149【ついでの依頼】
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再び古書の町に到着した。冒険者ギルドが間借りしている商業ギルドが街道沿いの町の入口にあって、町中の狭い道は馬車が入れないのでここでいったん降りる。
ハロルドは鞍とゼッケンを外して俺の中に仕舞って、冒険者ギルドで借りている馬を、ギルドに返却し、馬車は座長の魔法の鞄に入れるともう荷物の心配はない。
そして再び〈本の虫亭〉に泊まる。
前回は猫人族の女の子のマツと同室だったが、今回はアヌビリさんとツインルームだ。
ただ、今回は長期滞在の可能性があるので、男部屋も別に二つ取って新作を考えなきゃいけない座長は一人部屋を使うそうだ。
劇作家先生だな。
「ようこそおいでくださいました。シュバイツ殿下」
山羊人族の宿屋の主のログホーンさんはすっごく良い笑顔。
「しっ。今日はアヌビリさんの連れの設定です」
人間族でチェックイン。
しかも俺達だけ一泊だし。
ここに長期滞在って、文字に弱いカランさんやビャオさんはどうするんだろうって思ったら、ゲーム用のカードやボードゲームを貸し出してもらえるんだって。
しかし、自室でしか遊べない。騒ぐと読書の邪魔になるからね。
俺はうきうきと新作が並んでいる棚に、寝る前に読む本を物色しに行く。
するとそこには、
〈二つの三日月湖物語〉
・・・早いよ。
ため息をつく俺の頭越しにその本に手が伸びてきた。
「おっ、これ新しい劇のネタにいいんじゃないか?」
と言いながら詳しい話を知ってるアヌビリさんが俺を見てにやりとする。
「ううっ。でもこれもハロルドが大活躍なんだからね!」
「あっそうか。でもこれなら板に描いて切ったハロルド様でも行けるのでは?」
俺は諦めて部屋に備え付けの風呂を使ってから、携帯でゲームをして過ごした。
翌朝、ログホーンさんが用意してくれたお弁当を持って、俺とアヌビリさんは商業ギルドまで歩いてから再びハロルドを出してタンデム乗りをする。
座長が見送りに来ていた。
「では、気を付けて行ってらっしゃい」
「また引き返してきますので、その時は宜しくお願いします」
「お待ちしてます。その時までに新作が出来たら台本だけでも見ていただきますね」
「楽しみにしています」
海へ向かう枯れた川と同じ向きに街道が伸びている。河が蛇行しているので、寄ったり離れたり、昔は端がかかってたであろう部分は段差を下りたり上ったりして向こう岸に渡るときもある。
まあ、そんな時に周りに人が居なければ、飛び超えているんだけどね。
砂漠がサバンナになり、だんだんと草木が増えてきたころ、北の方から支流が合流して、ようやく水の流れる川になるのだ。だが、流れている水は〈小川〉ぐらいの量しかないが、本来の幅は河と呼べるぐらいには広い。
この支流と合流する地点に、一泊する町がある。
俺たちは冒険者ギルドに泊まるべくチェックインがてら、海の町まで何か護衛か運搬の仕事がないか聞いてみる。
「おや、アヌビリ、今日は単独なのかい?」
「いや、このシュンスケも冒険者だぜ」
「この子が?」
「ああ、しかもランクは俺と同じ」
アヌビリさんが高ランク冒険者だからと対応していたこの街のギルマスが俺を見てびっくりする。
「よろしくおねがいします」
「あ、ああ。
すみません。俺はてっきり、あなたの御守りか護衛をしているのかと思って」
「護衛ってのはある意味、合ってるかもしれませんけどね」
「と。言うことは貴方様は・・・」
冒険者ギルドでは今現在Aランクの子供がシュバイツだと言う情報が共有されているみたいだ。俺はにっこり笑って人差し指を口に当てる。
「そんなことより、何かないか?シュンスケのアイテムボックスの容量はかなりなもんだぜ(なんせ湖が何個も入るんだしな)」
「良かった。丁度良い案件がさっき来たんだ」
この街の商業ギルドに、俺たちの目的地でもある海の町〈ラオポルテ〉を目指す商隊があって、荷馬車十台と六人乗りの馬車の集団だが、疲れた馬を取り換えようとしたら、タイミング悪くこの街の馬に余剰が無くて、三頭分しか交換できないそうだ。人間一人が乗れる馬は沢山いるのだが、荷馬車を曳ける力強い馬が少ないらしい。
それで、連れてきた馬が元気になるか、取り換えられる追加の馬が来るのを待つしかないというのだが、ラオポルテ発の魔道フェリーに乗り損ねたくないと、なにか良い方法があったら商業ギルドに連絡欲しいという通達がきているのだ。
