166【満月湖の再生 1】
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満月の砦の再建は専門家に任せよう。
ただ、「設計図が出来たら見せてください」と約束した。
売れっ子建築家の設計なんて興味あるしね。好きな分野の勉強って楽しいし、学ぶチャンスは逃せない。
再建の準備が整ったら、黄色ちゃんに連絡を頼んでゲートを取り付ける。
そして俺は、ドワーフ三兄弟と満月湖に来ている。
今にも湧いてこようとしているのか、砂地が何か所か動き始めている。気持ち悪い。
「まずは、砂から発生するAクラスの魔物たちを抑えるために、水を撒きます」
そして、俺にとって一番効率の良い雨雲を作り出して降らす。これなら、雨が降り出したら放置すればいいし。
だって、この湖って直径百キロメートル近くあるんだもん。面積は約七千八百平方キロメートル。でかい。
「なんちゅうー水のまき方じゃ」
ドワンゴさんがつぶやく。
ひとしきり雨が降って、砂がちょっとしっとりした。すると表面の動きも落ち着いた。
「そして、この棒で線を引きます~」
と言いながら、古書の町の文房具屋さんで買った大きいけど安物の魔法の杖で砂の上に落書き!いや、描くべき内容は決めている。
同じ棒を皆にも渡している。
「えっほえっほ」
“こっちこっちー”
「おいっす、おうっす」
赤道直下の砂漠だけど、みんな空調を付与された作業服を着ているから、身軽なもんだ。
それに見かけによらずよい動き・・・って思ってたら。
「身体強化の魔法を発動してなきゃ無理」
「明日明後日あたりは反動で動けんじゃろ」
まあ、アラウンドワンハンドレッドっていうの?百歳前後さんたちですからね。
ドワーフさんとしてはまだ若者らしいですけど・・・見た目からはわかんない。みんなおっさんだ。
「俺たちは工房に籠りがちじゃからな」
「たまには体を動かさないと素材の採取にもいけないしな」
「行くよー!」
ほかにも、冒険者でもあるプローモ殿下とローナ王女殿下を含むローダサムのメンバーも走り回っている。
“こっちこっちー”
“ここで”みぎにまがるぅー”
引く線を決めてあるけど、広すぎるので、精霊ちゃんたちがナビを。
そして、ローブを着たカルピンさんがハロルドに乗って、湖の真上の上空で羊皮紙に描いた図案を広げて緑色ちゃん経由で下の精霊ちゃんを制御している。
すごいよね。
休憩を挟んで、一日で線を引き終える。あれ?三日ぐらいかかると思ってたんですけど。
何度も言うけどさ、直径百キロメートルなんだよ。それをたった六人で線を引けちゃうんだよ。魔法とか冒険者とか、ドワーフとか・・・すごいよね。日本人の感覚じゃ重機を使っても難しいんじゃないの?
ま、延べにして一番長い線を引いたのは俺様だけど!
そのまま、プローモ殿下とローダサムは湖岸で例のテントを使ってキャンプイン。
追加のテントは王宮から持ってきていただいている。
グランピング用のような豪華なものだけどね。
せっかく引いた線が魔物などに荒らされないように交代で見張る。
俺は時々、雨じゃなくて湿度を上げる感じで、砂が乾いて動くのを防ぐ・・・って青色ちゃんにお願いてるんだけどね。
次の日、カルピンのメンバーを迎えにリーニング領に行く。ラーズベルトの冒険者ギルドにも寄ってね。もちろん昨日頑張ったドワーフたちの筋肉痛を和らげる魔法もかけたから、みんな元気いっぱい。
「おう、持ってきたぜ」
「ギルドや隣近所の在庫もみんな買ってきた」
「ありがとうございます」
ドワーフの連中が持ってきた魔法の袋を預かる。その中には一メートル四方の魔法の箱が幾つも入っていて、さらにその中には一メートル四方、厚さ三センチのステンレスの板がかなりの枚数入っている。
外箱に触れた感じ、これなら足りるだろう。
これは、鍛冶職人の材料らしい。生活用品とか建材とかのもとになる材料だ。これを叩いて伸ばしてプレスしたりするのかな。こういうものがあるのも、ドワーフ兄弟に教わったんだよね。相談大事。
