189【火星じゃなくて砂漠】
いつもお読みいただきありがとうございます!
このページでゆっくりしていってください~♪
ウリサと俺はいつもと同じ五時半過ぎに目を覚ました。
俺は枕の下のバイブつきアラームで起きたけど、無くても起きられるウリサがすげえといつも思う。前に海の家で完全に休みの日にやってみたけど、無理だったもん。セバスチャンに起こされたもんな。
「うーん・・・」
「まだ外は暗いな」
地下テントは、天井に外がうかがえる透明な窓のようなものがある。
「赤道は案外、日の出が遅いって本当だよね」
「せきどう?」
「あ、俺の国の言葉で、太陽が一番近い地域のことだよ」
世界が違うんだから、通用しないかもしれないけどさ、地球の赤道や沙漠のことを色々検索して読んでいた。
「へえ」
「冬でも太陽が真上を通るんだ。そもそも冬がないけどさ」
「お前に見せてもらったあの青い星でもそうなのか?」
「そう。
じゃ、ちょっと打ち合いしにいかない?」
「ちょうど砂地だからな」
「男子のテントにも、龍玉を置かせてもらっとこう」
「よし・・・レオラは」
「寝かせておこう」
そうしてそろりと、二人で地上に出る。太陽はまだだけど、外は白んでいる。今日も雲一つない空。俺たちが来た西の空がすこし霞んでるけど、あっちには水分が出来たからかな。
昨日テントを設置する前に一応ここも土魔法と水魔法で力任せのため池を作って、周囲を草とちょっとした木々でオアシス化している。草の上でストレッチをしてから、砂地の方へ出ていく。
「んじゃいくよ」
「来い!」
ガスマニアの帝都の海岸のように二人で木剣で打ち合いをする。
「うりゃっ」
「ほいっ」
「おぅ!」
十五分ほどで、尻のスマホからタイマーが鳴る。
「ふー、もう十五分か」
「どうする?」
「もう一回・・あ」
もう一人の気配がする。
「おーい!」
「レオラ」
「俺も混ぜてくれ」
「準備運動した?」
「テントの中でストレッチだけだけどな」
「それなら俺達と同じだね」
ブラックライオン族が参加。
「じゃあレオラ、俺と組もう」
「え?二人でシュバイツ殿下に挑むのか?」
「こんななり(ちびっこ)でもシュンスケは俺より数段強い」
「まじか」
“んじゃおれが、あいずをだすね”
白色くんが立候補。レオラにはまだ精霊君は見えないけど、見える合図を出してくれるようだ。
「そこから光が立ち上がったらスタートだ」
「「「よし」」」
“はじめ!”という声と共に向かい合う俺達の真ん中から光が上に向かって上がる。
カンカンカン、ザサーッ
バシバシバシ、ザシュッ
ドシャッ
ピロピロピロ
再び俺の尻からタイマーが鳴る。
「ふーふーふー」
「はあはあはあ、くそっ息切れもしやがらねえ」
ウリサが膝に手をついて背中で呼吸をしていた。レオラは砂の上で転がっている。三人とも裸足だから、割と砂だらけだ。
「まあね」なんでだろうね。でも汗はちょっとはかいているぜ。
「んじゃ朝風呂行こうか」
「はい!」
「砂漠の朝風呂ほど贅沢はないぜ」
「ですよね」
ふっと振り向くと東の地平線にご来光が昇ってくる。
砂漠の日の出ってまるで火星の画像みたい・・・。
とりあえず拝む。
パンパン
「お祖父様、旅の無事を見守ってください」
「何やってるんだ?」
「ちょっとね、ゼポロ神にお祈りを」
「なるほどな。会ったことあるのか?」
「まだ、直接は。交信はあるんだけどね」
「さすがだな」
「え?どういうことですか?」
「・・・レオラ、そこはあまり追求しないほうがいいぜ」
「そうそう。でもね、神様はいるんだよ」
「だな」
「ほんとうですか?」
「レオラん所の王様も見たって言ってたじゃん」
女神様だったけど。
「たしかに・・・聞いたような・・・」
男どもはアナザーワールドへの扉をくぐる。
女性陣と混ざらないように今回は建物の玄関につなげた。
彼女たちが来たら精霊ちゃんが三階の方の風呂に誘導してくれるだろう。
ひと風呂浴びてテラスの方から降りていくと、地竜から声がかかる。
「おはよおうじ」
「ぽう、はやいな。ぷうも起きてるのか」
「きょうはどらごんじゃないの?」
「あとで変わるよ」
「おうじはとべるどらごんなの?」
「うん。知ってるんだ」
「すふぃんくすがいってた」
「まあな、飛ぶために龍になってたからな」
「へーかっこいい!」
「ぼくたちもとべるようになりたい・・・」
「そ、それは種族的に難しいんじゃないか?」
地竜が飛竜にでも変身しない限り・・・変身ならできるか?こいつら魔法は使えねえけど魔素はあるもんな。
「暇になったら考えてみるよ」
「「やったー!」」
「なになに?」
噂の飛竜がやってきた。このこは、ひゅうって名前の女の子。二人よりは結構小さい。とは言え俺よりは少し大きいけどね。
腕の取れたエスカーザを止血した子だ。
「ぼくたちも」
「とべるかもって」
「えーそれはわたしのせんばいとっきょなのに!」
難しい言葉を知ってるんだな。
飛竜は前足が皮膜の付いた蝙蝠のような羽になっていてそれで空気をとらえて飛ぶ。
前足には爪の付いた四本指があって、それが結構器用に動く。
