186【初めてのベッドルーム】
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「これが満月湖か」
初めて見たウリサが、珍しく興奮気味だ。
今日も青く透き通る大きな丸い湖が、新しくできたオアシスに爽やかな存在感を誇っている。水中には虹色や錦模様の淡水魚が十匹ぐらいずつの群れをつくって泳いでいる。
その周りをぐるりと囲むヤシの木と鮮やかな花を咲かせている南国の低木。
一部は湖水浴が出来るように、プールの様に手すりや、側面に梯子のようなものを取り付けてある。
「昔はここに桟橋が中心に向かって何本か突き出ていて、船が止まっていたのだよ」
女性の声にウリサが振り向くと、平和な地球の冒険者スタイルのリリュー教授が仁王立ち。沙漠の砂や虫をよけるような長袖長ズボン、そして鍔の短めの帽子。武器などは無くて、先日海に持ってきていた小さなポシェットを袈裟懸けに持っている。あれがでっかいスーツケース並みに容量があるのは知っている。
彼女は数日前からここに滞在していた。俺が連れてきたんだけどね。
リリューの後ろにはアラビカ兄妹パーティーのモカもついてきている。
それにしても、今の台詞は俺が父さんに聞いた話を言ったそのまま!丸パクリ。
今日はここで少しミーティングをしてから一泊し、明日朝から砦の向こうに出発する。リリュー教授も追加で一緒に。
『じゃあ、私は、湖でちょっと休憩してくるわ』
「うん、ミグマーリお疲れ様」
白龍は静かに丸い湖に潜っていく。
“こっちはやっぱり底がすごく素敵”
水の中から届く念話。
“水の魔法陣が描いてあるからな”
“後で、もう一つお願いがあるの。暗くなったら来てほしいわ”
“わかった!ウリサも一緒でもいい?”
“もちろんいいわよ”
現場事務所のリビング兼ミーティング室に集合する。
地図を広げて。
明日から同行するメンバーは教授を加えてローナ姫と女性二人、そして男はウリサと俺とレオラの三人。
「ここが、世界樹。そしてこの砦から蛇行するように枯れた河がそこに向かっている」
リリュー教授が、第一印象を思い出させるように真面目な顔で説明してくれる。階段教室での講義のようだ。
この満月湖からガオケレナ様の世界樹は、たぶん海岸のラオポルテからここよりちょっと遠い。ということは、陸路は馬車で数ヶ月はかかるだろう。
「やっぱり、空路しかないですね」
「だな。しかし、ミグマーリ様の負担が」
そうなんだよな。だけどメンバーが増えちゃった以上、彼女に頼るしかない。
「彼女は昼間は一日中飛べると言ってたけど、まだワゴンをぶら下げて飛ぶのに慣れていなくて、ちょっと疲れていたもんな」
「そうか」
「一応様子を見ながら、二~三時間置きに着陸して、休憩をはさんでね。ワゴンにはトイレを設置してないからそっちもね」
「分かりました。今日みたいにして下さるんですね」
「うん」
「それだけでもちょっと安心」
「後は夜だけど」
「それについては、見張りを置きながら地下テントを」
「そうだね。いざとなればアナザーワールドもあるしね。どうせ風呂はそっちに繋げるんだし」
「後は、砂漠の中でミグマーリ様を休ませる方法だな」
「彼女だけをアナザーワールドに寝かせてもいいけどね」
晩御飯を囲んで、さらに会話。
「まあ、いざとなったら途中撤退もあるから、安全第一で」
「帰りを考えなくていいのはシュンスケのお蔭だな」
「まあね」
ミーティングご飯が終わって、お風呂も済ませ、湖の風にあたりにウリサと出かける。
そのまま寝るつもりだからダボっとしたTシャツと、緩い膝上ボトムに大きめのビーチサンダル。
「爽やかでいいな」
海風と違ってさらっとしている。
「ね。これから夜中にはもっと寒くなるんだよね」
「内陸はそうだな」
湖の真ん中の方で白く光るものが見えている。楽しそうに移動しているのも分かる。
“おーい、ミグマーリ。来たよ”
“今行くわ”
白い光が近寄ってきたと思ったら
ザバーッ
真っ白な龍が夕暮れに光りながら湖から出てきた。
「お願いって何?」
