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167【満月湖の再生 2】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「街道も緑化か・・・」

 サンドワームの美しい魔石を、テーブルの真ん中にこんもりおいて、その周りで晩御飯。

 〈本の虫亭〉の滞在している部屋で、夏休み中のプローモ殿下とローダサムメンバーみんなで。

 本来ならレストランエリアですればいいんだけど、ココのレストランは読書用なので会話厳禁だから。亭主の断りをいれて、宿泊以外の客をあげている。

 まあ、この国の王族二人もいてるから嫌とは言えないだろうけどね。


「はい、砂漠はオドやマナがないのに魔物が出てくるのはなぜなんでしょうね」


「無いからこそ、わずかなマナを求めて出てくるとも聞いたことがあるな」

 まだランクが低いころに、Aランクのスナギツネを討伐した経験のあるアヌビリが言う。

「ああ、だから、普通のやつより比較的魔力のある冒険者が通った時のほうが魔物が出るらしい。今回は膨大なシュバイツ殿下の魔力を察知してたくさん出てきたのではないか」

 魔物はまさかの俺のせい?


 今日のメニューは俺が持ち込んだ凶悪肉食地竜のサイコロステーキとフリルフリルマッシュルームと青菜のお浸し、ゴダが釣ったのを新鮮なまま保存しておいた、桜鯛に似た魚のマリネサラダ。俺とアヌビリはご飯。ほかの人はパン食だ。


 砂漠とサバンナの間にある地域だからね。材料を持ち込んだほうが良いものが食べられ・・・・違うよ、料理したのはアナザーワールドで俺とスフィンクスだ。

 だって、水の少ない地域の料理って・・・ぶるぶる。一応手を洗ったり、水が湧くような魔道具もあるけどね。殿下たちもいるしさ、慎重にするよね。


 それに、やっぱり頭の中とか砂だらけだったから、大きなお風呂に入ってきたんだよ。ここにも風呂はあるけど、ローナ王女殿下が入りたがってたからさ。


 大浴場で、日本のシャンプー類で香りよくさっぱりされたローナ殿下が、自分でお持ちのマジックポーチから出したラフなドレスを着て、優雅にマリネを食されている。


「おいしい!それに盛り付けもきれいだったわ。このマリネってシュバイツ殿下が作ったの?」

「作ったというより単に切って、(オリーブ)オイルとワインビネガーと塩コショウで味付けしたドレッシングをかけただけだよ」

「だけっていうけど、それでこんな美味しいものができるって知ってることがすごい」

 冒険者から貴族の坊ちゃんスタイルになった、プローモ殿下からも〈すごい〉頂きました。

「そうかな?まあ、食べるのが好きだと、自分から作り出すって聞かない?

 スフィンクスもそのタイプらしいけど」


 この世界の学生には「家庭科」っていう教科を学ぶことはないから、料理は親から学ぶか自分で研究するか、料理人の下について教わるしかない。

 生活に必要な最低限なら、冒険者になったときに冒険者ギルドで学べるんだけどね。洗濯とか、繕い物とか、あとは野営の時のサバイバルな料理とかね。


 話は戻って満月湖の話を。


「だから、街道整備が進むまでは、ほんの少しミルクブールバード河に水を流すから、河沿いに魔物除けの何かを持ちながら行き来すればいいとは思うんだけど。そうすると蛇行するから遠くなるでしょ」

「ああ、だが、魔物へ遭遇する率が減るだけで行き来できるだろう」

「そうですよね」


 晩御飯が終わって、宿の一階から二人の殿下とレオラを王宮に扉をつなげて送り出す。

「では、また明日」

「よろしくお願いします」

「シュバイツ殿下おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 サファイア色の魔石を数個は手元に置いて残りをレオラに託す。直接王宮が買い取ってくれるそうだ。応急では魔石で動かしている魔道具が山ほどあるらしくて、マージンがないだけでも買い取りが助かるそうだ。

 そりゃね、あんなに大きな建物だもん、灯かり用だけでどれぐらいいるんだ?

