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140.5 挿話13【砂漠の王子、初めての海へ】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 「プローモ殿下、今から海に行きましょう。この国の東には一面の砂漠がありますけど、西の向こうは一面の海ですよ」


 僕は、プローモ フォン トルネキ。このトルネキ王国の第二王子だ。

 僕には自慢の王太子の兄がいるし、優しい沢山の従兄達も居るから、王子と言ってもまだ公務はないし、気楽なものだ。それでも将来の生きがいを求めて、学園の目の前にある宮殿ではなく、学園の寮で侍女や侍従がいなくても自活する練習と、冒険者としての腕を磨いている。


 確か、去年の正月に、公務でセイレンヌアイランド共和国を訪れた兄が、往路でクラーケンに遭遇しそうになっていたところを、シュバイツ殿下が白鯨に乗って現れ、あっという間に討伐して立ち去ったという話を土産話に聞いた。その後、アジャー島での教会で素晴らしい演奏と歌で、人々を癒したとか。

 クラーケンによる直接の被害や、津波を予防したという大きな働きへの報酬は、後から周りが押し付ける形で渡しているらしく、欲が無くて本当にできた方だと、人魚族長のタイナロン様が言ってたらしい。

 そのうえ、兄上が、教会で見たシュバイツ殿下のお姿が、子供ではあるけど、緑銀色に輝く髪と明るい緑色の瞳、健康的だけど真っ白な肌が美しいんだと絶賛していた。

 先日見たという、女神かと見紛うような大人の女性の姿もかなり自慢していたが。


 そのシュバイツ殿下が兄から聞いて想像していた以上に美しくも可愛らしい笑顔で、俺を海に誘ってくれる。


「教授、殿下を国から連れ出すには何か手続きがいりますか?セイレンヌアイランド共和国にある、俺の個人の島に行くだけなんだけどね」

「そのまま移動しても大丈夫でしょう。殿下も冒険者登録していますしね」

「はい、大丈夫です。もちろんぜひご一緒させてください。冒険者の方は一応Eランクになります」

「わかりました。教授、殿下の午後からの授業は?」

「自主研究となってますよ。私も連れて行ってほしいですけど」

「では、少々お待ちくださいね。

 プローモ殿下、せっかく海にお誘いしますけど、遊ぶ時間はそんなに取れなくて、見るだけになっちゃうかもしれないですけど」

「構いません。海を見てみたかったんです」

「そうですか。では、二時間後に先ほどの階段教室に行きましょう。殿下、半ズボンに履き替えておくといいですよ」

「わかりました」


 テーブルから立ち上がったシュバイツ殿下は、食堂の前にあるテラスに出ると何処からともなく現れた真っ白なペガコーンに騎乗する。昨日もシュバイツ殿下を乗せていた子だ。

 『おうじ、どこに行くの?』

 この子はハロルド様といって、上位精霊だそうだ。僕が小さいころまだ元気だった母上に読んでいただいたおとぎ話の絵本に描かれていた姿と同じ。

 その子に二度会えた感動を、病気で亡くなってしまった天国の母上に伝えたい。


「湖の水位を上げてもいいか、ぐるっと見回っておこうかと思って」

 『そうだね』


 俺の隣では、シュバイツ殿下の護衛が教授と話をしていた。

 今回、彼の護衛を、アヌビリという金狼族が臨時でやっている。この学園のOBでまだ十九歳なのにAランク冒険者だ。

 僕も見たことがある、この王都のギルドで。その時もみんな憧れの目で見ていた。とくに女性が。今は旅芸人のロムドム団に所属していて、俳優もやっているらしい。上背もあって顔も整っているから人気があるのはわかる。


 そのアヌビリが顔の周りに漂っている光たちに話しかけている。

「みんなも、湖畔をぐるりと見てきてくれ」

 すると、光がすこし点滅すると、消えてしまった。


「アヌビリ先輩も精霊魔法が使えるのですか?」

「いや、シュバイツ殿下の近くに数日一緒にいると見えるようになったんです。俺以外でもそんな人はいるみたいですよ」

 なにそれ、羨ましすぎる。

「殿下ひょっとして、いま精霊の気配がわかったんですか?」

「ええ、いくつか光った存在があって、アヌビリ先輩の言葉に点滅して消えていくのが見えました」

「へえ、それなら、素質ありますよ。素質がない人はずっといっしょにいても何も見えないらしいです」

 その言葉に少し希望が感じられて嬉しかった。


 気が付けば、シュバイツ殿下は羽根を広げたペガコーンに乗って離れて行ってしまっている。


 この湖の周囲は二百キロメートルある。馬で回っても二日かかる。それを集合時間の一時間後までに回るというのか。いや、確かにあっという間に見えなくなっているが。

 そういえば昨日浄化のために初めにぐるりと回って戻ってきたのも一時間半ぐらいだったな。風の様に速い。


「プローモ殿下、行きましょう」

「はい教授。アヌビリ先輩は?」

「俺はシュバイツ殿下が戻ってから行きますよ」

 そういって、湖面を見守っている。

 狼の視力はライオンよりいいのか?

