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153【ラオポルテで一旦帰宅の準備】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 トルネキ王国の港町、ラオポルテに到着した。

 西側に海。港には大きな玄関代わりの門が鎮座していた。

 王都の宮殿の様にトルコブル―の半球の屋根とそばに寄れば色とりどりのはずのグレーの壁。その門の中を船が行き来している。


 門より陸側に港。


 ガスマニアの帝都の港は、天然の岩でできたトンネルだが、ここは人工物だ。

 ゲートの北側に入国手続きをする役所と冒険者ギルドそしてギルドの中にはやはり漁協があった。商業ギルドもこちらに。

 そしてゲートの南側に大きな教会が。

 屋根がやっぱり青い半球ドームだから、他の宗教に思えちゃうけど、そんなことはない。海を向いて望む教会はやっぱり海の神様ウォーデン様がメインらしい。後でお邪魔しようかな。


 とにかく俺は商業ギルドに行って、預かってた荷台を全部出して、馬たちもギルドの厩舎に出す。プラムとサーシャには、俺の所有になりたいとごねられたので、サリオさん達から購入して、そのお金で彼らは新たに二頭の馬をご購入した。俺のところに来た二頭はとりあえずアナザーワールドに行ってもらったら、スフィンクスに『広大になった中を見回るのに助かります』って有難がられた。

 広げすぎてごめんね。勝手に広がっちゃったんだけどね。


 ところでこの世界の馬っていくらだと思う?とくに重量を運搬できる馬は高額だったんだ。

 本当に二トントラック並みの金額だよ(ネットで比べた)。それに馬車の部分は別料金なんだ。なのに速度がママチャリっていう。その上同じ馬にこだわるなら、休み休み行かなくちゃいけないので相当ゆっくりだ。

 重量級の特殊な馬が、どこのギルドにも十頭も揃っているわけではないので、所有の馬と、入れ替える馬を使い分けるそうだ。


 商隊って大変。


 セイレンヌアイランド行きの魔道フェリーは二日後の出発だそうで。間に合ってよかったよ。


 そして、冒険者ギルドで依頼完了の報告はすんなり終わったんだけど。


「地竜なんですが、解体したものなら受け取れます」

「なんと!」

「地竜の革が堅くて、一頭解体するだけでも専用の刃物がダメになってしまうのですよ」

「じゃあ、解体したものを用意します。それなら何頭いけますか?」

 サブボックスには刈りまくった地竜がさらに増えていた。

「五頭までなら可能です」

「分かりました」


 サリオさんも一頭欲しいって言ってたしな。

 俺はトイレに行くふりをしてアナザーワールドのスフィンクスに頼む

「七頭解体して」

 『了解しました。明日朝までには完了できるでしょう』

「よし。所で、ギルドでは解体するのが大変って言ってるけど、スフィンクスは何で皮を切ってるの?」

 『風魔法や水魔法ですよ』

 “あたしたちがおてつだいするのよ”

 “すぱすぱっとね”

「さすがだ!」

 “えへへー”

「一頭は、革を残して肉だけ離せる?詰め直したら標本に出来るような感じでさ」

 『できますけど、肉の方が半分ひき肉状態になりますよ」

「それでいいよ」

 商人に売るならそれの方がいいかもしれないしな。


 地竜解体の手配をしたら、次は買い物だ。

「シュンスケ、宿泊の手配はどうするんだ」

「それなんだけど、ロードランダに帰らなくちゃいけなくて、アヌビリさんも来こない?」

「構わないが」

「今晩はギルドに泊まって、明日地竜を売った後、二日ほどかな。ちょっと予定があるんだよ」

「わかった」

「ギルドに部屋を取ってからだな」

「手続してこよう」


 チェックインが出来たら、ギルドの部屋に先に入れてもらう。

 まずは、姿見を出す。そして、久しぶりに高校時代の私服を出す。

 俺がこの世界に飛ばされたのは冬休みに入ってたのにな。高校三年のクリスマスイブなんだから。なぜ、夏服がウエストポーチに入れられているんだろうね。やっぱり東京の俺の部屋には俺のものは何もなかったりして。


 身長が伸びることを期待して、ゆったりしてたノースリーブシャツに半そでの前開きの襟付きシャツと夏物の濃いグレーのチノパンを出す。それにボクサーパンツ。そして大人用の靴下と二十六センチのスニーカー。それをソファーに揃えて俺は腰タオルの裸で鏡を睨む。


「な、何をするんだ?」

「ちょっと大人になろうと思って」


 人間族の田中駿介、明日は二十歳。

 スピリッツゴッドとしては六十歳なんだけど、良いじゃないか。日本人の二十歳は酒も飲める大人だ!