『王子。ちょっと女の人に変身してくれない?』
「へ?今?」
『ええ、そのあと魔道具も貸してほしいの」
何のことかわからないけど、
「いいよ、じゃあ」とアントニオに絶賛された、黒髪ロングヘアの女性に変わる。
これも、何度かやったからもう鏡を見なくても出来る。
『まあ、精霊ちゃん達が言うように本当に美しいわ。ね、ウリサ』
「はい、俺は久しぶりに見ました。前の時より少し大人っぽいような」
「あれはカーリンに合わせたから十六歳?位の設定だよ。これはもっと大人バージョン」
ロムドム団のタレンティーナさんの代役だった時の。
『黒髪だと、アティママ様にすこし似てるわ』
「そうなの?マツっていう猫の子にも言われたけど」
『ええ』
ふと、変身したまま、何気なくミグマーリの首のあたりの鱗を撫でる。すると、強烈な感覚を自覚する。ミグマーリが俺のスキルになった時のような感覚がもう一度あった。
『ありがとう王子、私もイメージがはっきりしたわよ』
そういうと、白龍が光りながら形を変える。
そこに現れたのは、美しい女性だった。髪が白くて、瞳が明るい水色。眉やまつげも真っ白。そして何より肌も白い。透明感があるので乳白色って感じかな。お風呂で見たユグドラシルよりさらに白い。でもミグマーリの方がちょっと背が高い。今の俺と同じえっと百六十五ぐらい?
「わわっ、ミグマーリ様」
ウリサが慌てて後ろを向く。
服を着てなかったからね。
俺はロムドム団のタレンティーナさんに押し付けられていた、おニューの下着(ブラジャー的なものとセットで何枚かあるのさ・・・)の一組とモカが買ってくれたワンピースを渡す。靴は・・・よくあるラテックスの突っ掛けでいいか。かかともあるしね。
こっちも女の姿のままだから、恥ずかしかったけど頑張って履き方と付け方を手伝いながら教えて、ワンピースを着せる。俺と同じような体形で良かった。サイズピッタリ。
「もういいよ、ウリサ」
「あ、ああ。シュンスケが女の服を持っててよかった」
「まあね」
「それにしても、ミグマーリ様、人の姿も美しいです」
『ありがとうウリサ。それは王子の姿を借りているからよ』
「たしかに今のシュンスケそっくりです。色が違うから別人に見えてますけど」
「でも、これなら皆とテントで休めるね!あ、でも寝ちゃうと龍に戻るかも」
俺は、最近使わなくなった、人間族に変身する石を、手持ちの紐に通し直してミグマーリの首にかける。すると薄っすら光っていたのが落ち着く。
「龍に戻るときはこれを外してからね」
『そうね、千切れちゃうわね』
「さて、俺は元に戻っていいかな」
「さっきから思うけど、その姿で俺って・・・」
「いいじゃん。やっぱり台本が無いと女の台詞は無理」
「台本って・・・」
『ふふふ、いいわよ戻ってね』
緩い服装だったけどおへそが出て尻がすこしパツパツだったのが、六才児体形になって、落ち着く。何でもかんでもサイズ調整の付与をしているわけじゃないからねぇ。
「ところで、初めての人間の二本足だけど、歩けそう?」
『・・・大丈夫そうだけど。わわっ』
「おっと」
ちょっとよろめいた。
「手をつなごう、ミグマーリ」
『まあ、嬉しいわ。人が手を繋いで楽しそうにしているのが羨ましかったのよ』
そう言って、真っ白でほっそりした手を出す。女になった時の俺の手より綺麗なのはなぜ?しぐさ?まあいいや。
それを取って、ゆっくり歩きだす。
「ミグマーリと初めて手を繋いだのが俺で光栄だよ。それにミグマーリの手があったかい」
『そう?人間族になる魔道具のお蔭かしら。王子も温かいわ』
俺の姿を借りたとはいえ、笑顔が美しい女性です。
現場事務所に戻ると、リリュー教授が口をあんぐりしていた。
「こ、この美女が白龍様?」
「そう!」
「これなら、地上では一緒に過ごせますね」
ローナ姫は納得している。
『ローナ、人間の姿は初めてだから色々教えてね』
「もちろんです」
「それにしてもシュバイツ殿下もウリサも、白龍が人間になるのを全然何とも思ってないんだな」
レオラが俺たちが無くした常識を掘り起こす。
