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20【ビーチでお約束】

 青い空、碧い海、そして真っ白な砂浜を見ながら、俺はひたすら氷を生産していた。

 ドミニク卿のリゾート用屋敷に隣接している都民向けビーチで、夏限定の店をしていた。

 更衣室・シャワールーム、そして荷物の預かり、

 パラソルとサマーベッドの貸し出し、

 俺の知っているのと違って、なんか木製でごついのばっかりなんだけど、力持ちのゴダが

「ほいほいっ」って運んで設置している。さすがだぜ。

 そして、屋台のグルメ!さすがにアイスやソフトクリームはないけど、氷担当の俺がひたすらかき氷を出しております。


 ポリゴンの一般家庭にはない、純粋な水を出せる水魔法の蛇口も借りている。何もないところから真水を生み出す道具だ。


 帝都の水道は、ポリゴンの水源と同じ川が河になった下流で取水されている。だから多少浄水(網でゴミを塞いでるだけ)されているとはいえ、もともとの水質がわるいので、煮沸するだけでは不味いらしい。

 水道水はもっぱら、浴用や洗濯、掃除に使うそうで、飲み水は定期購入で樽で配達されたのを飲むんだって。その飲み水を生産している工場と同じシステムの蛇口が、お貴族様の家にもあると。そして人口の多い帝都は水魔法が使える人も割合多く、魔道具屋でも売ってるらしい。

 うん、進んでいるな。それに、水道につなげておく必要がないので、持ち運べるタイプもあって、それを借りている。バイト先で見たビールサーバー用の蛇口みたいな、キラキラした美しいフォルムで、これには白っぽい水色のぽっちが付いている。それをクランプみたいな部品で台に固定して使う。

 ただ、ほかの蛇口と同じで、誰でも出せるわけじゃないんだ。ま、全属性の俺にかかればなんでもないけどな。まだ、ちゃんと魔法は知らんけど。

 要は、煮沸しなくても直接かき氷用の水が出せるってことだ!

 朝のうちに一日分の水を魔道具で出す。

 そして昼から時間を区切って一時間に二十分ずつかき氷タイムをつくって、その時だけ生産させてもらっている。俺が五歳なので、働かせすぎは虐待に当たるそうだ。ずっとやってても大丈夫なんだけどね?それに、時間を制限することで、プレミア的な良さが発生する。かき氷タイムはそれはすごい列だ。うん?あの蛇口は孤児院にもあったんだから、どこにでもあるよね?プレミア?シロップとかフルーツソースとか?材料を仕入れたて配達してくれるのはそこのお店なんだけどな。って思ってたら、

「あの蛇口でお前ほどいろいろな種類の氷を出すやつを見たことはない。冒険者の知り合いに魔法使いがいるが、普通のロックアイスしか出さん」

 ってウリサが言う。そうなの?

「そうそう、おいらも、シュンスケに会うまで、あんな色々な氷があるって知らなかったよ。雪山とか、つららとか、自然にできる奴は知ってるけど、あれも氷とは思ってなかった。氷みたいに冷たいなーって思ってたけど」

 てゴダも言う。・・・全部氷ですよ?

「だって、解けたら水になるのは一緒でしょ?」

「まあな。水魔法と氷魔法は別だと思ってたからな」

 そんな。じゃあ水蒸気の存在も知らないのでは。まさか。

「プレミアはかき氷そのものじゃないわ」

 アリサが別の角度で言う。

「そうなの?」

「シュンスケがキラキラにこにこと、パウダースノーを生産しているのが、女性に人気なのよ」

「は?」

「それで爽やかな甘ーいソースをかけてもらったら、もう最高ね」

「うんうん。確かに、かき氷の列の女はみんな、シュンスケを見に来ている感がするな」

「えー」俺がショタの対象になってるんでしょうか。

「ま、男も冷たいものは好きだから並んでいるけどな」

「俺は甘いものより、棒の刺さった腸詰を焼いたやつとか、焼きとうもろこしのほうがいいな」

「ゴダは醤油とバター醤油と、どっちがいい?」

「どっちもいい!両方食べる。さっき醤油の食ったから、次はバターのやつだな」

「おまえは、店員のくせに食い過ぎだ」

「ちゃんとお金はらってるからいいじゃん」


 しばらくして俺は一人でかき氷タイムをさばいていた。

「パパはスイカ、お嬢ちゃんはバナナでしたね。一切れずつトッピングおまけ。はいどうぞ」

「おっサンキュ」

「おいし!ちっちゃいおにいちゃんありがと」 

 かわいい。まっちゃんみたいだな。思わず俺の顔もほころぶのを感じる。

 孤児院のあいつら元気かな。

 異世界に来てまだ四カ月、帝都に来てまだ二週間、もう孤児院が懐かしかったりして。

 我ながら馴染むの早くないか?


「キャッ、ちょっと、何するの?仕事中なのよ!」

 アリサの声がする。

「仕事って、あんな吹き飛ぶような屋台なんて、安っすい報酬じゃないのか?」

 なんだ?

「俺たちと来た方が稼がせてやるせ」

 この世界にも成金チンピラみたいなのがいる!