 たとえば、ベルサイユ宮殿のシャンデリアを、今は電線がつながってるみたいだけど、電池で制御しているようなものだ。


 太陽電池というか、自然からの畜魔石装置とかポイコローザにあったし、俺も預かっているど、あれはあふれるぐらいのマナがないと溜まらないらしい。地竜たちを育ててるみたいにね。



 次の日俺は、カルピン木材店にお邪魔する。今日はアヌビリと。


「おはよう殿下」

「おはようございます」

「おや、久しぶりだねその姿」

 今は寝てる間に変身が解けたスピリッツゴッド状態だ。

「ええ、あっちに戻れば黒くしますよ」

「わかる、あたしも砂漠ではサングラスが必要だしな」

 そのグラサンはいま頭の上に乗っけてらっしゃる。


 カルピンさんは金髪碧眼の純粋なエルフだ。昔は貴族名も持ってたらしいが、平民の家も作りたいからと、貴族籍を外したらしい。素晴らしい人だね。


 俺も、こっちに来て自分の姿が変化してから実感した。明るい色の目は日差しがまぶしすぎる。

 日本に来た欧米人が街中でグラサンをしているのは単にかっこつけだけじゃなかったんだよ。まぶしかったんだよね。

 その点、黒っぽい瞳は日差しに強い。だから、俺も冒険活動中や砂漠の国では、黒目黒髪の日本人風にしている。母さんが用意してくれていたグラサンも悪くないけどさ、見た目六才児がすると、おもちゃみたいになるんだよ。

 本当の六才児ならいいだろうけど、中身が二十歳なので、鏡を見たときに「いててて」ってなっちまったのだ。


 で、カルピンさんに俺が高校二の夏に背伸びして買ったグラサンを貸し出している。

 金髪の女性エルフのグラサンって、どうしてあんなにかっこいいの?

 持ち主が高校生の時よりお似合いなんですよ。


「んじゃ行きましょうか」

 工房の適当な扉をつないで、王族に借りっぱなしになっているテントに移動。

 そして俺は黒目黒髪に変身を。調子に乗って外しているうちに、教授に開けてもらったピアス穴が塞がっていた。それはもう穴の跡が分からないぐらい。多分どこかで治療魔法使った時に自分の耳の穴も無くなってしまったんだろう。

 だから昼間に自力で変身しておかなくちゃいけないんだけど、自分がまだ無意識に日本人だと思ってるからか、意識がなくなるほど寝るまでは、一度変身したら維持できている。


 これでよし。眩しいけど、緑の目のままより眩しくはないよ。スマホのレンズを自分にして確認。


 今日は満月湖の湖岸工事のための、工事事務所を岸に建ててもらう。


 場所は湖の北側。岸から二十メートル離れて南向きに作る。この間に道ができるかもしれないからね。


 例のごとく木のブロックで作る家なんだ。組み立てが楽しいからウキウキしている。

「基礎はどうするんですか?」

 一緒についてきたドワンゴさんに聞く。

 今日は二兄弟はラーズベルトで仕上げなくちゃいけないものがあるそうで、同行していない。代わりにほかのスタッフのエルフが来てくれている。ポリゴンの家を作ったときに来ていただいた人だ。

「杭基礎でいいだろう。砂地だからな」


 建てるものはポリゴンの家とほぼ同じ、8SLLDDKK+馬小屋付き。

 工事用事務所というよりしっかりした拠点になりそうだな。


 見覚えのある図面を広げて、


「ここと、ここと、ここんとこと・・・に縦に穴をあけるんだ」

 カルピンさんがグラサン姿で図面にしるしをしていく。四隅とそれ以外の場所に均等に何個も並んでいる。


「深さは?」

「殿下その、湖の岸を見ただろう」

 ドワンゴさんがこれから鉄筋コンクリートで固めていく足元の壁を指さす。

 今は向こう岸が見えないぐらい遠いから無理だけどね。

「はい」

 地層がきれいに横縞を描いていた。

「あの上から20メートルぐらいのところに、色の変わった地層があるだろう」

「あそこから下が黒っぽかったですね」

 白色君の視界も借りて再確認。うん、なるほど。

「あれが岩盤じゃ。だからあの層に一メートルぐらい喰い込むように掘っていくんじゃ」

「わかりました」

 近くに見やすい断層があるからわかりやすいです!勉強になるう!


