14.5 挿話2【かわいくて男前】
アリサねえちゃんの、おはなしらしい
あたしはアリサ。十七歳。兄さんのウリサと、従弟のゴダの三人でウリアゴって名前のパーティーを組んで冒険者をしている。
ここ、ガスマニア帝国のポリゴンの町で生まれ育ったの。
あたしたち兄妹の父さんと、ゴダの父親が兄弟で、二組の夫婦で同じように四人のパーティ冒険者をしていたんだ。
あたしとゴダがまだ小さい時までは、あたしの母さんが冒険者をお休みして、兄さんと三人の育児を引き受けて過ごしていた。
今思えば、たった一人で三人の育児は大変だったと思うけど、母さんは
「冒険者をするほうが命の危険があったりして、心身ともに大変なのよ。でも、やりがいもあるわね。
もちろん、あなた達三人と暮らすのも楽しいし、魔物の盗伐とかに比べたら全然何ともないわ」
って、いつも笑顔で楽しい家庭だった。
そんなある日、戦争がガスマニア帝国と隣の国で戦争が起こって、冒険者登録している国民も強制的に戦に駆り出されて、母さんも私たち3人を教会に預けて父さんたちに合流して戦争に参加させられたらしい。
帝国の正規兵はお貴族様の子息が多いので、使いこなすことができなくても魔力測定に引っかかった人はほぼ強制的に徴収された。そして、平民の父さんたちのほうが前線に立たされていたらしい。
その時に、あたし達の親は戦死してしまった。
冒険者なのに、戦死なんて。
その時、貴族の子息ながら、一緒に前線に行ってた辺境伯の孫のマルガンさんも怪我をして、右腕と右足に障害が残ったらしい。
「お前たちの親のパーティが俺の盾になってくれたんだ」
そう言って、あたしたちがそれぞれ15歳で成人するまで、教会の孤児院で保護し、後見人をしてくれていた。
それに、貴族も戦争のせいで地域の要職につくような人がぐっと減って、マルガン辺境伯領のここ、ポリゴン町で、ギルマスと三つ分の町長をやってる。
親を戦争に連れて行った帝国には思うこともあるけど、良くしてくれたギルマスの役にたちたいとは思う私たちパーティだった。
そんなある日、あたしたちはとてもきれいな子供を拾った。見た目は五歳ぐらい?明るい緑色の瞳、緑がかった銀髪、眉やまつ毛も銀髪なの。そして透けるように白い肌。
初めて見たときは、私たちが取り逃がしたギョンを仕留めたところみたいで、木のようなものを組み合わせて作られた訓練用の?剣を持っていた。
シュンスケと名乗ったその子は、大人の私たちが話しかけても臆することなく会話し、丁寧な言葉遣いで町まで同行させてくれと言った。
もちろん、冒険者の義務で迷子は保護するけどね。それに、男の子でも、こんなにきれいな子が一人でいたら危ないって、帝国の平民は皆分かっている。
それに、エルフだったなんて!北西の遥かかなたにはエルフの国があるそうなんだけど、人間族至上主義のガスマニア帝国では、さらに危険。
でも、帝国の貴族にしては変人だと有名なギルマスはシュンスケを大事に扱って保護するようだ。
改めてギルマスを尊敬したね。
シュンスケはギルマスにもらった魔道具で私たちと同じ色に姿を変えたんだけど、それでも、なんか品があるというか、もちろん可愛くて、あたしは手の届くところに彼がいるとなぜかすぐに抱きしめたくなってしまう。子犬や子猫を見たときもそんなことはあるけど、シュンスケの時は衝動が止めれないわ。
それに彼は、男の子なのにちっとも汗臭くなくて、花の香りがするときもあるのよ!これがエルフなの?なんて思ってたら、お母さまに渡されたっていう不思議なポーチから、その花の香りのする洗髪剤とかでてきて、「これで洗ってるからだよ」だって。
