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127【女優のデビュー】

いつもお読みいただきありがとうございます!

このページでゆっくりしていってください~♪

  ガチャリ、ガチャリ

 隣のドアが同時に開いて、男性陣も出てきた。

 「ああ、今日も美しいですね、シュンスケ君」

 「なんでまた朝からその格好?」

 「それが・・・」と俺より背が小さくなったカランさんを見る。


 「女になるのは姿だけは無理なのよ。練習が必要なの」

 「カランの言葉じゃ説得力無いなぁ」

 「うるさい!」

 「ほらそういうところ」

 「はははっと」

 「おっと」

 ヒールによろめいた俺をアヌビリさんが支えてくれる。

 「このまま俺の肘を掴んでおけ」

 「え?」

 「こうやって」

 と俺の右手を取ってつかむ場所を指定する。結構がっつり組んでる感じだ。


 「ふわわーおうじが、おひめさまみたい」

 これマツ!


 「そうだな、シュンスケが強いことは分かってるけど、その姿は危ないから、アヌビリにエスコートしてもらっておきなさい」

 座長のご命令。

 「でも、マツを」

 「まっちゃんはおいらが手をつないどくから、ねー」

 「うん!びゃお、おにいちゃん」

 「おにいちゃんって呼ばれた!感動!」


 たしかに、エスコートをしてもらうとずいぶん歩きやすい。金狼族だから力強いし。

 

 朝食のためにホテルのレストランに、アヌビリさんのエスコートでたどり着くと、

 「まあ、ロムドム団だわ」

 「昼からの公演楽しみ」

 「あのアヌビリさまがエスコートしてる女性は女優のタランティーナ?」

 「え?あんな雰囲気だったっけ、すっごい奇麗」


 「おいうわあ、あの美人見てみろよ」

 「あの猫ちゃんも可愛いわー」

 ロビーあたりからずっと続く俺達への目線。


 「おい、シュンスケ、注目されてるぜ」

 「なんでだろう、ただ女性になっただけなのに」

 「そりゃ、別嬪だからじゃん」

 「だよな、女の子はここにもいるのに」

 「ビャオー!」


 「ふふふ」

 この二人の掛け合いが何時も面白い。


 「おい、笑ったぜ」

 「なんて美しいんでしょう」

 

 「いやあ、シュンスケが歩いているだけで、すごい宣伝効果ありそうですねぇ」

 「でも、座長、俺たちは王都までですよ」

 「そうなんだよな」

 「ほんと惜しい」


 朝食の後、ホールで通し稽古をした。

 ここのホールは本格的な劇場で、旅芸人が使うようなところではないんじゃ?って聞いたら、ここの支配人が座長のファンだそうで。

 なるほど、さすがです。


 今回単独で出演するハロルドも舞台に出したら。


 『わあ、さっきから王子の女の子見たかったんだ!』

 「どう?」

 ハロルド、女の子って言われたけど、アラカンの設定だぜ。俺の見た目二十歳は。

 『女神様達に似ているかも』

 「本当か?ハロルド様」

 『うん。女神さまも美しいからねえ、それに王子はお父さんも美しいからね』

 「なるほどたしかに、シュンスケが美しいのは納得ですね」

 父さんを見たことがあるという、ハーフエルフの座長が頷く。


 「ほんとに、おしい女優だよ」

 「ははは」


 それでも緊張していたのか昼ごはんが半分しか食べられないまま、本番に臨んだ。


 座長やカランさんに追加されたシーンが物語の始めのところに一つあって、ユニコーンのハロルドに大地の女神の姿(洋装)で横座りに乗って舞台を少し浮いて歩いてもらうんだけど、初めは何のために追加したんだろうって思ってたら、客席からため息がいっぱい聞こえてきた!

 「なんて美しいんだ」

 「ユニコーンに女神様。似合いすぎる」

 いつものように客席の声を黄色ちゃんが拾って俺に聞かせてきちゃいます。

 羽根も出させたらどうなることやら・・・


 「ほう、今日は観に来てよかったわ」

 「拝んじゃう」

 拝まないでー、思わず客席の方を見て、ほほえみを返す。

 「うぉー」

 「笑顔がまぶしい!」

 自分では引き攣ってますけど!

