218【山越えはお弁当を持って】
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翌朝、チェックアウトするときに、
「料金はいらないですよ」
「へ?」
だってあんなに飲み食いしたし、スイートルームだったのに。
ここのスィートルームは、主人ファミリーが泊まる三つの寝室、まあ夫婦が泊まる主寝室と子供なんかが泊まる寝室と、それら用の水回り、連れてきた従者の寝室とその人が使う水回り、従者がお茶出しにつかうキッチンもある。つまり水回りが三セットある4LDKだった。
落ち着かないので、小さい方の寝室をウリサとそれぞれ使いました。
あと、子供の時母さんと行ったハワイのホテルでもあったけど、洗い場がなくてバスタブとシャワールームが別で、トイレと洗面が一緒のだだっ広いバスルームも落ち着けない!
大きい寝室の大きいキングベッドはベッドダイブだけしてみたよ。
……父さんの所のベッドの勝ち!
閑話休題
「スイートルームの部屋はもちろん食事の料金もいらないと」
「王太子殿下とギルマスから、そう言われているので」
「確かにそう言うことだった!」
アナザーワールドで言われたことをすっかり忘れていた。
「せめて何かお土産を買いに行こう!」
「そば粉のパスタって乾麺かな」
「そうだよウリサ!それを買って行こう」
冒険者ギルドに必ず併設しているショップ。地域やそのギルドの特色にもよるけど、ここは日持ちのする食品が多いようだ。干し肉、乾した根菜、そして数種類の小麦やそば粉のパスタ。
そば粉は満月湖でも育てているから、勉強がてら一通りご購入。パスタソースの瓶詰も買ったよ。
「粉だけでも買うのか?」
「うん。こんどクレープにして振舞おうかな。ただそば粉はアレルギーに注意なんだよね」この世界のそば粉はどうだろ?同じに見えるけどさ。
「へえ」
「よう、昨夜は眠れたか?」
ギルマスのラシアンがショップから出た俺たちに声をかけてきた。
「おはようございます」
「おかげさまで」
「これから王都に行くのか?」
「いえ、このまま直接問題の所を見て回ろうかと」
「そうか、くれぐれも気を付けてくれよ」
「もちろんです」
建物の前のロータリーでハロルドに馬具を付けていくのはやっぱりウリサ。
「いつもやってくれてるから今日は俺がやるつもりだったのに」
「こういうのは大人の方が多分やりやすいからな」
「確かに、それのためだけにでかくなるのも変か」
「だろ」
ハロルドに二人で乗り込んだところで
「ちょっと待ってー」
「まってまって!」
「ウリサ!シュンスケ!」
少女達の声で引き留められるとそこには猫耳のウエイトレスのグループが並んでる。
「あ、カカの皆おはよう」
「おう、どうした?」
「これ、持って行って」
ミルキーが布のかかった籐籠を差し出してきた。
「これは?」
「お弁当、持って行って。作ったのはビター姐だけど」
「さんきゅ」
「わあ嬉しいな」
「ハロルド様にもフルーツを入れてあるわ」
『やった!うれしい!』
「これから、キティー公国やプリネイ王国に行くんでしょ」
ガナッシュ殿下も話しかけてくる。いまはギルドの食堂の職員だけどな。
「うん」
「あちらには、ギルドとか特にお店とかは機能していないと思うから気を付けて」
「それでお弁当を?
本当にありがとう。今回は空から見るだけだから心配しないでね」
「でも、おまじないをひとつさせて。これを」
そう言って、缶バッヂ位の物を俺の方に差し出してきた。
「これは、ガナッシュ殿下の紋章?」
最近自分用に作ったところだったからすぐにわかった。
「私は第二王女だから、紋章はこれ一つしか作ってもらってないの」
「そ、そんな大事なものは大事にしなくちゃ」
「大丈夫、冒険者の身分証もあるから」
「で、でも」
「シュバイツ殿下、本来我が国も積極的に行かねばならないことだとは思いますが、調査の方無事に終えられますよう、お戻りの際は必ずお返しください。お願いします」
ウエイトレスの制服で綺麗なカーテシーをされる。
「調査だけでこちらに戻ってこれないかもしれないよ」
「構わないわ」
「じゃあ、交換しよう。俺は最近作ってもらったところなんだ」
そう言って母さんに作ってもらった精霊の翅の紋章を渡す。
「まあ、そ、そんなつもりじゃなかったのに」
「交換するのに、深い意味あるっけ。俺まだこういう事には疎いからなー」
「……ただ、無事を祈るだけよ」
「じゃあいいね」
「でも、シュバイツ殿下の紋章、模様が光って……」
「鍵穴を探すのに便利だよきっと」
「そんなことに使わないわ」
「ぷっ、また言ってら」
頭の上でウリサが吹いている。
「えー」
『ふふふ、王女様は自分で鍵を開けないんじゃない?』
ハロルドにも突っ込まれる。
「やっぱそうなの?」
鍵っ子だった俺には分かっていなかったね。
「そんな暗い時に一人で鍵穴を探さないって事よ」
ミルキーのセルフに納得。姫は夜に一人で歩かない。
「じゃあ気を付けて行ってらっしゃいませ」
「『行ってきまーす』」
「しつれいします」
ギャロップスタートで羽を広げて飛び立つハロルド。
数日前とは違って、シュメル山脈は雪を冠している。ますますアルプスって風景だ。
先日は降雪もないぐらいに乾燥していたらしい。今は、西側のペルジャー王都の歪んだ五芒星型の湖も復活してるもんね。
でも今回はペルジャーの王都ではなく真っすぐガオケレナの方角のさらに高い所を目指して。
“おうじ、早く!”
