180【フル装備はハロルドと兄貴で】
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「本当はこんなものが無い方がハロルドが素晴らしいって思うんだけどね」
ガスマニアの海岸でハロルドと話す。
『え?でも王子がみんなと頑張って僕に作ってくれたの嬉しいよ!』
額に一本の螺旋が入った美しい角、白鳥のような優雅な真っ白な羽根、そしてアラブ種系のようなスリムで力強い馬体も素直な尻尾も真っ白。黒ずんだところは何もない。そして瞳は金色。
その彼に俺の髪で出来た緑銀色の頭絡と手綱を付け、白龍の鱗で作った真珠の様に艶のある真っ白な新しいゼッケンとタンデムの鞍を取り付けた。今回は鐙もあってそれらのベルトも真っ白だ。
俺は月と魂のタナプス神(伯父さん)に貰った服とリバーシブルのブーツとローブを着ている。白い方でね。
「まあ、シュンスケも上から下まで真っ白ね」
「でしょアリサねえちゃん」
「でも、おにいちゃん、かみとめがくろいままよ」
猫耳が笑顔で言ってくれる。
「おっと、これじゃ変かな…………
目や髪も色を変えた方がいい?」
「ふふふ、だいじょうぶ、にあってる」
「服が眩しいから丁度いいですよ」
「追加の干物持ったか?」
「ゴダ!味醂干しもありがと!」
ウエストポーチから味醂を提供してゴダに味醂干しの干物を作ってもらった。つけダレの配合もスマホから書き出してね。
子供舌にはあの甘い開きの焼いたのも旨いのさ。砂漠のど真ん中で焼くとどうなるか実験したいな。
俺は再び砂漠へ出発する。今回はウリサも付き合ってくれることになった。
なんとウリサはこの数ヶ月で単独依頼や、ウリアゴより少し上のパーティーにイレギュラーに加入したりして、単独でCランクからAランクにアップしていた。どうして急にランクアップ出来たかというと、希少な精霊魔法がフルで使えるようになったからそうだ。鍛錬も欠かしてなかったから、細目のマッチョだけどなんか雰囲気がすごく変わっていた。不思議と優しい柔らかい感じに。
「…………まあシュンスケのお蔭だな」
ウリアゴ全員でのパーティーのランクはBに上がっている。ゴダとアリサは変わって無いからね。でもいいんだよ、わざわざ危険な冒険をしなくてもね。ゴダは漁業がメイン、アリサはいまはお花屋さんの店員がメイン。それでいいんだよね。
朝からみんな海岸に出てきて俺たちの出発を送ってくれる。
玄関からだとさすがに他所様にもお騒がせだからこっちから。
とはいえ、アリサとゴダ、猫耳姉妹、クリス、セバスチャンとミアと七人もいる。
ウリサの装備も砂漠仕様に、俺が色々付与した。目の細かい布で出来たマント、トップスのシャツに彼にも白龍の鱗で作った軽鎧を、チノパンみたいなボトムに砂地でも歩けるそこがギザギザのブーツ、そして短めのターバン。それらに、カーリンのナイフづくりで作ったように黄色ちゃんが潜んでいる風属性の魔石をちょいちょい仕込んである。砂嵐を調節してもらうようにね。それから防汚と抗菌の付与。あとはウリサにもグラサンを、それはまだ荷物の中だけどね。
「じゃあ行くか」
「うん。ウリサ」
ウリサがひらりと真っ白なハロルドに乗る。そして伸ばしてくる手を掴んで俺は彼の前に。六才児のサイズのままだけどもうため口なんだよ。坊ちゃんごっことか切り替えるのめんどくさいからさ。
「「「「「いってらっしゃい」」」ませ」」
「「いってきます!」」
『いってきまーす』
“いってきます”
“いくぜっ”
ポシッ ポシッ ポシッ ポシッ バサッバサッ
