154【あの方をエスコート】
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「えーやっぱりぃ」
熟睡した後に目覚めた俺は、やっぱり小さいスピリッツゴッドに戻っていたのにがっくりする。
Tシャツの丸襟が肩からずれている。
「ははは、まあそっちの方が見慣れてるな俺は」
「ひどいよ、アヌビリ・・・」
口をとがらせながら大人の人間族に変身していく。
大人の服のまま寝てたからすんなり。
でも口をとがらせる大人の男性はいないか。
無意識に子供っぽい仕草が出てたのかもしれない。あぶないあぶない。
顔を洗い、外出用に服装を整え、出ていく部屋もチェック。
「シュンスケって行儀良いよな」
「なにが?」
「泊まった部屋をある程度奇麗にして出るじゃん」
「まあ、アヌビリもそんな荒らさないじゃん」
「俺はもともと広げる物がないだけだ」
「そうだな。俺だって広げる物はないと思うけど」
「ロムドム団の連中の部屋ってえぐいぜ」
「そうなんだ。そうすると忘れ物とかあったりしない?」
「あるある。ビャオなんか毎度なんか探してる」
「確かにそうだった。
うーん俺の生まれ育った国には、諺があって〈立つ鳥跡を濁さず〉っていうんだけどね。」
「へえ」
「渡り鳥でさえ、旅立つときは奇麗にして飛び立っていくだろう?巣だったり、雛を育てたりしていた後をとっ散らかしてはいかない。
巣を残していたとしても、まあ奇麗なものだろ?戻ってきたときに気持ちよく使えるようにかどうかわからないけど」
「そう言えばそうだな」
「鳥でさえそうなんだから、もっと知性のある人間はきちんとしましょうってことかな。そういわれて育つんだよ、親からとか学校とかでね」
「すげえ。じゃあその国の奴らは皆そんなに行儀良いんだ」
「皆とは言い切れないけど、概ねそうだよ」
「とりあえずチェックアウトするか」
「ああ」
「え?貴方がシュンスケさん?」
チェックアウトのときにスタッフの男性が声を上げる。
「シー。今は変身の魔法でこの姿なんですけど、スキルも登録されているでしょう?」
「たしかに」
「私、昨日見たわよ、教会ですごかった」
「ああ、あの両足亡くした女性が完治して歩いてたやつか!」
「そうそう」
隣の女の人に、解体済みの肉食地竜を渡す。
高級食材と素材だから傷まないように、時間停止効果のあるマジック袋一袋に一体ずつ丁寧に分けて入れてある。
「この袋は、冒険者ギルドで買ったんですけど、袋代込みで買い取ってもらってもいいし、新しい袋と交換で調節してもらってもいいですよ」
「そうですね、これからもシュンスケさんは地竜と言わず色々大物も借りそうですからね」
「そうだな」
そこで答えるのはなぜかアヌビリ。
「ちょ!」
「では新たに袋は用意しましょう」
地竜の買取り代を口座に振り込んでもらって、つぎはサリオさんの所に行く。
「サリオさん地竜一体分です。皮は標本に出来るように仕上げてもらっておりますよ」
「有難うございます。それにしても大人のシュンスケさんもなかなかイケメンですな」
「そう?ありがとう!」
「ほんと!あたしがこのままそっちに付いて行きたい」
「私も!」
サリオさんの娘さんと奥さんがそういうけど、
「ありがたいお申し出ですが、この後大事な用事があって、またご縁があったらよろしくお願いしますね」
「もちろんですよ」
「アヌビリさんとのツーショットも尊いし」
?何のことだ。
さて、とりあえずラオポルテの予定は終わり。
「んじゃ行こうか、アヌビリ」
「ああ」
「ちょっと寒いかもよ」
「知ってるかシュンスケ」
「なにが?」
「金狼はもともと北の種族だ」
「なんと」
今回はラーズベルトに寄り道してから帰る。
フリルフリルマッシュルームが食べたくてさ。
ラオポルテの冒険者ギルドからラーズベルトの冒険者ギルドの扉につなげる。
「うわ、やっぱり涼しいし爽やかだな」
「わかっちゃいても、涼しいのが良いぜ」
「ははは」
今回は大人サイズのままだから、ドワーフ姉弟にも会いたかったけど、茸だけ買う。
ギルドの建物を出たらハロルドを出す。
「ごめん大人二人乗るけど」
『馬車に比べたら全然平気』
鞍も装着して、国境まで二人乗り。
ええ、頭一つ近く身長差がありますからね、大人二人乗りでも手綱をメインで持ってるアヌビリの邪魔にならないという・・・しくしく。
ユグドラシルのぶどうの蔓が守ってる国境もするりとくぐる。
『みんなお帰り、アヌビリいらっしゃい』
『ただいまー』
「ただいま、ユグドラシル」
「お、おじゃまします」
珍しく緊張しているアヌビリ。
「あれ?ここは初めて来た?」
「いや、二度目だが、前回は連れが入りにくくて難儀した記憶が」
「連れってロムドム団?」
「いや護衛依頼の客の方だな」
「へえ」
前科持ちだったのかな。
国境をくぐってから向きを変え城に向かって進む。
「あれはハロルド様?」
「でも、乗ってるのは殿下ではないわ」
「なら違う白馬かしら」
「それにしては薄っすら光ってない?」
さすがエルフたち。ハロルドのことをよくお分かりで。
途中で美術が大好きなグリーゼ伯爵も見かけたんだけど、今の俺の格好じゃ声は掛けられないね。
とにかく城に帰らなきゃね。
“おうさまがよんでるわ”
“はやくかえってきてって”
『じゃあ、飛んじゃおかな』
「頼むよハロルド」
パカラッパカラッパカラッ
助走をつけながら
バサリと羽根が飛び出る、ついでに角も。
『いくよ!』
「おう」
まずは上に上に高く高く飛び上がっていく。
そして空気をとらえるように宙をすべるように城に向かってすすむ。
城の門の前にはクリスと、ナティエさんとアイラちゃん、それにプランツさんとウリアゴの三人。そしてマツ。みんな海の家から秘密の扉で来たんだな。
「マツもいるな」
「うん」
そして、父さんも。
「ただいまー」
「おかえり!」
「え?シュンスケ?」
「ひさしぶり、アリサね・・ねえちゃんはおかしいな。アリサそれにゴダ」
「ずるい、おいらの身長抜いてる!」
「ははは、そうだな」
「でもウリサ兄さんより低い・・・」
「それはしょうがないな」
「ふわあ、大人のシュンスケ久しぶり」
アリサからの、いつもの抱き着いてぐりぐりは無かった。
「おうじー」
とすっ
猫むすめの突撃は来た!
