135【黒ライオンの宮殿】
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トルネキ王国の宮殿は、遠くから見たらグレーに見えていた壁が、近くで見たらいろいろな色のついたレリーフだった。
人が一杯横向きでいろいろなポーズで並んでいてその上下に文字の帯のようなものが彫り込まれている。
外側一面に掘られているその彫刻はなにかの歴史とか神話とかそういうこの国の大事な物語なのかな。カラフル過ぎて、遠くから見たらグレーに見えていたんだな。絶妙な配色だ。
内装も一様に素晴らしい彫刻を施されていて、圧倒される。学園の図書室でみた、守りの魔法陣にも似た内容の模様が入っている。
床にはセイレンヌアイランドの人魚が同居していた宮殿のように、水路がめぐらされてある。あれは海水で人魚用の通路だったけど、こっちは空調だろうな。今は夜だから寒いぐらいだけど昼は暑いのだろう。
ただ、堀の深さの割に水が底溜まりで、あまり流れていない。それがわずかに生臭さを作り出している。
“白色くん、マツの顔の周りだけでいいから浄化魔法をちょっと発動できる?”
“たしかに、かびくさいぜ”
“あたしが、かぜでまぜとこうね”
黄色ちゃんも手伝ってくれる。
“ありがとみんな”
お礼が言えて偉いぞ。
“マツ、寒くない?”
“だいじょぶ”
水路のいたるところに、止まっている噴水があって、そこもよどんでいる。
水が使えないのか?あんなに美しい湖があったのに。
「少しかび臭いだろう?」
「あ、ああ」
「ここに来るときに湖が目に入ったと思うんだが、あの水質に問題があって、その水を持ってこれない状態なんだ。この王都はここいら一体の地域のオアシスを兼ねているというのに機能することができないでいる」
「それは、深刻ですね。もっと早く来るべきでした。俺に解決できるかはまだわからないですけど」
「ああ、解決してもらうなんて、そんな気はないんだ。ただ、相談したくて。
さあ、こちらへ」
王太子自らの案内で連れてこられたのは、王の間としては狭いけれど、応接としては広すぎるそういう部屋だった。
一番奥の何やらすごい模様のタペストリーがぶら下がっていて、その前に大きな一人掛け用のいすがあるが、そこには誰も座っていなくて、その横に、一人の男性が立っていた。
「ようこそ、はるばる来てくださいました。
俺が、このトルネキ王国の今代王、シュトラ フォン トルネキだ」
「お初にお目にかかります。シュバイツ フォン ロードランダです」
お辞儀をする。そして、隣の猫耳の背中をとんとすると
「まちゅーら ふぉん けてぃーでしゅ」
と、カランさんに俺と一緒に練習したカーテシーをする。うん、可愛いぞ。
すると、トルネキ王は俺たちの方に近づいて、まずマツの手を取りキスを、そして俺の前にひざまずき俺の手をおでこに持っていく。
王様にこれをされるのは本当にやめていただきたい。
でも、俺の後ろにいるかもしれない神々や精霊王(父さん)への敬意のポーズだから、受け入れるようにプランツさんに言われたことがある。
「遠路はるばるお疲れだったでしょう。もう夜ですし、マチューラ嬢はそろそろご就寝でしょう」
「はい」
挨拶をした部屋の隣に食堂があった。
一緒にテーブルに着くのは、王と王太子アントニオ、そして王太子の姉の第一王女のローナさん。二十一才。ちなみに王太子のアントニオは十九才なので、俺とはタメなのである。本人には言ってないがな。
アヌビリさんは、さっきお別れを言って、今夜は旧友のレオラ騎兵隊員と食べに行くそうだ。
「何かあったら遠慮なく呼べ。赤い精霊に言づけてくれれば聞こえるだろう」
って言われて。
冒険者や労働者が食べに行くところなんかそんなに色々ないらしいから、たぶんそこでロムドム団と合流するのかもしれない・
さて、王様とご一緒するテーブルの料理は、黄色く色付けされた蒸したお米と、同じく野菜と肉が一緒に蒸されたもの、そしてカレーのような香辛料の利いたどろりとしたスープだった。
辛さを調節するように、ヨーグルトが置かれている。
そして、銀色の先割れスプーンで食べていくみたいだ。
ブラックライオン族の先割れスプーンがギャップ萌えというか可愛らしくていいぜ。