先日も湖の麓で本を読んでたんだぜ。湖の木陰で読書する飛竜。可愛くて思わず写真を撮っちゃったよネ。
「ひゅう、地竜が飛竜になる魔道具に刻む魔法陣を考えられないかな」
「なるほど!そういうのがあるのね」
「たとえば、これは人間族に変わる魔道具で」
耳の穴が埋まっちゃったから外したままのピアスを掌に持って見せる。それを握りこんで、
「キャンセル」
すると精霊状態に戻る。
「わわわ、ほんとだ!にんげんぞくに、へんしんしていたんだね!」
「そ!」
「それで黒かったんだ」
「おもしろーい。そっか、ちりゅうがひりゅうにへんしんだな!」
この、知性があって素直な奴らが飛べるようになったら、物を運べるんじゃねえか?人を運ぶのは怖いけどさ。
「こんど、かいせーがもどってきたらさがしてもらう!」
「おう、頼んだよ」
本の妖精の魁星は今、スフィンクスの一人と旅に出ているからな。
ダイニングで、朝食を広げていると丁度女性陣もやってきた。
『おはよう王子』
「おはようミグマーリ」
『今日は私に運ばせて!』
「いいけど」
『交代よ。緑化するなら土属性の龍になればいいのだから』
「わかった」
ぷーんと羽音が聞こえてきたと思ったら女王様だ。
「クインビーおはよう」
『おはようございます王子』
いま、アナザーワールドの世話をメインでしてくれてるのがこの子。
スフィンクスが旅行中だからね。でも時々分身しているのか帰ってるときもある。
「なにか困りごと?」
『蜂蜜と蜜蝋が溜まってきたわよ』
「おおっと。じゃあ預かるよ」
広いダイニングのテーブルの横の空間に樽が十個も置かれた。
『王子があちらこちらに巣をつくるから』
「ごめん忙しいよね」
『充実しておりますよ』
「ならいいけど、ありがと」
“みんな海の家の納戸に人いる?”
“いない”
“だいじょぶ”
“じゃあ、この樽置くから知らせて”
“マツにトムかエマにいってもらうんだね”
“そう、紫色ちゃんも頼むね”
“りょうかいよ”
そのまま転移で樽を一気にガスマニアの納戸に置く。
ガスマニアの海の家で、蜂蜜の瓶の生産と瓶詰と、蜜蝋の出荷を犬人族の二人がやってくれるだろう。
「んじゃ、なんだか急に入ってきたお仕事も片付いたし行くか」
「そうだな」
「今日はミグマーリが運ぶみたいだからあとで出るよ」
「わかった、じゃあ先に行くわね」
「テントは俺が片付けるよ」
テントを畳むのって面倒だけど、ここは魔法の世界、シュルシュルと片付くんだよね。それは魔力の無い人でもできる。展開して維持するには魔力がいるんだけどね。
『そろそろいいかしら』
ミグマーリが立ってる。
皆が出ていくともうここには地竜と精霊しかいない。ゴブリンは自分達が食べるために世話をしている離れた所の畑で作業しているんだよな・・・と一応そちらの方角を見る。
パサリ・・・パチャン
気が付けば、俺の足元に女の服一式が落ちていて、アナザーワールドの湖にミグマーリが飛び込んでいた。
『この湖のお水も美味しいわよ』
「そりゃよかった」
『ほほほ、この世界の命の水ですもの』
クインビーが魔法で服を畳んでいる。相変わらず器用だ。
“うりさが、てんと、かたづいたって”
黄色ちゃんの報告。
「了解」
俺は人間族の姿に翅だけ出して、湖の方にパタパタ飛ぶ。
「おーい、行くよ」
『はーい』
そうして、土属性に変化した緑色のミグマーリと砂漠に戻る。
「ここもオアシスとして落ち着いたねぇ」
地下テントを展開する前に作ったオアシス。
「あ、見てシュバイツ殿下、鳥がいるわ」
ローナ姫が嬉しそうに指さす先には、カラフルな小鳥が二羽いた。番かな。新婚旅行じゃなくて定住してね。
「ああ、また伯母さんが連れてきてくれたんだね。ほら、池にももう魚がいるよ」
ここにも小さな魔道具を入れたから水が枯れることは無いはず。
「おばさん?」
「えーっと・・・」
「アティママ神様だな」俺の横にいたウリサがばらす。
「・・・うん」
「女神さまをおばさんって・・・」
「だって、そう呼ばないと怒るんだもん」
「シュンスケが甥だからだろ」
「まあね」
「シュ・・・シュンスケ様」
ローナの背後から震える声が聞こえる。
「こら、深く考えないの!」
レオラは真面目なんだから。
「しかし」
「今日のミグマーリ様は昨日のシュンスケより緑色だな」
『ええ、ウリサ、今日は土属性なのよ。これだと昨日の王子の様に緑の道も作れるわ』
「なあ、シュンスケ、どうして緑色の筋を付けながら進んでいるんだ?次に誰かがここを行くことを想定して?」
ウリサが改めて聞いてくる。
「まあそれもあるけど、単に帰り道が分かりやすいようにね」
ヘンゼルとグレーテル作戦だよ。
「もし、俺に何かがあっても、この筋をたどって帰れば、砂漠の真ん中を行くより安全でしょ」
「何かってお前・・・」
「身の危険じゃなくってね。ダンジョンのマッピングというかね」
「なるほど。それなら理解できる」
「分かりました、シュバイツ殿下。でもそれは本当の最終的な事項ですよね」
「もちろんだよレオラ」
グッドボタンお願いします♪
お星さまありがとうございます。
ブックマークして頂くと励みになります!
それからそれから、感想とかって もらえると嬉しいです。