「馬ってどの位で元気になるんだろう?」
「お前の魔法なら一瞬じゃねぇ?」
「あ、そっか」
「ギルマスさん、俺なら馬も荷馬車も海まで運べますけど。商業ギルドでどの位の値段で交渉すればいいか教えてもらえますか?」
「馬も?」
「俺の空間魔法には人も入れる物もあって、ゆっくりしてもらえるんですよ。海に着いたら出したらいいし」
「へえ、さすがですね」
「風呂まであるんだぜ。相変わらず、すごいとしか言えねえよな」
「じゃあ、結構距離もあるし、小金貨二枚で、前払いで交渉するといいだろう」
相場が分かんない。教えてくれて本当に助かります。
「分かりましたどうもありがとうギルマスさん」
依頼書を預かってアヌビリさんと商業ギルドに向かう。
すぐ近くなんだけどね、冒険者ギルドには冒険者所持の馬を置く厩舎と馬や従魔のためのちょっとした運動場があったが、商業ギルドには牧場もある。トルネキ王都のギルドみたいにね。ただ、確かにがっちりした馬は十五頭ぐらい。あとは仔馬とか駱駝だ。
冒険者ギルドの三軒隣りにある商業ギルドでVIPルームに通される。セイレンヌアイランドのオフ島に畳を買いに行った時以来だ。
今夜はこの街に泊まるつもりなのでハロルドは仕舞ってある。
「これはこれは、シュバイツ王子殿下」
商業ギルドは入り口に人間を鑑定する機械でも有るのかな。
シュバイツ名で商業ギルドの会員になっているので俺が対応することにした。
「今回は冒険者ギルドからの依頼で来たんですよ。何やらお困りの商隊があるとかで。俺なら馬ごと運べるのでお手伝いできないかと。こちらも丁度〈ラオポルテ〉に行くので、そこまでご一緒できたらと思っているのです」
「それは、願ってもないことです。ただいま商隊長をお呼びしましょう」
しばらくしてやってきたのは、人間族で白髪交じりのブラウンヘア、濃い青い目に日焼けした健康的な肌、口髭。しかし、横に広い。長旅してこれって馬車生活で運動足りてないのか、グルメ旅をしているのか・・・。
「初めまして、私はサリオ、この大陸の西側をめぐっている商隊を率いております。私どもの困りごとに対応してくださる方がシュバイツ殿下とは」
「サリオさん。シュバイツですが、冒険者としては駿介とお呼びくださいね。呼び捨てで。宜しくお願いします」
握手のために、右手を出すとこの人にも跪いておでこをされてしまった。今日はずっと人間族の格好なのにさ。
「十台分の荷馬車の馬十頭と、六人乗りの馬車一台を曳く一頭の合わせて十一頭の馬を連れているのですが、長旅で疲れた様子で速度が落ちていて、ここで交換か休息をと思ったのですが、魔道フェリーに間に合わせたいのです」
「人は何名いるのですか?」
「護衛の冒険者が一台の荷馬車に三人、そして普通の馬車に私どもの家族が妻と娘と自分を合わせて三人おります」
「ふむふむ」
「アヌビリさん、ハロルドにどちらかを曳いてもらって、もう一台をアナザーワールドから馬を出し入れしながら進めばいいと思うんだけど」
「それでいいだろう。サリオさん、途中何泊する予定だ?」
「九泊の予定で、ホテルは押さえてあります。殿下達の部屋は追加できますよ。二泊は野営になりますが」
「分かりました。では、今から荷馬車と馬を預かりましょう。荷馬車はどちらですか?」
「ギルドの裏にあります。お連れしましょう」
商業ギルマスとサリオに連れられて、アヌビリさんとギルドの裏に行く。
そこには荷台だけが繋がれていた。それぞれ箱をいっぱい積んでがちがちにロープが巻かれていた。
たしかにこの量ではがっしりした馬でないと難しいだろう。途中の道は舗装してたところで石畳だろうし。馬車に入れないサイズのものだけ魔法の箱に入ってるそうだ。
一つは荷物が少しの荷馬車と、人が乗る馬車。
そのそばに護衛の冒険者が三人いた。ご家族は宿で休んでいるそうだ。
「アヌビリじゃねえか」
「護衛ってお前らか」
そこには二人の男性と一人の女性のパーティだ。
三人とも犬人族で、犬種としてはシェパードのような狼に近い雰囲気で、護衛任務には会ってそうだ。
「シュンスケ、こいつらは アラビカ。三兄弟冒険者パーティだ」
「初めまして、普段は駿介と名乗っています」
「こちらこそ初めまして。俺は長男のキリ」
「あたしはモカ」
「僕はコナです」
なんだか、ウリアゴの犬バージョンみたい。うん、親近感湧く。ただ、末っ子のコナはまだ若いからシェパードというより黒っぽい柴犬って感じ。可愛い奴だ。ブーメランが怖いから口には出さないけどさ。
「お前らランクはどうなったんだ?」