ハロルドは海岸を水平線と平行に少し助走を付けると羽を広げて飛び立つ。
マツと出発したときは、まずは東にまっすぐ行って国境付で南に曲がってって感じだったけど、今回は直接トルネキ王国のまずは港町を真っすぐ目指す。空からだから飛行機なら十四時間ってところかな。その手前で一泊だけどね。
『でもさ、ラズラン領とかカウバンド領とか気になってるんじゃないの?』
「うっ、そうだけどさ、今回は先に行くよ!」
『はいはいとりあえずトルネキの港町に行ってからミルクブールバード河を遡るんだね』
「そ、でも今夜泊まるところは〈本の虫亭〉だ」
『わかったー』
前回はマツといっしょにあっちこっちに留まりながら、途中で色々あってさらに劇に出たりしながらだったから、古書街に行くまで三か月かかっていた。それがお空からなら夕方には着くんだぜ。さすがハロルド、さすが空の旅。まあ瞬間移動ならもっとすぐだけどさ。
…………とはいえ朝の七時にガスマニアの王都を出て三時間ハロルドとは言え馬に乗りっぱなし。
「俺は平気だけど、ウリサは大丈夫?」
「ああ、ハロルド様ってのもあるだろうけど、衝撃や揺れが無いし、この鞍?結構柔らかめで楽だぜ」
「そっか、ウリサは仕事で早馬に乗り続けていることがあるんだっけ」
「ああ、急いで運ばなくてはいけない書類や手紙を届けるのに、ガスマニアの王都からラーズベルトのギルドに行ったことがあったな。馬を取り換えながら二日かかるんだ」
すげえ。俺の軟弱な尻では絶えらない。
『僕だって陸路なら二日はかかるねぇ、乗り換えないなら馬よりは早いかもしれないけど、下道はまっすぐじゃないもん』
「え?ハロルド様は下を行ったことあるの?」
『ルートは違うけど今飛んるコースの下を行ったよネ』
「ああ、馬車だったけどな。あれも本気を出せば早かったじゃねえか。ただ、普通の馬のふりで進んでたからさ」
『ロムドム団って言うの楽しかったよ』
「ははは、ハロルドも舞台に立ったんだぜ」
「それは見たかった!」
『マツが可愛くてねぇ』
“あたしが、とばしたの”
「そうそう、黄色ちゃんの魔法で、可愛い精霊の役をね」
揺れないハロルドの背でおにぎりを出して食う。
今日は昆布のおにぎりと、海老の天ぷらのおにぎりというか天むすだな。
「ハロルド様の上ならこうやって飯も食えるんだな」
「ねえ。揺れないからさ。ハロルドも何か食べる?」
ハロルドが空中で停止する、羽を広げたまま。
『うーん今はダイジョブ。お水が欲しい』
“じゃああたしが”
青色ちゃんが空中におにぎり位の水球を何個か生み出す。
ブシャッ、ブシュッ
「ああやって水を飲むのって結構難しいよな」
“ウリサはのみそこねて、せきこんでわね”
「ははは。俺も得意ではないな」
「口の構造が違うのかな」
宇宙飛行士がこういう水を飲んでたのは動画で見たけどね、空気も一緒に口にはいっちゃうと難しいんだ。
「でもねコツがあるんだよ」
「へえ。飲み損ねてから俺はいつもコップに入れてもらうことにしたんだけど」
「口を水玉より小さく開けて吸い込むと旨く行くのさ」
「なるほど、チャレンジしたいぜ。いいかな青色ちゃん」
「いいわよウリサ…………どうぞ」
ウリサの顔の前にもおにぎりサイズの水が浮かぶ。
それを自然な感じで口を少し開けて飲む。
口の周りを手の甲で拭きながら嬉しそうだ。
「ほんとうだ、上手くいく!サンキュ、シュンスケさすがだな」
「……なんか違う。俺はもっと口をとがらして吸い込むんだけどさ、今のウリサのやり方の方がかっこよくない?」
“おみずをのむぽーずなんて、こだわるところ?”
