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133【三千円でおつりは無理?】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

 ヴィルパークさんの店に戻って、額を一つ買った俺は、〈本の虫亭〉に入る路地の角のテントからなにか引っ張られる気配がして立ち止まった。

「どしたの?」

「なんかこのお店に」

 日本の学校で運動会に出てくるような、屋根だけのテントには、様々なグッズが所狭しと置いてある。さっき通った時も少し気になったんだけど、今はさらに引っ張られている感じがする。


 本は見当たらない。ヴィルパークカンパニーにあったようなものの、中古品が多そうだ。

 図面を書くために使うようなコンパスや、測量に使うような大きな道具。遠くを見る望遠鏡、星を見る望遠鏡、星座の早見盤のようなもの、そして、薬草や薬品、魔石、大小様々な壺。ヤモリやカメいやスッポン?がスルメのように干されてぶら下がったもの、ヨガに使うには豪華そうな、カーペットやクッションなど。

「これも本にまつわる道具なのか」

「ネタを捻り出す用とか?」


 奥には、頭にぐるぐるとターバンを巻いたお爺さんが大きなクッションの上にペルシャ風じゅうたんを敷いて胡坐をかいて座っている。

「瞑想しているみたい」


「ねえ、お爺さん、ちょっといい?」

「なんじゃ?」

「これって売り物?」


 お爺さんの足元には色とりどりの七つの蓋がない空っぽの坪がお爺さんを取り囲むように置いてある。

 それは、梅干しの坪のような形で高さ二十センチほど。外側には魔法の呪文のようなものがびっしり書いてあるが、それは拘束の呪文だ。


「ああ、少し値は張るとは思うが、こいつをひとつ持っておくと、書庫の本が増えやすくなるんじゃ」

「へえ」

「ただし、この坪の謎を解くか、自分の魔法で呪文を上書きできなければ意味はないがの」

「書庫一つに一個?」

「そういうわけではない」

「七種類で全部?」

「八種類じゃ」

「ここに七つあるけど、もう一つは?」

「ガスマニアの学園じゃ。

 とりあえず七つセットと考えてくれ」

 と言って七つをひとまとめにしていくお爺さん。


「で、それは売り物ですか?」

「ああ。じゃが金額が、この坪の表面に書いてあって、その通りに出してくれないとお前さんのものにはならぬ。難しいぞ」


「ちょっと、挑戦してもいいですか?」

「・・・ああ。何色にするんじゃ」

「じゃあ、ここは黄色で」

「これを持ったら、答え以外を口に出してはいかん」

「分かりました」

 と言って黄色いツボを持ち上げる。


 〈トウキョウヲトオル タイフーハ ミギマワリデアル イエス オア ノー? ワカレバ、サンゼンカラサンジュウヲヒイタエンヲ、コノツボノナカニイレテ、コタエヲイエ〉


 なになに、読みにくいだけか?文字はこの世界の片仮名だ。


 東京を通る台風は右回りである、YESorNO 


 それから、

 三千引く三〇円を置く?つまり二九七〇円?


 東京って?それに、え?円を出しちゃっていいの?


 俺は、この世界に仕舞ったきりの自分の財布を母さんのウエストポーチに入れてある懐かしいリュックサックを出し、そこから財布も出す。


「わあ?なんだろあれ」

「さあな。コインみたいだが。小さいな、おはじきか?」


 二年前の財布の中の金額なんて覚えてないぜ。あ、高校の学生証が出てきた。黒髪眼鏡君。

 えーっと、七十円が細かくなる!十円玉が一個しかない。五円と一円五枚を混ぜたコインを丸めて入れた二千円と一緒にチャリンチャリンと放り込む。


 そして、少し息を吸ってから答えを言う。


「NO」


 どうだ!


 シュー

 壺の中で空気が渦を巻いて流れているのがわかる。よく見たら左回りだ。

 さっきのクイズの台風か?


 風の音はひどくなり他の六つの坪の周りのちりも巻き込んで壺を包むように台風のようなものが七つになっている。たぶんここに指なんて突っ込んだらズタズタになるだろう。

 だって、それを見ていた精霊ちゃん達もなんか怖がってるもん。


 ようやく、静かになって風が収まると、俺が日本円を入れた壺はバイト先で見かけた一号升に変わってて?ほかの坪が消えている。そして中から何かが出てきた。


 可愛くないなあ。


 中から出てきたのは、頭に二本の角が生えた鬼だった。ゴブリンとは肌の色が違って、酔っぱらった人間みたいに赤い。

 まるで一号升の風呂に入っているような感じ。大きさも精霊ちゃんぐらいだ。

 この間のゴブリンみたいに、裸で腰蓑のようなものしか身に着けていない。

「君は誰?」

 『俺っちはカイセー。柄杓星ひしゃくぼしの端っこから来た、本の妖精だ』

「うーん君を連れて帰っていいってことかな?」

 『ああ、ほれ、両替も出来ているぜ。おっさん』

 そう言って、小鬼のカイセー君はマスの底から、この世界の小銀貨二枚と大鉄貨一枚、中鉄貨二枚、小鉄貨一枚と大銅貨二枚をチャリンチャリンと出してきた。

「はい、お爺さん」

 『なんと、この坪そんなに安いのか?七つセットなのに』

「みたいだね。偽物つかまされたのじゃないか?」

 『俺っちは本物だ!ほら』


 ポン!


