持ってきた紙をもって変な顔をした後、
「ハイれ」
「ハイって、そっちのほうにジュウギョウシャようのデイリグチがあるから、そこにいるミノタウロスにカミをミせろ」
「わかりました」
あのホブゴブリンは字が読めないのかな。そんな奴が門番って……。
門をくぐると、大きな広場があって、さらにむこうに建物群がみえる。
広場はもともと大きな花壇だったのだろう、並べられたレンガがその名残を見せるのみで、雑草しか生えていない。木は切り倒されているのか、細い切り株がいくつか並んでいた。
俺は暫く歩いて言われた出入り口を目指して、城門からかなり離れてたところで、
≪ディスペル≫
遠隔でホブゴブリンの呪縛を解く。
“シュメル山脈への案内を頼む”
“わかってる!”
“まかせて!”
精霊ちゃん達が請け負ってくれる。
山に入れば三角帽のおっさんの方もいてくれるだろう。
そして俺はそのまま教わった従業者用の出入り口にたどり着いた。
後ろには認識疎外マントのウリサ。
ホブゴブリンに見つかることなく入り込めたようだ。
「すみませーん。こちらの責任者はおられますか?」
「はい、なんでしょうか」
そこにいたのは山猫のしっぽを持った小さな黒いミノタウロスだった。来ている服も見覚えがあるけど、かなり薄汚れていた。
「冒険者ギルドから紹介された料理人のシュンスケです」
「ああ、料理人!来てくれてうれしいのですが、食材がないので、料理をお願いすることはできませんよ」
黒いミノタウロスにしては腰が低い。
「へ?じゃあ皆さんどうされているのですか?」
「我々は悪魔なのです。元は違いますけどね、この姿になってからは食べずとも生きていけるようです」
「それは辛いですね」
「ええ、食べずとも生きていけても、楽しくはありませんからね。
ああ、私はこの城の侍従長をしておりますネヴァといいます」
「……あのネヴァ様、俺料理人で来たんですが、下々へもずいぶん丁寧なのですね。悪魔ってそうなんですか?」
「数日前までは、私も自由にならない自分に苛々しながら暴れておりましたよ」
「そうなんですか」
「最近はすこし、取り戻しつつあります」
それがしっぽに出ているんだな。
「とりあえず、厨房に案内します。後ろの人は……」
ネヴァとのやり取りを見たのか、ウリサの認識疎外が外れていた。
「ああ、彼はウリサ。俺の兄貴みたいな人です」
「そうですか、ウリサさんも料理人で?」
「私は料理人と言うほどのことはできないので、ネヴァ様の下で雇ってもらえないでしょうか。ギルドでセグレタ様から侍従の服を借りているのです。経験は浅いですが私もとある王国で侍従もしていました」
セバスチャンとプランツさんに仕込まれたウリサは、侍従としてもぴったりだよね。
「ああ、それは助かりますね。侍従たちの控室も厨房の隣です。とはいえ正気なのは私だけです」
「分かりました」
「こちらへどうぞ」
「ネヴァ様のご家族はいらっしゃるのですか?」
「私は、悪魔にされてからかれこれ二百年たっております。ですから親はもうおりませんし、配偶者や子ももともとおりません」
「なるほど、分かりました」
「それから、私には様付けは不要です。侍従長と呼びかけてください」
「「分かりました」」
「こちらが、厨房となります」
「うわあ」
そこはとても料理なんかできない空間だった。大量の洗われていない食器や鍋類、腐った食材が溢れていた。
「これは」
「悪魔にされてから、水属性のあったものが水魔法を使えなくなってしまい、この状態です」
「洗うことが出来ないと」
「はい」
「そしてこちらが侍従の控室です。五人の従者が寝泊まりできるようになっております。」
リビングとその奥に十ほどの扉があってそれぞれ二段ベッドがある、そしてリビングの隣には水回りだけど、そこから据えた匂いが漂っている。
「ここも水が使えないでいるのですね」
「そうなのです」
「侍従はおりませんし、侍女も今は雇っておりません。ですから二人はこちらに……えっと住み込みですよね」
「はい」
「では、宜しくお願いします」
「「お願いします」」
「早速ですけど、侍従長」
「はい」
「「掃除からします」」
「わかりました」
ガシャーン
ウォー
城の中だけど離れたところから大きな物音と数人の男の叫び声が聞こえている。
「チッ。また暴れている。様子を見てきますので、貴方たちはお掃除をしていてください」
ミノタウロスの顔を一瞬歪めたけれどすぐに取り繕って指示を出す侍従長。
「「分かりました」」
そして彼は物音がした方へ駆けて行った。
“みてくる”
“たのむ”
俺はとりあえず厨房を、ウリサは侍従の控室の水回りの掃除に回る。
「モップは……ぼろすぎねえか」
「二百年以上、新調してなかったりして」
「二百年前のモップとか終わってるぜ」
とりあえず俺の手持ちの掃除道具を色々出す。雑巾やゴム手袋、もちろん洗剤類も。
「サンキュ」
水は青色ちゃんだし、紫外線殺菌も白色くんにお願いする。
“まかせて!”