「今までは何とも思ってなかったけどさ」
“たしかに、おうじのみずの のみかたってくちがとがっててかわいいよ”
「ちょ、緑色ちゃん!」
「何が違うんだ?」
「え?いっしょいっしょ、違わないよ!」
“えー”
「そうだハロルド、一か所だけ寄って」
『どこ?』
「薔薇と葡萄の公園」
『わかったー』
国境の手前で、すこし街道を外れる。
『わー綺麗、薔薇が増えてるよ』
「クインビーと精霊ちゃん達がお手入れしてくれてるもんな」
“わたしたちだけじゃないわ”
“いまならえすかーざとわいざーがいるぜ”
「ほんと?」
「だれ?」
「リザードマンの兄弟でポイコローザ公国の公爵の息子なんだ」
ハロルドが高度を下げて公園に静かに降り立つ。
あ、ロイエもいる。
泉の前で大きな花輪を掲げて、黙禱をしている。
おれもその後ろから静かに参加。気配を消すためにちょっと半透明になって。
ハロルドとウリサは四阿の横で少し浮かんで待ってもらう。
無念な死を迎えた地竜たちよ安らかに。プウとポウの親たちよ、彼らの健やかな日々を守ってくれ。
黙祷が終わったら、透明化を解除。
「ふう、ここはさらにきれいになったねぇ」
「うわっシュバイツ殿下」
「ほんとだびっくり」
「ごめんごめん、脅かすつもりはなくて、立ち寄ったらたまたま三人がいてさ、御祈りの邪魔したくなくて」
「いえいえ、大丈夫です、よく来てくださいました」
「お元気でしたか?」
「げんきだよ、エスカーザとワイザーも元気そうでよかった」
「はい、もちろんです」
「ところで、この公園すごく奇麗だけど、整備しているの?」
「はい我々からはここは国外ですので、お金を渡して、スブルグ辺境伯に整備をお願いしております」
「そうなんだ」
「ここらの見回りも我々の仕事ではあるんですよもともと。周りが森だから魔物もいますしね」
ロイエが外国人の二人のリザードマンに付き合ってるんだな。
「そうか、お勤めご苦労様」
「ところで、今日はお一人ですか?」
「いえ、ハロルドと、友人の冒険者と一緒ですよ」
そしてハロルドは今度はわざと下草を踏みながらやってきた。
『みんなこんにちは』
「ハロルド様久しぶりです」
『この人はウリサ。シュンスケの友人でAランク冒険者だよ』
「初めましてウリサ殿」「「よろしく」」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
すげー、ハロルドってば人を紹介するのも上手。
「それにしても、ハロルド様の鞍すばらしいですな」
エスカーザの言葉に
『わかっちゃう?』
「もちろんですよ」
「ふふふ、まえはポイコローザの地竜の革の鞍を使ってたんだけどね」
「それはありがとうございます」
「採用したのはトルネキ王都のギルドのドワーフだよ」
「それでもありがたいことです。我が国の地竜の革はそれほど出回って無いですしね」
そう。ポイコローザの地竜は魔素を採収するための飼育だから革や肉は自然死の場合しか出荷されない。
「そうだ。丁度いいから、俺に譲られた地竜たちに会いませんか?」
「ぜひ!」
「わーみんなに会いたいですよ!」
「よしでは……ちょっとまってくださいね…………」
おれは公園の一角に板チョコのような扉を出して開ける。
「失礼します」
「シュバイツ殿下のアナザーワールド久しぶりです」
「すごいですねぇ」
「ですよね、俺もいつみてもびっくりします。はじめは端っこが見えていたんですけど、今は端っこが分かりません」
「へえかなり広いですね」
「おーいみんなぁ!」
『あ、シュバイツ王子』
『殿下だ』
「エスカーザたちが顔見に来たよ!」
『え?ほんとだ!』
地竜が飛んできた。
こんなに広くなったのに、みんなは湖と森の間ぐらいからあまり動かない。時々肉食の子は狩りに出るみたいだけど。
