152【夕食はポイコローザ公国で】
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次の日も、河の地竜を討伐しながら河沿いの街道を下流へ進む。
地竜は一頭をスフィンクスに預けたのに、サブボックスにはすでに六頭ぐらい入っている。全部で七頭倒したということだな。
他の、色々な地竜たちはどうしようかな。
“赤色くん、エスカーザに連絡してほしいな”
“うん。なんて?”
“トルネキ王国の地竜について相談したいから、夜にお会いできませんか?って”
“わかったー”
今朝から俺が手綱を曳いている子は、女の子のイーシャちゃん六才。俺の設定年齢と同じ。
“プラムがいってたとおりね”
“なにが?”
“おうじのぎょする、ばしゃが、かるいって”
“なんでおれをおうじって?”
“さっき、はろるどさまが”
“そっか、さっきおはなししてたな”
馬も、女の子の方がおしゃべりなのかな。
イーシャとの会話が続く。
“あたしゆうべ、ちりゅうのぷうさんとおはなししたの”
“へえ、どうだった?”
プウやポウはでかい。アナザーワールドの屋敷の二階に頭が届く。あれでまだ子供だそうだ。
“あたしのことを、かわいいっていってくれたの”
“へえ。良かったじゃん”
たしかに、イーシャは鬣を三つ編みにしてもらって、リボンをつけていたりお洒落さんだ。
“じゃあまたアナザーワールドに戻ったら、遊んでやってね”
“そうね。あたしずっとあのぼくじょうにいたいわ”
“それはちょっと、君はまだ、サリオの所有だからね”
“・・・わかってるわ”
馬たちとのコミュニケーションをしすぎた?もう少し抑えるべき?でもなあ、話ができるならしたいよ。
それでも、なにもかもを俺のものにしていくわけにはいかないよね。俺も加減を覚えなくちゃいけないよね。
昼休憩で、街道の脇に止まっていると、赤色くんがエスカーザの伝言を持ってきた。
“えすかーざは、じゅうごじには、しごとおわるんだって”
“なるほど”
“だから、そのあとならいつでもいいです。だって”
“さんきゅ、じゃあ夕方にお伺いしますって言っておいて”
“わかったー、あ、おうじ、ゆうごはんいっしょに、っていってる”
“了解”
“あぬびりのごはんもあるよ”
赤色くん、護衛一人分も行ってくれたんだな。なんて出来る子だ!
「アヌビリさん、今日の夕方、ポイコローザ公国にお伺いすることになりました」
「は?」
「あの国の、リザルド公爵家とは知り合いで、俺が飼ってる地竜もあそこから預かってと言うか譲られたものだったんです」
「なるほど?」
「それで、その川を河に戻していこうとするなら、知性があって穏やかな方の地竜の保護は不可欠でしょう?」
「たしかに」
「でも、先住の子と仲良くさせるにはいきなり放り込んで放置もちょっと違うと思うし、スフィンクスに任せっきりも彼の負担を考えるとひどすぎるし、ちょっとずつとかいろいろやり方があると思うんですよね。
そのためにも、まずは専門家の意見やアドバイスをもらっておきたいなとか」
「そうだな」
それに、女悪魔のムーシュに大勢やられていたから、引き取ってくれるかもしれないしな。
「悪いけど、アヌビリも付き合ってね」
「わかりました」
そして俺は、ハロルドと一緒に休憩しているサリオ一家とアラビカパーティーにも伝える。
「今夜はホテルを予約しているんですよね」
「はい、もちろんシュンスケさん達の部屋もチェックインの時に追加できるはずです」
「有難うございます。ですが、夕食はちょっと別のところへアヌビリと行ってきますので」
「まあ、どちらに行かれるのですか?」
奥さんに聞かれる。
「ちょっとポイコローザ公国のリザルド公爵家に」
「え?そこまで一晩で行けるような距離では・・・」
「私たち商隊はあそこも通ってきたんで、その遠さは分かってますよ」
「そうですね。でも大丈夫ですよ。一瞬で行けるのです」
「さすがシュバイツ殿下です」
「あんなところまでを〈ちょっとそこまで〉って言えるなんて」
「ははは」
宿泊する町に到着した俺たちは、まず冒険者ギルドに寄って通過を報告がてら、討伐した肉食地竜を一頭でも引き取れないか聞いた。
「やっぱり断られたな」
「そうですね」
「物理的に引き取れるが、買取料が払えねえって言ってたな」
「言ってました」
肉食地竜は、この河を見てるとそう珍しいものではないというのに、狂暴で、表皮が非常に硬いから、そもそも討伐が出来なくて、値が張るらしい。
ちなみに一頭につき白金貨一枚(一千万円)
いま、手持ちに六頭あるから・・・うん、東京で新築の一戸建てを買えそうだな。要らないけど。
「解体が大変らしいね」
「そりゃあな、特殊な魔法使いが必要らしいぜ。それか、ドワーフか」
「なるほど。だから肉も出回らないんだな」
「スフィンクス様に全部解体してもらってから持ち込んだ方がいいのでは」
「それもありだな」
サリオに取ってもらったアヌビリさんとの二人部屋で、交代でシャワーを借りて、旅の汚れを流し、着替える。アヌビリは護衛兼侍従の服。俺は簡易だけど王子っぽい私服。白っぽいシルクの上下セットだ。
変身を解いて翅も出す。
「その恰好」
「うん?」
「黒いままでも似合ってたぜ」
「ほんと?」
「ああ」
まあ、どっちにしても俺的にはコスプレ感が拭えてないんですけどね。
「んじゃ行きましょうか」
アヌビリの手を掴んで、いつか訪ねたポイコローザ公国のリザルド公爵邸の前の道に転移する。
道の向こうにはゴルフ場のような、原っぱと森で整備された風景が広がっていて、そこには地竜が優雅にたたずんでいる。
「確かにすぐにつくんだな」
「まあね。一度行ったところじゃないと難しいんだよ」
「なるほど。
