140【プレゼンテーション】
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「では、シュバイツ殿下、昨日湖を浄化された時のことを発表していただけますか?こちらへどうぞ」
「はい」
しまった、こんな後ろに座るんじゃなかった。
博士のところまで割と距離があるじゃん。
ちょっと失礼して、
俺は通路の階段をすべるように降りて、教壇にたどり着く。
「ねえ、シュバイツ殿下ちょっと飛んでなかった?」
「翅が動いてたしねえ」
「あれってやっぱり飛ぶためにあるの?」
「飾りだったらかなり痛い奴だろ」
これそこ!聞こえてるぜ、黄色ちゃんのお蔭でね。
「ご紹介に預かりました、シュバイツ フォン ロードランダです。種族はスピリッツゴッド。ガスマニア帝国学園の二年生に在籍しています。宜しくお願いします」
ペコリ
「スピリッツゴッドってなに?」
「聞いたことない」
「たぶん、今までにない種族だと思うぞ」
そうです、この世でただ一人だと思います。
「では、発表します。
今からおよそ二千年前のこと、精霊で白龍のミグマーリに、別の地で受けた傷があり、それを癒すために、通りがかった冒険者パーティーに勧められ、後にトルネキ王国となるこの地域の三日月湖を訪れたのです。
緑豊かな森に囲まれ、大きな川が近くに流れてマナのあふれるこの湖を気に入った彼女はしばらくここを住処にすることにしました。
水の上位精霊である白龍は水中に居るだけで、湖の水位を保ち、循環し、浄化の効果がああるそうです。湖とその周りの環境はさらによくなりました。
しかしそのミグマーリは、二百五十年前のある日、呪われた大量の蔓植物を被せられ、湖底に閉じ込められてしまったのです。
そして、ミグマーリが拘束されたのと同じ頃、近くにあった川の水量が減り、雨が降らなくなり、緑も減っていったそうです。そうして、このあたり一帯の砂漠化が進んでいってしまった。
それでも彼女は湖の循環と浄化を続けていましたが、去年から急激に蔓植物の呪いが増し。その呪いは徐々に水面に広がっていったのです。
そしてとうとう、湖の生態系が崩れ、ろ過しても人が飲む水にならないどころか、そこに住まう魚や植物までもが絶えてしまっていたのです。
と、いうところまでが、白龍のミグマーリ本人と昨日応援に呼んだ白龍の友達の白鯨から聞いた話です」
「ふむ、白龍があの三日月湖に存在しているというのは、この国ではおとぎ話で作り話だ、などと言われて来ました。二百五十年前となると、もし仮に姿を見たとしても、目撃者は生きていませんしね。エルフやドワーフなどでなければ」
俺の発表に過去の資料内容を伝えてくれるリリュー博士。
「ええ、精霊は原始的な存在でも大変用心深く、よっぽど信頼のおけるものや、優れた精霊魔法使いでないと姿を見ることができないと言われています。無垢で小さな子供達は見えているみたいですが」
どよめきながら俺の姿を見て頷くなよ。見た目は子供だけど別に無垢ではないぜ。邪な心は人並みにあるぜ、多分。中身は大人だから!
