182【古本を読み解く?】
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本の虫亭の〈S様専用部屋〉で、さっきの本を開く。
ウリサは傍らのソファでロビーに有った本を読んでいる。〈二つの三日月湖〉だ。あれには最近の俺の黒歴史が載っている・・・。それでも俺がトルネキ王国でした事柄を知ってもらおうと、読んでもらっていた。傍らには教授の満月湖の昔話。今夜中に読む必要はないけどね。・・・貸し出してるかな。
ちなみに今日は、ゲストベッドをひとつ足してもらっています。この部屋は一応VIPルームサイズなので、まだまだ足せますよ。
そうして俺はさっきまで晩飯を食べていたテーブルで、宝刀の絵本と本を開く。
「お、その本読むのか?」
カップに紅茶を二人分入れて一つを置いてくれながら、ウリサがのぞき込んでくる。
「読むと言うより調べると言うか・・・」
これから一緒に旅するウリサには俺の情報を共有してもらおうかな。
刺繍の装丁で彩られた絵本は、A4ぐらいの大きな本で厚みは二センチほどある。
表紙はもちろん、中の羊皮紙も厚めなのでページ数は無い。
だが、中はほとんど三日月の宝刀の絵で、緻密なものから大雑把なものもある。文字はあまりない。
そして、もう一つの方の本は、その半分ぐらいの大きさだが、厚みは倍以上あって。これの表紙も刺繍の表装だが、中は文字ばかりだ。まだ内容は読んでいないが、古代文字って感じでもなくて、読めそうだ。
「ウリサ、この三日月の宝刀なんだけどさ」
「ああ、〈ルハカマリィ:月の精霊〉って凄い名前だな」
「実は今俺が持っている」
アイテムボックスからそれだけを出してテーブルに、
コトリ
「え?すげ、どうして?」
「なんかさ、俺の伯父からあのリバーシブルのマントや服と一緒に渡されてね」
「おじ?お前のおじって・・・聞くのが怖いけど聞いていいか?」
「うん。・・・タナプスって名前の伯父さんなんだけどね」
「タ・・・タナプス神?ってだからあの服に三日月の模様が」
「月と魂の神様だから、三日月グッズが好きなのかなーなんて思ってたんだけどさ、父さんが言うには、この金ぴかの三日月の剣って、滅びた砂漠の王国で王様が受け継ぐ宝刀だったんだって」
「ロードランダ王が?」
「そう、二千年前には存在していてね、満月湖の横でその時の王様にあったらしい」
「さすがだな」
「ね。もし残って続いていたら、ロードランダよりかなり古い国ってことになるよね」
父さんは昔からエルフの長をやってたけど王国として建国したのは三百二十年ほど前。
「だが今は無いと」
「そう、遺跡ぐらいあったら見たいよね」
「そうだな。で、これら本とかに手がかりがあるかもと?」
「あの猫人族も、もしかしたら末裔かもしれない。でも先に世界樹《ガオケレナ様》の方に行かなくちゃね」
ほんと、寄り道しすぎだ。
「わかった」
「それでも、ミグマーリが知らないかなぁって」
「明日、三日月湖に行くんだろ?」
「うん。その時に思い出してもらおうかな」
「俺もそのミグマーリ様にお会いしたいぜ」
「モササとはまた違った女の子でね、紹介するね」
「ああ。
それにしても、この剣は綺麗だな」
ウリサに言われて改めて〈ルハカマリィ:月の精霊〉を見る。
金ぴかの鞘と柄にオキニスのような黒い帯のような飾りが真ん中にクロスされて施されている。そして、黒い帯と金地の境目をラインストーンのように同じ大きさにカットされたダイヤモンドのような魔石が虹色に光って並んでいる。あ、この黒い帯も魔石なんだ。
「なあ、この本の絵、その剣とマジで似てるな」
「でしょ?でもこの本を見つけてくれたのはウリサじゃん」
「綺麗だったからひきつけられたんだよ。刺繍の本ってなかなかないよな」
「シュバイツ湖の絵本は刺繍が装丁の物が多いよ」
「お貴族様用だろ」
「カーリンのを見せてもらったからそうだろうな。先日古本で何冊か買ったけどさ」
思わず剣を撫でてから、絵本の表紙を撫でる。