それにしても久しぶりだが、相変わらずすげえ風景だな」
「アヌビリは前はどんな依頼で来たの?」
「ロムドム団の公演で」
「そうなんだ」
「あのときはまだシュバイツ湖のネタじゃなかったんだよな」
「じゃあ、またそれに戻せばいいのに」
「あんまり客が入らなかったんだよ。確かに面白い内容でもなかったしな」
「ふうん」
普通に会話をしながらお屋敷を見ると、エスカーザとワイザーの兄弟のリザードマンが立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。シュバイツ殿下」
「お会いしたかったです」
「俺も、突然で申し訳ありません」
「いえいえ」
「おや、護衛って、アヌビリなんですね」
「ああ。成り行きで臨時でやっている」
「なるほど、前回も臨時の護衛でしたねシュバイツ殿下」
ワイザーが国境で俺がスブルグ辺境伯領のロイエという兵士を臨時に護衛にしていたことを思い出していた。
「俺はいつもこんな感じですよ」
「きょうはマツさんはいらっしゃらないんですね」
「マツはちょっと事情がありまして、今はガスマニアの帝都にいますよ」
「前はマツもいだんだ?」
「そう、親をなくした地竜を慰めていたんだよ」
「アヌビリもマツさんにあったのかい?」
「ああ、ロムドム団でちょっとだけ子役をやっていたのさ」
「ええー見たかったなそれは」
「確かに可愛かったですよ」
「ちっこいくせに、めちゃくちゃおひねり貰ってたんだぜ」
食堂に入ると、当主のグアーナ公爵も出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいましたシュバイツ王子」
「突然の訪問で御免なさい」
「なんの、いつでも歓迎しますよ」
大きなテーブルについて、食事が始まった。アヌビリさんも俺の隣に座らせてもらえたことに安心する。
「俺は今、トルネキ王国の王都から東の砂漠をもうちょっと何とかできたらと、そのためには海に繋がる枯れた河を復活させようと思っているのです」
「ふむふむ」
「ですが、途中の支流が流れ込んでいるところから、海までの流域が地竜の跋扈する森になっておりまして。それらを何とかしないと、河を復活することができないのです」
「我らが保護している草食の地竜も元はと言えばそこから連れてこられたものもいますね」
「やはり。それで、できれば話の出来る穏やかな性格の地竜をこちらで引き取ってくれないか相談しに来たのです。難しければ俺のアナザーワールドに保護しようとは思っているのですが、こちらで生まれて躾けられた、今俺が持っている子たちと違って、野生の地竜をいきなり保護するのには、あなた方のノウハウなどが必要かと思っているのです」
「なるほど」
俺の話を頷きながら聞いてくれる三人のリザードマン親子。
しばらくして、
「わかりました、ほかならぬシュバイツ殿下からのご相談ですからな」
「そうですね、私としても命の恩人でもある殿下からのご相談となれば、できうる限りのことはご協力しますよ」
エスカーザはノリノリで体も少し前のめりなほどだ。
「有難うございます」
「我々も、先日大量に亡くした地竜たちで減ったマナが、彼らが繁殖して増えて戻る迄まだまだかかるだろうと思っていたのです」
ポイコローザ公国の産業は、大量に保護している地竜から出る大量なマナを、魔晶石に精製して、工業の盛んな国に売るのが主な収入だ。収入源の地竜が女悪魔のムーシュにやられてからまだ数ヶ月しかたっていない。
「それに、いままでも、他の国から地竜を保護してくれと相談されて引き取ることはよくあったことなんですよ。だから、野生の地竜を保護することはできます。そのための別になっているエリアもありますから。
もし、あまりにも多くて引き取れなかったとしても、今、うちにいる地竜をシュバイツ殿下にお譲りして、野生の方を預かることもできますからね」
「そうなんですね。本当に助かります。先に預かった子のことを考えるとそっちの方が絶対いいですよね」
「それはそうですな。シュバイツ殿下は地竜のことを、よくお分かり下さっている」
俺自身、日本で動物を飼ったことはない。母さんと住んでたマンションはペット不可だったからな。まあ、夜店の金魚やカメぐらいは飼ったことがあるけど。
それでも、動画やブログなどネットの世界では、ペットを追加で飼う時に、先にいる子の気持ちを大事にしながら迎え入れるようなことをよく話題にしていたので、今地竜を飼っている俺は参考にしていい事柄だと思っている。犬猫よりは話ができるから余計に気を使うべきだよな。
まあゴブリンは何を参考にしたらいいか分からないけどな。
一通り食事が終わり、デザートとお茶を頂く。デザートの一部は俺が手土産に持ってきた、スフィンクスが焼いたパウンドケーキだ。手土産は他にラアジの干物も持ってきたんだよ。
「では、もう少し地竜の数を把握しつつ、移動できる子たちと話をして、トルネキ王たちと相談したら、またお伺いしますね」
「わかりました。お待ちしております」
すっかり日が暮れて真っ暗になった窓を見る。
「それではそろそろ俺たちはお暇します」
「一泊ぐらい滞在していかればよろしいのに」
「いやいや、一応冒険者としての依頼遂行中なんですよ」
「それでは仕方ありませんな」
「次の時は、ぜひアナザーワールドにきて、うちの地竜に会ってやってください」
「もちろんです」
「それでは失礼します」
「おやすみなさいシュバイツ殿下、そしてアヌビリ」
「ああ、ご馳走になった」
「では」
そうして公爵のお屋敷のドアを開けて直接ホテルの部屋に入る。
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