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169.5 挿話14【黄昏〈おうごん〉に夢見る黒獅子】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 古希を迎えて、自分の治世は短かったが、もう自由になりたいとも思う。


 儂はシュトラ フォン トルネキ。

 誇りあるブラックライオンの一族が治める、赤道近くの広大なトルネキ王国の国王を務めている。ブラックライオン族は体が強く生命力も戦闘力も高い戦士の一族だ。

 我々の寿命は約五百歳、とは言え十歳年上のセイレンヌアイランドのタイナロン殿もまだ頑張っているらしいので、あの方が引退するまでもう少し王座を温め続けるつもりだ。


 トルネキの先祖はその昔、大陸の中央から領土を広げてきた遊牧の民と国境を守り通し、我が民族は一坪も減らすことなく、追いやったという。


 しかし、砂漠という自然の敵には打ち勝てず、人民が住む面積を長年にわたってじわじわと狭められていたのだ。

 砂漠を闊歩する砂を纏う魔物たちは、最低でもAランク。水や氷が弱点だとは分かって居るが、火や風の属性に偏り、あるいは物理的に強い力としてしか魔法を使えぬものがほとんどのブラックライオン一族。強いだけでは討伐できぬ敵を放置したまま、砂漠が広がっていた。

 それは、儂達には手の施しようもなく歯がゆい気持ちで見守るだけだった。


「これは、夢ではないですよね。父上」

 目の前には、スピリッツゴッドのお姿になった時のシュバイツ王子の瞳のような美しい青みがかった緑色の雄大な湖と、ぐるりと植えられた木々の風景が広がっていた。


 儂は、真っ白に輝く美しいハロルド様に乗せていただいている。

 彼は軍馬の産地でもあるトルネキで大切に育てた名馬などとは、比べ物にはならない美しいスタイルで、額からは聖剣も青ざめるほどに凛とした一本の角が天を向き、背からは白鳥というより天使のような大きな羽をひろげている。

 その羽は、胴からすこし離れているのか、ゼッケンや鞍、そして我々の足などがあっても、構わずに羽ばたいている。


 この、セントラル大陸にいくつかある伝説の聖獣たるベガコーンに騎乗させていただいているなど、歴代のトルネキ王でも儂だけじゃろう。とはいえ、前には末王子のプローモも同乗しているが。


 長寿だと思っていた兄王をはやり病で呆気なく亡くし、人生の予定になかった王座に着いてから慌てて帝王学を学び、長い寿命を独身で過ごすつもりだったのが、王妃を迎えて、長命種としても遅くできた子供達は皆可愛い。とくに末のプローモなどに接するときは、周りから

「孫じゃないんですから」

 と苦笑される始末だ。


 それでも、学園に入学するときには

「自立したいから」

 と、寮暮らしを許している。


 ハロルド様に乗って、生まれ変わった満月湖(ボールモンド)を一周した後、シュバイツ殿下だけ降りて、今度は再びプローモを乗せていただいたのだ。


「本当に夢を見ている気分です」

「ああ、夢のようだ・・・明日目覚めるのがこわい程に」

「ブラックライオン族の頂点たる父上にも怖いものがあるのですか?」

「そりゃあ、あるさ。力だけが強さじゃないのだ。それに対抗できるには、信頼のできる友人などの繋がりをたくさん作ることだ」

「はい。先ほども、水の女神さまに、シュバイツ殿下と友達と言われました」


『いわれてたねぇ』

 ハロルド様は上機嫌でふんふんと鼻歌も歌っていらっしゃる。


「ウンディーナ様にお会いできたのか?」

「ええ、アティママ神様にも。父上には見えませんでしたか?」

「今回は残念ながらな」


 右側の空中では、シュバイツ殿下がご自分の翅で飛んでいらっしゃる。

 ハロルド様と同じように薄っすら輝いていて、彼も特別な存在だとわかる。

 そんな方と、プローモが友達と認められたなんて、父としても誉じゃないか。


 儂も、人魚族のタイナロン殿とは友人としての付き合いがある。かつて、王族の立場を離れて、彼とパーティーを組んで冒険者をしていたこともあったのだ。


 今から二年近く前のことだったか、王太子のアントニオに、公務としてタイナロン殿を尋ねさせた。その往路で、なんと息子は大暴れするクラーケンに会い、危ないところを、冒険者になりたての、シュバイツ殿下に助けてもらったそうだ。

 ラオポルテの冒険者ギルドでもずっと掲示されたままだったクラーケンは、魔道フェリーよりも体も大きくて知恵も回ったという。それを、実年齢は見た目とは違うとは言われたが、やはりどう見ても六才児の体格で、白鯨のムー殿に乗ってとはいえ、簡単に討伐できるものではない。

