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162【二千夜一夜物語・上巻】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「黄色ちゃん、ブラズィード教授って帝都の学園にいるのかな?」

 夏休みなんだけど・・・


 “うーんと、いまはていとじゃないところ”

「居場所分かる?」

 “ほんのむしていにいる”

「なんと!」


「では今夜は〈本の虫亭〉に行きましょうか。部屋空いてるかな」

「空いてるだろう、あの宿は一見さんお断りだからな」

「そうなんだ、本当は敷居の高い宿なんだな」

「そういうわけじゃなくて亭主が変なだけだ」

「いやいや、高価な本を読ませたり、古い建物を大事にしたいなら、信用できる客だけを受け入れるのは大事だと思うよ」


 そう言いながら、もう一度ハロルドに乗って、ミグマーリと三日月湖に行く。

「ミグマーリありがとう。あの湖もそのうち復活させるな」

 『まあ、じゃあ、あっちとここを行き来できるわ』

「その時に、少し雨を降らすとかできるかな」

 『うーん、時々ムーに来てもらう必要はあるわね』

「ムーさんが雨を降らすの?」

 『そう。

 ムーは季節風でもあるから、普段はウォーデン様の所に居るけど、ローダ様とウンディーナ様に頼まれて時々水を持ってきてたわね』

「母さん達が?

 じゃあ、ある程度整えたら俺がずっと動く必要はないのか」

 『もちろんよ。今はここら一体のマナが無さすぎるうえに海からの距離がかなりあるから、来れないの』

 まえにムーさんもそう言ってた気がするな。


 『でも、王子の魔力が満ちて緑化がすすめば、訪れやすくなるはずよ』

「そうなんだ。がんばるよ」

 『ゆっくりやればいいわ』

「そうだな。じゃあ、また来るね」

 『ええ、前に言ってた、わたしもハロルドみたいにあなたのスキルになりたいって話もあるわ』

「そうだった。でもそれまでは三日月湖を守ってほしい」

 『王子のご意志とあらば』

「たのむね」

 ミグマーリのサラサラした鬣を撫でる。ハロルドはふわふわのモフモフで、ミグマーリはつるつるサラサラなのだ。


 三日月湖の畔で、ハロルドを仕舞う。

「ここから直接行くのか?」

「もちろん。早く砂を何とかしたいしね昔の話と知恵を乞うのさ」

「そうだな。空いてるだろうが、部屋が取れるといいな」

「無理なら、アナザーワールドでもいいけどね」

「ああ。まあ他にも宿はあるぜあの街にも」


 俺はアヌビリの腕をつかんで、古書街の商業ギルドの傍らに瞬間移動()ぶ。

「ほんとずるいスキルだぜ、便利すぎて俺の中の常識が変になりそう」

「ははは」


 日が暮れても、魔道具の提灯に光が入って、夜店って感じの古書街だ。夜の露店って上がるよね。ここのは食べ物屋は少ないけどさ。ソースや醬油の匂いが足りないよ。

「アヌビリ、前にくれた煎餅ってどこに売ってた?」

「あれはたしかそっちの・・・」

「あ、あそこだね」


 〈読書のお供〉って看板の露店があった。

 いろいろな茶葉や茶器、甘いものからしょっぱいもの、ピリ辛なものまでの乾いたタイプのお茶請けが並んでいる。


 “みんなぁ、何がいい!?”

 “おれは、あぬびりにもらった、しおせんべー”

 “あたしはくっきー”

 “おれはするめ!”

 “あめちゃん”

 “きゅあは、ましゅまりょ”

 “きゃらめるぅ”


「よし、おやじさん、ここからここまでひととおりください!お茶っ葉も」

「あいよ。坊ちゃん金持ちだな!」

「まあね」ってか、ここの品ぞろえは大人買いの駄菓子程度のご予算で買える。


「俺もその烏賊を乾したものと塩せんべいをおくれ」

「にいちゃんは酒のあてか?」

「まあな。きょうは少し飲むかもしれないからな」

「んじゃ、こっちも持っておけ」

 そうして、黄色い粉が入ったガラス瓶を渡している。

「助かる」

「これは?」

「酔い止めの薬さ」

「なるほど」


 しばらく歩くと、〈本の虫亭〉が見えてきた。

 南国らしい、黄色っぽいオレンジ色のタイルの外壁が、提灯に照らされて幻想的だ。ヤシの木なども植えられているから、リゾート感ある。でも本のための宿だからね。プールなどは無い。小さい泉って感じの噴水だけだ。これも飾りじゃなくて、足や手を洗うためだ。


「おい、部屋は開いてないか?」

 カウンターでは、いかにも旅の冒険者って男が空き部屋を訪ねている。

「貴方は見かけない顔ですね。こちらをご覧になってください」

 山羊族の亭主、ログホーンさんが指し示すカウンターの横の表示には、

 〈常連様や紹介されたお客様以外はお断りします。この宿は読書をするための宿なので、災害の時以外は、読書をしない素泊まりはお断りです〉

 と書いてある。

 これはやばいじゃん、俺達、前回は素泊まりでしたけど。今回も素泊まりかもだけど!