 僕にはもう、水平に走っていく光の粒しか見えていない。


 大急ぎで、寮に戻り、私服のTシャツと半ズボンに着替え、サンダルをはいた僕は、学園の中としてはあり得ない格好でいることにドキドキしながら階段教室に行くと、教授はもっとあり得ない格好で教壇にいた。

 水着姿にパーカー、そして幅の広い麦わら帽子。

「教授!ちょっとしかいられないってシュバイツ殿下が言ってたじゃないですか。何ですかその完璧な海水浴スタイルは」

 へそ近くまで切れ込んだワンピース水着。救いなのはアラフィフのくせに熟女じゃなくって、幼児体形だからちっとも色っぽくない。よかった。

「ふっふっふっー殿下、私は学園長の説得に勝ったぜ。急遽休暇を取った!」ってブイサイン迄出したぞ。海から帰る気ないな。


 一応長いパレオは付けるみたいで、腰で括っているのを見てほっとする。


「おまたせ!行こうか。お、プローモ殿下着替えたね。って、リリュー教授、本格的なマリンスタイルですね」

「フフーン」

 水着姿で仁王立ち。


「休暇を取ったらしいですよ」

 僕がばらす。

「あらら、じゃあしばらく島に滞在します?何日お休みされるのですか?」

「三日」

「週末の休みを合わせたら五日ですね。分かりました、では手配しましょうね。帰りも迎えに行きますね」

「わーい」

 わーいってあんた子供ですか。あ、前に自慢していたマジックバッグのポシェット持ってる。あれに着替えも詰め込んできたんだろう。

 でも教授の無茶ぶりにも笑顔で対応するシュバイツ殿下。

 見た目は幼いのに、対応が大人だ。

 僕は同じ王子を名乗っているのに、この人に勝てる気が全然しない。

 ふっと振り向くと、アヌビリ先輩は教授の無茶ぶりに慣れっこなのか無表情になっていた。


「では、行きますよ。この扉を今繋げました。ではどうぞ」


 ガチャ

 扉を開けるとそこは、一面の海だった。


 『これはこれは、ようこそモサ島へ、トルネキ王国のプローモ殿下』

 普段この島を管理している、殿下の下についている上位精霊のスフィンクス様が出迎えてくれた。

 今回、女性の教授も居るということで、さっき急遽手配してくれたという侍女もガスマニアの王都から来ていた。


「では、五日滞在される、リリュー教授はこちらへ。お持ちするお荷物は無いですか?」

「大丈夫、これに詰め込んでるから」

 ポシェットを指さした教授に、可愛らしい人間族の侍女が微笑んで、リゾート感あふれる建物のなかに連れて行った。


 そんなことより、目の前の風景だ。


「すごい、一面に青いです」

「きれいですよね。俺が住んでるガスマニアの王都の屋敷も、海岸に建っているんですけど。同じ海でつながっているのに、色が全然違うんですよ。不思議ですよね」

「トルネキ王国の海岸の町から見える海ももっと黒い感じだぜ」

「そうなんだ」


 王都から海岸まで、馬車で十日以上かかる。距離的にはそうあるわけじゃないが、途中そこにも砂漠があるから余計に時間がかかるのだ。だから僕はまだ行ったことが無かった。


 二階建てで横に広がっている建物の前にはプールが光り、そして青々とした芝生とその向こうに真っ白な砂浜。その更に向こうにはエメラルドグリーンに輝く海が広がっている。水平線がある。その向こうには何も見えない。すごい。

