194【砂漠で迷路をコロコロ】
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「まあ、こういうことは偉い人を立ててするべきだよね」
「偉い人?お前のお父上か?」
「あの人もえらいけどさ、もっと上にこの世界で一番偉い方と言ったら・・・」
「ま、まさか」
ウリサを伴って夜の教会に入った俺は、一番端っこにある、創造と太陽の神、ゼポロ神の台座のあるべき場所にある塁ベースのような部分に左手をかざす。
巨大な空間というものを創造するのに創造神の力を借りるのが有効的だと俺は知っている。
そこに俺は聖属性魔法をきらきらと注ぎ込みながら、右手に持ったダンジョンコアを左手と台座の間に持ってきて固定する。
すると、微振動を発しながらダンジョンコアがゆっくりと飲み込まれていくと今度は台座が立ち上がっていく。
一拍遅れてほかの六つの台座も立ち上がる。
台座の上の像も順番に現れていく。
まずは創造と太陽の神ゼポロ、月と魂の神タナプス、海と宇宙の神ウォーデン、大地の女神アティママ、水の女神ウンディーナ、風の女神ローダ、火と文明の神ヘファイド。
「すげ全部そろった」
でもねウリサやっぱり、冥府の女神カナス様は台座さえないんだよ。
「よかった、アティママ神は俺の知ってる衣装だ」
「たしかに、ほかの教会とは着られているものが違うな」
「でしょ。俺のイメージはこっち」
「さすが女神の甥っ子はすごいな」
頭をぽんぽんされる。
ちょ、俺ってもう二十歳って知ってるでしょ?と思うんだけど、久しぶりのウリサに、
「へへへ」って笑っちゃう。
すると、俺の脛をつつく感触がある。
見下ろすと、俺の足の甲に乗って脛をつついている赤い帽子が見えた。
「ノーム?久しぶりじゃないか。どうした?」
すると、なにやらゼスチャーをしだした。両腕で大きな丸を示してから俺を指さし、それからゼポロ神の反対側のヘファイド神の台座を指さす。
「うん?」
“まえにわたした、るびーどらごんを、あっちにうめろってさ”
けっきょく赤色くんが通訳してくれた。
俺は以前ロードランダ王国のリーニング領で、この、ちいさなサンタのオーナメントのような妖精のノームに渡された、初めはピンポン玉の大きさのルビー色の丸い魔石だったのが、いまやさっきゼポロ神の台座の下に埋まっていったダンジョンコアほどの大きさ、つまりボーリングの玉ほどの大きさになっていた。あまりにも大きいので、この子専用のアナザールームを作ってそこに置いて、時々様子を覗いていたのだ。
熱を少し発しているこの魔石は、熱に耐えられる付与を施した高級なスライム枕の上に置いて寝かせて置いた。
「ねえ、これってどうして大きくなったの?」
すると、またゼスチャーが始まって俺を指さして、腕一杯で大きいみたいな動きをする。
“おうじのまりょくが、たまっておおきくなったらしい”
「じゃあ、この魔石も利用すれば、このダンジョンの動力というか魔力の補助になるってことなんだな」
すると、首を縦にブンブン振る。
「わかった、じゃあやってみるから、俺の足からどいて」
って俺に言われてから、足に乗ってることを思い出したようで、びゅっと後ろに下がって床の上でぶるぶる震えながら土下座を始めた。
「謝らなくていいから!むしろありがとう!」
するとふさふさの眉毛に隠れて目を見たことは無いんだけど、俺を見上げてしばらくすると今度は鼻と鬚の間からなにかが垂れてきた。
“うわ、ノームなくな!はなたれんな!”