「おー、頭痛くないか?」
城は結構標高が高い。
「だいじょぶ、しろいろちゃんにかいふくまほーしてもらってなおった」
「すっかり精霊魔法使いだな」
「へへーん」
「シュンスケ大きくなったなあ」
大きくなった俺を父さんは抱擁してくれる。
あれ?それでも父さんより少し背が低い。
俺は父を超えることはできないのか・・・
スピリッツとして数十年後ならまだ成長するのかな。
しょうもないかもしれないけど、高身長は理想なんだから!
「シュンスケさんずるいです。どうして今日はその姿に?」
クリスはそういうけど、
「今日は殿下の二十歳の誕生日なのです」
プランツさんの解説が入る。
「それは聞いたけど」
ちなみに、クリスの実年齢は十二歳。見た目は六歳。ハーフエルフだから俺とはずれるのだ。実年齢二十歳でスピリッツゴッドでの見た目が六歳の俺とは。
この世界では十五才で成人だ。酒も飲めるようになるが、悪いことをしたら大人と同じように捕まって刑罰を受けるし、一人前として責任を取らなくちゃいけなくなる。
「だけど、俺が生まれ育った国では十八で成人なんだけど、酒や喫煙までオッケーになるのは二十歳の誕生日なんだよな。だから、二十歳は俺にとっては大事な節目なんだよ」
エルフも一応十五歳で大人なんだけど、見た目がちびっこなので、飲酒や喫煙は家でしか嗜まないのが通例だ。
皆でぞろぞろ城を移動しながら話す。
「ではアヌビリはウリアゴの隣の部屋をご案内しますね」
「はい」
離れの建物に連れていかれている。
ウリサとアヌビリのツーショットも良い感じだよな。男性アイドルみたいだぜ。一緒に冒険活動すればなかなか活躍するのでは?ウリサも本気を出せばすぐにでもAランクに上がれるかもしれないけど、まあ兄妹従弟パーティーの長男ポジションとしては自分だけというわけにもいかないのかな。
今日は夕方から城で俺のプライベートな、でも少しかっちりした誕生日パーティーをしてくれるらしい。
でも、二十歳だからな!ちびっこで祝われるのだけは勘弁だ。
城の中の自室に入ると、今日のための服がそろえられていた。
黒目黒髪の人間族に似合いそうな、だけど王子っぽい礼服だった。
シルバーのインナーシャツに、グリーン地に金色の唐草模様の刺繍のジャケット。すこし後ろが燕尾になっている。オフホワイトのボトム、黒いブーツ、
鏡を見ながら、コスプレ感ないよね・・・なんて。
「殿下、御髪を整えますよ」
「おー」
「あ、ここに座って下さい。座ってくれないと出来ないから!」
クリスにスツールを示される。
ジャケットと同じような色合いの複雑な組紐で後ろを括ってもらう。
「よし、かっこいい王子殿下になりましたよ」
「さんきゅ」
白い手袋をつけさせられる。
『あら、ほんと、かっこいい王子ね』
「ユグドラシル!」
世界樹の美しい女性がテラスの窓から姿を現した。
『お誕生日おめでとう』
チュッ!
ほっぺたにしてもらった。
感動だな。
「こんばんはユグドラシル様」
クリスも挨拶する。
『クリスも頑張ってるわね』
「ありがとうございます」
「ユグドラシルもケーキ食べに行かない?」
『いいのかしら』
「一席ぐらいなんとかなるだろう?クリス」
「はい!大丈夫ですよ。でも念のためちゃんと手配してきます!」
そうして、駆けだしていった。
しばらくして、
“ぷらんつが、だいじょうぶっていってる”
“ゆぐどらしるを、えすこーとしておいでって”
「了解」
『ふふふ』
「では、お手をどうぞ、ユグドラシル」
『はい』
ユグドラシルはいつも美しい軽やかなドレスを着ている。
俺のスピリッツゴッドの緑銀色に似たような色合いの服が多いかも。
見るたびに微妙にデザインが変わるんだけど、これは人が織ったりしてつくった物ではなく、世界樹のマナから出来ているそうだ。美しいドレスもユグドラシルの素晴らしいセンスで出来ているのだ。
今日は、腕を出して、スカートはふわっとシフォンって感じの足首の見えているドレス。
頭には葡萄の蔓の冠。
パンプスもお召しになっているが、これも、今日の俺のジャケットと同じような緑色。葡萄の葉っぱのような色だ。
服装を賄う魔法ってすごいよな。
そうして、ユグドラシルをエスコートして、お城のダイニングルームに向かう。
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