16【異世界のショッピングー】
旅先の買い物って楽しいですよね!
馬車旅の初日の夜は、マルガン辺境伯領の領都に滞在した。
ギルマスこと ドミニク卿の本家のお屋敷というかお城?に滞在させてもらった。本家に顔を出すついでだって。
ふだん、ドミニクさんはあんなにマルガン辺境伯を煙たいような表現だったのに、実際に辺境伯様にお会いしたら、もう、すごい良い人。ドミニクさんからすれば甥にあたる人で、まだ二十代の若さで、ちゃんと領主をしている方なんだ。
この世界に来て初めての町じゃなくて街!都会!我ながら大はしゃぎで洋服を買いに行ってみたり、お菓子屋さんに行ってみたりしていた。
馬車が静かに通れる、平らに舗装された石畳の大通りにちゃんと歩道が設けられていて、歩道にそって、お店が立ち並ぶ。そのところどころの路地がまたいい雰囲気というか、初めて来たところなのに、ノスタルジックな感じなのだ。
領民もみんないい人で、洋服にはおまけの靴下を、お菓子屋さんではおまけにクッキーの入った小袋を付けてくれる。
数年前までは戦争をしていたから帝国全体で復旧に大変だったけど、まだ十代だった辺境伯様は、資材を投げ打って、大黒柱や跡取りを失った家庭に支援を、そして領民税をほとんどとらず(金持ちや豪商などには名前をアピールするからと復興資金の支援金を多めにとってたらしい)、疲弊していた領都を見事に復活させたんだ。たった五年で。そういう風に領民たちに愛される領主なのだ。
アリサと手をつないで、たくさんの衣類を色とりどりに展示している洋服屋さんの前を通った。ウリサさんはドミニク卿に付き合っていてここにはいないけど、ゴダは後ろから串焼きを食べながらついてきている。期待を裏切らない動きだね。
二人とも今日も、革の軽鎧を着て、歩いている。俺はボーダーのTシャツとポケットがいっぱいついたカーキ色のカーゴ風パンツ。と水色のスニーカー
「今夜 辺境伯様のお招きで晩餐会に参加するんですよね。どんなご飯かな」
「そうなんだけど、私は遠慮しようかな?って」
「どうして?」
「この格好で晩餐会は変でしょう?略式と言われたけど。他に持ってきている衣類も同じようなものばっかりだし」
「ここは、ひとつ勇気を出して用意しませんか?これから帝都に行けば必要な場面もあるかもしれないですもん。何なら俺」が出そうか なんて言おうとしたら重ねてきた。
「そうよね!たまにはオシャレにお金を使ってもいいよね」
「うんうん」
「それに、こう見えてもDランクなのよ、お金は持ってきているの!」
「おおっ!」
「じゃさっそく入りましょう!」
で、ゴダを見あげると、
「おいらは前のベンチで休んでるわ」
ま、そうですよね。
「わーすごい。あ、このドレス古着ですって、豪華に見えるのにリーズナブル」
アリサが急にオシャレ欲のタガが外れたのか、さっきと打って変わって派手派手でゴテゴテしたドレスを指さす。
「これは、かなり暑いですよ」クーラーなんてないんだから。
「それに、かさばりそうですよ」
「そうねえ」
「ここは、俺が選んでいいですか?」こう見えても東京っ子なのさ。二十三区ではない某市民だが。女性の服ぐらいコーディネートできるぜ。っていうか、スマホで女子の級友から色々見せられたことがあるし。「田中君どっちがいいと思う?」なんて。俺じゃなくて付き合ってる彼氏に直接好みを聞けよ。って突っ込んだりしたのもつい最近の思い出だ。
あ、あれいいじゃん。
「これはどう?」
水色のサマードレス。裾に白いレースがぐるりとついている。
「なるほど」
「んで、これと合わせるんだ」
裾と同じようなレースの付いた薄手のボレロ。
「場面によってこの短い上着を着たり脱いだりするんだ。例えば帝都のビーチを散策するならドレスだけでいいし」
「おおっなるほどすごいねシュンスケ」
パチパチパチ
拍手に振り向くと、母さんぐらいの女の人が手を叩いていた。
「お客様、素晴らしいですね。そのお年で組み合わせのセンスがすごいです。
ささ、お嬢様、一度着てみるだけでもどうですか?」
「そうね。着てみる」
そういって試着コーナーに入っていったアリサに声をかける。
「靴と靴下も脱いできて!」
「わかったー」
このお店、服以外の洋品もいっぱいあるんだ。さっきから視界に入っている白いちょっと踵のある上品なサンダルをチョイス。
そして、白いリボンのカンカン帽を持って、試着コーナーの前で待機。
シャッと音がしてカーテンが開く
「どう?」
いつも、革鎧で締め付けられている胸がふわっと強調されて、少しむちっとしているのに相変わらずきゅっとくびれたウエストをシャーリングが包んでいる。
「ふわあ」思わずぼーっとしちゃう。
「アリサねえちゃん。きれい!すごい似合う!」
「そ、そう?私も中の鏡を見てそうかな?って」
「そして、さらにこれを履いて」
と言って、裸足になったすらっとした足に白いサンダルをはかせる、百貨店のシューフィッターさんみたいに。かがんでお手伝い。そして足首の上の方までひもを編み上げて行って結ぶ。
「んで、ポニーテールを下ろして最後にこれを!」
と帽子を乗せて。お店の人の横にもある姿見の前へ。
「まあー。お嬢様。とっても素敵」
「ですよねー」と俺も言う。
しかも、ドレスとボレロは古着なのでリーズナブル!レースがアンティークな感じでいいのよ。
「これにするわ!」おいくら?