 あの方はきっと、先ほどプローモが合えたという水や大地の女神をはじめ沢山の加護を持っているのだろう。


 アントニオは、シュバイツ殿下に何かお礼がしたいと常に悩んでいる。

 さらに衝撃的なことは、シュバイツ殿下がトルネキ王都に来られる途中に立ち寄った我が国のレオナルド公爵領では、大がかりな癒しを施してくれて、傷ついたり病に苦しんでいた民を治療してくださったというじゃないか。そのうえキッパリと礼金や褒章を断ったそうじゃ。


「父上、私は将来、恋人や妻を迎えることが出来ないかもしれません」

 それは王太子としてはどうなんだ・・・。

「レオナルド公爵領で女性に変身された、まるで女神のように美しかったシュバイツ殿下のお姿が忘れられなくて・・・」

 と、さらに悩ましい日々を送っておる。

 せめて、プローモともども友人として認めてもらえるよう、立派な王太子にならねばな。


 広大な湖の上空には、白鯨のムー様と白龍のミグマーリ様も浮かんでいる。

 高位精霊の姿が見られるのも奇跡だといわれているのだ。それがハロルド様を含めてお三方とも同時にいらっしゃるのだ。


 時間も立場も忘れたハロルド様との遊覧飛行が終わり、満月の砦ボールモンドフェスタン前の特設会場に降り立った。


 そこには、二千年前のかつて輝いていた満月の砦ボールモンドフェスタンの首脳会談にも臨んだことがあるという、元精霊王でもあるブランネージュ フォン ロードランダ王もいらっしゃった。

「息子がいろいろやってしまったようで申し訳ない」

 現存する国として何処よりも歴史があり、並みいる皇帝や王、族長の誰よりも一段上の存在であるロードランダ王は、低姿勢で困った顔をしてくる。


「何をおっしゃいますか、ロードランダ王。シュバイツ殿下には感謝しかありませぬ。この後、どう礼を言えばいいのか悩ましいところです」

「例などあの子には要りませんよ」

「しかし・・・」


 そう話す我々のそばで、ガスマニア帝国のアスランティック皇太子がにこやかに口を開く。

「僭越ながら、一つご提案よろしいでしょうか?」

「はい」

「我々も、シュバイツ殿下に帝都を危機から救っていただいた恩がありまして、あらゆる褒美の提案を断った彼に、なんとか名誉国民の称号を渡して土地と屋敷をお渡ししました。すると、こまめに戻ってきていただいているんですよ。まだ我が国の学園に在籍している学生でもありますけどね。