「目印の釘を打ち込んだよ」

 エルフの兄ちゃんが戻ってきた。

 あれだ、ポリゴンで土地を買ったときに四隅に打ち込んでいたあれに似ている。


 撃ち込まれた釘と釘の間にレーザーのような線が見える。


「んじゃあ、まずは水まきですね」

「そうじゃな、このままじゃ掘っても崩れて埋まるじゃろ」


 今日はそんなに広くないから、線で囲まれた四角よりすこし広い場所に一気にサードボックスからじょろじょろと水をかける。


「うおっ。どこから出てきたんだこの水」

「アイテムボックスから」

「今日は雲を出さねえのか?」

「こんな小さな雲は逆に難しいです」

「そりゃそうか」


 水をかけて濡れた砂地がすこし沈下しているというか沈んで固まった。

 雨上がりの砂場みたいだね。


 でも、岩盤までこの湿りは必要なので、魔法で無理やり水分を底にもっていく。

 それは緑色ちゃんと青色ちゃんの力も借りて。


 その間に、専門の大人たちが杭基礎のための縦穴を開ける場所にまた釘を打ちこむ。

 今度の釘は、線じゃなくてそれを中心に丸い円状のレーザー光線が描かれている。

 あの直径で掘ればいいんだね。


「手順としては、掘りながら、このケーシングを突っ込む。こいつは穴の深さに合わせた長さが変化できる機能が付与されておる」

 いくつかある赤く色を付けられた魔法の袋の中には、ちょうど二十メートルぐらいの長さで、今地面につけられたものと同じような直系の筒が一本ずつ入ってる。

 長さが自由に変わるっていうところが魔法の世界ならではだよな。俺の服みたい?

「そして、こっちの青い色の袋にはケーシングの内側に仕込む鉄筋が入っているから、こいつをケーシングの中に入れる」

 うんうん。


「そのうえで、この緑色の袋に詰め込まれているコンクリートを流し込む。この時に鉄筋の隙間に空気などが挟まらないように気を付けるんじゃ」

 なるほど?


「そして、コンクリートがドロドロしているうちに、外側のケーシングだけをもとの袋に収納する」

「ケーシングだけを指定すればコンクリートはくっついてこないからな」


 すげー!


「あとは乾くのを静かに待てば鉄筋コンクリートの杭基礎が完成じゃ」


 心の中で〈スゲー〉が鳴り響いております。

 地球じゃ杭基礎なんて、重機の親分みたいな車が登場していたんだよ。家の近所の川岸で建ててた一戸建ての基礎工事とかさ。

 それがこんな袋で!なんてすばらしいんだ。


 ほかの異世界はどうかわかんないけど、ゼポロ神のこの世界は進んでるというか、皆さん魔法を上手に使うよね。


「俺が一本やってみていいですか?」

「いいぜ、失敗してもリカバリーしてやるから、やってみろ」

 ドワンゴさんの一声に安心する。


「では」


 聞いてた手順通りに、南側の橋のところの釘の周りに穴をあけながら、袋をさかさまに抱えてケーシングを突っ込んでいく。

 ちなみに、穴の中の砂はまた別の袋で吸い込んでいくのだ。


 とはいえ砂地だからね、重力をかけるだけでケーシングは埋まっていく。しばらくしたら、

 “がんばんにたっしたわ”

 緑色ちゃんからの合図。

 “あと一メートルくいこみたい!”