 派手なジャケットに、ゴールドに輝いたネックレスを首に二重にかけ、両腕にもじゃらっとブレスレットが輝いている。指にも1本おきに光る石の付いた指輪がついている。

 そんなおっさんが一人と、取り巻きの三下って感じの男が二人でアリサに近寄る。

 もうテンプレどおりに「へっへっへっ」って舌なめずりしている。


 あ、アリサの手首をつかんだ。前と後ろではさんで逃れにくくしている。卑怯だ。

「痛い。離して!」

 それに、アリサはいま冒険者じゃないから丸腰だ。革鎧も着ていない。

「私、Dランク冒険者なのよ!」

「本当か?何も獲物を持ってないじゃん」

 この世界の冒険者は手に何かを持っている。剣とか、槍とか、魔法使いにも杖がある。丸腰だと何もできないと思われがちだ。体術ができても、男二人がかりに女の子は分が悪い。

 アリサの細い手首を三下がつかんでいる。


 パラソルとビーチベッドのレンタルがいくつか重なって、ウリサとゴダの両方は海の方にいた。


 アリサが絡まれているのはここから二十メートルほど離れているビーチの入り口だ。さっき、トイレにと言って一人で離れていた。


 バスッ ドッ ドスッ


「うわっ」

「ぎゃ」

「痛って、だれだ、どこから」


 ウエストポーチから出したナイフを、うまくチンピラたちの肩や腿、膝に命中することができた俺は、かき氷タイムの列のお客様に、「ちょっと待っててください!」ってお願いして、アリサのもとへとんで行った。


「おっさんたち、アリサねえちゃんに何をしようとした?」

「あ?なんだこのガキ?」

 ナイフが刺さって動けないのに口だけはまだ元気だ。

「こっ、この方はヴィオレント伯爵家のご嫡男だ。お前みたいなガキなんて相手にしないんだよ」 

 三下が叫ぶ。

「は?伯爵様の息子さん?こんな趣味の悪いおっさんがお貴族様?」

 は、つい本音が。

 テントの辺りでくすくす笑ってくれるオーディエンスさんありがとう!

「「な、なんだとこのガキ」」

「いいですか?女性の手首を無理やり掴んでいい、なんて、いくらお貴族様でもそんな特権ないんですよ。俺はまだ学園で勉強してないからはっきりしたことは分かってないですけどね」

「学園ってお前も貴族か?」

「いいえ。どちらにしても貴方たちみたいな終わってる貴族になってしまうなんて、学園に行くのは考えた方がいいかもですね」

 と言いながら、アリサの前にまわる。俺のたっぱじゃ全然アリサの盾にはなれないけれど。

「シュンスケ」

 俺にだけ聞こえるようなアリサの声。

「もうちょっと後ろに下がってもっと」

 俺も小さい声で答える。


「兵士さんこっちです!」

 バタバタと数人の足音が近づいてきた。

「なんだ、どうした。何があったんだ。ナイフが刺さってる。誰がやった?」

 兵士が叫ぶように言う。

 ここは可愛く対応した方がいいかな。

「ぼくです」

「は?君が?」

 そうそう、ってギャラリーも。

「この男の人が無理やりお店のお姉ちゃんにね!」

「すごかった、あの屋台から投げたのよ」

 なんて!

「詳しくは詰め所に」

「そのおじちゃんたちがわるいの」

「おれたちもみてました。ここで説明できますよ」

 そう声を上げてくれたのは、さっき女の子とかき氷を買ってくれたパパさん。

「我々は、一部始終を知っているから。正直に証言できるよ」

「そうそう!私も証言するわ!あの派手なお貴族様がね・・・」

 って一日おきに買ってくれるマダム。


 そうこうしているうちに、ウリサもきた。

「あの、この子供は隣の辺境伯家のドミニク卿の預かっている子なんです。詳しくはお屋敷に」

「わかりました」


「ごめん兄さん。ちょっと油断してたわ」

「いや、お前に何もなくてよかった。シュンスケ、守ってくれてありがとう」

「あいつがアリサねえちゃんの腕をつかんだ時になんか頭に血が上っちゃって」

「そっか。おれもそうなるな!」


 そんなやり取りしていると、警らの兵士さんが呼びかける。

「当事者の二人、一緒に来てくれますか?」

「「はーい」」

「俺も保護者として」

 って感じで、ゴダ一人を店に残して。


 結局、ヴィオレント伯爵家の残念な嫡男さんは、誘拐未遂事件の犯人として、いったん捕まり、伯爵家に多額の保釈金を払って出してもらったものの、こんな恥ずかしい跡取りはいらないって言われ、廃嫡されたあげく、遠い遠い領地に送られることになった。荒れ地の開墾をさせるらしい。二人の三下の人と。


「ってわけで、伯爵家にもらった迷惑料がこれ」

 またお目にかかった大金貨1枚。しかし。

「アリサねえちゃんにあんな目に合わせておいてこれだけ?お金を渡すだけ?ちゃんと詫びにこーい」

 プリプリ。って俺はお怒りだ。

「怒ってくれてありがとう。それに、あんなに離れたところから見事にナイフを投げて、あいつらを止めて、私のところに飛んできてくれたのがすごく嬉しかった」

 お屋敷にあるお風呂から上がって美しいムームー姿になったアリサが俺を抱きしめる。髪には俺が切ってきた屋敷の庭で咲いてた小さなひまわりの花を挿して。

「無事でよかったです」

 そう答えながら、俺は初めてアリサをそっと抱きしめ返した。


お星さまありがとうございます。もっと頂けたら♪

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遠い遠い領地に贈られることになった。 遠い遠い領地の人「こんな廃棄物要らんがな(;・∀・)」
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