 だから、せめてトルネキ王国でもね」


 燃えるような赤い髪に、深い海のような青い瞳の少年ともいえる青年が爽やかにほほ笑む。


「そうですな、ご提案ありがとうございます」

 彼に丁寧に礼を言って、また美しい高額貨幣と同じ顔のロードランダ王を見る。

「どうでしょうか」

「そうですね。大きな屋敷はいらないと言うかもしれませんが、この国にもまた気軽に来れるなら喜ぶと思いますよ。とはいえ冒険者は自由ですけどね。ふふふっ」

「ロードランダ王そう言ってもらえるとありがたいです」

「ですが、あまりにもやりすぎな時はきっちり叱ってやってくださいよ」

「そんな、この広大な砂漠なんて、やりすぎぐらいでやっと緑化できるのですから」

「「「はははは」」」


 なごやかにみんなで笑う。


 湖の水面では、白鯨が優雅に泳いでいる。まだ清らかな水なので、遥か底に影が写り今も宙を浮いておられるようだ。


「ねえ、プローモ、君も泳がない?海パンはいてきたんだろ?」

「う、うん。だけど僕泳げない」

「いいからいいから」

 突然現れた扉の向こうにいったん隠れた二人は、正装から、海水浴をするような恰好で出ていた。

「んじゃこれを」

 と言って、シュバイツ殿下は革でできたような大きなドーナツのようなものを出してきた。

「これは?」

「浮き輪だよ。これなら泳げるから。両手を挙げて、そうそう」

 上から穴を通って浮きそうやって輪というものをプローモの脇の下あたりで抱えさせる。

「軽いでしょ?」

「うん」

「そうやって両手で抱えるんだよ。んじゃ行こうかな」

 すると、プローモの体が宙に浮き、水面に移動させられる。


 ボチャン


「わわわっ」

「大丈夫だから!ほら、胸から上は水面に出ているんだから」

「本当だ」

「それに、海水と違ってしょっぱくないし、今なら飲めるぐらいきれいだからね」

「そうだな。ひんやりして気持ちいいな」


 来賓の皆は暑い炎天下に居るというのにうらやましい光景である。


「いいなあ。

 私もぉそこ行っていいー?」

 ガスマニアの皇太子が湖の二人に向かって叫んでる。

「いいけど、大丈夫ですかー?」

「私も履いてきたのさー。

 ダンテ、ここに服を置くから頼んだぞ」

 そそくさと脱いで傍らの侍従に頼んでいる。ダンテと言われたこの侍従は、妹がシュバイツ殿下の級友だそうだ。

「え?皇太子殿下、ちょっと、いつの間に・・・ああ、子供たちと同じようにはしゃいじゃって」


 アスランティックも湖に駆け出して飛び込んだ。

 バシャーン


「わわわ!殿下、いきなりは心臓に悪いんですよ!」

「大丈夫だ。うわぁ、ガスマニアの海と違って、浮きにくいな」

「淡水ですからね」

「淡水は浮きにくいのか?」

「というより、塩水のほうが重いんですよ。んじゃ、潜っちゃおうかな」

「よし、私も」


 浮き輪に頼らない二人はそのままドブンと潜っていく。


 ・・・うらやましいことだ。次に来るときはパラソルなども持って、王妃やほかの子供たちや、家来たちを家族ごと連れてきて泳ぐのもいいだろう。

 今回はシュバイツ殿下の空間魔法で簡単に来たが。本来ここに来るには、かなり遠い。しかしそのうち道もつながるだろう。


「僕も、いつか泳げるようにならねば」

 『今は私がお手伝いしてあげるわ』

 ミグマーリ殿が水面でプローモに近づいている。

 彼女はムー殿と同じような質量の龍だ。プローモなど彼女の頭より小さいのだ。

「お願いします!ミグマーリさん」

 『じゃあ』


 そういって一度水中にもぐった白龍が、プローモを首のあたりに乗せて浮かんだと思ったら、一気に沈む。浮き輪だけを水面に残して。


「だ、大丈夫なのか」

 “だいじょぶ、りゅうが、みずとかぜのまほうをぷろーもにかけた”

 “だから、おみずのなかで、いきができるよ”


 顔の前には、翅の生えた小鳥のサイズの子供が何人か飛んでいる。

 もしやこの者たちは・・・


「君たちは精霊なのか」

 “そう”

 “あたしたちは、おうじのともだち”

 “ぷろーもも、さいきんともだちになったぜ”

「それは素晴らしいな」

 “おうじのともだちは、あたしたちも、ともだちになるのがおおいわ”

「儂もシュバイツ殿下と友達になればこれからも君たちに会えるのか」

 “しゅとらが、おうじのともだち?”

 “むずかしくない?”

 “むずかしいよ”

「そうか・・・」

 少しがっかりする。


「こら、きみたち、姿を見せておいてそれはないだろう」

 ロードランダ王が苦笑している。

 “きゃーおうさまごめーん”

 “でもさ、しゅとらとおうじがともだちってさ”

「そうですね・・・」

 シュバイツ殿下の見た目は末の息子より幼い。


「うーむたしかに・・・。

 では、シュトラ フォン トルネキ王、私と友達になりましょう」

 美しくも高貴なお顔でにこやかに右手を出してくる。


 思わず手を取って跪こうとすると

「そうじゃなくて、対等な握手だよ」

 その言葉に、緊張しながら、自分の手袋を外し彼の白い手を握る。

「うん、そうだよ。シュトラ。息子ともどもよろしくね」

「は、こちらこそ今後も仲良くしてください」


 “おうさまと、ともだちなら、ともだち!

 あたしは、こえをとどけるのがとくい”

 黄色い精霊が楽しそうに飛び回る。


 “これから、すなのまものはあたしがみずでやっつける”

 青い精霊が小さいのに頼もしいセリフを言ってくれる。


 “おれはもともと、ひまほうがとくいなしゅとらのちかくにいたんだぜ”

 赤い少年の精霊が儂の肩に座る。

「そうか、皆よろしくな」


 “きゃはは!ともだちふえた!”

 “わーい”


 今日一日で数えきれない奇跡に出会った。


 陽が傾いてきた、空がだんだんと金色になる。

 ふと見上げると、黄昏れ始めた空と同じような色の、金色が少し入った白金に輝く髪のロードランダ王がにこやかに儂と皆を見渡している。

「さすが、シュバイツ殿下のお父上ですね」

 ガスマニアの辺境伯の甥でもある皇太子の侍従のダンテが言う。

「何が?さすがなの?」

 元精霊王がきょとんとする。

「結構似ていますよ」

 その言葉に男性に表現するのはどうかとは思うが、花がほころんだように笑う。

「そう、駿介って僕に似てるんだ」

「はい!」

「そう言ってくれるのは結構うれしいな」

「そ、そうですか?」

「うん。ダンテも仲良くしてね」

 そうして、握手をしていた。


 ああ、この国はこれから輝きを取り戻すだろう。かつて目の前の砦がこの美しい王を迎えた時代のように。

 こみあげてくる喜びにうっかり涙が出そうになるのをかみ殺した。


 儂は、ブラックライオン族の王だ。人前では嬉しくても涙を見せたくない。




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