「中銀貨一枚と小銀貨三枚です」
「え?計算間違ってない?安っ」
「お坊ちゃんが帽子の代金をもう払われていて」
「え?どうして?シュンスケ?」
困った顔のありさに、俺も色違いのリボンのおそろいの帽子を被る。
「帽子をおそろいコーデしたくて」
「シュンスケぇ。あんたって子は!どうしてそんなに素敵なの!」
ってきれいなドレス姿で抱き付いてくるからドキドキする。
「まあ、素敵な弟さんですね」
「そうでしょ?店員さん。こんなかっこいい紳士は今どきいないですよね。それに可愛い!」
「そうかな?アリサねえちゃんにはお世話になりっぱなしだし」
「いえいえ、男性はなかなかオシャレを理解しないんですよ。特に平民の方々は」
そういって、ねえちゃんとおばさんは盛り上がっていた。
「ねえ、ウリサ兄ちゃんはどうなの?冒険者以外の服はあるの?」
「襟の付いた、こういうシャツと、ジャケットは荷物に入ってた」
って店の商品を指差す。
ふんふん、「で、ゴダは?」
「あるわけないじゃん」
「ですよね」
アリサの会計を待って、お店の人を外に引っ張る。
前ではベンチでゴダが斜めにもたれて寝ている。
「あの人に着れるサイズってありますか?」
「ありますよ?こちらです」
と言って連れていかれたコーナーには、ドミニク卿が普段着ているような貴族の普段着のようなものの古着が並べられている。
「ねえちゃん、ゴダとギルマスだったら、どちらかでかい?」
「同じぐらいじゃない?あいつのほうが背は低いけどね」
棚にあるシャツと普通のシンプルなジャケットを手に取る。そしてお店の女の人に、 「ちょっとこれ借りていいですか?」
「え?」
「サイズ見てきます。アリサねえちゃんはここで待ってて」
早歩きで、ベンチのゴダの後ろにまわり、シャツやジャケットの背中を合わせる。ついでに袖の長さも。
「ちょっと大きく感じるけど、着たらちょうどいいよね」
そうして、ダッシュでお店に戻る。
「すみません、持ち出しちゃって」
「いえいえ、お姉さまがこちらにいらっしゃったので大丈夫ですよ」
「これでいいよね」
「そうね。あと、兄さんと合わせてタイを選んでおいたわ」
「3本あるよ」
「一つはあんたのよ」と言ってコッソリ耳を寄せる。「シュンスケのホントの瞳の色に合わせたの。絶対に合うわ」
緑色のネクタイだった。
「すみません、このネクタイ、この子に使えるように調節できます?」
「はい、すぐにできますよ」
「んじゃ、これらも払います」
アリサねえちゃんが支払った後、しばらくお待ちください。と言って、ネクタイを持って奥のほうに行った。奥にいたスタッフかな?ほかの人と話している。太さや長さを調整してくれるんだろう。
「ところで、他人の心配はしてるけど、あんたはシャツとジャケット持ってるの?」
「一応ありますよ」
「どんなの?」
どんなのって、小学校の制服なんだけど。と一応ポーチから出して、お客様用のカウチがあるそこに並べてみる。
ワイシャツでしょ、ちゃんと着るならサスペンダーの方がいいよな、も出して、上着を出す。あ、校章のアップリケが。まいいか。
「ほんと、お母様のポーチは何でも揃っているのね」
感嘆したようにつぶやく。
「びっくりするよね」
「物でというのは不謹慎かもしれないけれど、お母様はシュンスケを本当に愛しているのね」
改めて言われて気付く。
「そうですね。今頃は多少心配してくれているかもしれないですね」
ちょっとしんみりする。
するとまたがばっと抱きしめられる。
「もちろんよ!だから、シュンスケは頑張らなくちゃ。いつか、立派になった姿を見せるのよ。私たちはもうそんなことはできないんだから。私たちの分も、親孝行してね」
サマードレス姿の美しいアリサに抱きしめられて、母を思う寂しさを思い出した気持ちと、新たに得られた優しい愛情に涙がにじむ。
少し声が震えて
「はい」しか言えなかった。
しばらくして、兄さんたちの服や俺のお直ししてくれたネクタイなどを包んで持ってきた店員さんに言われた。
「坊ちゃん、将来、この店で働かない?」
・・・丁寧にお断りしました。
その夜、ドミニク卿が
「こんなパリッとしたこいつらを見るのは初めてだ。結構いいじゃないか」
なんて言ってて
「余計に緊張して粗相してしまいそうです」って言うウリサたちと辺境伯家の晩餐に臨んだ。
その後寝る前にウリサが「助かった」って言ってくれた。
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