207【アマビリータ】
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さて、この世界樹の幹の中の空間にいる二人のことだけど、
ガオケレナは肝っ玉母さんって感じの女性。中高生のときの同級生のお母さんよりは年上?でもおばあちゃんって感じでもないんだよ。
ふっくらした頬にはえくぼがある。
スモックというか割烹着というか、そう言う服を羽織っていて、たぶん長いスカートに毛糸の靴下。冷え性なのかな。
緑色のてっぺんでまとめたお団子頭で、眉やまつげも緑色。瞳は水色だ。
『さて、あたしがガオケレナだよ。宜しくね』
右手を出されて握手。
俺の手がふっくらしたお饅頭のような手で包まれた。
この感触好き!あったかいし。
俺の母さんは違うタイプだったけど、お母ちゃんって感じするなぁ。
あ、ドミニク卿のお母さんのロベリアさん方が近いかも。
別名〈包容力〉って感じかな。
すっかり元気になった、ガオケレナは昭和の主婦のようにパタパタと動き出した。
いつの間にか空いた穴があって、そっちにキッチンのようなものがあるようだ。
『美味しいお水のお礼に、お茶を入れようかね』
そうしてもう一人、六才児の俺と同じぐらいの子が座っていた。
白く透ける、ほんの少し黄色味があるオフホワイトって感じの髪の毛が長く伸びていて、眉やまつげも俺より真っ白。そして肌の色は俺に似て少しピンク色だけど白い。
俺より濃い草木の葉っぱのような真緑色の瞳、尖った耳、そして俺のより透けているような四枚の翅。
そして、脱色した葉っぱのような真っ白な葉脈が模様のワンピースというかチュニックのようなものを着て、白いスパッツのようなものを履いている。
膝の上あたりからは裸足。
『こんにちは精霊王子』
「ど、どうも、シュンスケです」
『ここに座って』
隣のクッションを叩いて誘ってくる。
「う、うん」
『ふふふ、可愛いな』
「へ?君こそめっちゃ奇麗だし、か、可愛いよ」
この世とは思えない存在に嚙みそうになる。
『ありがと、僕はアマビリータ。一応妖精王って言われているんだよ』
アマビリータ?
音楽用語で可愛いってことなんだけど。名前ピッタリ!
精霊王(父さん)もいるけど、妖精の王様も別にいたんだね。
「初めまして、アマビリータ。宜しくね」
隣に座ったのに、ほとんど俺の方を向くから、俺も体をひねる。
近い向かい合わせ。そして右手を出されたので握手。
わ、ほんと手も俺と同じぐらいの大きさなんだけど、柔らかくて細い。女の子?
『違うよ、シュンスケ。僕には性別は無いよ』
「へ?」心を読まれちゃった。神様?
『違うよ、君と同じだね』
「俺は男だけど」
『そうなの?』
「うん」
『女の子でもあるって聞いたんだけど』
「だれに?」
『風のうわさ』
「そ・・・それはね変身のスキルで・・・・」
『ふーん。本当?こんなに可愛いのに!』
そう疑われても、まさか男じゃないって言ってる子に、息子を見せるわけにもいかないよ!
俺はクレヨンなあの子とは違う!
アマビリータと名乗ったその子が妖精たちを統べる王らしい。
『僕はブランネージュの幼馴染なんだ』
「父さんの?」
『うん。ふふふ、やっぱり君はブランネージュの子供なんだね王子。匂いがちょっと似てる』
「父さんに?父さんの匂いは……分んないよ」
『そりゃ、自分の魔力の匂いって分かんないよネ』
「そういえばアマビリータは良いにおいする!」
『ほんと?』
「えっと……アティママ神様に近いかなぁ。水仙がもっとやわらかくなったような香りというか……」
『はいお茶。
すごいな王子は。女神さまの匂いが分かるんや』
肝っ玉母さん、いやガオケレナが笑いながら何かが入ったカップを置いてくれる。
「まあね。ところでこれは?」
『さっきのお水も美味しかったけど、ミルクティにちょっとスパイスが入ったものだよ』
「チャイかな?」
クンクン
これには、あれかな。
ベルアベルで買った、チーズのクラッカーかな。
自前の紙皿をおいてクラッカーを出す。
『わ、おいしそ』
『ほんとだ、こういうものは久しぶりだよ』
そして、スフィンクス謹製のチョコレートも出す。
『わはは、これがブランネージュ?』
金紙で包んでいるコインのチョコを出す。
「そ、ほらこれが大金貨」
同じデザインでちょっと小さめの本物を出す。
『わーお金!』
『確かに、あたしらの耳みたいやな』
しばらく、しょっぱいものと甘いものとチャイのループをしている。
『久しぶりで美味しかった』
『あたしらは、食事はいらないんやで』
『そう、嗜好品だな』
「なるほど、ハロルドもそう言ってたな」
『美味しいものを食べるのは楽しいもんね』
『せや』
『いつもはお茶だけなんだ。あたしの枝の一か所に茶の木を挿し木してあってね、それで器用な妖精がいろんな種類のお茶にしてくれててんけど』
「その妖精は?」
『どこに行ったんだか、数年前からおらんようになってね。せやからこのお茶は貴重な残りやねん』
「それは大変だね」