 “りょうかい” 

 岩盤の奥はがりがりする手ごたえが伝わってくる。

 “いちめーとるちてんにきた“

 “よし”


 空いた穴から、数人の緑色ちゃんが、砂が詰まった袋をもって出てきてくれた。

 いい子たちだ。


「袋が浮いとる」

「ばか、精霊ちゃんがぶら下げてるわ」

「さすがシュバイツ殿下じゃ」


「穴の様子はどうでしょう」

「どれどれ」


 カルピンさんが小さなおもりがついた細いチェーンを穴の中に垂らしていく。

 これでチェックするんだって。魔法の便利グッズだね。


「うん、ちゃんと岩盤に突き刺さってるようだな。じゃあ鉄筋を入れよう」


 それはそうと、

「アヌビリは?」

 “あっちで、スナギツネをとうばつしてるぜ”

 赤色君が少し離れたところを指さしている。


「え?大丈夫なの?」

 “あたしがてつだって、ばしゃーってしたからもうおわる”

「そう、ありがとう」

 “とうぜんよ、あぬびりも、ともだちだから”

 そっか。


 んじゃ俺は鉄筋に取り掛かろう。

 ケーシングを突っ込んだ穴に、縦筋とそれをぐるぐるしている横筋を組まれた鉄筋を袋から出すようにまっすぐ突っ込む。

 さっきもそうだけど、この時に低身長だから真上からが難しい俺は、パタパタと飛びながらやるとうまくいく。


 パシャーン


 鉄筋の先っぽが底に到達した音が聞こえる。

 この鉄筋も穴の深さに合わせて長さが変わります。


 つぎにコンクリートだな。袋の口を開けて傾けるとどろどろと流れ出す。

「手を離すなよ!落とすと取り出せなくなるぜ」

「わかりました」


 途中で、風魔法と土魔法を発動して気泡を追い出す。


「わわ、あふれそう」

「ケーシングを抜いたら減るから」

「なるほど」

「よし、いいだろう。じゃあ今度はケーシングを仕舞おう」

「わかりました」

 魔法の袋の口をケーシングに近づけて、これだけをしまうイメージを。


 シュッ

 消えた。


 すると溢れるほどにあったコンクリートの嵩が減った。

「コンクリを追加しろ」

「わかりました」


 今俺は土木のプロに教わってる。充実している。


「よーし。頑張った。杭一本できた。あとは乾燥を待つんじゃ」

「はい。ではやり方がわかりましたので残りを一気に魔法でやっていいですか?」

「うん?いいけど」


 そして俺は携帯からマルチタスクのアプリを起動。


 十五分ほどですべての杭基礎を打ち込みが

「全部できました!」


「なんじゃそれはー」

「間違えました?」

「間違えておらんが・・・」

「相変わらずずるい魔力量だよね」

 カルピンさんが苦笑い。

「ああ」

 それにドワンゴさんも疲れたように笑う。


 ・・・やりすぎ?

「まあまあ、私たちも上をやって言いましょう」

「そうじゃな」


 それでもわずか一週間後に、満月湖のそばに一件目の家が建った。


「んじゃ、この扉をつなげて固定しましょうかね」


「たのむ」


 納戸の扉を、カルピン木材店の使っていない納戸の扉につなげて、ユグドラシルの蔓を挟んで固定する。

「ユグドラシル、ちょっと遠いけど大丈夫かな?」

 扉を開けて、ぶどうの蔓に声かけてみる。

 『あら、そこにウンディーナ様の魔法陣作ったのね。すごく大きいけどきらきらして綺麗』

 すると精霊ちゃんサイズのユグドラシルが俺の前に浮かんでくる。翅がないけど。

 ・・・かわいいじゃん!

「でしょ」

 『それに、それを作るのにかなり王子の魔力が込められているわね。これなら大丈夫よ』

「よかった。じゃあよろしくね」

 『こっちにもプランターを置いてね』

「そうだ!そうする。サバンナとかの葡萄もおいしいんだよね」

 『たぶん小粒で甘くなると思うわ』

「わー楽しみ。んじゃプランターを」


 ガチャリ


 今度はアナザーワールドを開ける。


「おーい、スフィンクス」

 『はい、プランターですね。どうぞ』

「これこれ」よくお分かりで。

 『では暫くは私もこちらに通いましょうかね』

「たのめる?あの人たちの世話」


 湖岸を眺めてミーティングをしているカルピン木材店のスタッフを指さす。


 『お任せください』

「たのんだよ!」



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