175【裏と表・・・どっちが?】
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「さて、宿に戻ろうかな」
“あしたはかいものだろ!”
赤色君が言う。
明日は午前中は俺一人が古書街で買い物して、昼からみんなで王都のギルドの大きな商業施設に行くんだった。
“おうじ、あたしほしたあまいやつ”
なんだっけ、棗みたいなやつ?ドライフルーツもいろいろあったよな。あれらをスフィンクスが作ったチョコでコーティングしてもらうのも旨い。
“おれはえびせんべ”
“おれもおれも、たこせん”
「まかせとけ、色々買っといてやるよ。お前ら、頑張ってくれるもん」
“わーい!”
“おうじ、ふとっぱら!”
「太っ腹ではない」
次の日、俺は古書街で文房具とおやつを山ほど買って、サリオ一家と王都の冒険者ギルドに飛んだ。彼らの馬や馬車をいったんアナザーワールドに預かってね。
そうして、ホームセンター状態の売り場でアラビカと合流した。サリオ一家はモカさんやコナ君と買い物へ、キリが俺の買い物に付き合ってくれることになった。
「買い物っていうか、相談なんだよね。できそうなら発注しておいて完成したら取りに来る感じで」
「ふうん」
そうして、ガスマニアやロードランダの冒険者ギルドより品揃えのいい、馬具売り場へ。たしかに、ラーズベルトのギルドショップより馬具が多いんだよ。なぜかというと、このトルネキ王国は馬の産地でもあるらしい。俺はまだ行ってないが、グリーンサーペント河の北側は羊、南側は馬の牧場が広がっているんだって。王都の外れには競馬場もあるそうだ。
コンコンコンコン ゴンゴンゴンゴン
「こんにちわぁ、グアンデさーん」
相変わらず革を叩く木づちを打つ音が大きくて大声じゃなくちゃ聞こえなさそう。
「おーう。おやシュンスケ。今日の連れはアヌビリじゃなくてキリなんだな」
「ええ、アヌビリはロムドム団と別な地域へ行ってて、多分ドワーフの国に向かってるんだと思います」
「そうか。で、今日は何だ?タンデムの鞍が壊れたのか?」
「いえいえ、鞍なんて壊れるんですか?」
思わずキリに聞く。
「戦争にでも参加しなければ壊れんだろ」
「ですよね」
売り場の片隅にある打ち合わせ用のテーブルセットに連れていかれる。図工の机にも見えていて、作業台にもしているのか結構疵だらけ。ラーズベルトのドワーフ兄弟のもこういう机だったな。
傍らには色々な革やロープの見本が置いてある。
ここで、オーダーメイドなどを打ち合わせるんだろうね。
「たしかに、お願いしたいのはハロルドの鞍なんですけどね。あのタンデムの鞍と同じ形のものを、ある素材で作ってほしくて」
「ある素材?」
「ほら、手綱と同じようなね」
そう言って、アイテムボックスからギルドで買った魔法の袋を出す。この中にぎっしり入ってるやつを一つ、
ドーン
「こ、これは!」
「白龍のうろこです」
「・・・これで鞍を?」
「作れますかね」
「作れることは作れるが」
「できればこの間みたいなタンデムのがいいんです。俺よく二人乗りになっちゃうから」
「なるほどなぁ。すまねえ、一つ聞きたいんだが、どうしてこの素材のほうがいいのだ?」
「ハロルドは高位の精霊でしょ?一応俺も精霊らしいんだ」
「一応って・・・」
あきれたようなキリの合いの手が聞こえるけど、
「精霊は消えちゃうという特性があって。具体的には物質からそうじゃないものに変わるんだ。こんな風に」
実は俺も最近出来るようになった精霊特有の消えるやつ。まだ全身で試したことはない。だって・・・
二人の前でパーにした左手だけを少し透過させる。シルエットは分るけど、テーブルの木目も俺の掌越しに見えている。