 しかしその冒険者はその表示を見て、

「はん?なんて書いているんだ?俺は自分の名前と数字以外分かんねえんだよ」

 その冒険者の言葉を聞いた亭主は笑みを深めると、

「残念ながら開いているお部屋はありませんよ、お引き取り下さい」

 まあ、読書宿で文字が読めない奴は客じゃないか。

「ちぇ、くそっ」

 冒険者が横にずれていくのに今度は俺がカウンターに行く。

「こんばんは、突然ですけど、一部屋空いてませんか?」

「これはこれは!もちろん空いてますよ。あなた様の部屋は固定しましたので!」

 まじか。


「なんだと!なんでこのガキは泊められるんだよ!」

 さっきの冒険者が戻ってきた。

「ここは、読書をするための宿なんです。あなたこの文字読めないんですよね。どうやって読書するんですか」

「うっ」

「普通の冒険者用の宿は商業ギルドに聞いてください」

「わあったよ」

 そう言いながら、疲れた足取りで男は出て行った。

 ごめんね。


 さっきのやり取りなどどこ吹く風、ログホーンさんはすごくいい笑顔。

「ようこそお越しくださいました、シュバ・・」

「シュンスケです。お世話になります!たぶん数日お願いするかもしれません」

 今は黒目黒髪の人間族姿なんですけど。先日明かしちゃったしね。

「もちろん歓迎しますよ!では、この宿帳にご記入を。シュンスケ様の部屋はキングサイズベッド一つですが。他の部屋は本当に空いてなくて。アヌビリさんはどうします?ロムドム団の方に行きますか?」

「シュンスケの部屋でいいぜ。キングサイズなら二人で寝れるだろ。お前ちっこいし」

 アヌビリが即答する。

 俺もいいけど、でもよく考えたら十九歳と二十歳の野郎二人!

「いやいや、ゲストベッドひとつチェックアウト迄、入れといてください」

 まったく。

 これはそういう物語じゃないのだ!まだ。

「もちろんいいですよ」


「それとね、ここにブラズィード教授が滞在されているでしょう?」

「はい。よくご存じで。ここだけの話、宿泊客のことは他のお客様には言えないですけどね」

「あ、個人情報か。でも、俺、現役の生徒なんですよ。教授に相談があって、ご伝言お願いできますか?」

「もちろんです」

「では、生徒のシュンスケがお会いしたいのでお時間下さいと」

「わかりました、お任せください。では二時間後に教授にもお食事をと言われていますので、シュンスケ様の部屋でご一緒できそうならそうしましょうか」

「ぜひ!」


 〈本の虫亭〉のチェックインを済ませて、以前マツと留まった三階の南西の部屋にいくと、部屋番号のプレートが取り換えられていた。やたら凝った装飾で〈S様専用部屋〉と貼られていた。これじゃシュバイツを名乗ってもシュンスケを名乗っても頭文字がSなので大丈夫ということか。うーむ。正直本の虫亭に自分の部屋があるのは嬉しい。読書部屋にしようっと。