 ここに来たときは十八に近い十七歳だったからそれより年上。たしかまだ成長は止まって無かったはず。


「どう?」

 アヌビリさんを振り返るが、ガーン

 やっぱり見下ろされている。

 だって、アヌビリさんは一九〇センチオーバーなんだ。さすが金狼族の看板役者だぜ。

「お前、背が伸びると髪も伸びるんだな」

「そうなんだよ!めんどくさいでしょ。しかも切ったらあの緑銀色になっちゃうんだよね」


 とりあえず、大急ぎで下着を履いてポロシャツやチノパンに靴下スニーカーを履く。

 あ、チノパンからの足首が前より出てる気がする。よし、背が少しは伸びたな!

 そして伸びた髪を後ろで一つにくくる。紐で!


「というわけで、このサイズの服を買い足しに行きたいです」

「なるほど・・・子供服をサイズ調整するだけじゃ無理があるな」

「ですよね!」


 そうして、俺は意気揚々と冒険者ギルドと商業ギルドに挟まれた商店に出かけるのだった。


 まずは、夏物のトップスとボトム、そして大人っぽいショルダーのバッグ。通気性のよさそうな革靴、そういう普段着を商業ギルドでご購入。

 ギルドの女性職員が色々勧めてくれるけど(シュバイツとかは明かしてないはずなんだけど)この店で使う予算はこれだけです!って言ったので、予算内で収まるようコーディネートしていただいた。黒いゆったりしたTシャツはお気に入り。日本みたいないろいろなロゴや模様は無い。それから異世界でよくあるような、革ひもで締めるポロシャツとかね。


 ふっと横を見るとアヌビリさんも自分用を買っていた。そっちにも別の女性職員がアタックしてたけど、追っ払われたみたいだな。さすが人気俳優はそういうのが上手だ。


 冒険者ギルドでは、革のブーツや革鎧も買い足しておく。

 モササの鎧も悪くないけど、青光りして派手なんだよ。

 常にインナーにしておりました。


 かっこいいベルトを見つけた!これに母さんのウエストポーチが結構しっくりくるんだよね。


「どう?」

「まあ、いいんじゃねえの?」


 お店の鏡を見て我ながらご満悦。

 やっと異世界の大人の冒険者になったぜ!


 今思えば長かった。

 女優の方が先にデビューってどういうことなんだよって思ってたけどまあ、これでやっと大人になりました。熟睡したら戻っちゃうんだけどな。


 ただ、ここは赤道に近いので、地球でいうところの北欧チックなロードランダに帰ったらちょっと寒いかもしれないな。


「ところでシュンスケ。そのサイズになったら、俺にさん付けをやめろ」

 アヌビリさんに言われる。

「へ?」

「俺はまだ十九なんだぜ」

「なんですと!」

「俺の方が二十歳になるのはまだ二か月後だな」


 三月生まれの俺、アヌビリは一学年下ということだった。

 なのに身長だけじゃなくて、漂う大人感。敵わねえ。


 ウリサに続いてアヌビリを呼び捨てにしなきゃいけないのか・・・。


「ま、まあいいか、とりあえずこのサイズ感に慣れるために、このままギルドで飯にするか」

 急にワイルドはむりだけど、がんばろう。


 この世界にやってきて縮んだときは、椅子とテーブルの高さに悩んで、初めは靴を脱いで正座して食べてたっけ。それからはそんなに背は伸びてないけど、高いテーブルで食事するのにはすぐ慣れた。なのに


 きょうはポロリポロリと物を落とす。


 それに、距離感がおかしくて、テーブルに腕をぶつけたり、椅子にスニーカーを引っ掛けて転びかけたり。

 でも肉をナイフで切るのに、今まで小さめに切ってたけど、もう少し大きく切っても無理なく食べられる。よし、食事ぐらいワイルドに行くぜ!