“ほら、はなちーん”
白色くんが何処から出したのか、畳んだティシューでノームの鼻をふさいでいた。
ふふふ、面倒見がいいんだな。さすがだ。
んじゃま、赤い方の魔石も使おうかね。
俺は、風の女神の台座を少し撫でながら、火と文明のヘファイド神の台座の前に行く。
彼には唯一まだお会いした事が無い。他に会えてるだけでもすごいんだけど。ドワーフの始祖と呼ばれる彼は、尖った耳は俺と同じで、豊かで長い鬚と髪、そしてずんぐりした体格の神様だ。
俺は発動せずに火魔法の魔力を追加で魔石に込めながらヘファイド神の台座の正面から押し付けると、大理石のような感触の台座がそこだけ溶けるように魔石を飲み込んでいく。途中から手を放しても、埋まっていく動きは収まらない。
はたして、魔石は完全に台座の中に取り込まれ、正面は元の硬いつるりとした大理石の表面に戻った。
神像が全部揃ってもまだ振動が続いている。ダンジョンだからね、だが、俺はなんとなくわかる。ルビードラゴンと、さっきのダンジョンコア。
あの大きな真ん丸の二つの魔石は、どんどん地下深くに移動している。たぶん最下層を目指して。それはこの今作っているダンジョンの一体何層目になるんだろうか。楽しみである。
そして、ダンジョンは引き続き進化を続けていく。
材料がなくても構築されていく不思議。
白色君による明かりが、新たにできていく美しいシャンデリアの明かりに代わっていく。その向こうには夜の空が見えるガラスの天窓。昼はさぞかし明るいだろう。次に出来ていくのはこの大聖堂の舞台と、礼拝用の床から一堂に現れた長いす。
そこに、一番に座ってくれるのはウリサ。
「なあ、チェンバロ持ってるんだろ?」
「もちろん」
俺は練習用にアイテムボックスに入れて持ち歩いているチェンバロを一台、ローダ神の前に置く。音がうまく響くようにここに置くのが定位置。
あたらしいダンジョン、〈アンシェジャミン王国〉は聖属性に特化したダンジョン。構築して展開していくのもいつもの治療魔法と同じパターンで行こう。
夜になってるけど、ウリサと精霊ちゃん以外いないもん。思いっきり弾いて歌おうかな。
もちろんゼポロ神の歌から歌い始める。
~全知全能の父神様よ~
~この世界を作りたまいし~
~太陽の神よ~
歌いながら、イメージを開放する。みんな、このダンジョンに来たら老若男女癒されてね!
お土産に持って帰るのは宝箱じゃないよ!健康という宝物だよなんてね。
さて、七柱分の神様の曲全部歌い切った俺。
「チェンバロはここに置いておこうかな」
「いいのか?」
「お城にも一台あるからね。また買えばいいしさ」
なんて言っちゃえるお金持ちになった俺。
蓋を閉めて、立ち上がる。
さっき思ったんだけど、今まで見た大聖堂と違って舞台が二つに分かれている。チェンバロを置いたこっちと、ゼポロ神の前に祭壇がある。その間がぽっかり空いて、真ん中の三柱の下に四角い穴が開いている。
「これがダンジョンへの入り口だね」
「前回はこの下に螺旋階段があったんだが」
「なくなっちゃったね。これで足の悪い人も階段を使わなくても向こうに行けるよ」
「しかし、教会の入り口も階段だったぜ」
「そこはたぶんスロープになってるはず。とりあえず先に行こう」
アティママ伯母様の足下の穴から、教会の後ろに続く道をたどっていくとやっぱり宮殿。
二十段もあった宮殿の階段も真ん中は緩やかなスロープがS字に登っていっている。その横には細い水路。
「すげ、水が流れている」
「でしょ、ダンジョンってすごいね。細かいチェックは明日にして、とりあえず見るべきところを見ておこう」
そう言って俺は龍に変化する。今ハロルドはアナザーワールドで地竜たちと寝ているからさ。
『ウリサ乗って』
宮殿の段差を利用して首のあたりに乗ってもらう。
『飛ぶけどいい?』
「大丈夫だ」
タナプス伯父さんにあった満月の日から何日経ったかわからないけど、今日はちょうど満月の三~四日前の姿。十一夜月だ。
空から下を見下ろして二人で興奮していた。
月が写って光る大きな丸に近い檸檬型。
「うわ、地面が光ってるぜ」
『やったー!湖完成!』
「すげ、綺麗に真っ白な縁取りが復活しているんだな。それに水がちゃんと入ってる」
『ふふーん。まだあっちの大きい方の河とはつながってないけど、ダンジョンだからね独立して水が循環できると思う』
なんと支流の川が復活している。短くても川だからね、三キロメートル近くあるんじゃない?ミルクブールバードの本流から分かれているところから湧き出てて流れ、教会の方まで、でもそこで終わり。本流には流れていかない。