 冒険者スタイルを解いて、アヌビリと交代でVIPルームならではの風呂に入り、ラフな格好になって水分を取っているところで、ドアのベルが鳴る。


 デスクで資料を広げてた俺に代わってアヌビリがドアを開けに行ってくれる。


「シュンスケ、元気そうじゃな」

「ブラズィード教授。突然すみません」

「なんの」

「それと、アナラグさんもご一緒でしたか」

「え?あなたがシュバイツ殿下?先日俺の店で本を・・・」

「なんじゃ、紹介しようと思っとったんじゃが」

「ドミニク卿へお祝いの絵本を買ったんですよ」

「なるほど、そうじゃったか」

 教授は頷きながら、髪と同じ真っ白な鬚を撫でる。山羊族の白髭より長い。


 ログホーンさんが他の女性スタッフとテーブルに料理を広げて、真ん中に氷の入った桶のようなものに、ワインのボトルを突っ込んでいた。

「こちらは、メター様からです」

「分かりました。アヌビリ、後で合流するんだろ?」

「ああ」

「先にお礼言っといて。会ったら俺も言うけどね」

「もちろんだ」


「ではごゆっくり。何かあればベルでお呼びください」そう言いながら亭主が出て行った。


「では、あらためて」

 と言いながら変身を解いて、スピリッツゴッドに戻る。

「アナラグさん。俺がシュバイツ フォン ロードランダです」

「先日は失礼しました!」

 露店で会ったままの姿の、レゲエ系ファッションのエルフが料理の上で頭を下げた。

 やたらと俺のネタを欲しがっていたよね。

「いえいえ、ご商売とは分かってますから。しかし、程々にして下さいよ」

「はい」

「俺には、精霊ちゃんの目がありますからね」

 にっこり

「ひっ」


 よし、釘差し終わり。

 おれは人間族スタイルに戻って食事を開始する。


 今日は、コカトリスって魔物の鳥と野菜のグリル。小ぶりな玉ねぎが丸ごとトロトロに煮込まれたコンソメスープ。そしてパンかご飯を選ぶ。俺はもちろんご飯だぜ。

 デザートは俺が持ち込んだスフィンクス謹製のパウンドケーキ。


「これはスフィンクス様のケーキだな」

 すっかりスフィンクスの料理が好きなアヌビリが嬉しそうに甘いものを食べているのがいいよな。

「スフィンクス様?」

 アナラグさんに聞かれたのを

「帝都の学園の近くにダンジョンがあるじゃろ?」

 教授が受ける。

「ああ、親父の学園の遠足に使うって聞いた事あるな。でも三十階層くらいまでしか攻略されていなかったらしいな」

「スフィンクス様はそのダンジョンのダンジョンボスじゃった高位精霊じゃ」

「なんと、ではシュバイツ殿下は」

「踏破したのじゃ」

「あのダンジョンは今まで踏破者がいなかったと聞いていたが」

「まあ、ずるをしましたからね」

「ダンジョンなんてずるをしたぐらいで攻略できるものではないぞ」

「で、ダンジョンの底にいた彼に気に入られたのか、いまではポリゴンの家や俺のアナザーワールドで執事のようなことをしてくれているんですよ。料理とかもね」


 あ、メモするのやめてよ!追加のネタ・・・。


 デザートが終わるころ、アヌビリが気を利かせてくれたのか、ロムドム団の男部屋に行ってくると、なぜか二十歳の誕生日にウエストポーチに追加されていた酒瓶と、洋酒が効いたパウンドケーキを持って(俺が出して持たせた)出て行った。


「そうか、シュンスケは満月の砦ボールモンドフェスタンを見てきたのか」

 学園と同じスタイルのエルフのおじいちゃん教授に会えてほっとする俺。

「はい、ボールモンド湖はそれは大きな湖だったのでしょうね」

「ああ、シュバイツ湖ぐらいはあるじゃろう」

「それが、水で満たされていたころはさぞかし素晴らしい都市だったのではありませんか?」

「そうじゃ」

「二千年前のことはさすがの俺も知らないですね」

 二千歳をはるかに超えてる教授の息子のアナラグさんは御年三百歳。父さんがロードランダ王国を興した後に生まれたそうだ。兄のプランツさんもね。


「二千年前は人間族が文明を持ち出した時で、それまでは我々エルフやドワーフなど長命種が主に交流していたのだ。今とは比べ物にならぬほど、簡素で原始的な暮らしじゃった。魔法なんぞも生活にちょっと使うぐらいじゃ。


 それより前の時代はお主の父上様がエルフの王になる前で、精霊王として世界中の自然をできる範囲でと言いながら見て回っておられたそうだ。だが、ローダ様との一件があって、ハイエルフになってからは、我々エルフが彼と交流するようになったのだ。精霊王は身を隠すことができるが、ハイエルフには出来ぬからの。


 その彼の並みならぬ存在感に、エルフたちは陶酔したのだ。この人に頼りたいと。

 そのころの人々は、村やちょっとした街しかつくっていなかったのが、人間族が少し大きな国を興して、それを広げるために境目と争うようになったのじゃ。

 すると我々エルフも、自分達の種族や文化を守るために国を興そうとしたのじゃ。

 しかし、エルフは個人主義での、まあ長寿で魔力も強いから、他人に頼ったり群れたりせず、家族単位で固まっていたのじゃ。馬鹿な選民思想もあったしのぅ。

 だから、国としての体裁を取り繕うとしてもなかなか纏まらなかったのじゃ。


 そんな時に、お父上が世界樹の近くに住まわれるようになったのじゃ。

 我々、エルフよりはるかに上位なもと精霊王でハイエルフの存在じゃからな。隔たりはかなりあるが、神の次に尊い方なのじゃ」


 教授の語りに、アナラグさんも頷いている。お父さんによく聞かされた話なのかもしれないな。


「個人主義のエルフでも、上位種であるハイエルフを首長として担いで、ようやく結束したのじゃ」


「そうだったのですね」


 デザートが終わったのに、俺はさっき買いこんだ塩せんべいやスルメを再びテーブルに出し、玄米茶を振舞う。

 手元では、細かく裂いたスルメや、砕いた塩せんべいを男の子タイプの精霊ちゃんが味わっている。

 もちろん甘いもの好きの女の子タイプの皆にはクッキーも砕いているよ。


「シュンスケ、大陸の東の端のことを聞いたことをあるか?」

「たしか、ロムドム団にもそちら出身の団員が一人いますよね。今この宿に滞在しているはずです。人間族は肌が少し黄色くて、俺のこの人間族姿の様に黒目黒髪です。そして少々鼻が低い。

 俺が生まれ育って過ごしていた地域には、よく似た人種がいて、東洋人というのですが、彼を見てすごく親しみを持てました。

 東方の国は俺が育った国と同じように、植物で出来た紙があったり、独特な料理や調味料、酒などがあると聞き及んでいます。他には布の織物やアクセサリーなど」


「そうじゃ。そのような商品の流通が二千から千五百年前まで、川を水路として盛んにおこなわれておったのじゃ。まだどの地域も今とは違う国や地名を名乗っておったがの」


 そうして、ずすっと教授は玄米茶をすすった。


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