148【新たな旅行準備の買い物】
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一国の首都の冒険者ギルドだけあって、併設されているショップの規模もかなり大きい。
生鮮食品から日用雑貨みたいな、スーパーとホームセンターがくっついたような品ぞろえ。
その端っこに厩舎や牧場が広がっていて、馬まで売っている。
馬売り場の所に馬具屋さんがある。
ガスマニアの帝都のギルドは漁協と一緒だったから、所変われば特徴が変わるんだね。
「すみませーん、この子にぃーぴったりなタンデム用の鞍が欲しいんですけどぉー」
馬具屋さんにいたのはドワーフのお兄さんだった。ドワーフにしたら、鬚がない。それだけでお兄さんと呼びたくなるよね。学園のグローブ先生も若く見えたな。とは言えどちらもアラ還だ。まあ、ドアーフも長寿種族なのでラーズベルトの兄弟の百歳でも若い方だろう。鬚が!お爺さんに見えるのだ。
木槌を叩く音がしていて、叫ばないと聞こえなかったんだよ。皮をなめしているんですね。
「おう、らっしゃい。これはまた見事な白馬?・・・この子は馬じゃないんじゃな」
「ははは、さすがです」
『こんにちは、グアンテ。僕はハロルドだよ』
「しゃべった!
は、ハロルド・・・様とは・・・まさか」
「へえハロルド、この人の名前分かったんだ」
『名札ついてるもん』
たしかに、胸にはスタッフ名が。ハロルドは文字も読めちゃいます。
「すぐに出かけたいので、既成のものありますか?」
「一緒に乗るのはアヌビリなんだな」
俺を飛び越えた視線。
「ああ」
さすが地元のアヌビリさんとは知り合いなんだ。
「これはどうじゃ?ポイコローザ公国の地竜の革を使って儂が拵えた、タンデム用の鞍で丁度緑色じゃから、そのゼッケンや手綱と合うだろう」
『ほんとだ!いいねこれ』
ちなみにマナを得るために地竜を飼ってるポイコローザ公国の素材は、病気や寿命で死んだ時しか流れてこないらしい。でも、大切に飼っているから高級素材に育つそうだ。
「ということは、かなりお高いのでは」
「ハロルド様の馬具を世話しただけで誉なんだ。仕入れ値でいいぞ。サイズ調整の魔法は別料金になるが」
「それは俺が自分で付与します」
「よし、じゃあ値段は小金貨一枚じゃ」
約十万円。相場が分かんないけど、素材が貴重だそうだから良心的だろう。
「先に装着させてもらえよ」
『グアンテ、つけて!』
「よっしゃ」
ゼッケンに着けていたベルトを取り外して、鞍を乗せ、改めてゼッケンの穴を通ってお腹へ鞍から繋がっている太いベルトを通す。
つけ方を二人に教わりながら今回は俺がやる。
「どう?ハロルド。大丈夫そう?」
『乗ってみて』
「わかった、じゃあ俺が先に」
と言ってアヌビリさんが先にひらりと乗る。
鞍の下には鐙を一組付けてもらっているから乗り降りしやすそう。
そして、
「ほら、シュンスケ」
手を差し出されるのに捕まって前に乗る。
「二人乗ったよ、どう?」
『大丈夫。グアンテちょっと牧場の中を走ってきてもいい?』
「構いませぬぞ」
そういいながら、牧場の柵の扉を開けてくれるのに、入っていく。
トコトコトコ、パカラッパカラッパカラッパカラッ
『二人はどう?』
「俺は大丈夫です」
「俺はちょっとお尻が痛くなりそうな予感」
「ははは、それは慣れだな」
今になって、異世界の洗礼を受けるとか・・・もう二年以上たつのに!