「辛くない?大丈夫?」
「ちょっとからいけどおいしいよ」
マツは慎重にちょっとずつ食べている。
俺の方が子供舌なのかも、ちょっと悔しいけど、頑張って食べよう、けほっ。
辛い料理の後の甘いデザートタイム。俺は手土産に蜂蜜たっぷりのパウンドケーキと高級なチョコレートを渡してある。それを個々のシェフが見事にお皿に盛りつけてくれた。
「本日は、シュバイツ殿下の手土産だということで」
「ええ、どれも俺と仲良くしてくれている精霊が作ってくれたものを材料にして言います。パウンドケーキにはクインビースピリットの蜂蜜と、チョコレートはスフィンクスのオリジナル作で。俺にはまだ飲めませんが、きっとアルコールにも合うと思いますよ」
「さて、シュバイツ殿下」
「はい、シュトラ国王陛下」
「まずは、一年半ほど前になるだろうか、王太子をクラーケンから救ってくれたことにお礼を言おう」
「いえ、あれは、たまたまですし。あの時は俺もまだかなり未熟で、今ならもっとすんなり討伐できると思いますけどね」
「ほう、ほんとうに謙虚な方だ」
「父上、それにカウバンド領ではややこしいダンジョンの制覇、疫病をまき散らす悪魔の駆除、そしてそこの公爵領では、治療院の癒しを無償でやってくれるなど、有難いことばかり」
「いえ、それは成り行きですし。治療に関しては、アントニオ殿下がボックス席の料金を持ってくださいましたし」
「いや、そりゃそうだよ。私なんか慰問なんて考え着くこともなかった。自分が楽しんでみるだけで。
シュバイツ殿下のその素晴らしい行動はどうしたら出来るんだろう」
「しようと思ってしてるんじゃなくて、行き当たりばったりに、救えそうなら手を出す感じですよ」
「そんなシュバイツ殿下に、心苦しいのですが、さらに助けていただきたいのです」
アントニオ殿下が精悍な顔を苦しそうにしながら言う。
「湖の件ですか?」
「ええ」
「半年ほど前までは、物理的なろ過をすれば飲んだり生活に使える水だったんですが、ある日から、水量が減り、さらにろ過だけでは飲んだり洗濯などに使うと、病気になる国民が出てきたのです」
「なんとそれは・・・」
「しかも、都民が使う湖全体の水なので、何とかもとの使えるようにしたいのです」
汚染?まさか、また悪魔とか?
「今は、水魔法が使える冒険者を大陸中から集めてきて、賄っているのですが、コストがかかりますし、いつまでも頼るわけにいかないのです」
オアシスの水が汚染されていると深刻だよな。
「とりあえず明日見に行って、応急措置で浄化に挑戦してみましょう。あとは水が干上がる問題ですね。雨が少ない地域ですよね」
「はい」
「他には、その湖に流れ込んでくる川などはないのですか?」
「前はあったのですが、水源から流れてくる途中で、せき止められているようです。そこはもうトルネキ王国ではなく、丁度紛争の場所でもありまして、確認しに行くにも地上からでは限界があるのです」
なるほどなるほど
「その水源の向こうに世界樹がありまして、そちらの様子も確認できないのです。
距離もありますしね。ここからガスマニアより遠いのですよ」
地球でも、大きな大陸で海から遠いと砂漠になりがちだよな。
「分かりました。もう少しそこら辺の地理に詳しい人を紹介いただけますか?」
「でしたら、トルネキの国立学園に専門の教授がおります。いつもはフィールドワークに出ておりましてな、しかし、いまは紛争があるのでこの五年ほどは国外には出ず、学園にとどまってくれております」
「わかりました、明日午前中は湖の調査と浄化その後に明日のうちか明後日に学園に訪問いたします」
「では、滞在していただくお部屋をご案内しましょう」
「お願いします」
侍従長と侍女頭と紹介された二人に案内されて、別棟に連れていかれる。
しかし、侍女頭が鑑定でアウトサインをはじき出している。
「マチューラ嬢はこちらの部屋をお使いください」
と途中の扉を示して俺がまだ手をつないだままのマツをそちらの部屋に連れて行こうとする。
「待ってください、先に俺の滞在する部屋に一緒に連れて行っていいですか?彼女の荷物は俺が持ってるのです」
“マツ、俺に合わせてね”
“?おにいちゃん分かった”
“みんなも警戒を!”