“まかせろ”
“もうひとりのあおいろはきっちんいく!”
“どちらもかぜもひつようね!”
精霊ちゃん達も数組いる。
炉端の服を一度脱いで、高校の時のジャージにチェンジ。
一心不乱でキッチンを掃除。
ああ、おれもスフィンクスみたいに等身大で分身したい。
シンクの栓を積めてキッチン洗剤を入れながらお湯を埋めていく。そこにかぴかぴの食器を放り込んでいく。この際銀製とか陶器とかはこだわらない。とにかくスピーディに奇麗に。
入りきらなかった食器は作業台に積み上げておいて、次は床だな。
バケツを出して、そこにデッキブラシを突っ込み、ゴミを寄せながら床をこする。
まあ、地球じゃないので、プラを分ける必要はない。レジンは使い捨ての素材じゃないのだ。
転がっているカトラリーや銀食器だけをよけて、別の大きなバケツに入れる。
「残りはゴミだな」
“ウリサもそとにだしているわ”
「まとめてそこに置くか」
“分解するわね”
「頼むよ紫色ちゃんと緑色ちゃん」
“まかせて!”
闇属性や土属性の混合魔法は、有機物を土にしてくれる。短時間で。
そうしながらも白色くんが侍従長の様子を報告してくれる。
大広間でミノタウロスの悪魔たちが喧嘩をしていた。
「あああ、暇だからって喧嘩をするなんて。これだから悪魔は」
「なんだと?侍従長は暇じゃないのか」
「貴方たちが私の仕事を作るんでしょ!こんなに散らかして、椅子も壊されてだんだん、座れる椅子が無くなってるじゃないですか」
「へへーっ文句あるのか」
「いいえ。暴れるのもほどほどにしてくださいよ」
「暇なんだよ」
「侍従長も最近おとなしくなったけど、暴れないか?」
「私は結構です」
「なんだよ。つまらんな」
「そんな事より次はそこの剣でやりあわねえか」
「良いだろう」
喧嘩じゃなかったのか。
どうやら真剣で遣り合っている。
ザクッ
「ってーなんてな」
「俺らは痛くねえんだよな」
「傷もすぐに塞がるし」
「ははは!」
「行くぜー」
なんだか楽しそうだし城の外で暴れるより良い。
侍従長が戻ってきた。
「おや、もうこんなに綺麗にしていただけたのですか?」
「もちろんです、先ずは料理が出来るように整えねば」
「そうですね。私も以前は掃除をしていたのですが、諦めてしまって」
「お一人で城を管理しているんですか?」
「はい。この城の主はいまは、タローマティという女悪魔と、アーリマンというミノタウロスですが、その二人の使うところだけをすこし片付けている程度ですね」
「なるほど。食料の貯蔵庫は地下ですか?」
「はい、そちらの戸棚に階段が隠れているのです。待ってくださいね」
ネヴァ侍従長が自ら戸棚をずらしてくれる。
「なぜ貯蔵庫を塞いでいたのですか?」
「地下まで物で埋まったら面倒ですからね。この下は今は何も入っていません」
「なるほど」
侍従長が先導するのについて地下に降りていく。
壁一面の戸棚と、たぶんワイン樽を置くようなラックがある。
パーティーに使うような大量の食器もあって、これは奇麗に保たれていた。
奥には二つの扉があって、ひとつは銀色に光るステンレスの扉、そこから少し離れた所に赤茶色のサビた鉄の扉。
「こちらは氷室です。今は機能していませんが、水属性の魔石をおいて、食材を凍らせたり冷やしたりする貯蔵庫です」
「はい」
中を見ると結構広くて、業務用の冷凍室ぐらいある。こんなにあったら兵糧攻めをされても持ちこたえられそうじゃない?