 

 もちろん、マツの桃色精霊ちゃんがハロルドにキスをしに行くときも大騒ぎ!


 「キャー可愛い!」

 「子猫ちゃーん」

 「猫ちゃんの妖精なんて、最高にかわいいな」

 そうだろそうだろ!マチューラ嬢は可愛いんだぜ!


 アヌビリさんの扮するゼポロ神もなかなか迫力あって、お姉さんやおばさまの黄色い声が飛ぶ。

 「アヌビリ様―」

 「あたしの神様はアヌビリ様です~」


 そして、ハイエルフの王役の座長と、風の女神に扮した俺の抱擁のシーンの後ゆっくりの暗転で会場から割れんばかりの拍手が!

 ヒューンバラバラ ヒュンヒュンバラバラバラ

 コインを包んだ色とりどりの紙が雨あられと舞台に投げ込まれる。

 おひねりってやつだ!この世界にもあるんだよ。でもカウバンドの時より三倍以上はある!紙幣がないから、紙に包んだコインばっかりなんだよ、中を開けるまで幾ら包まれているかわからないのが、座長のお楽しみなんだけどさ。


 さらに、第二部の歌のコーナーに入ると、俺は、風の女神さまの格好のまま弾き語りをさせられることになった!もちろんほかのメンバーも合わせるんだけどね! 


 だけど、手の大きさも変わってるんだぜ、そんなの慣れてないから!一応昨日アナザーワールドで練習したけどさ。

 ・・・うん、弾きやすい。転移前の高三の時の手よりほんの少し小さいかな。オクターブも届くし、ペダルも届きやすい!


 女性の声で歌うのはどうなることかと思ったけど、すぐに慣れて音程をずらすことなく歌い切れた。


 そして、みんなで舞台に並んで挨拶していると、花束を持ってくる人が何人も俺に渡そうと、舞台の下に並ぶ。

 これがまたすごい重たい花束で、金貨が入った奇麗な紙のおひねりが、沢山の薔薇の間に差し込まれているんだ。

 それを、おれはスカートのままなんとか上品にしゃがんで笑顔で受け取る。

 「すごくよかったよ~」

 「ありがとうございます」

 「おれは、君のファンになっちゃったよ」

 「まあ、ありがとう」

 ついでに握手。おっさんと。

 あ、おば様もいるのね。握手。


 まあ、ロムドム団のためのサービスだよ!


 夕方、先にホテルのレストランにお茶だけしていたカランさんが、俺の部屋にやってきた。


 「劇に出たメンバーは、レストランやロビーに行かない方がいい!」

 カランさんは今回も、マツのために殆ど裏方だった。


 劇団のみんなが夜ご飯に降りて来るかもと待ち構えているらしい。

 疲れ切った俺はいつもの人間族の男子に戻り、冒険者ギルドでマツと護衛代わりに一緒に来てくれたアヌビリさんとで、食事をすることになった。暑い国なのに三人ともフードをかぶって移動した。

 かえって不審なんじゃないか?


 三人でとりあえずエールとジュースで乾杯を

 「おつかれ」

 「お疲れ様です~」

 「おちゅかれしゃまー」

 マツも人間族に変化中。


 「俺はここ数年、ロムドム団と回ってるけどよ、今日は一番観客の反応がすごかったぜ」

 「そうなんですか?」

 「旅芸人としてはあり得ない反応だぜ。今頃座長がおひねりを開いているだろうけど、すごい稼ぎなんじゃねえか?明日が怖いぜ」

 「ははは」

 あのおひねりの紙には投げた人の連絡先が書いてあるんだって。最初は個人情報!って思ってたんだけど。後日丁寧にお礼のお手紙を出すらしい。ファンを大事にってことだよね。


 初日の人気がすごかったので、明日はもともと夜の部だけだけど、急遽昼の部も追加公演になった。


 そんな俺たちのもとへ、冒険者ギルドの受付のお姉さんがやってきて。

 「シュンスケ様ですか?」

 「はい」

 「教会の方がお見えになっていまして、お通ししてもよろしいですか?」

 「いいですよ」

 やってきたのは、司祭のおじいさんだった。

 

