219【異世界ハロワ?】
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まさしくウエスタンドアを開けると、軽鎧というより、乗馬向けの服を着た人が沢山いた。
「セイブゲキってのが何かわからんが……」
“おっさんしかいないよ”
精霊魔法使いならではの念話で会話する。
“確かに。俺でも若造扱いされそうだ”
一気に飛んできたからまだ午前中。
まばらな掲示板で依頼を探している人たちもドミニク卿ぐらいの年齢の人が多い。
女性はいない。
カウンターに座っている職員は女性だけど、こっちも癖のありそうな人が一人。
「おい、ここはガキが受けるような依頼は無いぜ」
一人の少し酔っぱらったヤマネコ人族が声を掛けてきた。まだ午前中なのに、アル中かな。そいつにウリサでさえガキって言われてる。
「じゃあどんなものがあるのだ」
「冒険者への依頼じゃなくて、バイトの依頼だな」
「そう言うのは商業ギルドの管轄だな」
「隣はつぶれているからな」
「ふーん」
たしかに掲示板の依頼は短期の牛の世話係がほとんど。馬に乗れるのが条件だって。
低いランクの掲示板に貼られている。
「にいちゃん、あっちなら出来そうじゃない?」
「チーズの運搬か」
「運搬先は……なんだ近いじゃん」
「ペルジャーの王都だって。共和国内とは言え隣の国なんだけど……お前ならドア一枚だもんな」
ふふふ。まあね。
「これがなんでAランクの依頼なんだ?」
ヤマネコ人族のおっさんに聞く。
「ここのチーズは酪農家の納税だ。だからAランクでもステータスから信用出来る奴しか受注できん。しかも大量だ」
「なるほどな」
「これは後で受けるとして、あ、これなんかどう?」
「王城の料理人?」
「そ!」
「それはやめておけ」
「どうして?」
「王城の中にいる奴は悪魔ばっかりだぜ」
「知ってるけど。王城なのに料理人いないと困るよね」
「いや、あいつらは物を食わなくても大丈夫だ」
「操られている方の悪魔なら食べる必要はあるよね」
「まあ、そうだけど」
「とにかく依頼は碌なのが無いだろう。さっさと帰るんだな」
絡んでいたおっさんは、依頼の紙を取ることもなくそのままレストランエリアに行ってしまった。
仕事受けるんじゃないのかよ。
カウンターの近くにいた、別の二人組のおっさんと目があってしまった。一人は見覚え有るかも。
「もしやあの、お二人は……ウリサさんと、シュバイツ殿下?」
その人が小さく声を掛けてきた。
「あんたは?」
「えーっと世界樹で…」
「先日貴方に開放されたもと悪魔軍の兵士の一人です」
たしかに、腰に下げている剣の柄の魔石が聖属性を纏ってキラキラしている。
「ああ、あの時の、確かあなたはラッシュ フォン バジーラさん。他の解放した人たちは?」
「この王都に帰り着いてから解散したんですよ。実家が農業や酪農の奴らは帰りましたが、この王都に家族のいる奴らは、ペルジャーに移動するための準備をしております。」
「そっか、もしその人に連絡できるなら、ペルジャーからそのままベルアベルを目指すように言ってもらえますか?」
「ああ、なんかそんな話もペルジャーから来てますよほら」
指さすところに家族向けのお知らせが。
なるほど、王太子たちは仕事が早いね。
「ラッシュ様?この人間族の二人は」
傍らにいた人がラッシュに聞いている。
「ああ、お小さい方は人間族じゃないですよ」
「しっ。ラッシュさん。それと俺のことは駿介と呼び捨てて」
「はっ、分かりました。シュンスケ」
そのやり取りで、ラッシュの傍らにいたヤマネコ人族も察したようだ。
「俺らはちょっと城に潜入するんだけど。ちょっと教えてほしいことがあるんだ」
「わかりました、ではコンパートメントにご案内しますこちらへ」
「今私たちが占有している部屋なのですよ」
「頼みます」
冒険者ギルドは大陸中同じような設備らしい。
二階は、会議室や、図書室、ちょっとした打合せのための小さな会議室がある。
ポリゴンでも二階の会議室で文字を教わったり、図書室に入り浸って本を読みまくったもんね。
その一室を借りて、ラッシュとその連れ、そしてウリサと俺の四人が座る。応接と違って書き物のしやすいテーブルセットだ。
「挨拶が遅れました、私はラッシュの秘書をしておりますセグレタと申します。もとはラッシュとは乳兄弟でね」
そう言いながらセグレタさんが人数分のチャイを置いてくれる。
やっぱりこの地域のお茶と言えばこれなんだな。
「乳兄弟。ああ、ラッシュさんは貴族でいらっしゃるから」
そういうと、ラッシュの方が、
「こんな崩れた国の貴族なんて、苗字があるだけですよ」
「いやいや」
「とはいえ、今、このギルドのギルマスが空席でして、かわりに私がお世話をさせていただいているのです」
「副ギルマスということですか?」
「一応ですよ。城の行政機関が崩壊しているので代わりにここでなんでも受け付けているんです」
「なるほど」
お茶請けをウリサが手持ちから出してくれて、ほんの少しまったりする。
「さて、この部屋ではシュバイツ殿下と呼ばせてください。我々はなんでもご協力いたしますよ」
「では、あの城の平面図などはありますか?」
「もちろん、こちらに持ってきております」
“白色くん、スキャンお願いしますぅ”
“りょうかい”
プリネイ王城は、教会を内包するように建てられているようだ。
南にあるシュメル山脈を背にして北向きに建っている。