 あ、空に雲が!雲なんて何年ぶりに見ただろう。


「では、建物の裏に参りましょう、こちらに俺の友達が来るので」

 教授が建物から出てきたタイミングで、シュバイツ殿下の後ろについて、ホールを突っ切って反対側に出ると、こちらは桟橋があって船着き場風になっていた。

「こちらの方が、海底が深くなっているので、気を付けてくださいね。

 あ、教授アジャー島のマーケットに行くならここに船に来てもらいますので、希望の時間をスフィンクスに仰ってください。夜のマーケットが大人の教授にはおススメです。


「やたっ」

 僕の中のリリュー教授のイメージが崩れていく。

 でも元来こういう人なのか、アヌビリ先輩は平気そうだ。


 ピュー

 シュバイツ殿下が指笛をふくと、数十メートル先の海面が動き出した。と、桟橋の先に濃紺の存在が出てきた。

 殿下が言ってた海竜のモササ殿だ。

 この島、モサ島の名前は彼女からとったそうだ。

 彼女は普通に海の生物なのだが、知性が高くて会話が出来て、魔法も使えるそうだ。


「あら、シュンスケ、久しぶりじゃない」

「モササ会いたかったよー」

 桟橋に首を出す海竜の鼻先に自分の翅で飛んで行って、キスをするシュバイツ殿下。

 なんて絵になるのだろう。


「モササ、この人は、トルネキ王国のプローモ第二王子殿下」

「あら男前じゃない、黒いライオンの人」

「初めましてモササ殿、プローモと言います」

「宜しくね、プローモ」

 まなざしが穏やかで優しくて、知性が高いのが確かによくわかる。


「それでね、海水をここで採取して、トルネキ王国の湖に持っていこうと思っているんだ」

「水以外の成分はどうするの?」

「そこが悩みどころなんだよね」

「砂漠の中に塩の山を置いておくところがあればねえ」

「それなら、三日月湖(リンドラーク)からさらに東の方に、もう一つの幻の三日月湖の跡がありまして、干上がっていますし、付近には誰も住んでいないので、そこを使ってもらったら」

「それはいいね!」

「水の三日月と塩の三日月か、確かにいいですね」

 教授も乗り気だ。


「では、それで、まずは海水を取り出しましょう」

「海底の生物は避難させたわ」

「サンキュー」


 どうするんだろうと思っていたら、海面が渦を巻いて盛り上がってきた。


 またまたいつの間にか表れたハロルド様からも魔力が海水に届いているのがわかる。

 モササさんの魔力は水中で動いているそうだ。


 ドォン


 海水が、大きな山のように盛り上がっていくと、裾が狭まっていき、大きな水球が空中に浮かび上がった。


 浮かんだ水球は緩やかに回転している。


「うーん、お魚はいないね」

「ええ、ちょっと千切れた海藻はありそうだけど」

「そのぐらいなら。じゃあ行くよ」

 バシュン


 大きな水球が消えてしまった。

「え?あれ?今の水はどうなったんですか?」

「俺の空間収納に入れました。今回これのために三つ目のアイテムボックスを用意したんです」


「あたしもアイテムボックスは持ってるけど、シュンスケのはけた違いねさすがよ」

 海竜もアイテムボックスを使えるんだ。すごいな。


「えへへ、アイテムボックスが無理なら、俺のアナザーワールドって考えたんだけど、あれで運ぶのは難しそうでさ」

「そうね」

「素晴らしいです殿下」

 思わず口から出る言葉。

「でもねプローモ殿下、一度で片づけたいからあと何回かしなくちゃ。今のじゃ三日月湖(リンドラーク)の水位五センチ分だよ」

「たしかに、あの湖は広いからなあ」

 リリュー教授が桟橋で頷いている。


「じゃあ、もうちょっと続けるね」

 そういって、二度目は、さっきより倍はありそうな水球を海から持ち上げては、生物がいないか確認してはアイテムボックスに仕舞っていく。途中からは水球ではなくて、直接海面から水が竜巻のように立ち上がると空中で消えていく。


 しばらくして、

「おいシュンスケ。一度休憩しないか」

 アヌビリ先輩の言葉に、

「あ、ごめんみんな立ちっぱなしで、椅子を出そうか」

 皆の気持ちとは違う斜めのお答えが。

「そうじゃない、お前が休憩しろ」

「大丈夫だよ、そろそろ終わるよ」


 本当にこの方の魔力量はどうなっているんだ。


「じゃあ、いったん、三日月湖(リンドラーク)に戻ろうか」

「はい」

 そのうえ、これからまた瞬間移動をつかうそうだ。


「じゃあ、リリュー教授、俺たちは戻りますよ」

「はーい。宜しくね」


 あのリカオンはもうすっかり休暇モード。

 俺がさっきからシュバイツ殿下の動きに驚いてばっかりなのに、どうしてそうマイペースになれるのか。少し悔しく感じる。


「リカオン族って結局こういう人たちなんですか?」

 って殿下に、

「俺も二人しか知らんが、確かに二人ともこうだな」

「へえ偶然かもしれないけど・・・」

「相変わらず、図太い女だぜ」

 ぼそっと聞こえるアヌビリ先輩の台詞に思いっきり頷いた。


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