そして、シルエットしかまだわからないけど、ヤシの木とかも生えている。
これなら、人が戻ってきてこの水で生活していくことはできるだろう。
水が地下にしみこんで井戸を使えるようになるのはもっとかかるかもしれないけれど。
『これは、朝になるのが楽しみ』
「ああ!早く寝て明日に備えろ」
『そうする!確かにちょっと眠いよ』
龍の姿で、ウリサを乗せたままアナザーワールドに転移して戻る。
翌朝、まだ日も登りきらないうちに俺とウリサは目を覚まし、いつもなら打ち合いとかするところなんだけど、今日はまたダンジョンで確認作業の続き。
アナザーワールドの皆が起きたら、昼から復活したアンシェジャミン王国の教会に案内すると言うようにスフィンクスに伝言を頼んでいる。
まずは露天のダンジョン。もちろん新生エマイルモンド湖をメインに、その北側にいくつか建物が存在する。
湖ビューのテラスが展開される宿泊施設だ。細かい調度品や家具などもついている。
湖の上に張り出したテラスには、滾々と沸いて流れる浴槽が並んでいる。高低差でプライバシーに配慮。
その露店のお風呂からあふれた水が大小の滝のようにエマイルモンド湖に流れ込んでいる。多分その温泉の湯の熱源があのルビードラゴンの力かもしれない。ありがたいよね。
湖の南側には細長い通路が沿うようにできていて、途中から通路は地下にたどり着く。そうしてやっとダンジョンの地下一階層に行くのだ。
地下一階層は、森のハイキングコース。健康的に歩きましょう。アトラクションをご希望なら別オプションでアスレチックコースを。
階段でなく、緩やかなスロープでたどり着く地下二階層は観光農園フロア。お急ぎならショートカット用や非常用の階段あります。
地下なのに空と太陽があって、この地域の空より雲がある。あ、あっちのほう雨降ってんじゃん。ってそうしているのは俺の設定。
そして一面の畑と田んぼと果樹園。
四季のある地域の春夏秋冬の野菜や果樹を育てて収穫する体験を。収穫より、雑草取りとか虫取り、土の世話をプラスすると得られるものが増える仕組みにしようかな。
まだ、ほとんど畝だ状態だけどさ。お試しですこし夏野菜畑がある。
「あれ?今咲いた花がもう実ってる」
『ほほほ、受粉し甲斐がありますわ』
「わわ、クインビー様」
「あれ?まだ巣箱持ってきてないよ?」
『そこに出来てますわよ』
「え?本当だ!さすが俺のダンジョン」
『ほほほほ』
最近彼女もスフィンクスみたいに分身できるんではないかと思ってるんだけど。
『女の秘密ですわよ、詮索しないの』
って怒られちゃったんだよね。
さて、目の前に実ったでっかいトマトをもいで齧る。
「大きいわりに皮が薄くてうまい」
「俺も食ってみたい」
「どうぞ」
子供っぽく嬉しそうにトマトをもぐウリサ。
この旅が終わったらアリサやゴダと遊びに来てね。
「うわ、みずみずしいぜ。味も濃いな」
「だよね」
すこし濃縮したトマトジュースぐらいおいしい。これは料理にも使えるぜ。
ただ、めちゃくちゃ広い農園だ。
モサ島のバナナの木も一本持ってこようかな。と思ったらそこから生えだした。
大丈夫?気候が全然違うけど・・・。まあ美味しい実が出来たらラッキーと思おう。
いたるところに、二階建ての小屋があって、農業用の鍬や鋤、鋏、収穫用の籠や普通の布の袋がある。空間魔法を付与されていないから、見た目通りしか入らないけどね。リアルな重みを感じて収穫を楽しんでもらう。
二階には少し滞在できるように寝室とダイニングキッチンを用意。トイレとシャワー洗面はあるけど風呂は無し。風呂は他のフロアに良いのがあるから・・・駄洒落じゃないよ。
階層を制覇しなくても行けるから。
そして離れたところには牧場のような草地を。いつかここに乳牛の一家を大量にお誘いしたい。
地下三階層は、肉のおいしい魔物が出るダンジョンと、狩りをする気がない気分の人のためのただのトレーニングジムに進む二手に分かれる。ただし、ジムでは一時間ばっちり運動しないと次に進めない。
ただ、年齢や身体的不都合、体調不良の人の場合は入り口で事前申請および何等か形でスルーできるようにするのもいいよね。健康な冒険者は通行料を払うとスルー出来るとかね。
地下四階層は、オープンキッチンフロア。
家庭科室みたいな、調理施設がそろってるエリアと、将来各種レストランが出張出店できるようなブースを用意しておいて、フードコートになればいいよなぁ。まだまだ開発途中だ。ほかにシュバイツ印の店舗とかもこっそり開こうかな。