『エスカーザ元気だった?』
『わーいカイザー久しぶり!』
「皆元気そうで良かった」
「顔色も良いな」
『うん!ここの草って美味しいんだ』
『狩りも楽しいよ』
「狩り?」
「ええ、運動を兼ねて自分の食べ物を獲ってきてるようです。そのためにガスマニアの王都やロードランダの森からいくらかの動物と弱い食用の魔物をとらえて繁殖しています」
「それは理想的な環境ですね」
「ここには人が居ませんからね。時々来てもあの建物からそんなに出させていないですしね」
「だしか、緊急の時ぐらいとスフィンクス様に聞きました」
「ええ」
あ、ハロルドが、ゴブリン二人を乗せて遊んでるぜ。
『皆さん、シュンスケ様もお茶が入りましたよ』
「さんきゅ」
「有難うございますスフィンクス様」
『いえいえ、私はおもてなしするのが好きですからね』
「そのような高位精霊がこの世にいるなんて」
「ですよね」
エスカーザたちのために、一階のテラスにテーブルを出してくれたスフィンクス。
そこに腰かけてお茶をもらう。
今日は男性ばかりだから、塩せんべいと玄米茶の組み合わせだ。ほっこりするぜ。
「これは美味しいですね!」
「何処のお茶ですか?」
『これらはトルネキ王国の古書街で仕入れましたよ』
「スフィンクス様も行かれるんですか?」
『ええ、ときどき王子にお小遣いをもらって本を探すこともありますよ』
「こうみえて女性の読むような恋愛ものとかも読むんだぜ」
『なかなか興味深いですよ。高位精霊の私には関係ありませんが、こういうのを読むと現実の女性の攻略方法が分かるかもしれないですよ』
「こら!スフィンクス!元ダンジョンのラスボスが攻略方法って言っても分かんないっての」
『はははこれは参りました』
「「「「はははは」」」」
「じゃあそろそろ出ようかな」
「そうですね」
『エスカーザ、また来てね』
「はい。良い子にしてるんですよ」
『うん』
『カイザーもまた会ってね』
「ああ、ここじゃ安全だろうけど怪我するんじゃないよ」
『うん!ここはねぇどこよりも安全だし、優しいんだ』
「そうか!」
二人のリザードマンは皆の手の届くところを撫でていた。
建物を通って正面玄関から、スブルグ辺境伯領の冒険者ギルドに繋げて、三人を送り出して俺達もアナザーワールドから出る。
「ここで良かった?」
「はい!有難うございます」
リザードマン兄弟は今日はこの隣のホテルに泊まるそうだ。俺たちはここをまた出て古書の町へ。
『シュンスケ様お待ちを……』
半開きの板チョコドアから呼び止められる。
「うん?なにスフィンクス」
『これ、ガスマニア王都の骨董商で見つけまして、なかなかに良い品ですよ、ウリサ殿にぴったりでは』
そういって大きめの紙袋を手渡された。口を開けて上から覗く
「こ、これは!」思わず手を突っ込んで出す。
〈認識疎外のマント:光属性と闇属性の精霊術が使えたら足先まで隠れられる〉
すげー、しかもリバーシブルになっていて片方は白っぽいグレー、片方は黒っぽいグレーでフードも付いている。
「なあ、ウリサこれ着といてよ」
“これをかつようできるのは、うりさだわ”
“そうそう!ときとばあいによってたすける”
紫色ちゃんと白色くんも言ってるしぃ。
「お、おう、サンキュ。いいのか?スフィンクス様も」
『ええ、透明になれる王子と行くなら、必要になるときがあるでしょう』
「うん!ありがと」
そうして金い色のアメリカンな美丈夫がドアの向こうに消える。
「さて、じゃあ暗くなってきたけど次は古書街だね」
『そうだね。黄色ちゃん、ログホーンにお知らせを。二人はきっとお腹空いてるから』
“わかった、はろるど。まかせて!”
「「『頼んだよ』」」
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