190【じっとできないちびっこ】
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今日は朝から鮮やかな緑色になったミグマーリがワゴンをぶら下げている。
その前を俺がハロルドに乗って先行している。
ワゴンに乗ってじっとするなんてできないよ。だってこの雄大な風景を見たいもん。
それに、俺はそろそろ・・・ってあ、のんきなこと言ってる場合じゃないね。
“おうじっ!すなあらし・・・じゃない、たつまきが!”
黄色ちゃんの叫び声が!
それはまだまだ遠くにあるんだけど、進路の先だ。
上昇気流を起こすものどころか綿雲さえないのに、どうして竜巻が出来るんだよ!
って思ったら、竜巻はだんだん違うものに変わっていく。
今までにない大きな砂の魔物。
文字通りの竜巻。とぐろを巻いて立ち上がった砂の竜。
「ちょっと行ってくる」
『大丈夫なの?』
「たぶん」
今着ている服は、伯父さんに貰った一式。これならもしかしてこのまま変身できる?
破ったらごめんなさい!
俺はまた龍に変身する。
わ、服が破れることなく消えた!でもこの服、スキルだ。ハロルドみたいに出し入れできる。こんな時に分かるなんて!え?替え用の下着は?・・・細かいことは後だね。
“おい、シュンスケ!”
“ウリサ皆を頼むよ”
“お前こそ気を付けろよ”
“はーい”
“こっちはりゅうふたり!”
“あっちはひとり!”
“ばいだぜ”
確かに倍だけど、ミグマーリはワゴンを守らなくちゃいけないでしょ!
俺は、体の周りにミストを纏う。龍と言えばこれだよ!
そしてミストを濃く分厚くしていって、雲を作っていく。さらに分厚く雨雲に。
すると、砂の竜が少しひるんだと思ったら、なんだか黒くなってきた。
“ミグマーリ、一キロ以上後ろに下がって!”
“わ、分かったわ!”
『お前は悪魔か!』
俺は従えている雲の中に聖属性魔法も含めていく。
≪我はドルジ。大魔王アーリマン様の妃の一人にして干ばつを広げる者の一人でもある≫
初めはドラゴンと思っていたそいつは、いつか見た悪魔たちと同じように禍々しく黒光りしていて、だが、首から上は夜叉のような般若のような、女の鬼のような形相だった。そして妃というだけあって胸が二つ並んで膨らんでいる。肩からは三本ずつの計六本の細長い腕が生えていて、腰から下は龍というか蛇のように黒光りした鱗がびっしり並んだ長い長い一本の尻尾に繋がっていた。そしてそれほど前進黒いと言うのに目だけが赤く光っていた。
頭は艶のない長い髪が結い上げられていて、黒曜石のようなものが並んだものでまとめられている。胸周りにも三重に巻かれた首飾り、六本の腕と手首にも装飾がある。禍々しいくせにお洒落なのかもしれない。
そして六つある手にはそれぞれ黒い大小の剣を構えていた。とはいえドルジは今変身している龍の俺より少しでかい。小さい方の剣でも大きいのだろう。
『ドルジ・・・さん、おれはシュンスケ。
あなたがここを砂漠にしているのか』
≪そうだ≫
『どうして』
≪アーリマン様の指示だ≫
『あなたの意志ではないのか』
≪アーリマン様の意志は私の意志だ・・・お前は何者だ・・・オゾマシイ魂を持っているな≫
ちょ、砂漠をひろげてる化け物にオゾマシイ呼ばわりされたくないよね。
『おぞましいのはそっちだろ!失礼な!
俺は駿介。風の女神の息子だ』
≪な・・・なんだと!≫
大物そうな相手が怯めばいいかな?って初めて自分から名乗ってみる。そうして、龍の姿のままだったけど、いつも押さえているエフェクトを開放してみる。
キラキラキラキラ
“きゅあみたいきれい”
“おうじのしたにみどりが”
空中で浮いている俺の発動してる魔法が滴って、下に草を生やしだす。放っておけば樹々も伸びて来るだろう。その真ん中に水たまりも出来始める。それらが少し広がっていく。
≪なにをするのだ!≫
『干ばつは困る』
≪やめろ、緑を生やすな!≫
『いやだね』
≪まあいい、お前をコロスだけだ≫
『ドルジ、一つ聞いていいか?』
≪なんだ≫
『ムーシュって知り合い?』
≪ムーシュはアーリマン様の私ではない妃の・・・ひ孫だ≫
『教えてくれてありがとう、もう一つ、デモンサージェントエムは?』
≪聞いたことは無い、悪魔か?≫
『本人はそう言ってたけど』
≪知らぬ≫
・・・かなり下っ端なのかも
≪そいつらが何か?≫
『あとで会わせるよ』
≪くらえっ≫
ドルジから黒い皿のようなものが飛んできた。
ドラゴンの鱗かな?鱗はもう奇麗なものをいっぱい持ってるから要らないよね。
ただ、俺のきらきらに接触すると黒い皿が消えていく。
≪なんだと!わたしの悪の結晶の鱗が当たらぬだと!