「ましてや上位精霊となると伝説だとよく言われますね」
「シュバイツ殿下、確かに昨日白鯨が来て、白龍を連れて行ってしまいましたね。その様子は、ここの学生も学園の屋上から湖の浄化とその後の様子を見ていたのです」
数人の生徒も発言する。
「なるほど。ですが二人とも上位精霊です。そして手伝ってくれたペガコーンも。
二百年に渡る長期の拘束で、すっかり疲れ切ってしまった白龍は、一度大陸北西部のシュバイツ湖でひと月ぐらい養生させます」
「その後は戻ってきてくださるのでしょうか」
「はい。ただ、彼女を拘束したのが何者か、それがまだ存在しているのか、河をせき止め大地を干上がらせたのが同じものの意志なのか、それもわかっておりません。
この世界は神々が見守ってくださっておりますが、全ての命や魂の営み迄を監視することはできないとおっしゃっております。ましてや自ら手を下すことはしないそうです。」
基本女神さまたちは、興味のないことには無関心だ。
人だってそうだもんな。
「昨日、俺が行った浄化は、呪われて汚染されていた蔓植物を除去してきれいに、湖底の水草を復活させるところまでしました。が、一時的な処置です。
周りに森などの緑がなく、循環するための付近の河が干上がっている以上、水位や水質が保たれるわけでもないので、今まで以上に水を大切に使ってください。白龍が戻ってきても。
一応この後、水位を増やすつもりではいますが・・・」
「わかりました。良いですか?皆様も周りの人やご家族に、水を大切にするようお伝えください」
「「「はい!」」」
授業終わりの鐘が鳴ると、学生たちは階段教室を出ていく。
俺は教授にそのまま教壇のそばにとどまるように言われていて、しばらくすると、一人の若いブラックライオン族の生徒が近寄ってきた。まだ、鬣が短めだと爽やかな印象だな。
「シュバイツ殿下、ご挨拶させてください。
僕はこの、トルネキ王国の第二王子 プローモ フォン トルネキ と申します]
握手をしようと右手を出したら、跪いておでこをされてしまった。
「改めましてシュバイツです。宜しくお願いします」
「確かに兄上が殿下にお会いした事を何度も自慢するのがわかります。あなたの存在は素晴らしい」
「え?」
アントニオ殿下、俺のことをなんて言ってるのさ。
「では、食堂にご案内しましょう。シュバイツ殿下こちらです」
階段教室を出て通路を歩きだすと後ろに教授もついてきて、合流したアヌビリさんと話し込んでいる。
「アヌビリ君が護衛しているんだ」
「臨時だけどな。殿下がトルネキ入りしたぐらいから一緒にいる」
「なるほど」
恩師と元生徒って感じ?
食堂のテーブルに着くと、俺の席は殿下と教授とアヌビリさん。六人掛けなのでまだ席があるが、余ってるところに座る生徒はいないが、周りのテーブルには群がるように座っている。六人掛けのところに十人ぐらいずつ座って、俺たちの会話に入ってきている。
この国は朝食以外は基本スパイシーだ。
西アジアのような、汗をかいて涼をって料理。だから、食べている間はかなり暑い。汗がだらだら出る。
まだまだ、水が貴重な地域の食事のテーブルに、水の女神さまにもらった硬質水晶で出来た二リットルのポットを出す。
「シュバイツ殿下これは?すごく恐れ多い雰囲気がありますけど聞いていいですか?」
「これは世界樹の麓の脇水が出る魔法のポットですよ」
「なんと、一杯もらっていいですか?」
「プローモ殿下、どうぞどうぞ。あ、俺が注がないと美味しくないらしい」
「お願いします」
「皆様もどうぞ」
このポットは、北国のロードランダとつながっているからか、あちらでは常温だが、ここでは良い感じの冷えた状態で出るのだ。
周りの人が出してくるコップに次々と注いでやる。
「うわ、おいしい!」
「こんなおいしい水は初めてです。冷たいのもいいですね」
「あ、殿下氷も混ぜて出してくれたんですね」
「暑いもんね」
「わあ、ありがとうございます」
二十杯ぐらい注いで、テーブルに置くが、
「あれ?このポット水が増えてません?さっきコンぐらいに減ってたのに」
と、横に立ってる生徒がポットの下の方を指さす。
「そこらへんが魔法のポットなんですよ。多分、この世に二つしかないです。しかも、他人に譲渡できなくて。こういうのをお渡し出来たら、おいしい水をあの湖に足せるのに」
でも、このポットじゃ注いでいる端からそれ以上に暑さで蒸発しそう。
海水から水だけ持ってこれないかな。
左手で頬杖をつき右手の人差し指をとんとんとんとテーブルをしながら考える。
「ちょっと相談しようかな」