「ほうほう」
「ムー様がこうなってるのを見たな」
キリが言う。三日月湖からミグマーリをシュバイツ湖に連れて行ってもらった時かな。
「でしょ?こうなってるとね」
と言いながら右手にナイフを持ってちょっと振りかぶる
「おい危ない!」
「大丈夫だよキリ」
左手に突き刺そうとすると、
すかっ
ドスッ
「あ、ごめんテーブルが」
「疵だらけのテーブルの心配なんぞせんでいい」
グアンデが苦笑する。
「キリ、ちょっとこの左手を触ってみて」
キリに頼む。
「あ、俺の指が突き抜けてしまう。触れんな」
「面白いでしょ」
「面白くはない」
「ははは」
で、透けていた左手を実体化すると、キリの指を押しのけて掌につついているような感じになる。手の中にキリの指が埋まるわけではない。やろうと思ったら出来そうだけどね。
「今度は触れたな」
そう言ってシェパード系の犬人族の大きな手がきゅっと握手。
「じゃあもう一度、今度は右手にナイフを持ってるこっちの手を透過するね」
すると
カシャン
ナイフを持ち切れずにテーブルの上に落としてしまう。
「落ちたな」
「ね、持ってられなくなっちゃうんだ」
「んじゃ次はこれを」
そう言ってウエストポーチから小さな紐が輪っかになったようなものをひとつ出す。
「これは俺の髪の毛で作ったミサンガ。だからつまり精霊の素材ってことだよ」
この間ポリゴンに寄ったら、アイラちゃんが作ってくれていたんだ。
「なるほど。これもちょっと光ってるな」
それを手にぶら下げて再び透過すると。
「お、ミサンガごと透ける」
「今度は落とさないんだな」
「でしょ?」
「なるほど面白いな。つまり、ハロルド様の鞍をミグマーリ様の鱗で作っておくといっしょに透けると」
「そう!今はねゼッケンと鞍をポロっと落としちゃうんだ。ほら手綱はグローブ先生に教わって作ったハロルドの尻尾と俺の髪の毛で出来たやつだから」
「なるほどな!ゼッケンはどうするんだ。鞍の下に挟まないと痛いらしいぞ」
「それはこれで布を作ってもらおうと思って」
きれいに巻かれた糸を鱗の横に出す。
「これは?」
試行錯誤して、ハロルドのふわふわ鬣を糸にしました。ホブゴブリンが。
「この糸も光っとるな」
「でしょ、きっときれいな布ができるよ。ただ、もう少しこっちは嵩がいると思うんだ」
「こないだのゼッケンはでかいが、鞍を置くためのゼッケンならもうちょっと小さくても良いぞ」
「そっか」
いろいろ勉強になるのが楽しい。
「よし、わかった、ちょっと鞍の件は預からせてくれ」
「うん」
「たぶん樹脂の魔法で柔らかいものにしたほうがいいからな。樹脂は兄貴のほうが得意なんじゃ。それにレジンの魔法じゃ糸も作れるはずだ。鞍をこしらえるには糸もいるからな」
そうだ!化学繊維ってことだよな!素材は白龍だけどさ。
グアンテのお兄さんは、ガスマニア帝国の国立学園のグローブ先生だ。
「そっか、樹脂か。俺も教わりたいなぁ」
本で読んで自分でいろいろ試したけど、実際に使ってる他人の魔法も見たい!
「次の登校日はいつなんじゃ」
「二週間後だね」
「じゃあその時に俺も連れてくれや」
「いいですよ」
「それまでに俺の休みの調整と、魔法用の図面をこしらえておこう」
「よろしくお願いします」
そういえば精霊ちゃんたちの服って、何でできているんだろう。
“あたしたちのは、まほうでできてるわ”
“はくりゅうの、たまみたいなものよ”
“ちっちゃいから、そんなにまりょくはいらないの”
魔素が濃いと実体化するってやつか。そうか。
俺も魔法で服が作れたら全身透過できるんだろうな。
そう、全身透過ができないのは、服を落としてしまうから!
元に戻るとき困るよね。ハロルドと違ってさ!
“裸はやっぱりダメなの?”