「そういえば俺まだ鞘を抜いていないんだけどさ、室内はちょっとやばいかな」
“そうね、かなりひかるわ。どれかのつきのみずうみでみたほうがいいわよ”
「サンキュ紫色ちゃん」
俺はこういうやばい刃物をうかつに出したら酷い目に合うって知ってるぜ。風の女神の剣のときも、お気に入りの椅子がお釈迦になったもん。
「なあこのページって実寸大だな」
ウリサが適当に開いたページと傍らに置いた剣を見比べている。
「もしかして重ねると何かあるとか?」
「古代の城が飛び出て来るとか、門が開くとか・・・やってみろよ」
そんなべたな・・・と思いながらももしかしたらという可能性もあるよな。
「いやいや、こんなところでもしもがあれば困る。周りの安全が確認できるところでやってみよう」
「そうだな、先にこの文字ばっかりの方を読むべきだろうな」
「ね」
そういえば先日、一眼レフカメラの取説をネットで取り寄せた時
〈はじめに:スタートガイド〉ってやつと
〈取扱説明書〉ってページ数が滅茶苦茶あるのと二つあった。サポートの連絡先もあってさ。
この本もさ、もしかして・・・ね。
サポートの連絡先に、タナプス伯父さんを選んでいいですか?
「おい、目次ってなんだ」
「ああ、必要な項目に飛ぶときに良いんだぜ」
〈アンシェジャミン〉
滅びた古代の国の名前だろうか
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アンシェジャミンは青い星の裏である。
我らの建国の王は、青く瑞々しい星からやってきたと言われていた。その国は緑が豊かで、多く流れている川は澄み、様々な動物が暮らしている。魔物はおらず、魔を持つものもおらず。だが、美しくも豊かな国でも人々は争っていた。
唯の騎馬兵だった男はその戦のさなか、矢に撃たれ、馬から落ち、気が付けば砂漠に打ち捨てられていたという。
砂漠に現れた王は、美しい乙女の導きで、河のほとりにたどり着き、そこで暮らしていた猫の魔法使いの妖精と出会い、恋に落ち、異なる者同士ながら奇跡的に子が多く生まれ、さらに人々が増え、一つの集落になり、いつしか王国になった・・・。
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・・・猫人族ってここから生まれたのか?
・・・青い星って地球だろうか。地球だって緑豊かで水に恵まれた地域がそう沢山あるわけじゃない。って日本で生まれ育った俺には地理で習った部分でしか分からないが。
もし仮に地球で、馬に乗るような戦に出て、矢に居られて死んだ拍子にこっちに転移してきた?
そして、女神様?的なひとに拾われて、猫の妖精・・・ってケットシーがいたって聞いたよな。それとくっついて子孫が・・・?
“青い星・・・青い星ねぇ”
「なんだ?砂漠の国の話で青い星って単語があるのか?」
心で呟いていたら念話として拾われてしまっていた。
「うん、ここにね、砂漠の王が青い星から来たって書いてあるんだけどね」
スペルの所を指さす。
「なるほど」
「俺もね、青い星から来たんだよ?」
「青い星?」
「うん、地球って言うんだ、え・・っとほら」
そういって、スマホで地球の衛星写真を探して見せる。
「なんと美しい。水球って感じだな。こんな中に人が生活しているってことも信じられないが」
「ね、この青いのはほとんど海水でさ、ガスマニアの海と同じでしょっぱいんだけどね」
「もしかしてこの本の健国王は」
「もしかしてだろ?」
俺みたいに、父親がこっちに居て、母親はこっちでは神様で、地球の文明の利器とか日本の便利なものをじゃんじゃん使わせてもらって、大変だったのは最初のひと月ぐらいだった。
だけど、この本の王様は最初はすごく苦労したと思う。地球でもない青い国かもしれないし、地球だったら日本語の国じゃなければ言葉が通じないかもしれないし。
女神様たちはこの王様を知っているのだろうか。こんど教えてほしいな。
「でもさ、ロードランダあたりから飛ばされてきたとしたら、それはそれで大変だと思うけどね」