昨日みんなで描いた線に沿って鉄の板を縦に埋めるように並べるのだ。これが結構重いので、今日は俺がハロルドに乗って、昨日カルピンさんが持ってた図案を見ながら、マルチタスクの魔法で一気に。みんなは岸の外で見守っている。
「うぉー、今日は銀色の雨じゃぁ」
「すげー」
「キラキラです!」
「本当にきれいだよね」
ステンレスって。
カシャンカシャン、ビィーン
くっつけて並べるからステンレス板同士がぶつかるとすごい音がしている。
我ながら雑?もうすこしスマートにやりたいところだけどって思って隣を見ると、小さな体で三分の一を受け持ってくれているクインビーが静かにマルチタスクの魔法を発動している。
女王蜂の師匠、俺のどこが違うのでしょうか・・・。
「ふうっ終わったかな」
『王子、雑念を払って仕事をすると旨く行きますわよ』
俺が雑なのは雑念のせいですか。
「なるほど。精進するよ!」
『すごーい、きれい!』
ハロルドの感想も素直でいいぜ。
「だな、でも間違えてないかみてもらおう」
『うん』
ハロルドが少し旋回して、カルピンさんのもとへ。
「おう、おつかれ、うまくいったか?」
「まあ大丈夫だと思いますけど、一緒に確認してもらっていいですか?」
「ああ、見たいよ」
『カルピンも乗って!』
「ハロルド様に何度も乗れるなんて嬉しいよ」
「ふふふ」
『飛ぶよ』
もう一度、満月湖の上空へ。
「わあ、完璧!」
「本当ですか?よかった!」
「んじゃ、溶接していこうか」
「はい!これも火と土とマルチタスクの魔法で一気に行きますよ」
“みんな、もうすこしさがって~”
“あちちだよー”
『私はこちらからやっていきますわね』
クインビー師匠が南の方に飛んでいく。
「よし、今度こそ、雑念を払って・・・」
「「うぉ」」
「「「すげ」」」
岸にいる人たちの声も黄色ちゃんが拾う。めっちゃ離れてるからね。出しっぱなしにしているテントも、上空からじゃ点にしか見えていない。
銀色の線が鮮やかな赤に変わっていく。
そしての境目がくっ付いていく。
“おうじ、こっちのほうに、すこしムラがあるぜ”
「どこ?」
“こっち!”
赤色君に誘導されて、ハロルドが動く。
「それだね」
追加の火魔法を。
“よし!つながったんじゃない?”
緑色ちゃんの合図
“こっちもおっけー”
たくさんの赤色君と緑色ちゃんのオッケーが来たみたい。それを代表して、俺の顔の周りを飛んでる精霊ちゃんが教えてくれるんだけどね。
「よし、殿下、冷やそう」
俺の後ろに座ってる女性のエルフから合図。
「わかりました。クインビーは避難を!」
『わかりましたわ』
プイーン
俺はまた黒っぽい雨雲を出す。
そして一気にざあっと雨を降らす。
ジューッ
ブワーっ
下からまた水蒸気が激しく上がる。
しばらくして、雨雲が引くと、銀色の線が陽に反射してキラキラしている。
「おおー出来たー」
「きれいにできたじゃねぇか」
そこには、水の女神様であるウンディーナ神を表すステンレス色に輝くの魔方陣が完成した。
「もう少し埋め込みたいな。よいしょ」
さらに重力を捜査してもう少し砂地に埋める。
「これで、もう砂の魔物は出現しないんじゃない?」
「そうだね」
『ほほほ、なかなかうまいことを考えたのう』
背後に聞き覚えのある声が!
「水の女神様!」
「う、ウンディーナ様?」
『よいよい、エルフよ、可愛い甥っ子を手伝ってくれてありがとうな』
「は」
今日のおばさんは教会に立ってる大きなサイズ、だけど透けてます。
岸の人には見えてるかな。
『シュンちゃん、この後どうするんじゃ?』
あれ?それって母さんが俺を呼ぶ呼び方。
「線の隙間の砂を熱と風で強いガラスっぽい石にして、あとは壁もぐるっと固めてから水を入れていく予定」
カルピンさんとドワーフで、深さ百五十メートルの壁を鉄筋コンクリートを応用した湖岸工事をしておいてもらう間に、俺はステンレス線に囲まれた部分のガラス質化の加工をしていく。
『ほうか、それが完成したら、青い精霊に合図を送りや』
「はい?」
『水を埋めるのは妾がしてやろう』
「ほんと?」
『こんなに、シュンちゃんの魔力に満ちていたらできるえ」
「やったー!」
思わず両手を挙げて万歳を!