うおおおっ≫
ドルジの右手の一本が振られた。
飛んできたのは真っ黒な槍。真っ黒すぎて気持ち悪いから、キラキラ入りの水鉄砲をぶつけてみる。
ぼとっ
≪な!この・・・なめるな!≫
ドルジの背後に無数の真っ黒な槍が出現する。
とりあえず水かな。一キロ以上離れているとはいえ、ミグマーリたちは俺の後ろにいる。今白色くんの目くらましで見えなくなっているけど。
俺はドルジと話しかけている間に彼女の真上に雨雲を乗せていた。
『ドルジ、お風呂入ったことない?』
≪風呂だと?≫
『女の人はお風呂好きだよね』
≪我をそこいらの女と一緒にするな。風呂など入らずとも・・・≫
『女とか関係なくそれじゃキチャナイよね。俺が出会った二人の悪魔はキチャナかったし。紫外線の消毒?は出来そうだけどさ。それに、ここは雨雲一つないから、日焼けすぎて真っ黒なのかな?』
≪馬鹿にするな。この色は、アーリマン様の配下としての誇りある闇の色≫
『まあまあ、そんなこと言わないで洗ってみよう!』
ジャー
“どらごんのせんたく!”
“えーいわたしもあらってあげる!”
俺の龍の鼻先にいる青色ちゃんからも、ホースで飛ばしたように水が飛んでいく。
“こころもせんたくして!”
“それいいね!ナイス青色ちゃん!綺麗になればいいよね”
≪やめろー、やめてくれ。水は嫌いだっ≫
へ?
ドバァーッ
『ごめん!
止めようと思って失敗しちゃった』
“あまりやりすぎて窒息させちゃだめだね”
“なにをいまさら・・・”
“おうじってかんがえなし!”
『えーそんなことないはずだけどな』
悪魔は生け捕りにしたいしね。
だけど、圧倒的だった砂竜の存在感は消えてしまっていて、新たにできた一面の草原の上に居たのは、漆黒の髪と肌の美しい女性だった。すらりとした足が二本増えて、尻尾が消えている。耳は俺の様に尖っていて、その上から左右に二本の角が生えている。それらも黒い。
そして、黒い紗のような少し透けたドレスを纏い、黒曜石のようなものが並んだ装飾もたくさんつけている。さっきと同じなのは、腕は六本あるということだ。もう武器は持ってないけれど。
それが仁王立ちになり顔をゆがめてこちらを見上げてにらむ。
俺は龍への変身を解除し黒目黒髪に翅だけだしながら黒猫に近づく。
そうそう、変身を解除したら元通りに伯父さんに貰った服を着てたよ。
『お前はまさか・・・ブランネージュなのか?』
「違うけど、ブランネージュをご存知?」
『ブランネージュは四千年前、大悪魔の王アーリマン様率いる悪魔群を壊滅したのだ。そして、アーリマン様を亜空間に封印した』
父さん、結構戦う人だったんだね。ってか四千年前?今まで聞いたことのない古い時代だな。
「俺はブランネージュじゃないけど、四千年前のその人って、まだ精霊王だった?」
『お前みたいな忌々しい羽根が生えていた、よく見たらお前はブランネージュよりちんちくりんだな』
「うっ
ドルジもその時近くにいたの?」
『もちろん、妃の一人として、アーリマン様をお守りするためにお近くに!』
「その話ゆっくり聞きたいから、とりあえずこっちに入ってて!」
そう言ってドルジの背後に出したアナザールームの扉を開けて、気圧差を使用して吸い込むように入れる。入れて扉を消した後は普通の気圧に戻す。今回は目の前で人や生き物をやったりしてないから、バスルームとベッド付きにした。もちろん窓もあるよ。出られないけど。
ふう、さてとこのオアシスを整えてミグマーリを呼ぼうかな。・・・ってあれ?
振り向くと、ハロルドが砂地の上にいる小さな黒い何かを鼻先でつついていた。
『王子、この子・・・王子に飛ばされた槍だったんだけど』
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