俺の中から問われる
“だめなの”
そういえば、伯父さんに箱をもらったんだよね。
「グアンデさん、ちょっとこのテーブル借りていい?」
「いいぞ」
「ちょっともらい物があってさ、まだ中を見てなくて」
「もらい物?」
「これなんだけどね」
そういって、濃紺の箱をアイテムボックスから出す。全体的に軽いんだよね。ベニヤかボール紙で出来たような。ただ見た目だけがすごい。
「なんじゃこの箱も、縁取りの鋲が銀色に光っとる」
「ね」
そうっと蓋を開けるとそこには・・・
「真っ黒な布?」
「服じゃねえか?」
キリの言葉に頷く。そうかもしれない。
ひっぱりあげると、大人サイズのローブが出てきた。
昨日伯父さんが来ていた服と色は似ているかもしれない。裏側は真っ白というより、ミグマーリの鱗の様にパールっぽく光ってる。もちろん黒い方もすごくなんというか青みがかって光沢があるんだよね。
そして黒い背中には、裏側と同じ真っ白な丸が。そして白い方には黒い弓のような・・・あ、三日月か。
さすが月と魂のタナプス神からのもらい物。
「シュンスケには大きいと思うけど、着てみろよ、サイズ調整の付与は入ってるかもしれんし」
「うん。じゃあ」
そう言って着てみると、ホントだ足首位に裾が短くなっている。でも袖はちょっと長い手が出ないぜ。
「袖は、めくりあげたら良いんじゃね?」
キリがやってくれる。さすがお兄ちゃん。
黒い袖をめくり上げたら白い裏が出てくる。これはこれでポイントっぽいよね。
「いいじゃん。似合ってるよ。」
と言いながら、フードの所のポジションを整えてくれる。
「ほんと?」
「それに内側にも模様があるってことは」
「そうだ、リバーシブルだよね」
一度脱いで、白いローブを着てみる。
「黒い三日月がかっこいいし、白い方が俺は良いと思う。砂漠で黒は昼間は目立ちそうだ」
「なるほど、ありがとう」
どっちをメイン出来るのは俺の気分で良いのか?白と黒に違いはあるのか?
ねえ、白色くんと紫色ちゃん?
“わかんない”
“かみさまのどうぐはあたしたちには・・・むずかしいわ”
そうなんだね。
「砂漠にはもったいないけど、砂を防ぐには丁度いいんじゃね?」
「そっか、そうだね。俺はまだまだ砂漠の旅をしなくちゃいけないからさ」
「まだ?」
「うん、ガオケレナ様に合わなくちゃいけないんだよ」
「それはまた、遠いなぁ」
「まあね、でも何とかなるよ」
ハロルドとかミグマーリとか頼もしい友達がいるからね。
「誰かと行くんじゃないのか?」
「さすがに満月砦の向こうへ行く人の情報は入ってこないんだよね」
満月湖まで行く人も、サリオさんぐらいだもん。
「・・・付いて行ってやりたいのは山々だけど。俺もまだCランクだしなぁ」
そう、砂漠の魔物はAランク以上だからね。
「気にしないで!俺は強いからね」
「それはそうだ」
今はまだローブは仕舞っちゃう。だって白と黒だけど、なんだか派手なんだもん光っててさ。あ?もう一つ巾着袋がある。給食のエプロンを入れる袋ぐらいの大きさの。袋も高級感ある。これにローブを仕舞って持ち歩くのかな。でもせっかくだから最初の様にたたんで・・・。
「?え?まじか」
つい、鑑定を発動しちゃった!
〈タナプス神のリバーシブルローブ:精霊羊製〉
羊のお仲間がいるんだ!とういうことはこれ着て透過できる?こんどお部屋で試そう!
神様の道具ってことだよね。
はじめから持ってる〈風の女神のミッドソード〉は結構お世話になってる。ここぞという時には何よりも強い剣だ。
そして、ウンディーナ伯母さんにもらった〈水の女神の聖ポット〉カーリンとお揃いの。これもかなりお世話になってる。
そしてこのローブ!〈月と魂の神のリバーシブルローブ〉これで三つめ。
「ま、まじか」
さっきの俺の台詞が別の所から聞こえた。
「しゅ、シュンスケ。そのローブって・・・」
グアンデの声に振り向くと、鑑定の虫眼鏡を持っていた。
「わかちゃった?夕べ、伯父さんにもらってね」
「伯父さんって・・・タナプス神様じゃねえのか」
「うん、神様って呼んだら嫌がられてさ」
「ははは、さすがシュバイツ殿下だ」
キリが俺の背中をトントン叩く。
「内緒ですよ」
「さ、さっさとそれを仕舞って、サリオさんと合流するぞ」
「うん。じゃあ、グアンデさん・・・は赤色くんが見えてるんだっけ」
「いや、俺は緑色の子だ」
「へえ、ドワーフは火属性が多いのに」
「兄貴も土属性だぜ。俺たちは火も使うけどな」
「そうか、だからクラフトよりなんだね」
「そうだ」
「学校行くときは緑色ちゃんに言うから」
「わかった」
グアンデさんの馬具コーナーを離れて、売り場に行く。