さすがにこの広ーい湖の水を海から持ってくるのは何往復必要なんだよって思ってたからな。
「殿下、かわいい」
背後でつぶやかれた。
うっ、はしゃいじゃった。
『しかし、河を満たすほどの水はまだ先かえ?』
「はい、はじめはちょろちょろとは流すつもりですけど、河岸の土手がちゃんとできているか確認してからです」
『なるほどの。だけどとりあえずここいらの緑化はできるようになるじゃろ』
「はい!」
『次に来るときは、姉さんと来るからの』
大地の女神のアティママ様と二人で来てもらったら、もっと緑化が進むだろう。
「よろしくお願いします」
『ほほほ、ほんに甥っ子っとは可愛らしいのぉ』
朗らかな笑い声を残して、水の女神は空中を溶けるように消えていった。
「水持ってきてくれるって。よかったですカルピンさん」
ハロルドの背中で後ろを振り返ってみる。
「・・・」
「カルピンさん?」
「いや、ちょっと、女神さまにお会いできた感動を噛みしめてしまったわ」
そりゃそうか、俺はお会いしすぎて感覚が麻痺してるけどさ。
「そう?あの人はいつもはシュバイツ湖にいるんだよ」
「ほんとうか。さすが殿下だな」
「じゃあ、今日の作業はこれぐらいで、明日から女神さまと話したみたいに、岸の工事をお願いしますね!」
「ああ、そっちは魔法でやるからな。高さ百五十メートル、長さ三百キロ以上ってのは初めてだがな」
「でしょうね」
異世界ものに出てくる外壁みたいなものだよな。俺は専門家に頼む。
バサリバサリ
ハロルドがテントのそばに降り立つ。
「お疲れ様です。シュバイツ殿下」
冒険者姿のプローモ殿下が出迎えてくれる。
ハロルドからカルピンさんが先に降りている。
『プローモも見に行かない?すっごくきれいだよ』
ハロルドが誘う。
「そうだな、未来の領主様が見るといいぜ」
「見せてくれるんですか?」
「えーいいなー私も見たい」
ローナ殿下にも可愛くおねだりされた。
「もちろんいいですよ、ほら」
手を出して、まず殿下を後ろに乗せる。
次は俺が下りて、前にプローモ殿下が乗る。
彼が鬣に手を置き、王女殿下が手綱を持つ。
『んじゃいくよ』
「おねがいします!」
ばさりばさり
ぺがコーンが飛び立つ。
トルネキ王国の二人の殿下を載せて。
これは、撮るよね。
パシャパシャ。
俺は自分の翅を出して横を飛ぶ。
二人と魔法陣が入るようにもう一枚!
あ、二人とも寒くない?って言おうとしたけど、空調の魔法付与しているんだったよね。軽鎧ってさ。
「ふわああ、これが新しい領地のシンボル?」
「私が領主になりたかったわ~」
「え?姉上?」
「うそうそ、私はお嫁に行く国が決まってるからね。そのことに不満はないわ」
「そうでしたね」
「とはいえ、こんな景色は、ハロルド様に乗らないと拝めないわね」
「ですよね」
「さっき、来てくれたんですけど、水の女神様が面倒見てくれるんだって。だから湖が完成したらもう枯れることはないと思うよ」
「なんと」
「まあ素晴らしいわね」
「はい」
「だから、きっとすぐに領民が増えると思う」
「女神の加護のある領地だものね」
「うん、うん」
将来の領主はいい笑顔で頷いている。
「プローモ頑張りなさい」
「はい!頑張って、皆が幸せな領地を作りたいです」
仲良しの姉と弟の会話にほっこりする。一人っ子だからちょっぴり羨ましいよね。
ハロルドに乗る二人の画像を引き延ばして額装にしてあげよう。
きっと王様も喜ぶだろう。
なんて思っていたら、
“おうじ、みなみのさばくに、まもの”
黄色ちゃんからの警告。
『おうじ?』
「ハロルドは二人をテント基地に!」
『りょうかい』
「俺はあっちを見てくる」
『後で追いつくね』
「たのんだよ」
黄色ちゃんの誘導で魔物の発生地点に行く。
“さんどわーむよ”
ワームって、そんなサイズじゃないぜ。
そこには直径が十メートルはあるでかいヤツメウナギのような奴が、天に向かって生えていた。
しかも何匹も。
俺を認識したのか、一斉にこっちを向く。鋭い歯がずらりと並んだ口が!そして口の周りには、目と思われる赤い点が並んでいる。こっちもずらりと縁取りのように並んでいる。
あれだよ、どっかの池の鯉で、えさを求めて人影に一斉に口をあけて集まっているの。
鯉でも気持ち悪いのに、ヤツメウナギのような、歯がずらりと並んだ口だよ。
気持ち悪いに決まってるでしょう!
俺は、まだまだある手持ちの水で、サンドワームたちの上空に積乱雲を作る。
黒く分厚く。
ピカッ
ドシャーン
ザー
あいつ等って口を閉じれないのか?いやな雨がお口に入っていくと、喉のあたりから水がしみだして、体が崩れていく。
いっちょあがり!あ、魔石。
ぴかぴか光る魔石を、魔法で手元に引き寄せる。
おお、サファイヤみたい。あいつら見た目はおぞましかったけど、出てきた魔石はきれいじゃん。濃い青色で。魔石の大きさは六才児の拳骨サイズ。それが三十六個あった。多いぜ。
そりゃ、人は住みつけないよな。
砂漠は魔物が出るんだ。
河だけじゃなくて、街道にするところも緑化をしないとな。
水道代わりの小川を整備してそれに沿って道を作るのがいいのかもしれないな。
いっそ、水道管を作って埋めるのもありだよね。
ガスマニアはそうやって生活用水を張り巡らせているもんな。
まあ、そういうことを考えるのはプローモ殿下の仕事だろうけど、聞かれたら相談に乗るよ。
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