古いお茶でもこの世界ならアイテムボックスとか、風味を保つ仕組みがあるからね。
『甘いのは、高位精霊のコが作ったって聞いたけど、チーズクラッカーの方は?』
「南の砂漠の境目にあるベルアベルって町のギルドで買った」
『へえ、ベルアベル!懐かしい!あの町ってね、国の名前はいろいろ変わってるんだけど、原始的な集落だった時代からあるんだよ』
そっか、国としての歴史は全部古くないけど、町としての歴史は何千年も続いているところがあるんだね。
「アマビリータはずっとここから出られないの?」
『そう、僕は、ここでアーリマンを封印しているから、ここから出ないんだ』
「どこに封印しているんだって?」
『ここ』
そう言って、複雑な微笑みを浮かべて胸を押さえる。
「どうして…………じゃあアマビリータはずっとここで…………」
『うん』
笑ってるけど。
『大丈夫だよ、王子。僕は妖精王として、自分の意思でこうやってるんだ』
「詳しく教えてほしい」
『うん』
アマビリータは目を閉じてゆっくり話し出した。その顔を見つめる。
妖精だけどちゃんと血の通った存在なのかな。
色白の人と同じように瞼や顎のあたりに青い静脈のようなものが透けて見える。
俺も、今みたいなスピリッツゴッドの時はそんな感じなんだよな。
『僕が知ってる限り、この大陸には、妖精と精霊がいる』
「うん」
『俺は妖精。
妖精はね、周りに影響されやすいんだよ』
「どういうこと?」
『そこの環境が悪くなれば、悪い方に染まっちゃう』
「うん?」
『例えば精霊は、汚いものが苦手だから、瘴気や汚れたものが近寄れば逃げるでしょ』
そういえば、デモンサージェントMが作ったダンジョンの細い隙間を精霊ちゃん達と探検した時に、精霊ちゃんだけでは黒いあいつやネズミとかと戦えなかったな。
逃げてきて俺にしがみついていたっけ。
『でも、妖精は逃げることは考えずに汚いものに染まってしまう』
「たしかに、俺が抱えている妖精たちも初めは汚い汚泥に染まっていたな」
顔は醜悪だし。
『そう、単純に言えば、精霊には悪はいないけど、妖精にはいるんだよ』
『特にあたしらみたいな高位な妖精は悪には染まらないんやけど、下位の妖精は染まりやすい。そして染まり方によっては、高位妖精並みの力を付けちゃうんや』
ガオケレナが合いの手のように話す。
『アーリマンも初めはただの小さい精霊だった』
「三角帽の?」
『そう。王子の所にもたくさんお世話になってるね』
「…………まあ、成り行きでね」
今は色々手伝ってくれているし。
『あの子は、他の妖精よりすこし出来が良くて、すぐに中位妖精になったんだ。もともと闇属性の魔法が得意で、紅茶をとかを作るのが得意だったんだ』
『せや、このチャイの元のお茶も、アーリマンに教わった他の妖精が作ってくれたお茶やで』
『ある日この地に異世界から悪魔の王、君に分かるように言うと魔王って事かな?がやって来て、この世界をいずれ我がものにすべく、唯の下位妖精のアーリマンに魔王の娘のタローマティが近寄ってきて、アーリマンに元々あった欲を膨らませ、悪意を増やし、そうして、悪魔に育てていってしまったのさ』
「異世界にも色々あるんだねぇ」
『王子は異世界に詳しいの?』
「俺はそもそも異世界で生まれたっていうか、異世界生まれの俺からしたらこっちの方が異世界なんだけどね、まだそういう感覚でさ」
『へえ』
「なあ、アーリマンがもともと妖精だった悪魔なら、俺が預かろうか?」
『へ?だめだよ!』
「俺なら魔法の空間に入れておけるよ。そうすればアマビリータも自由になるのじゃないかな」
『で、でも、そんなことをしたら、ガオケレナが』
『あたしの心配はいらないよ』
「うん?」
『もともと僕が妖精たちを取りまとめてこの辺りの自然を調節する係だったんだ。
ブランネージュは北西の反対の方の係』
「なるほど?」
『数千年前に、ブランネージュが無力化してくれたアーリマンを押さえるために俺が自分の中に封印して、この中に隠れたんだ』
「うん、それで?」
『外に出なくなったら自然の調整が出来なくなって、アーリマンの影響を受けていた悪魔たちが徐々に力を付けて、砂漠を広げちゃったんだ。
砂漠が広がっていく様子は下位の妖精が教えてくれたんだけどね』
「父さんも、ハイエルフになってから、なかなか精霊たちを統べることが難しくなったと女神さまが言ってた。父さんはエルフたちの方をまとめなくちゃいけなくなってるからね」
『僕はせめて、ガオケレナを守って、この最後の砦ともいえる妖精の聖地を守りたいと思っていたんだ』
『おおきにな』
ガオケレナが複雑な笑顔を見せる。
『でも。結局彼女に守られて助けられているんだよ』
『そりゃ、あたしも妖精のはしくれやで、妖精王を助けるのはもちろんのことや』
『それで、ガオケレナの力をアーリマンを封印している俺を助けることに使って、外からの被害に耐えられなくなっているんだろ』
『そんなの気にしたらあかん。それに、こうやって、精霊王子が来てくれたからもう大丈夫!