『このまま飛んでみるよ』
「よし」
「お願いします」
ハロルドの羽根も胴から物理的に繋がっているわけじゃないので、鞍があっても出し入れ自由。
バサリバサリ
「おおっ飛んだ、ほんとにハロルド様!」
グアンテの叫び声が聞こえている。
「相変わらず気持ちいいなぁ。ハロルドはどう?痛くない?」
『全然大丈夫そう』
「よし、じゃあこれで会計しようか」
地面に降り立ち、グアンテの前に行く。あ、柵を超えちゃってた。
「じゃあこれ、会計お願いします」
と小金貨を一枚渡す。
「は、ははは、光栄じゃ」
「今は角が出てないからペガサス状態だけどね」
『角だそうか?』
ぺかー
「ははは」
「今更ながら、お客様の本当の名前をお教えください」
「はい。あ、改まらないでくださいね。」
といって、冒険者のタグを握って見せる。
「あああ、やっぱり。噂は弟から聞いていたのじゃ」
「弟?ってまさかやっぱりグローブ先生?」
「ああ」
「この手綱はグローブ先生に教わって作ったんですよ。本当に世間は狭いな」
「そうじゃな」
「あ、グアンテさんもう少し買い物したいから、ハロルドを置いててもいいですか?」
「ああ構わない」
『わかった、ここで待ってる。僕のおやつも買っといてね』
「わかった」
ホームセンターのコーナーに行く。
武骨で重たそうなカートがあってそれを押す。
「カート久しぶり」
「そうなのか?」
「ガスマニアにはこんなスーパーないもん」
「そうだな、珍しいかもしれないな」
「でも俺が生まれ育ったところにはあったんだよね」
「へえ」
「あ、ニンジン、それと甘藷、林檎は手持ちがまだあるな」
「ハロルド様は草は食べないのか?」
「たまに食べているけど、ほんとうは食事はいらないんだよ。精霊だからね。主な栄養はマナとか俺の魔力とかそんなものらしい」
「へえ」
「だからニンジンとかこういうものは嗜好品だな。まさしくおやつだよ」
「なるほどな」
「彼は食べるけど、出さないだろう?」
「そうだな、前に馬車を曳いてくれてた時も見たことがない」
ずっと馭者をしていたアヌビリが言う。
「不思議だよね。どこに行くんだろうね」
「もしかして、シュンスケも精霊だろう?トイレ・・・」
「いきますよ!ちゃんと!そこまで人を辞めてないよ・・・まだ」
「ははは、そうなんだ」
「まったく、俺をなんだと・・・」
「癒しの魔法を使ってるところがもう、良い意味で〈人ならざる者〉って感じだからさ」
「ううっ」
たしかに、排せつが不要って便利そうだけど、便秘みたいじゃん。不健康だよ。
ところで、河を上流にさかのぼって旅行するとなると、キャンプグッズが必要になるよな。まあ、泊まるときはいちいちアナザーボックスという手もあるだろうけど、砂漠で出入りするのに地点が分からなくなるかもしれないし。目印がないところほど、空間魔法は注意する必要がある。
冒険者用のキャンプ用品コーナーに入る。
「これなんかどうだ?」
アヌビリさんが、一つの塊を指さす。
見た目は荷造り紐のようだ。
だがそのそばに、展開した緑色のテントが置いてある。
〈地中に広がる居住空間〉
どういうこと?