精霊ちゃんたちにもお願いする。
“オッケー”
“あたしはマツの、ポケットにはいっとく”
“たのむ”
“さっきのマツを連れて行こうとした部屋ってどうなの?”
“なかにあとふたりのおとこの、ねこじんぞくがいる”
“この侍女長と同じ顔の人がどこかにいないか探して!”
“りょうかーい”
俺と、マツ、そして精霊ちゃんたちで、念話で段取りをつけている。
年老いたブラックライオンの侍従長、年齢のせいで鬣などがホワイトライオンになっている。この人は大丈夫。
俺にあてがわれた部屋に入る。
そしてベッドにマツを連れて来る。
「疲れたね、まつ」
「うん、おにいちゃん」
「侍女長のえっと、ベージュさんだっけ。ちょっとあっちの洗面でこれを濯いで絞ってきてもらえますか?」
と手持ちのタオルを渡して洗面に行ってもらう。
洗面には扉がある。とはいえ、洗面やトイレお風呂など水回りの揃った場所はまだ教えてもらってなくて、精霊ちゃんに聞いたのだ。
「分かりました」
そして、洗面の扉を開けてまだ照明が付いてない真っ暗な所に彼女自身が踏み入れたようにして、アナザールームをひとつ発動してその人を閉じ込める。
「ふう、あぶなかった」
「え?どうしたんですか?」
「しっ、静かに。いいですか、落ち着いて聞いてくださいね、えっと侍従長のフロワさん」
「はい」
「あの、ベージュさんはベージュさんじゃないです。ガトというヤマネコ人族が何らかの道具なり方法でライオン族に変化しているようです。そして今、洗面に行くように促して、おれの空間魔法に閉じ込めています」
「なんと」
「もしかしたら、マツの国からきた工作員的なものかもしれません。彼女は今紛争が起こっている地域の貴族のお嬢さんですからね」
「そうなんですね」
「で、さっき案内された扉の向こうにも男性の猫人族が二人も控えてるようです。心当たり有りますか?」
「いえ、この城には、ライオンかブラックライオン族しか雇っておりません」
「その猫人族もとらえてしまっていいですか?」
「構いません」
「では」
「まつ、さっきの扉のお部屋に入ったら、男の猫人族がいて、マツの身内かどうかわからないから、見たら叫んでみて」
「がんばる」
「では」
「へえここが、あたしのおへや・・・て」
ガチャリ
「きゃー、おとこのひとがー」
マツ、演技力アップしてないか?臨時子役だったとはいえ流石ロムドム団員!
「なんだって!女の子を泊める部屋に?ってどう見ても、侍女でも侍従でもないね」
わざとバタバタとおじゃまする。
「お、お前たちは何者だ!」
「俺たちは、そこのお嬢さんの親戚で、会いに来たんだよ」
嘘に決まってるだろぉ!ごまかされるか!
「あケティー嬢、え?あーぁー」
しゅしゅっ
まあね、アナザールームは扉をつけなくてもお入りいただけるので、足下に開けました。
ってなわけで、三人の怪しい猫人族に退場してもらった。
「それでね、侍従長のフロワさん、本物のベージュさんは、俺は場所は分からないですけど、厨房の地下の倉庫に閉じ込められているらしい(紫色ちゃん情報です)ので、早めの救出を」
「有難うございます。後程捜索します」
通路に出るとバタバタと、護衛の兵士がやってきた。
そして、レオラ騎兵隊員とアヌビリさんもいた。
「な、なにがあったんですか」
「どうした、シュンスケ」
「うわーん、アヌビリしゃーん」
アヌビリさんにマツが抱き着いて泣き出した。
なぜ俺じゃないんだよ!頼りないのか?
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