「ああ、あっちも緑豊かな碧い地域だな」
「でしょ?シュバイツ湖のあたりから砂漠に飛ばされたらたった一人で途方に暮れるだろうね」
「お前みたいに瞬間移動で帰るのは無理だしな」
「ははは。そうだね。でもこの世界のここが星かどうかはわからないよね」
「お前ならわかるのではないか?」
「まだ宇宙のかなたまで飛んだことは無いよ」
「そうか」
「地球の常識ではね、地上から離れていくと空気が薄くなって、生身の人はそれだけで死んじゃうって」
「へえ」
「ほら、ロードランダの城の庭で走りこんだら息苦しいでしょ?」
「ああ、きつかったぜ」
「あれは空気が薄いからなんだよ。それに耳もおかしくなるでしょ」
「そうだな。高いところなだけで不調になるんだな」
「そ。だからハロルドで飛ぶ時もロードランダのお城より低い、海抜千五百メートルぐらいの高さまでにしているんだ。それでもあんなに寒いしねぇ」
このゼポロ神の世界がどうなっているかまでは分らないけど、まあ、そのうち、機会があれば宇宙から見てみたいよネ。
アンシェジャミン王国。二千年前にはあった国なんだから、この健国王はもっと古いかもしれないなぁ。父さんは知らないかな?どっちの人なんだろう。地球以外にも青い星はあるかもしれないけどさ。
古書街で買った本で色々な考えに耽る。それも読書の醍醐味だけどさ。
そうだ、本のことならあいつかもしれない。
今は、アナザーワールドでひたすらゼポロ神の世界の文字で国語辞典と、漢字辞典の編纂をしてもらっている。
俺は、宿の部屋の備え付けのトイレの扉を、あいつのいる部屋に繋げてノックする。
「おい、カイセーちょっといいか?」
『はい、駿介様!お呼びですか?』
そこにはスフィンクスより一回り小さい東洋人のおっちゃんが立っていた。この古書街の屋台で出会った時は三角帽の妖精と同じぐらいの大きさだったがな。
甚兵衛に下駄という出で立ちだ、何処で手に入れたのか・・・スフィンクスはこういうの見つけるの上手い。貧相な感じが甚兵衛と似合う。アイテムの一合升とカメを今は布で出来た巾着に入れて腰から下げているそうだ。
「ウリサ、こいつはカイセー。今アナザーワールドの部屋で籠って勉強しているんだけどな。地球から来た本や学問の妖精なんだ」
「カイセー様ですか、よろしくお願いします」
『やだなーウリサさん、俺っちに敬語はいらないですよぉ』
「そ、そうか」
『ところで、何か御用で?駿介様』
「ああ、もうこっちの文字は結構読めるだろ?」
『はい、お任せください』
「んじゃな、このテーブルにある、〈ルハカマリィ〉と〈アンシェジャミン〉って単語のある本を集めてほしいんだ」
『はい?』
「二千年以上前の本がもし見つかればありがたいんだけど」
『おお、なかなか興味深い本ですなぁ』
「本が見つかれば。連絡くれば買いに行くから」
『わかりました』
「ただ、シャンツ フォン コルベって人が売ってるものは要らないよ。彼には精霊ちゃんがいてて、もし情報が出てくれば直接買うからね」
『シャンツって人ですね』
「ああ、猫人族だ」
『分かりました』
再びアナザーワールドに繋げて今度はスフィンクスを呼ぶ。スフィンクスはアメリカンな美丈夫だ。金髪碧眼で、ちょっと顎割れって感じ。
『お呼びですか王子』
「しばらく、カイセーが旅に出るから、スフィンクスも付き合ってくれ」
『わかりました』
「カイセーには本を探してもらうけど、スフィンクスはついでに食べ歩きだね。かかった費用は経費で出してね」
『お任せください』
「これで、コレクションが増えるといいな」
「さすがシュンスケ。すごい人脈を持っているんだな」
「人脈じゃなくて、精霊とか妖精の伝手だな。それにスフィンクスも地球とは無関係じゃないみたいだし」
本を探してもらうのはもちろん、料理の上手いスフィンクスのレシピがさらに増えるといいよなぁ。
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