思わずテントの入り口をめくってみると、
「すげえ」
昨日みた図書館みたい。ちょっとらせん状に階段があって魔法で構築された地下空間が広がっている。地下一階しかないけどな。
階段を支えている太めの棒が煙突になっていて、その下に簡易なコンロを置く場所がある。
テントの中で料理も出来るんだ。
そして二か所ほど仕切りがあって、別売りのスライム処理のできるトイレと、お湯もちゃんと出るシャワーを取り付けるようになっていた。排水の処理も環境によって選べるみたい。
寝る場所は床から少し浮いた状態で壁から突き出たベッドが出現している。最大四人までベッドが設置出来て、間にカーテンで男女別などに仕切れると。
しかも、底や周りが魔物から察知できないように闇魔法を利用した、目くらまし処理もすると。
「即買いですね」
「だな、五年保証がついてるぜ」
「それもまたすごい」
「こんなのもあるぜ」
同じシリーズの馬や従魔用のテント。
馬を連れて旅行しても、これを持っていたら、馬小屋も持ち歩いていることになって、馬の疲れがほぼ完治だって。ハロルドを出したまま休んでもらうならこれが必要かもしれないよな。
しかも、人用のテントとジョイント可能。
地中で人のテントから馬小屋テントに出入りできるんだ。
なんて、ファンタジーなんだ。雪中でも使用可能。
「ただ、これの展開を維持するには、一晩につき使用者の魔力が必要で、魔力がないものには別売の魔晶石が必要だとさこれか・・・って高!」
「なるほど」
「ここに、魔力を測る簡易な道具があるぞ。黒い石に触って青から白に変わっていればよいと」
「赤や黄色では難しいんだな、よし触って・・・あれ?」
「近寄るだけで白くなるとか・・・さすがだな」
「ええっ?普通に試してみたかった!」
「ははは。触るな壊れるぞ。じゃあこれもカートに入れるぞ」
「うん。お願いします」
人用のテントと馬小屋用のテントの塊を入れる。付属品のコンロなどもいれていく。
あ、キャンプ用の万能調味料だって。これ買おうっと。
「あとは防寒用の上着だな」
大陸の砂漠は夜が寒いらしい。
「俺は何種類か揃ってますから買いたさなくてもいいですよ」
「そうか、じゃあ俺の分を」
「あ、靴下買いたい」
「ここに陳列しているものでいいか?」
「はい」
気が付けば保存食なども含めてカートに山ほど乗っていた。
「久しぶりの買い物で舞い上がりました」
「俺もついつい」
ま、冒険者割引が効いて全体的に四割引きでご購入。
テントセットがやっぱり魔道具だから一番高額だ。タンデム鞍より。
会計の列に並んでいると、リカオン族のカランさんも後ろに並んできた。
「なあにそのカート、同棲の準備みたいですごいね」
「な、なにを言ってるんですか」
「これから俺たちの旅が苛酷になるのが分かっているからな」
「そうですよ、抜かりなくそろえただけですよ」
「ったく、子供の前で」
「そうは言うけどシュンスケ、二人っきりになった時にあの美しいお姉ちゃんになっちゃだめだよ。狼に食われるよ」
バコン
鈍い音がカランさんの頭からして、その向こうを見上げると座長のメターさんが怖い顔でグーを出して立っていた。
「カラン、殿下に失礼にもほどがありますよ」
「メター座長、僕はこの子の心配をして・・・」
「面白半分で言ってたくせに。その顔を見たらわかるぜ」
買い物を済ませて外に出たら、グアンテさんがハロルドを正面に回してくれていた。その横には見覚えのある馬車と初めて見るがっちりした馬。今日はこの子がロムドム団を曳くんだね。
『頑張ろうね』
“うん、あついけどがんばる”
ハロルドが馬と会話していた。
『ぼくの帽子貸そうか?』
“それ?”
「あ、そうか暑いよな。ハロルド貸してくれるの?」
『いいよ』
ハロルドの麦わら帽子を、馬にかぶせてやる。
“お、にあうじゃん”
“あなたも、おはなしできるの?”
“うん、おやつたべる?”
って林檎をやる。
“わあありがとう”
「ハロルドにも」
『ありがとう、おいしいね』
「ポリゴンの林檎だからな。クインビー達が受粉するから、美味しい林檎になるのさ」
『なるほど』
シャクシャク
「これは、すばらしいですね」
ボンさんの声が聞こえる。
「そうでしょう、ハロルド様とシュンスケの会話のシーンは癒しよ」
「うんうん」
「ごめんなさい、ついはしゃいじゃって」
ハロルドと動物の会話には参加したくなっちゃうんだよね。
「いいのよ」
「それにしても、ハロルド様の鞍も良いのがありましたね」
『似合うでしょ!』
「似合ってるわ」
「でしょ!さすが王都のギルドですよね」
「じゃあとりあえず今夜は本の虫亭だな」
「そうですね」
タンデムハロルドと、ロムドム団の馬車が古書街に向けて出発した。
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