念話がシュメル山脈の方から来た。
“どうしたガオケレナ!”
“プリネイ王国のほうで空間の揺らぎが!”
“わかった!”
ドルジが言ってた。
プリネイ王城の尖塔のベルの所に魔界への入り口が取り付けられているって。
あのベルへは階段がないらしくて、とあるところから転移する魔道具で行くか、リアルに飛んでいくしか行けないらしい。
「ハロルド、ガオケレナの上空に転移するよ」
『わかった』
周りの風景がすぐに切り替わる。
「ウリサ、耳とか大丈夫?」
「転移前にはもう変だったが、水飲んだら治った」
「よかった、じゃあこのまま行って」
『うん!』
ガオケレナを足元に捕らえながら、シュメル山脈の北側へ向かって滑空してそのまま尾根も超える。
「わあ、結構きれいな国なんだな」
全体を見ると、写真や動画でしか見たことがないけどスイスのようなのどかな風景が広がっていて、ところどころ牛のいる牧場も見受けられる。
全体的には奇麗。よかった。
ただ、尾根を越えて見えてきた手前の山の麓にある街が全体的にどす黒い灰色っぽくて粉っぽい。
草や木々も無くて、昨日飛んできた砂漠のようだ。黒っぽいけど。
「あれが城かな」
『そうだね……あ!王子あそこ!』
足下に城が見えているそこには言われていたような尖塔がある。教会は城の中にあるのかな。教会の建物が別にある感じがしない。
尖塔の先には剣先というか避雷針のような尖った金属がある。避雷針でなければ、雷をさそって危ないんだけど。どうだろ。
なんて見つめたらあたりがゆらゆらと陽炎のように歪みだした。と思うと先日夢でみた真っ黒な隙間がそこから現れる。
これは今は開けちゃだめだ!
俺は思わずあの夢の雷を思い出す!あの雷を、❘ゼポロ神よ《おじいさま》尖塔に落として!
ガラガラガシャーン…… チラチラチラチラ……
さっそく落としてくれてありがとう!
「キャー」
「ウォーッ」
な、なんだ?
そのそばには、真っ黒なドレスを着た二本角のある女性と軍服を着たミノタウロスがどちらも蝙蝠のような羽を広げて浮いていた。
俺たちはそれよりも数メートル上空で、透けた状態で浮いている。もちろん、ウリサも認識疎外中だ。
「ちょっとなに!魔界からの迎えが閉じちゃったわ」
「タローマティさま、私も驚きました」
“あの人がタローマティだね。帰る所だったんだ。ゼポロ神もちょっと早まったね。あの人たちが帰ってから電を落とせばよかったのに”
“あれはお前が落としたんだろ?”
“へ?”
“おうじがおとした”
“おうじからまりょくがとんでったのをみた”
まじ?じゃあもしかして夢のは?
「えーまたあっちの魔導士の魔力が集まるまで待つってわけ?」
「しょうがないですな」
二人はベルのぶら下がっているあたりの欄干に立って色々覗いている。
彼女たちの動きや声は精霊ちゃん達が届けてくれている。見つかる様子もない。
だって悪魔なんかに精霊ちゃんなんて見つかるはずもないもんね。
「目印にしていた連絡用の小穴さえ無くなってますよ」
「じゃあどうやって魔界と連絡をとればいいのよ!」
「また千年ばかり待つしか」
「なんですって!アーリマン!もう魔素を集める媒体も、黒い汚泥の元も残り僅かになってきているというのに」
あいつが偽のアーリマンなんだな。
「とりあえず、もう一度対策を考えに城に戻りましょう、タローマティ様」
「……しょうがないわね」
二人の悪魔がかき消えてしまった。
城の中にでも転移したのか。
“おしろのなかに、もどってきたわ”
“皆はこの城の中にはいりこめた?”
“ほかよりはちょっとしかむり”
“このおしろ、きちゃないの”
精霊ちゃん達は汚い所が苦手だもんな。
「と、とりあえず、地上に降りてみようか」
「ああ」
周りから認識疎外の状態を保ったまま、先ずは城下町の人気のない所に降りたってから、ハロルドを仕舞って、認識疎外を解除して黒目黒髪、ウリサは赤茶髪に黒い瞳のいつものデフォルト状態で歩き出す。俺は六才児サイズのままなので、手を繋いだ方が自然なんだよな。
砂埃がかった乾いた空気、ゴミの散らかった路地には座り込んでいるくたびれたヤマネコ人族がちらほら。歩いている人は少ない。
「うりさにいちゃんちょっとさむいね、これきようよ」
「ああ」
建物の陰で、キャッツアイズたちに貰ったままになっているボロボロのマントを出して今の上着と入れ替えるようにそれぞれ被る。
だって、ここの人たちの服装も皆ボロボロだから、これを被ってないと目立ちそうだ。
王都のさらに城下町だというのに、人通りが本当にない。
「あ、あそこ」
「冒険者ギルドだな」
そこには見慣れた剣と盾のピクトグラム。
「行ってみよう」
隣には剣と金色の二匹の蛇の商業ギルド……は〈CLOSED〉のボロボロの看板。
「商業ギルドはやってなさそうだな」
「うん、中に人もいないのかな」
カランカランカラン
ベルアベルのギルドのようにカウベルの取り付けられた扉をくぐる。
「西部劇だ」
「なんだそれ」
むさくるしいおっさん冒険者しかいなかった。
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