「一応Cランクです」
「其方さんのお知り合いですか」
サリオさんの言葉に
「そうだ」
「そうです、俺たちが冒険者の駆け出しのころに一緒に組んで色々教えてもらったんです」
「教えてって、キリと俺はほとんど同期じゃないか」
「しかし、アヌビリはあっという間にAランクになって、俺たちは先日やっとCになったのに」
「たまたま、運が良かったんだ」
「では、アラビカパーティーさん達、これからのことは俺が言いますね」
「はい」
「今から俺が貨物用の九台の荷台を空間魔法で収納します。そして馬は明日十頭収納します。そして、俺が連れている子があなた達を、他の馬が俺が収納した馬と交代でサリオさんの馬車を曳いてもらって、ラオポルテに向かいます。そして、フェリー乗り場でほかの荷台と馬を出します」
そしてサリオの方を見る。
「ありがたいです」
「よし、では収納しますので、盗難防止の魔道具を解除できますか?」
「わかった」
そういってアラビカたちが荷台のセットを解除しに行く。
「では行きますよ」
シュン
そうして今回はサブボックスに九台の荷台を入れる。まあ、一瞬だけどね。
「うわ、消えた」
「すげ」
「一応出してみますか?」
「お願いします。見たいです」
「では」
もう一度出す。
「はあ、すごいです。シュンスケの能力は商売人にとっては羨ましすぎますね」
サリオがしみじみと言う。
「ははは」
「なあ、シュンスケ、もう馬も入れてしまっておけよ。その方が回復が早いんじゃねえか?」
「あ、そうだね。サリオさん、ギルマスさん、馬を預けている厩舎に連れて行ってもらえますか?」
「はい」
「こちらです」
商業ギルドの裏の牧場にある厩舎に連れていってもらう。
「ちょっとここの扉を借りますね」
牧草の貯蔵庫に繋がっている扉をアナザーボックスにつないで開く。
ドアの向こうも草原の牧場が広がるエリアにした。すぐそばにはゴブリンたちが組み立ててくれた出来たばかりの厩舎。
「おーい、スフィンクス」
『はい王子』
シュっと目の前に出てくる。
「馬を十頭見てほしいんだ。明日朝一頭出して、そのあと三~四時間置きに交代させるから、そのつもりでえっと九泊十日」
『分かりました。夕方から朝は全部をこちらで預かるのですね』
「それで、大丈夫?」
『モサ島の私もこちらに呼びます』
「よろしくね」
振り向くとアヌビリさん以外がポカンとしていた。
「人が・・・」
「人ではない?」
「あれ?」
「ふつう驚くんだよ」
「あはは、では、馬を運んでいただけますか?」
いつかこういうことがあるかもと、アナザーワールドにも大きな厩舎がある。馬の五十頭ぐらいは余裕だ。
時間はまだ十五時。
「私も入らせてもらっていいですか?」
商業ギルマスが言うのに、
「どうぞ、あ、地竜が十頭と、ゴブリンが居ますけど、俺の従魔なんでご心配なく。あと、蜜蜂と」
「分かりました・・・っておおっこれは収納というより本当に別世界ですな」
「ははは」
がっちり馬が十頭、アナザーワールドの厩舎に入った。
その馬たちに、回復魔法を優しくかけておいてやる。あ、この子右の後ろ足首腫れてるじゃん。よしよし。患部を撫でるように魔法をかける。
すると、足首が治った子が俺の腕をハムハムしてきた。
“いたいの、なくなったうれしい”
この馬の名前はプラム。
“そりゃよかった、プラムはいつから痛かったの?”
“えっと、よるふたつぐらい”
“そんなに前から痛かったんだ。大変だったな”
背中を撫でながら会話する。
“次に馬車を曳くときはテーピングしような”
“てーぴんぐ?”
“しっかりするとおもうんだ”
“じゃあ、まってる”
そうして、甘えるようにまたハムハムしてきた。
可愛いけど、くすぐったいぜ。
「相変わらず、すげぇな」
アヌビリさんがつぶやく。
「でもひょっとして聞こえてた?」
「なんとなく、こいつは少し足首が弱いんだな」
「そうみたい。もしかしたら荷馬車には向いてないかもしれないね」
「そうだな、様子見ながらだな。スフィンクス様?」
『わかりました、この子の足首に気を付ければいいんですね』
「それでたのむ、あ、本の妖精のカイセーに馬のテーピングについてあっちの本探しといてって言っといて」
「テープは人間用だけどこれを・・・」
『わかりました。ちょっと興味があるので私がやってみてもいいですか?』
「もちろんだよ!よろしくね」
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