 「シュバイツ殿下、お疲れのところ申し訳ないですが、明日の公演の昼か夜に癒しを行ってくれませんか?」

 「おうじ?ホテルでもできるの?」

 「まあ一応どこでも出来るんだけど」

 「癒しってなんだ?」

 「治療魔法でけが人とか病人を治すんだよ」

 「ほねおれたひととか、うでやあしのないひともなおっちゃうんだよ」

 「そりゃスゲーな」

 「一応お布施をもらうんだけどね」

 「ええ、ガスマニアからうわさとして流れてきておりまして、生活に苦労している冒険者とかの希望なのです。殿下が来られる時しか、彼らにはチャンスがないのです」

 

 マツを見ると期待に満ちた表情。

 「観たい?」

 「もちろん!けがしてるひとかわいそうだし」

 「そうだな」

 どうせ明後日にはこの街からいなくなるんだし、いいか。


 「では、司祭様、明日の夜の部で、席は有るのかな?アヌビリさん」

 「貴族用のボックス席ならけっこう空いているんじゃねえか?」

 「さっきも殆ど空いていたね」

 貴族は旅芸人の劇なんか見ないよね普通。

 「じゃあ、シュバイツの名前でボックスをいくつか抑えようかな。チケットはギルドで買えるんだっけ」

 「ああ」


 「というわけで、明日の夜の部でお待ちしてます」

 「ああ、わかりました、ありがとうございます殿下」

 といって俺の右手をとって額に当ててきた。

 今は黒髪黒目の人間族なんだってば。


 「それと、ボックス席は階段などを上らなくてはいけないでしょうから、俺が迎えに行きますから。行かれる人は治療院の一階に集めておいてください」

 「本当に何から何まで、ありがとうございます!」


 「じゃあ次はボックス席の確認だな」

 俺は、フードを被り直し、マツの手を引いてアヌビリさんとギルドの受付カウンターに行く。冒険者用じゃなくて、宿泊やチケット用のカウンターだ。


 「すみません、明日の夜のロムドム団の公演のボックス席は何席空いてますか?」

 「ボックス席は、貴族しか案内出来ませんが、失礼ですがあなたは?」

 いかにも、ガキが何を言ってるの?って態度。

 まあそうだよねと、いつものように人差し指を口に当てながら冒険者のタグでステータスを見せる。

 「は、あなた様は!わ、分かりました。少々お待ちください。とりあえずこちらにお願いします」

 と、二階の応接に連れていかれた。


 「ふう、身分証を出すと大げさになるなあ」

 「そりゃそうだろ」

 「ねえ、みんな、きょうかいのじゅうしょうのけがにんや、びょうにんは、なんにんいるの?」

 出された紅茶の角砂糖に群がる精霊ちゃんにマツが聞いてくれる。

 “ん-とね、ん-とね、いち、にー、さん・・・”

 “にじゅうよにん”

 “ほかのひとは、かってになおるぜ”

 「にじゅうよにんだって。ありあとみんな!」

 「サンキュマツ、みんな」

 “えへへー”

 “おやすいごようだ” 

 「すごいじゃん」

 アヌビリさんがマツの頭をなでる。


 コンコンコン「失礼します」

 「はいどうぞ」

 さっきの受付嬢と一緒に入ってきたのは、犬人族の男性だった。

 アヌビリさんのように、すこし狼ぽいけどもっと愛嬌はあるね。

 「初めまして、私がこのレオナルド公爵領の冒険者ギルドのギルド長をさせてもらっております」

 「こちらこそ突然すみません。シュバイツです。今日はこの姿で失礼します」

 「ええ、大丈夫です殿下。さて、明日夜のボックス席ですが、七つ空いておりますよ」

 「じゃあ其のボックスを全部俺の名前で押さえてくれますか?」

 「分かりました、誰か、ご友人でも来るのですか?」

 「いえ、治療院の患者の慰問に使用するんですよ」

 「・・・なんとそれは。わかりました。ではそのように手配させていただきます。では君手配を」

 「はい」


 「ところで、今日はボックス席が殆ど空いていたのに、明日の夜は七つしか残ってないのですか?」


 「はい、先ほどの公演の後、公爵が抑えたのです。もともと王都からお一組、やんごとなき方が来られているのですけどね」


 おおう。旅芸人の公演を見るんだ・・・。


 「なるほど。わかりました」


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