「シュンスケ」

「うん?」

「無理に大人になる練習してて、背伸びしてる感がおかしい」

「がーん」


 二年間のちびっこ生活が、本当に身についてしまったんだなあ。


「もう一つやっておきたいことがあるんだけどなあ」

「なに?」

「このサイズでチェンバロの練習」

「ふむ、教会に行ってみるか」

「ああ」


 教会にお邪魔する。

 初めてお会いする司祭様にお願いしてチェンバロを触らせてもらう。

「あの、この姿では納得できないでしょうが、俺はチェンバロを曳きながら怪我人を治療する特技がありまして、併設の治療院でお困りの患者さんいますか?」

「?あなたが?」

「はい、もちろんボランティアなんで、治療費はいらないですよ」

「では三十分後に患者を連れてきましょう」


 患者さんが揃うまでの間も大聖堂のチェンバロで魔法を発動させずに何曲か練習する。

 結果はやはり手が大きい方がオクターブが楽なのでこっちは引きやすいな。


 しばらくすると、礼拝用の席に人の気配が何人か増え、その前の空間や後ろの方に車のついたベッドで運び込まれた人もいた。


「シュンスケ、揃ったみたいだ」

「そうだね」

「一番酷いのは三日前に地竜に両足をかみちぎられたこの女性です。治療できますか」


 冒険者だろうか、日に焼けたがっちりした女性だが、両足が膝の上あたりから無くなって、包帯でぐるぐるに巻いてもらっているのだが滲んだ血が固まってどす黒くなっている。

 まだ痛いんだろう、額に脂汗が浮いている。


「わかりました。大丈夫ですよ」

 “キュアちゃん、あの女性の様子をおしえてね”

 “わかった”


 その女性の傍らにはシスターもついていてくれている。


 練習のつもりで取り組んでいるから、助祭の格好ではないよ。普通の洋服姿。

 何だこの兄さんはって感じかもしれないな。


「では、始めますね」


 もちろん初めは海と宇宙の神様、ウォーデン様の歌から。

 そろそろと魔法を発動させながら続ける。

 そして創造と太陽の神、ゼポロ様の歌、大地の女神アティママ神の歌


 いつもと声は違うかもしれないけど、大人の男性の方がじつは発声できる音域がひろい。

 ちゃんと高音も出せますよと。


 “どう?”

 “ほとんどなおったけど、もうちょっと”


 じゃあダメ押しでアメージングなあの歌を。

 人間族二十歳のサイズはそのまま、種族を戻す。

 翅は六枚で、やっぱり身長はともかくスピリッツゴッド状態の方が聖属性魔法が発動しやすいのは確か。


 大聖堂の中いっぱいにラメの魔法が発動する。


 そして最後のフレーズが終わって演奏も止まる。


 わー

「「「ぱちぱちぱち」」」

 スゲー

 怪我が治ったわ!


 足が!腕が!


 目が見えるぜ!


 なんてすばらしいの、天使かしら。


 あれ?大きくても天使と言われる?


「やっぱスゲーよシュンスケ」

 アヌビリさんも拍手をしながら近づいてくる。

「さんきゅ。あ、さっきのひと両足ちゃんと生えたね」

「ああ」


 チェンバロのある舞台から降りつつ人間族に代わりながら、両足が治った女性の近くに行く。

「立てますか?」

「え。ええ、どうだろう」

 ベッドを降りて立ち上がってみるのに手を貸す。こういう時にちゃんと補助ができるのが俺もうれしい。六才児サイズじゃ難しかったもんな。


「わあ、なんともないわ、むしろ、子供の時に膝に出来た古傷さえないのよ。すてき」

「そりゃよかった。でも、しばらくリハビリや訓練をしてから復帰してくださいね。筋肉は鍛えなくちゃいけないと思うから」

「なるほど、わかりました。本当にありがとう」


 足元はシスターが用意したスリッパ。

「まずは靴ですね」

「そうだわ。靴ごと食われたのよ」

「貴女の失った足の仇は俺が取りますね」

「まあ、地竜と戦えるの?」

「俺の魔法のカバン(マジックバッグ)にはまだ解体待ちの肉食地竜が八体いるんだよ」

「すてき」

「じゃあ、もう少し、養生してね」

「本当にありがとう」


 そうして初めての大人サイズリサイタルが終わった。

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