一階の真中奥に大広間、西翼に教会の大聖堂、東翼に玉座というか謁見の間。
二階は政治用の各省庁の部屋。渡り廊下が繋がっていて、教会の音楽室やその他の部屋へ。
三階が王家の居住用の部屋。非常用の渡り廊下が繋がって、教会の司祭や助祭の部屋に行くんだが、城からの一方通行で、逆からは行けないらしい。
「厨房には独立した階段があるんですね」
「はい。厨房は縦に三階まで繋がっていて、もちろんそれぞれのフロアがキッチンになっているんですがね、大広間の沢山の料理を作るのに、他のフロアのキッチンも使えるのが良いらしいです。かつてそこで働いてた料理長が言うには」
「へえ、なるほど。たしかに」
ガスマニアの海の家も一階と二階のキッチンが独立した階段で上下に繋がっていて、便利なんだよな。だから同じ間取りの建物をアナザーワールドに採用したんだもんな。
「シュンスケ、ほんとうに料理人で行くのか?」
「うん。ただこのタッパじゃ難しいか」
「たしかに六才児の料理人なんてままごととか思われるぜ」
「むう。んじゃ伸ばすか」
「ここでか?」
「しょうがないじゃん」
タナプス神の服を着たままだから、無理なく人間族二十歳のサイズになる。
「おお、大きくなった」
「これなら料理人で行けるでしょう」
「でしょ?」
そして、ラッシュの前で失礼して、トップスを脱いで炉端でバイトしていた時のユニフォーム…この世界に落ちてきたときにリュックサックに入れていたのを一度洗って仕舞っていたのを身に着ける。白衣タイプで前掛けとセットだからこのままで厨房に行ける。コック帽ではなくバンダナには筆文字風の店名が刺繍してある。
「どう?」
「おお、そんな服持ってたんだ」
「まあね」
「てなわけで、ラッシュさん紹介状作ってくれない?」
「殿下は料理できるので?」
「ああ、シュンスケの料理は美味しいですよ」
プロではなく、もと鍵っ子の家庭料理だけどさ。
「とりあえず包丁で林檎をむいて見せようか」
「そうだな。ほれ」
ウリサがポリゴンの林檎を渡してくれる。
テーブルにお皿をおいて、その上でマイ包丁を出してシュルシュルと林檎の皮をむいていく。
「素晴らしいですな」
唯むいているだけなんだけど。ラッシュは貴族だから自分で料理はしないか。
そのままくし形に切って、振舞う。
「どうぞ」
「瑞々しくて美味しいですな。
わかりました。では副ギルマスとして紹介状を用意しましょう。ウリサ殿はどうされます?」
「俺はこっそり入り込みます」
「なるほど。そう言うスキルをお持ちなのですな」
「まあ……」
「あの中にいる、悪魔にされた我々の同胞が無事かどうか、私が見に行きたいと思っていたのですが」
「それを開放しに行きたいと思ってます」
「ありがとうございます」
ところで、漫画やアニメだと、料理人は四六時中料理人の格好をしているけど、俺は今着こんでいる服を一度戻したいなぁ。でも料理人として潜り込むならしょうがないか。
炉端の制服で外を歩くのはちょっと恥ずかしい。
「あ、靴は…黒いままでいいか」
タナプス伯父さんの服はスキルだから、黒いショートブーツを白いショートブーツに履き替えるのも一瞬なんだ。便利。でもコックさんの靴は黒くても良いよね。
「では、ウリサ殿にはこれをお貸ししましょう」
そう言ってセグレタさんが折りたたまれた服のセットを渡してくれる。
「これは?」
「城の男性職員の制服です。まあ、私の侍従服ですけどね」
「助かります」
そっちは入り込んでから着替える方がいいだろうね。
「さ、紹介状を書きましたよ」
「ありがとうございます」
「しかし、本当に大丈夫ですか?」
「はい、任せてください」
そうして一人で城へ向かう。とはいえウリサは認識疎外のグレーのマントで隣にいるけどね。そして俺たちのかなり後ろからセグレタさんが見守りながら付いてきてくれていた。
冒険者ギルドから城門まではおよそ八百メートルぐらい?
隙間から雑草が生えた長く手入れのされていないだろう石畳を歩く。まるで廃寺の境内の様かも。
ここは国の一番メイン通りのはず。なのに大通りに雑草って。しかも馬や馬車の行き来もまばらだ。
“……終わってるな”
“うん?”
“まるで遺跡の王国みたいだぜ”
“そう言うところに行ったことあるの?”
“話しだけな”
“ふうーん、活気はないけど一応人がいるから街って事なんだろうな”
“しかし、おっさんしかいないぜ”
“たしかに、女性や子供、老人などはいないね”
“あくまがこわくて、にげたのよ”
“ぎせいになったのも、おんなのひとやこどもとかだもん”
“そっか”
“がおけれなのところの、おっさんようせいがゆってた”
“なるほど”
「なあ、そこのお兄さん、わしにお金恵んでくれねぇ?」
ぼろぼろで据えた匂いのおっさんが俺に物乞いをしてきた。
「おっさん、お金を渡しても、ここいらじゃ冒険者ギルドぐらいしか店がないだろ?」
俺が話しかける間、白色くんがブラックライトをおっさんに当てている。
「ああ、ほかに店がないからぼったくるんだぜ」
「そうだっけ。とりあえず俺は料理人だからな、食い物を渡してやるよ」
そう言って、てきとうな巾着袋に手持ちのパンやジャーキーなどを入れて渡す。
「おっ、ありがてぇ」
「行く所がないなら、ペルジャーに行った方がいいよ」
「わかった」
そうこうしているうちに、城門の前のロータリーにたどり着いた。
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