174【満月も二つそしてもう一つの美しい月光】
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旅をしながら商売を続けていたサリオ一家が砂漠の真ん中で定住するなんて、どうやって過ごすのだろう。
俺みたいなスマホのゲーム無くても読書って娯楽あるか。きっと古書街に滞在しているうちにたくさん買ってるかもねあの二人。サリオ一家は旅の生活だったとはいえ運んでいるものが住宅メインだったから結構お金も溜まってるらしい。いつもこの街に来た時は本を買い込むそうだ。
新しい街が図書館を造ったらぜひ寄贈していただきたいものだね。
俺はソファに座ってさっき拝借してきたボールモンド湖物語の一巻を読む。
よかった、俺の話はまだ出ない。二千年前の父さんたちの首脳会議の話だった。先日この部屋で教授に聞いた話が載っていた。この本のネタの提供者は教授かな。思わず作者の所を見ると、やっぱり教授の本だった。学園から遠く離れた地域で恩師の本を読めるなんて、凄いね。一巻ということは続くんだな。教授が続編を出したら教えてもらおう。
夜が更けて、一人きりになった部屋の掃き出し窓からテラスに出る。
今日は満月だ、それに古書の町もまだ砂漠ではないけど、サバンナだから雨がめったに降らないから、星空を遮る雲もない。満月なのに満天の星。なんて素敵なのだろう。
ふっと、いま満月湖に行けばこの風景が湖にも映って倍楽しめるのかもしれない。さっきはお風呂で、外から入ってきた精霊ちゃんとはしゃいでて外を見れなかった。呼ばれてたし、パジャマのまま、ボールモンド湖の真ん中に転移する。
「わぁーめっちゃ奇麗!」
『ほんとうだね』
起きていたハロルドに出てきてもらう。静かに水をたたえる大きな満月湖。おれはその全容を見ようと、裸馬状態だけど角も羽もフルに出した、ペガコーンのハロルドにパジャマで乗って、ぐるぐる旋回してもらいながら空高く飛ぶ。そろそろヘリコプター位の高さかな。雲が無いからわからないけどさ。
満月と明るい星がばっちり足下に写っている。空にも古書街のテラスから見たのと同じ満月と満天の星。
携帯で撮れるかな。夜景がうまく撮影できたためしがないよね。
夜景モードがあってもさ。とりあえずパシャパシャ・・・そういえば母さんのウエストポーチに・・・あった、デジタル一眼レフ!おおっ、充電もばっちり。これは母さんに持たされている謎のメーカーのスマホと違って、量販店でも見かけるメーカーのやつ。
ホバリング状態のハロルドに乗ったまま構える。
こんなところから撮影ってそもそも俺達しかできないよな。ドローンって一眼レフ積める?
うーんいまいち。だって一眼レフって難しい・・・・いきなり夜景は難易度高い。
思わずスマホで夜景の取り方を検索・・・。砂漠の真ん中でもあっちのネットワークにアクセスできるのがありがたい。ありがとう女神様。
あ、望遠レンズいるんだね・・・あるじゃん。よし付けちゃおう。カチリ。
それで設定を・・・ふんふん、ファインダーにあるアイコンを触るんだ。
スマホみたい。よし。あ、飛んでるからね手振れを補正してくださいね。
パシャッ パシャッ
おお、スマホのカメラより良い音。
カメラマン駿介再びだ。
ひとしきり撮影に満足して、カメラのデータをスマホにブルートゥースで送ってカメラとスマホをウエストポーチに仕舞う。
ふっと月に影がかかる。あれ?雲は無いんだけどなぁこの地方は。
『わあ。ひさしぶりです』
朗らかなハロルドの声。
見上げると、そこに大きな存在があった。
あれは・・・
ハロルドはこの存在に会えて嬉しそうに声を上げていたのだ。
『ハロルドじゃないか久しぶり。こんな所で会うなんて。
そして、きみは、ローダの息子かな?そうだね』
その方はすぅっと俺たちに近づくと、ハロルドのほほを撫でる。
「ユグドラシル様の所の教会で声をかけていただきましたよね、タナプス神様」
今年の元旦の日付が変わった瞬間に、教会のチェンバロを演奏して歌ってた時に、立像に降臨されて声をかけていただいていた。あの瞬間から俺のステータスに加護があったんだ。
月と魂の神タナプス神様。太陽と創造の神ゼポロ神の長男にして、大地の女神のアティママ神さまたちのお兄ちゃん神。四メートル近くはある身長で、アティママ神様みたいな黒くてストレートな髪は裾が夜の闇に溶けているのか、どこまで長いのかわからない。瞳は金色に輝いている。