 何もない空間から突然本が出てきた。

 アイテムボックスを見慣れた俺達にはびっくりすることではない。

「わあ、ほんだ」

「小さい本なのにきれいな表紙じゃないか。文字?は見たことねえな、変形の魔法陣か?」


「魔法陣じゃないです。

 あ、この本たしか」

 さっき、リュックを見た時に入っていた、文庫の続巻だった。

「君は地球の本を取り寄せられるってこと?」

 『ああ、俺っちは地球の妖精だからな。どうだ、駿介、俺を連れて行ってくれ』

「うーん、確かに名乗ってないのに俺の名前を知ってるところは、すごいって思うけど、いらないなぁ」

 『なに!』

 だってこの文庫の二巻目以降は、携帯のネットで買って読んじゃったもん。

「それにきみ、その本はどこから持ってきたの?返してきなさい」

 『こ、これはあれじゃ書店の売れ残りの返本された奴じゃ、じゃからいいのじゃ』

「地球ではだめじゃないの!」

 『そうじゃな。こっちに持ってくるならいいかなって?』

 そんなきゅるんって首を傾げたって可愛くないぜ。


 それに、俺が欲しいのはこの世界の本だ。日本語の本なんて俺かギリ父さんかおばさんたちなら読めるかもしれないけど、現実的ではないなぁ。しかも母さんに、メッセージしておいたら、あちらで取り寄せて、ウエストポーチに入れてくれそうだしな。

 うんやっぱり、


「きみは、いらない」


 『えー、そんなこと言わないで!こっちの本も増やせるようにするから!』

 鬼が半泣きになっている。

「出来るの?じゃあ、連れて帰ろうか」

 半泣きには弱いんだよ!

 『よかったー!』

「この、一号升は必要なの?」

 『必要!それからこれとこれ』

 といって、升の底から五百円玉ぐらいの小さな生きた亀と、小筆を引っ張り出してきた。

「おおっ。まあ、とりあえずもう一度升の中に入って」

 『あ、ああ』


「もう、なんだか疲れましたね」

「はい色々ありました」


 本来なら、このお爺さんが誰から仕入れたのか、ガスマニアに行った一個からは何が出てきたのか聞きたいところだけど、またマツのお腹が可愛くなったからね。宿に帰ろう。


「ほとんどおうじのことだったね」

「流石だな」

 アヌビリさん、その流石は誉め言葉じゃないでしょ!


「ほんとにね。じゃあ、お爺さんもう行くね」

「おう、なんかわからんけど、無事にお前さんのものになったようだな。おめでとう」

「有難うございます」

「じゃあ、子供達よ、これからも勉学に励めよ」

「「はい!」」


 そして、俺達三人は路地に入り、ようやく〈本の虫亭〉に帰ってこれた。


 それにしても妖精一人、三千円で三十円のおつりって安くないか?本が増えるかもしれないんだぜ?


 とりあえず、カイセーは明日移動することを伝えて、この宿に放った。

 宿にもたくさんある本棚でこの世界の書物のことを見ておいてもらおう。

 どうやるのか知らないけど。小さいし。


 机がたくさん置いてある自習室のようなレストランで、お茶を飲みながら携帯でカイセーを調べる。

 ロムドム団の大人五人は酒を飲む店に出なおした。男女別だって。


 マツはさっそく買い込んだ文房具で、文字の練習を始めた。

 インパラ族のお姉さんの文字がお手本だ。


 カイセーって地球から来たんだったら、載ってるかな・・・ネットに載ってたわ。

 要は公務員試験で合格発表の表の名前にチェックする係みたいなことが書いてある。

 将来、地球で就職活動するなら有難いやつかもしれない。


 可愛くないと思ったけど、ネットの絵よりは可愛いかも?でも大人の鬼だ。 


「おにいちゃん」

 “なあに?”

 人の目があるから念話でお願いします。

 マツのは俺が拾うから。 

 このレストランも図書館の閲覧室みたいなものだからね。

 “さっき、おうじがかばんからだして、かいせーのつぼにいれてた、きれいなかみはなに?”

 “あ、これ?”

 と、財布を開ける。つい習慣でパーカーのポケットに入れたままだった。

 “まほうのおふだ?”