最近はあたしも使わせてもらってる。火魔法の属性のあるシュンスケと熱めのお湯でシャンプーして、コンディショナーというのとボディソープの三点セットで全身洗うと、あたしも女神さまにでもなったのでは?なんて勘違いするわね。
でも、シュンスケは、あたしの仕事の内容によっては、違う洗剤を出してくる。
匂いがなくて、体臭も消えるシリーズがあるんだって。
「魔物や動物は鼻が利くんでしょう?こっちにしておかないと」
確かにそうだけど。
それで、匂いのしない方の洗剤は、兄さんとゴダも使う。
確かに獲物に気づかれないのか、近づける距離が縮むのよ。
そうして、あたしたちの冒険者としての成績がすこし上がったわ。
そういえば、シュンスケはどこから来たのかしら。今までも遠いところから親とはぐれてひとりの子供はいっぱい見たわ。あたしたちみたいに、親を戦争や冒険家業、または病などで亡くして路頭に迷った子がこの国にはいるし、ポリゴンの町にも。でも、どの子も親を探しつかれて目がうつろで、ろくに食べれてないから痩せ細ってて。もちろんしつけどころかちゃんと育てられていないの。生きるのに精いっぱいだったのね。
でも、シュンスケはお貴族様みたいなキラキラした服ではないけれど、清潔感のある服装で、年上のあたし達をちゃんと立てて接するし、何よりあたしを女の子扱いしてくれるのよ。
馬車の通るような通りを歩く時は、馬車の通る方をシュンスケが歩くの。家のドアを開けるときとかは、先にドアを開けるのに、私を先に通してくれるのよ。
手をつないで歩いていて、階段を上るときとか、時々私をエスコートしているんじゃないかな?って思うときがあるの。今までそんなことをしてくれる男性はいなかったから、シュンスケってどこで学んだんだの?って聞いたら
「ん-洋画とかかな」ってお国の単語?謎のお返事だった。
世間一般の人は、冒険者の女は普通の女性よりかなり頑丈だと思われているのか、扱いが乱暴なの。ウリサ兄さんがいるので、あたしはちょっとマシではあるけどね。
だからシュンスケは、お貴族様用の躾を受けたのでは?なんて思ってたんだけどちょっと違う部分もあるの。
家では進んでキッチンで朝ごはんを用意してくれたり、もちろん洗い物もするし、洗濯もすごくこまめにするの。先日なんて、町で唯一の雑貨屋さんで
「洗濯板がある!やった!これでもう少しきれいに洗濯できますよ!」
って即買いして、その後はあたし達の服も一緒に夢中で洗ってくれるの。お貴族様は自分で洗濯なんかしないでしょう?でも
「居候なんですから、当たり前ですよ」ってにっこり笑うの。
もうあたしはきゅーんってしちゃって、またシュンスケを抱きしめちゃうわけよ。
それから、いつだったか私が仕事の途中で一旦一人で冒険者ギルドに行ったことがあったの、魔物の討伐状況の中間報告をしなくちゃいけなくなって。
そうしたら、厨房で氷を提供する作業をしていたシュンスケが、あたしに柑橘を絞って蜂蜜を混ぜた氷水をこっそり持ってきてくれて、
「お疲れ様。これ内緒」
って言いながら、バサバサに乱れたあたしの髪の毛を手櫛で整えながら結いなおしてくれたの。そして、首筋とか肩甲骨の辺りとかをマッサージしてくれたわ。あんな事してもらったの初めてで、その後、討伐現場に戻るときに、ポーションでも飲んだ?ってぐらい体が軽くなって、剣を扱う腕の稼働率が復活したの。
見かけは五歳の子供だけど、あんなに気づかいのできる男前はいないわ。本当に将来が楽しみよね。ま、彼が大人になるときには、あたしはおばちゃんか、もっと歳食ってるって事実が待ってるのが残念だけど。
シュンスケはエルフというより、あたしの天使よ。
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