地下五~十階層ぶち抜きはプール。月替わりで海水と淡水に切り替わって、魚と戯れたり、魚を取ったりできる。別に釣り堀も用意。魚をゲット出来たら、四階に戻って調理&食事可。余った魚は、時間停止袋を有料で買うかダンジョンで引き取る。
地下十一階層から下は医療コーナー。各種医療受けられる。今のところ専門家がいないので、聖属性魔法や治療魔法のシャワーを浴びて一発で直して終わる。
ほかには、もっと優しい整体やマッサージとかストレッチのためのフロアも用意。
くつろぐための図書室も欲しいなぁ、あ、また本を収集する苦労が・・・。
そして・・・世界中から雇用を募らなきゃね。
「・・・って予定なんだけど」
俺の〈発展型健康ランド風ダンジョン〉構想を一緒に回りながら見たウリサの反応をみる。
完成しているのは自然を再現している部分位。
「確かに、面白そうだけど、人がそれなりに近くに住むようになってからの活用だな。それか、外から来やすくなってからとか」
「まあね。まずは湖と風呂ぐらい」
「冒険者向きじゃねぇな」
「でもね、もっと東に進んでシャンツの家族とか、マツやティキの親類が見つかったら、とりあえずここで暮らせるでしょ」
「そうだな」
「このダンジョンなら、すぐに食べ物が手に入るわけだし」
「年寄りにも受けのよさそうな内容だぜ」
「そうだな、世界中からリタイヤしたお年寄りが過ごすのも人口を増やすのにいいかもしれないしね」
「・・・それは危険じゃねえか。いろいろ事故りそうだ」
「そう?長生きできるぜ?」
「そうかもしれねえけどな」
さらに俺は、地下一階層につながるスロープの前に、冒険者ギルドと商業ギルドの箱をダンジョンマスターの能力の力技で作る。もちろん教会の近くには、働く大人の子供を預かるこども園的なものと小学校とかも箱と園庭だけ用意。
そして、できたばかりの商業ギルドの扉を、満月湖の・・・迷ったけれど現場事務所につなげて、今回はアナザーワールドで新たに育てているエメラルドグリーンのぶどうの蔓を挟んで固定。
ガチャリ。
「おや、どうした?シュバイツ殿下」
「カルピンさんー。相談したいことが!」
そして俺は一連のことをかいつまんで話す。
昼過ぎにはアナザーワールドの人を新しい〈アンシェジャミン王国〉に招き入れなくちゃいけないからさ。
「え?ダンジョンマスター!殿下が?」
「そうなんです!それで、相談したくてぇ」
「なに、ダンジョンだと?」
今日はエルフで建築士のカルピンさんとそこのスタッフでドワーフのドワンゴさんもいた。
「それは建設ラッシュすぎるな」
「ですよね。まあ、まだ人はいないんで、用意だけって感じです」
「それはこの満月湖もだよ。まあ、そのうち見に行くよ」
「お願いします。一応ダンジョンなので、ダンジョンの方に来るときは精霊ちゃん経由で俺に連絡ください」
「わかった」
「この扉、あっちに固定しますんで」
「ははは、殿下の丸投げ承った」
「すみません・・・もちろんご友人の同業者をご紹介くださってもいいですよ」
「それも考えておこう。私には独立した腕の良い弟子も数人いるからな」
「それは心強い!それから、俺の手持ちの山ほどある木材も使ってくださいね、おもにサーペントウリンですけど」
「それはこの隣の空き地に置けるだけ置いてもらうと助かる。へこんできたら精霊経由で連絡するから、また持ってきてくれたらいいから。」
「了解です」
さっそく、サブボックスに溜まっていた木材を指定の場所に置く。あ、井桁の様に交互に積んでいくんですね、勉強になります。
・・・ちょっとしか置けなかった。なにせあのグリーンサーペントって大河の、林というか森の六割を占める種類の木だったもんな。
「また、置く場所を作っておくよ」
「そちらも連絡ください」
「新しい王国にも木材を置いときなよ」
「そうですね。何か注意事項はありますか?」
「ある程度乾燥したらそれ以上乾燥してしまわないように。この地域なら十パーセント前後かな。外気と差がありすぎるのもいけないからね」
「はるほど。勉強になります」
ダンジョンの部分の建設は魔法の力押しで出来るけど、他は人の手が必要だし、あのだだっ広い所を自分一人で使うわけじゃない。利用する人が使いやすいように作ってもらわなくちゃね。そもそも、自分のためのダンジョンじゃないんだから。たまたまマスターってだけでさ。
あたらしいダンジョンは、スフィンクスが二十人ぐらいいたら簡単そうなんだけどな。
そんなことを考えながら、アナザーワールドにパリ達を迎えに行く。
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