でも、ウリサが説明してくれる。
「ミグマーリ様は白龍で高位精霊だろ」
「ああ」
「あっちの世界樹のユグドラシル様もそうだ」
「世界樹は高位精霊なんだ。ふむ、それで?」
「ユグドラシル様も美しい女性の姿でいらっしゃるぜ」
「へ?ほんとですか?殿下」
「そうだよ。ミグマーリよりちょっと小さいけどね。彼女の場合は、世界樹はそのままそこにあって、分身の様に女性の姿で現れるんだ。その姿ではあまり遠くには行けないみたいだけど、ロードランダ王国の中なら自由だし、普通に人間と一緒に交流できるんだ。先日も俺の誕生日に一緒にテーブルに着いてご飯食べたよ」
「それで、ミグマーリ様の人の姿をすんなり受け入れているんだな」
「まあ、そうだな」
『今度、ユグドラシル様に魔素やマナで服を纏う方法を教わらなくちゃ』
「それは俺も知りたい!」
変身するときに服の心配しないでいいって大きいもん。
もしかしてスフィンクスの金色のスーツもそういうものかもしれないけどね。女の服は女性に習った方が絶対いい!俺は両方に教えてもらおうかな。
そして、ミグマーリを俺が寝る予定の部屋に連れて行く。
現場事務所の建物の三階なんだけどね。
もしものことがあってもフォローできるように、同じ部屋。ベッドは分けたけどね、一緒に寝るんだ。
ウリサは冒険者用のアラビカの隣のワンルームを使ってる。
『へえ。これが建物の中なのね』
二本足になったばかりの彼女は、階段も危なかったんだよ。
「圧迫感を感じない?」
『ええ、平気よ』
そのまま設備を見せる。高位精霊はトイレは要らないんだけど、洗面は使うだろう。
「これがシャワーでね、体を洗うんだよ」
『まあ、温かい雨が降る道具ね』
「これが手を洗ったり顔だけを洗ったりする道具」
『ふふ、鏡に私が写ってる』
「んじゃ、これをどうぞ」
ウエストポーチに入れられていたヘアブラシを出して、真っ白なミグマーリの髪を梳かす。
『先日、脱皮したときみたいに梳かしてくれるのね』
「そうだね」
『まあこれをすると、艶が出るのね。自分でしてみるわ』
「どうぞ」
鏡の前で楽しそうである。人になってはしゃぐミグマーリが可愛いぜ。
でも、どちらかというと、すらっとした感じ。大人っぽい。でも好奇心丸出しで子供っぽい動きが可愛らしさを出している。
ユグドラシルはもともと可愛い系だけど、仕草とかは大人だから、違いが面白いよね。
人の姿になって初めてベッドに横になった彼女に、掛け布団をかけてやる。
「どう?」
「ベッドって柔らかいのね。それにお布団に包まれているのって、なんだか安心するわ」
「そりゃよかった」
初めて〈部屋〉というところで朝を迎えて
『難しいわ』
と言いながらフォークとナイフで部屋で朝ごはんを食べていた。
まだ、他人の前でご飯を食べるのは無理と言いながら。確かにカチャカチャいうよ。日本育ちは気にならないから大丈夫!
「すぐ慣れるよ」
『そういえば、お料理されて味の付いたものを初めて食べたわ』
「へえ・・どう?」
『すっごくおいしい!』
ミグマーリのために薄味にしたけどね。オムレツを作ったのは俺です。
「ベッドで寝むってどうだった?」
『うーん、体が小さくなってるから平気よ』
「疲れは取れているの?」
『それは、昨日湖に飛び込んだ時に取れているわよ』
「ふうん」
『あとはね、文字を覚えて、本を読んでみたいわ』
マツと同じような台詞を・・・。人になって出来ることが増えたのかやる気に満ちている。
「まあ、追々ね」
ミルクと蜂蜜たっぷりのコーヒーを喜んで飲んでいた彼女と二人で先に出かける。
まだ、薄っすらと空が白んでるぐらいの早朝だ。
彼女は実は今裸で、初めにウリサに渡していたマントで体を隠すように立っている。
まずは人間族に変身する魔石を預かる。
『じゃあ行くわね』
トプン
マントを俺に預けて湖に飛び込んで暫くすると白龍が水面から顔を出した。
『王子、みんなの用意が出来たら呼んでね』
「うん!」
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