 ある意味、魔法の札だな。これを手に入れるために労働して、必要なものが手に入って、でも、これのせいで幸せにも最悪な人生にもなる。


 俺が、この世界に来てからの間に、お札の顔が変わったみたいだけど、財布に入っていたのはもちろん福沢諭吉と野口英世だ。

 でも、なぜかウエストポーチには各種新札束の入った封筒と五十枚ずつロールになった硬貨がいつの間にか追加されている。五百円玉だって、こっちに来てデザインが変わったことを知ったときには少し置いて行かれた気分でショックだった。でもちゃんとウエストポーチに入ってる。

 母さん、これはお小遣いですか?あっても使えねえと思ってたけど、今日俺の財布のお金が使えました。


 “これは外国のお金だよ。お金の単位も違うけど、こっちのオジサンの紙のお金が一万円、つまり大銀貨一枚だな”

 “ふーん。わ、まほーみたいきらきらしてる”

 “そうだな、こうしてひかりにすかしてみ?”

 “わあ、かおがでてきた”


 “こういう技術があるから、金とか白金とかの高価な金属が無くても、お金として価値があるんだよ”

 俺の説明にうんうんと頷いている。

 “それに、これとこれ、まったくおなじ”

 “でしょ、手描きじゃないんだよ”

 と言いながら、諭吉のお札をすこし波打つように折り曲げる。お札に対してこんなことしたことなかったけど、もう、そんなに使わないだろうと思って、やってみる。


「ぷっ、はははは」

 マツの笑い声に、他の客が一斉にこっちを向く。

「ごめんなさい」

 “もーおうじのせいよ。なにそれ、きもちわるいわらいがおになる”

 しずかに、肩のあたりをぽかぽかされる。

 “ごめんごめん”


 二人で、部屋に戻ると、カイセーがソファーのテーブルでしょんぼりしていた。


「どうした?」

 『ご主人様』

「あ、その呼び方はやめて」

 『では、駿介様』

「よし。それで?」

 『字が読めません』

 それはショックだろう。俺も大変だったからな。


「では、俺のとっておきを貸してやろう」

 そうして、俺が小学生の時に使っていた未来の猫型ロボットが表紙のでっかい漢字辞典と、中学で買ってもらった漢和辞典、それから、オレサマ手書きのあいうえお表と数字と記号の表を渡す。

 日本の文字とこちらの文字がわかるようになっている。

 国語辞典は、上下の余白のところに、こちらの字を書き出している。かなり小さい文字で書かなくてはいけないので、大変だった。


「ただし、条件が一つ!と普通の国語辞典を渡す」

 『なんでしょう』

「これの、この世界版を作ってくれ」

 『なるほど』

 と、中身が無地で真っ白な本を数冊渡す。

「これと、これでかけるか?」

 ボールペンやシャーペンと芯、消しゴムなども渡す。


 『ありがとうございます、では早速』

 といって、気が付けば大人サイズになっていた。

 まあ、精霊ちゃんサイズじゃ文字は書きにくいね。

「ちょ、ちょっとまって、ここじゃなんだからこっちに」

 と言って、アナザーワールドを開ける。


「おーい、スフィンクスー」


 『おや王子、どうされました?』

「こいつはカイセーっていう、異世界から来た妖精だ。ちょっと仕事を頼んだからそっちに、書き物の出来る部屋を用意して住まわせて。

 服はこういうのが似合うだろう」

 と、俺が高校の夏休みに着ていた仁平や作務衣(渋いけど涼しいんだよ)を渡す。カイセーには洋装よりこっちだ。

 『かしこまりました。私はスフィンクスと言います。宜しくお願いします』

 『カイセーです。スフィンクスさんは、エジプトの方ですか?』

 やっぱりそう思うよな、カイセー。

 『私はいろいろな所に行きますよ。食べるのが好きですからね。身動きできないこともありましたが、王子に助けていただいたんですよ。

 では王子、この人のことはお任せください』

「たのんだよ」


 気が付くと、寝室でも頑張っていたマツが部屋に作り付けられている机に突っ伏して眠っていた。


「よかった、顔にペンが刺さらなくて」

 そうっと手のペンを外して、猫むすめをベッドに運ぶ。

「あ、ほっぺたに文字が付いてる」

 〈シュバイツ フォン ロードランダ〉って鏡文字で。


 ほっぺたが乗っかってた紙にも少し滲んでいるけど、俺の名前が沢山書いてあった。

 結構きれいな文字じゃん。でも、俺の名前じゃなくて、自分の名前を書こうな。


 明日起きたらそう言ってやろうと思う。


アヌビリ「前に舞台で客からもらったおひねりの花束のなかから、俺の名前を繰り返し書いた紙が出てきたことがあったな。呪われてるのかと思ってぞっとしたが」

メター「私もある」

タレンティーナ「私ももらったこともあるし、推しに出会ったときはその人の名前をたくさん書きたくなる気持ちもわかる」

カラン「ふーん、確かに座長やアヌビリのは見たことあるけど、理解できない」

ビャオ「見たことも聞いたこともないよ?おいらが書くわけもないし」

タレンティーナ「あんたたち二人との温度差がすごいわ」

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