そして、墨染より深い青みがかった黒の着物を身に纏われていらっしゃる。その裾も闇夜に溶けていて、どこまでの長さなのかわからない。でも顔や首、手などは月の光の様に白く輝いている。男性と思われるその顔は端正に整っていて、柔らかい穏やかな笑みを俺に向けている。
父さんが黒髪にした時に伸ばしたらこういう顔かも。父さんはいつも上手に髪を短くするんだよね、やり方を聞いたら説明できないって言われたけどさ。タナプス神様は父さんより結構線は細いかもしれない。まあ今は四メートル近くあるからわかんないけどさ。
『やだな、神様なんて呼ばないで』
「じゃあどうお呼びすれば」
『妹たちと同じで伯父さんと呼んでくれれば」
え、そんな恐れ多い・・・。
『ほら、呼んでごらん?』
『呼んであげて王子』
ハロルドが首をひねって俺を見る。
「うっ・・・た・・タナプス伯父さん」
『おっけーよくできました』
『よくできました!』
“よくできました!きゃーははは”
ハロルドと紫色ちゃんがタナプス伯父さんのセリフをまねる。
大きな大きな伯父さんは俺に近寄ると揃えた指の先で俺の頭を撫でてきた。
透けるように光っていたけど、温かい感触がした。
見た目の神々しさと違って、結構軽いかも。母さんや伯母さんたちのお兄さんって、わかる気がするよネ。
俺の心が見えちゃったのかくすくす笑う。すると足元の水面に写る月もくすくす揺れている。
『ここはまだまだ少ないけど、新しい命が生まれて来ていて良いなー』
それってウンディーナ伯母さんが連れてきてくれた虹色の淡水魚?もう数匹食べちゃったけど。
『よいよい、命は食べても魂までは食われぬよ』
「そうなんですね」
『それに、この地にはもっと人を呼ぶのだろう?』
「はい、友人が頑張るみたいで、俺も手伝います」
『長らく営みがなかったこの地が栄えるのは楽しみだ』
「そうですね」
だけど、この地から東はまだ砂漠だ。もう一つの世界樹までどういう風景が広がっているのか、俺もとりあえずここを拠点に、ちょっとずつ東を潤していきたい。
だって、まだ眼下に広がる満月湖の周りだけが緑に縁どられて、そこから海に向かう河にわずかな水。
それ以外はまだまだ砂漠が広がっている。きっと魔物もたくさん出てくるんだろう。
砂漠の魔物にはほかの地竜やゴブリンなどの魔物と違って魂のようなものはなさそうだ。ただ目の前の人や動物を襲うだけ。魔物の形をしているけれど、ある意味災害だ。
『頑張るかわいい甥っ子に、これをあげよう』
すると俺たちの目の前に一つの箱が現れた。
深い紺色のその箱は銀色の鋲で縁取られて、高級そうな箱だった。
『ここで開けて中身を落とすと困るから部屋に戻ってから確認しなさい』
「わかりました。ありがとうございます」
ありがたくアイテムボックスに仕舞う。
少し月が傾いて、黄色くなってきた。黒いフライパンで焼いたホットケーキみたい。そういえば初めてアリサ姉ちゃんに作ってあげたとき、すごく美味しそうに食べていたよな。ウリアゴたちに会いたくなっちゃった。
俺がさらに東を目指すときに誘ってみようかな。付き合ってくれるかな。
とりあえずホットケーキは作ろうかな近々。
ここの月の模様は兎じゃない。まあ地球の月だってウサギと言われたって無理矢理感がある。そういえばタナプス伯父さんのシルエットに見えなくないかも。気が付けば彼の姿がなくなっていた。あそこから見守ってくれているのかもしれないね。
新しい出会いにほっこりしていると。
『ねむい』
「ごめんごめんハロルド!もう寝ような。おいで」
『うん』
“はろるどおやすみ”
『おやすみみんな』
“いいゆめみろよ”
ハロルドの夢ってどんなのだろ。楽しそうだな。
ハロルドを仕舞って自分の翅を出す。
翅を出さなくても飛べるんだけどね。翅で飛びたい気分。そういえば最近は飛ぶときはたいてい翅だな。翅のほうが気軽に自由に飛べる感じがするんだよね。それにそういえば今は夜だから、精霊の姿のままだ。
黄色くなった月がさらに赤みを帯びていく。沈んでいくほどに大きく赤っぽくなっていくのはこのゼポロ新様の世界も空気があるからだな。地球と同じ。月夜じゃ地平線までは見えないけど、ちょっと丸みを帯びているのは知っている。きっとここも一つの星かもしれないな。
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