「誰にですか?」
「海の専門家たちに」
地球だって、大陸の真ん中が砂漠になりがちなのは、海水からの立ち上る水蒸気というか積乱雲とかがそこまで行かないってことでしょ?遠くて。
でも、ここはファンタジーの世界。何とか魔法で賄えないかな。
とりあえず今、一時しのぎでもいいしね。
雨は・・・・難しいのかな。
美しく青くなった湖を望む大きな窓を見上げるけど、晴天だ。この状態がずっと続いているのだろう。
「ねえ、アヌビリさん」
「なんだ?」
「この国の建物は石でできているけどさ、他の砂漠はどうなんだろう、日干し煉瓦?の家だと雨に弱いよね」
「そうだな。日干し煉瓦の地域はあるな。特に貧しい地域なぞは、家畜の尿で固めているからひどい匂いだぜ。テント暮らしの方がマシってもんだ。それでも日中のきつい日差しや、夜の寒さは日干し煉瓦の方が防げるからな」
日干し煉瓦の建物に雨が何日もかかってはだめだな。
雨に耐えられる建物に建て替えてもらうのは少し現実的じゃないか。せめて屋根だけとか。
携帯を出して、いろいろな単語を入れながら検索してみる。
日本の土壁には粘土が入っているのか。
今ある日干し煉瓦の外側を防水するだけならそんなにコストはかからないかもしれないな。
ぶつぶつ言いながらいろいろ考えていく。
どっちみち、俺一人で手に負える案件じゃないか。砂漠緑化については、〈いずれ出来たら良いかな〉程度にとどめておこう、
まずは、湖の増水だな。
「ねえ、青色ちゃん。もうミグマーリはシュバイツ湖に到着したのかな」
“きのうとっくに”
「じゃあ、もう一度ムーさんを呼べないかな」
“だいじょうぶだとおもう”
「念話が通じる距離まで、透明のまま来れないか聞いて」
“わかったわ”
「シュンスケ?またムー様を呼ぶのか?」
アヌビリさんも基本赤色くんは見えるようになったが、俺が近くにいるとフルで見れるようになっていて、俺たちの会話も聞こえている。
「昨日の白鯨ですか?」
プローモ殿下も確認してきた。
「うん、海水をここに持ってこれないかなって。何しろすごく広いでしょ?」
「海水はかなり塩辛いと聞いてます。僕はまだ王都とその付近から出たことが無くて、実際に見たことはないのですけどね」
「まだ、魚がいないから塩水でもいいかもしれないけど、みんなの生活用水なんだから、淡水にするよ。真水にするのは簡単なんだけどね。今は空間魔法で持ってくればいいけど、今後は雲を持ってきて、あたりに雨を降らせるほうが良いと思うんだけど、そうすると」
「そうか、さっき言ってた日干し煉瓦の家が崩れるな」
教授が相槌を打ちながら話す。
「でしょ?そっちの調査と対策をしてからだね」
「その件は私が内務省に掛け合おう」
「お願いします」
上昇気流と雨雲は水や海の神様じゃなくて、風の神様の仕事かもしれないけどさ。母さんは、地球に居ながらどの程度こっちの風を操っているのだろう。
留守の間に母さんの手伝いをしていいですか?
鍵っ子だった時に、晩御飯を作って褒めてもらったのを思い出した。少し失敗したおかずだったけど。
湖の案件は失敗しちゃいけないから慎重にするけどね。
“シュンスケ来たぞ”
「はやっ」
湖を見ると透けてるムーさんが泳いでる。
淡水のシロナガスクジラ。ふふふ。
「ほんとうだ、ムーさまが泳いでいるな。ちょっと透けてる?」
昼からの授業が始まっているのか、食堂の生徒はまばらになっている。
「透けているムーさまは俺と一緒にいないと見えないみたいだよ」
「へえすごいな。みんなには見えてないんだ。確かに気付いてないようだな」
「アヌビリは見えているのか?私は全然見えないな」
教授には見えないのか。そういえばカランさんも精霊ちゃんが見えにくかったよな。種族の特性かな。
「あ。噴水みたいに水が吹き上がってる。おもしろい」
「それは見えるんだ」
“ところでムーさん。聞きたいのはね、この湖の白い浜の上の方まで水を足すのに海水を持ってきてもいいかな”
食堂から念話で話しかける。
魔法で作ったかき氷にミルクと蜂蜜をかけて食べながら。
もちろんテーブルの皆さんにも振舞っているけどね。
“構わないだろう。この湖を広く深く感じるだろうが、海全体からすれば、爪の先ほどもないと思えばよい”
ですよね。
“では海のどのあたりで水を採集しようか”
“お前の島で採れば目立たないだろう”
“なるほど、そうだな!よし”
「プローモ殿下、今から海に行きましょう」
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