な?』
さくさく
こくり
チーズクラッカーを齧ってチャイをのむ。
「ねえ、アマビリータ、アーリマンを見てみたいな。どんな妖精なの?」
最悪、ドルジの彼氏だったんだよねぇ。
首を左右にぶるぶる振っている。
「出せないの?」
また首を左右に振る。
「出せるんだ」
首を横に振っている。
俺は隣り合っているアマビリータの背中から手を当ててそうして鑑定をかける。
〈アマビリータ:妖精王、妖精を統べる物、状態異常/アーリマン〉
“ねえ、アーリマンは大悪魔なの?”
アマビリータの中の彼に声をかけてみる。
“だれだお前は”
“俺はシュンスケ。アーリマンと話しをしてみたいな”
“大魔王の俺様を呼び捨てとはいい度胸だな”
“アーリマンこそ、閉じ込められている身分のくせに偉そうだな”
“なんだと!
こんなところ、俺様が本気を出せばすぐに出れるんだよ!”
“アーリマンのいるところはどんな所なの?”
“常に眩しくて、休むことさえできない、地獄だ!”
アーリマンとのやり取りはアマビリータにも聞こえているみたいで、少し青ざめている。
『ぼ、僕の中が地獄?』
「悪魔にとっては明るい所は地獄って事さ」きっと。
映画の紹介かなんかでそう言うの見た気がする…………。
『そっか、そう言う事か。びっくりした』
“そこから出してやろうか”
“ああ!もうなん百年もこの中に居るのだ!いい加減出せ!”
上からだなぁ、まあいいか。
“俺が扉のイメージを送るから”
“はん?扉…………おっ。何だ茶色い…………しかし甘ったるい匂いの扉だ”
それは木じゃなくってリアルな板チョコだからね。
“取っ手は無いけどそれを押してみて”
“おう、あ、動くぜ。
違うところに出られるんだな”
『だめ、王子!だめだよ』
「大丈夫だから、まかせて」
ガチャリ
アマビリータを抱きしめてこっちも宥める。
「大丈夫だから!」
“ここは?”
アーリマンからの声が続いている。
“そこは、俺のほかの妖精の友達がいるスモールワールド。そこでちょっと待ってて”
“うん、あ、ほかの妖精がいるのが窓越しに見えるぜ”
“だろ!ちょっとそこでおとなしくしていてね”
“わかった、待ってるぜ!”
そして、アマビリータの中から、アーリマンが抜けたのを埋めるように、回復魔法をかける。
…………すると、俺とほとんど同じ大きさだったアマビリータが成長していく。
『あれ?王子って沢山抱えてるんだねぇ』
「?」
『ハロルドやミグマーリも君の中にいるんだ』
「ま、まあそうだな。ミグマーリは今はトルネキの王都の湖にいるし、ハロルドはここの西側を、俺の兄貴分と一緒に洗いに行ってる」
『ふうん?』
最終的にアマビリータは中学生ぐらいになってしまった。
ちびっこ同士分かりあえると思っていたのに。
「そっか、父さんの幼馴染って言ってたっけ」
『そ』
父さんの幼い時を知っている存在に初めて会ったぜ。
父さんも綺麗で存在感はめっちゃあって、でも男らしいって感じじゃないけど、アマビリータはもっと中性的。たしかに男でも女でもないってことか。まあ、ヒトの物差しで測れない存在だね。
高位精霊たちは何となく男女の区別あるけどさ。三角帽の妖精たちはおっさんばっかりって思ってたんだけど、もしかしたら…………
『ううううっ』
正面を向くと、ガオケレナが泣いていた。
「ど、どうした!まだどこか具合悪い?」
『いや、あたしは、ずいぶん楽になったで。それよりアマビリータが元の姿を取り戻してくれたことがうれしいんや。良かったなぁ』
『うん』
アマビリータは、ガスマニアの帝都の、セイラードぐらいかな十二~十三歳ぐらいの見た目になって、オフホワイトの髪は腰ぐらいあって、俺よりは透けた六枚の翅が背中からやっぱり少し離れて生えている。
たしかに妖精王という感じもするなぁ。
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