「こちらの扉は、地下牢に繋がっていまして、捕らえられた犯罪者に食事をこちらから運んでいたようです」
「なるほど、今は地下牢には人はいないんですか?」
「どうでしょう。開けない方がいいですよ」
「でも……ちょっと見たいかも」
「そうですか?鍵はこちらからしか開けられませんので気を付けてくださいね」
確かに閂状のものでふさいでいる。
地下牢へ続くと言われている扉をあけて暫く歩くと、上へ行く階段と、さらに奥に行く通路にわかれる、その先にはだだっ広い空間が広がっていた。天井までの高さも三メートルほどありそうだ。そして三メートルの天井付近に小窓がいくつかと止まっている換気扇。
「牢?」
「ええ、鉄格子はもう無いですけどね、跡はありますよ」
確かに地面や天井に鉄の筋が張っていた。
「なるほど」
「鉄は鋳溶かして、悪魔たちの武器にしてしまったのです」
「なんと」
「じゃあ、牢に捕らえることなく……」
「全て殺していたのです」
うわあ。
「でも、そうですね、力の余ったミノタウロス達はここで暴れると良さそうですね」
たしかに、窓や高級そうな照明器具や椅子も無い。でも俺はさっきのミノタウロスが暴れているところは見ていないことになっているからね。何も言わないよ。
「では、戻りましょうか」
「はい」
鉄の扉をもう一度塞ぐ。そして中から鍵を。もうここを通りたくないもん。
「あ、侍従長ちょっと待ってください」
ステンレスの扉を開けて、その中にある魔石を入れる箱を開ける。
箱と言っても大きな冷蔵庫なので、まるで配電盤のような扉をあけると、そこには二十個の圧縮魔石が並んでいた。魔石は空になると透明になるんだよね。
そこに、水属性の魔力を充填していく。
ヴンンン……
「シュンスケ、君は水属性を持っているんですか?」
「火属性もありますよ。料理人向きでしょ」
「たしかに、でもこれだけの数の魔石を充填できるなんて」
そして火属性を逆に発動して庫内の温度を下げていく。
そろそろいいかな。
「とりあえず、手持ちの食料をこちらに置きましょう」
「持っているのですか?」
「ええ、このマジックバッグに」
と言いながらウエストポーチ越しにアイテムボックスから肉を取り出す。
ここには肉をつるす用のハンガーがぶら下がっている。そこへ十頭の魔獣の肉をぶら下げる。
「この肉は?」
「普通のミノタウロスです」
「ははは、これは良い」
「こっちは、燻製になってます」
丸ごと燻された飴色のミノタウロスのハムをぶら下げる。
「よい香りですね」
こいつらを収納した時は、俺はまだミノタウロスを美味しくいただいていたんだ。
もう肉にしか見えないこれらなら食えるけどな。
「これ買い取ってくれますか?」
「買い取れますよ」
振り返ると侍従長はメモを取っていた。
「つぎは野菜ですけど、野菜食べますかね」
「そうですね、付け合わせぐらいなら食べますよ」
「じゃあここら辺に置いておこうかな」
傍らにあった幾つかのバスケットに熱湯をかけて、魔道具っぽく懐中電灯を出してごまかすようにブラックライトを当てて風魔法で乾燥も。
あくまで、水属性と火属性だけにしておきたいからさ。
「なかなか便利な魔道具があるのですね」
「料理人には必要なものです」
「そうなんですね。市井に出なくなって長くて疎いのです」
「なるほど」
綺麗にしたバスケットに、根菜類を中心に置いていく。
「この氷室にこんなに食料が入ったのは百年以上ぶりに見ます」
「そうですか。お腹がすくと気が立つものですからね。俺の料理で皆平和になるといいですよ」
「空腹は喧嘩になるのですか?」
「たぶん。苛々するらしいですね」
「なるほど」
「とりあえず、アーリマン様とタローマティ様でしたっけ?の夕ご飯を作りましょうかね」
「お願いします」
厨房に戻ると、ウリサが居た。ちゃんと侍従の服に着替えていてロードランダのとはデザインが違うけれど似合ってる。
“俺の目の届かないところに行くなよ”
“精霊ちゃん達に聞いているんでしょ”
“そうだけど”
「おや、ウリサも終わりましたか」
「はい、見てもらえますか?」
俺も、ジャージから炉端の白衣に着替えるために付いて行く。
入った時にはかなり臭かったのが、今は爽やかになっていた。
「ほう、これは奇麗に掃除出来ましたね。こんな短時間で」
「ありがとうございます」
「こちらこそ助かります」
「ベッドはこの部屋しかまだ整えられていないです」
水回りの近くの扉を指さすウリサ。
「十分です。お二人でこちらを使われますか?一人一部屋でも大丈夫ですよ」
「いえ、俺達は兄弟なので同じ部屋にします」
「そうですか、わかりました。私は三階のこの城の主人の部屋のそばの侍従の部屋がありまして、そこを使ってますので」
「わかりました」
「おやシュンスケ、着がえられたのですね」
「はい」
「ではウリサもシュンスケを手伝ってやってください。これからこの城の主人であるアーリマン様とタローマティ様の食事を作っていただくので」
「わかりました」
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