「サリオ一家の買い物はどんな感じ?」
“かーとさんじゅうだいめ。もかとこなはふたりでかーとひとつ”
「えーサリオさん達まさか財産使い尽くすつもりじゃないの?」
「まあ使い尽くしても良いんじゃね?」
二十歳で本当は俺と同じ歳のキリと、フードコートのようなところに座る。その前にカウンターで飲み物を買ってね。おれはフルーツたっぷりのミックスジュース。キリは赤葡萄のジュース。
「ワインじゃなくてよかったの?」
「俺はあまり強くないんだ。飲む時は寝る前だけだよ」
砂漠は水が貴重だからこの地域の大人は、お茶の代わりにワインを飲むんだよね。ノンアルならこういう絞ったジュースなんだけどさ。余計に喉が渇きそうなぐらいに濃い。こっそり氷を入れて薄める。
まあ、車社会ではないから昼でも飲んでもいいんだよ。一応馬に乗る前はアルコール控えめにするのがこの世界の大人のたしなみなんだって。
馬は自分で事故を回避できるからね。酔っ払い運転の自動車と違ってね。ただ飲みすぎると違う意味で馬の上で酔うから。
「サリオさん達は商業ギルド長になったら給料出るんだろ」
「初めは少ないって聞いてたよ」
「まあ、あんな砂漠に現金持って行ってもしょうがないぜ今は」
「確かにそうだね!商売するにもまずはサリオが手持ちのものを売るって感じか」
「だからあの荷物は半分は仕入れなんじゃねぇ?」
「なるほど」
俺はジュースを二つ頼んでいたんだよね。
その一つを浅い器に入れ直す。
すると精霊ちゃん達がそれぞれストローを出して飲みだした。
「へぇ。みんな仲良く飲んでるな」
「おや、キリもみんなが見え始めた?」
「ああ、えーっと七色いるな。二十人ぐらいいるけど」
合格!
「他は分るんだけど、このキラキラしたちょっと小さい子は?何属性?」
「本人に聞いてみなよ」
「うん、なあ、君は何属性?」
“きり、きゅあがみえるの?”
「キュアっていうんだ」
“そう、よろちくね”
「キュアっていうことは怪我とか病気の治療が出来るんだ」
こっくり
「へえ、すごいじゃん骨折とかは?」
こっくり
「すげえな。じゃあシュンスケの聖属性の精霊なんだ」
にっこり
“あたり”
“すりきずちりょうとしけつならおれもできるんだけどな。あとはじょうか”
白色くんも会話に参加。
「そっか君は光属性だもんな」
“ああ、ぼうけんしたときにけがしたら、よべよ”
「・・・・わかった!ありがとう・・・ていうことは」
「おめでとうキリ。精霊魔法使いになれたね」
キリが少し震えている。あ、目じりにも光るものが!
「なんか感動する!俺身体強化しか使えねえと思ってたから」
「んじゃさ、そこに青色ちゃんがいるだろ?」
「ま・・・まさか。あ、青色ちゃん」
“よんだ?きり、なあに?”
キリが自分の荷物からコップをひとつ出す。
「これに・・・お水をもらっていいかな」
“おっけー、つめたいのがいい?”
「ああ・・・おおおおっ」
コップには八分目まで水が入っていた。
“どうぞ、おいしいわよ”
「いただきます」
キリが感動丸出しで精霊ちゃん達と交流しているのが面白い。
「うわ、こんなおいしい水は・・・ロードランダに行った時以来かもしれない」
“あら、いいかんしてるわね。あそこのみずよ”
「なあシュンスケ、こいつ等には何を対価にお願いしているんだ?」
「基本甘いものだな、あと男の子はしょっぱいものも好きだぜ」
「なるほどじゃあ・・・」
と言って、小さな包みを一つ広げる。
“あら、きれいね”
そこには色とりどりの小さな金平糖があった。
“せいらーどにもこれをもらうよ”
「そうだったな」
ガスマニアの第三皇子もすっかり精霊魔法をマスターしているんだよね。
「金平糖を持ち歩いているんだ」
「ああ、飲み水を切らしているときに、どうしても喉が乾いたらこれを口に含むと唾液が出てすこし楽になるんだ」
「なるほど、冒険者の知恵だな」
“でも、これからはあたしがおみずをだしてあげるわよ”
「ありがとう。でもお礼のために、甘いものを見つけたら買おうかな。みんなと会話もしたいしね」
“よろしくね”
“あたしも、きりとおはなしする”
“おれはやっぱり、しょっぱいもの”
「よし、じゃあ俺も今から食品売り場を見てこようかな」
「ははは、俺も行く!」
食品売り場でキリの目に留まったのはシュバイツ印の蜂蜜とチョコレートと魚の干物だったけどな。
「それらは買う必要はない。他のにして」
「シュンスケ?なぜだ?」
「販売元は俺だ」
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